彼女に剣を-phase03


  • ho-senka
目を覚ます。まだ布団は俺に巻きついたままだ。
体をくねらせて辺りを見渡すと、殺風景な10畳程の部屋。
端に箱やら何やらが積んであるところを見ると、倉庫として使われているようだ。
脱力して寝そべる。天井には旧式の蛍光灯が光っている。

「もう何がなんだか分からないぜ・・・」
「それじゃあ困るのよ。」

扉が開くと同時に病院坂時計が姿を現した。

「意外に大胆なんだな、こういう愛の形も嫌いじゃない…」
「悪いけど、ふざけてる場合じゃないの」

布団を武器に使っている奴が何を言ってるんだ、と心のなかでツッコむ。だが彼女の顔は神妙で、黙って話を聞くことにした。

「実験が始まってしまったわ。『はれるや』が乗っ取られるのも時間の問題。
予備の鍵はあと4人…それらが全てダメになる前に、ヤツを止めないと…」

はははっと、衝動的に出る嗤いを止めることが出来なかった。
彼女は顔をしかめるが、こんなの笑うしかないだろう?

「…また、『発明』の話か。確かに…確かに俺はそういうのに興味があったさ。憧れもした!だけどお前はそういうんじゃないだろ?」
「…貴方、もしかしてまだ思い出せてないの?10年前のこと」

「な…に…?」

  • shu
「10年前、そうあなたが『発明』に関わっていた頃のこと」

関わる?ちょっと待て、俺は『発明』なんて見たことも、聞いたのだって最近の出来事で…

「いえ、正確には関わっていたのは貴方のご両親ね。」
「はは…何言ってんだ、俺はずっとこの街で過ごしてきたんだぜ。そんな『発明』なんか…」

時計はうろたえる郁人など気に求めず、そっぽを向き話をすすめる。

「そして貴方はそこで触れたの。」
「へ…?」
時計はゆっくりと郁人の方へ振り返り、まっすぐと目を合わし口を開いた。

「貴方は『発明』に触れた一番最初の人間なのよ。」

は…?
全て聞いても郁人の疑問も不安も何も一切晴れはしない。
「触れるってなんだよ。なにがどうなるんだよ!」
「貴方本当に覚えてないの?それだと私も困るんだけど…」

「キヨ、聞いてる。」
<うん、最初から全部。録音の方も完璧やよ>

部屋のどこかから声が響いた。今の声って…

「本人がこの調子じゃわかるものもわからないわ。とりあえず準備の方お願い。」
<任しといてぇ、ほなまた後で>

やっぱりこの声…ぐぁ!
また布団は宙に浮き、時計に引っ張られるように進む。
俺をモノとしか思ってないんじゃないかコイツは。

「総帥の話では貴方が全てを知っていると聞いているけど、どうやら簡単には行きそうにないわね。
『発明』が貴方に何かを託したのか、貴方の何かを変えたのか、貴方自信が『発明』なのか。
それを知るためにもある人物に会ってもらうわ。」

ある人物?もういい、どうにでもしてくれ、布団の中でじっとしているよりはマシだ。
そのまま幾つかの通路を抜けた先には、全面壁がガラス張りになった部屋があった。
そしてその中心に人影が見えた。時計は頭を下げる。

「おまたせしました。」

  • ooi
俺の前で前傾姿勢になった時計は再び豪快なパンチラを披露してくれた。
良い尻だ。
俺は無意識のまま尻に飛びついていた。

  • hasetti
「ひゃん!」

おっと!病院坂とは思えない反応!これは思わぬ収穫!

「貴方・・・」

ドスの効いた声で、病院坂が振りかえる。
その冷ややかな眼差しはドMには堪らない。

「・・・?」

病院坂が複雑な顔をする。頭の上にハテナマークが見えるような、そんな顔だ。

「・・・?あれ?」

そういえばおかしい。何かがおかしい。
俺は病院坂の尻に飛びついたはずなのに。今、俺は布団のせいで身動きが取れない。

当たり前だが動けるはずがない。でも触った感覚はあった。

「ぬくもり、肌触り、のど越しはあったのに・・・」

小声でつぶやく。ボケる。

「・・・?」
「///」

お互い、よくわからない状況で目が合う。さっきの反応もありなんだか照れる。

「病院坂ちゃん、かわいい!いい声もだせるのねぇ。」

気まずい雰囲気を吹き飛ばす声量のオネエ声で、人影が俺たちに近づいてくる。

  • issen
「からかうのはよして下さい、織田さん」

病院坂に織田と呼ばれた男のような生き物が近づいてくる。
布団に包まれて寝転がっているおかげで、容姿ははっきりと見えないが、服装は甚平のようなものを着ているように見える。

「あら?お邪魔だったかしら?病院坂ちゃんが珍しく嬉しそうな感じがしたからつい、ね?」

「別に嬉しそうな雰囲気なんか全然出してません。」

と言いつつも若干病院坂の声のトーンがいつもと違う。
スクールでは絶対に見せない彼女を見れてとても新鮮に感じる。

「そもそもこんなゴミクズなような男に対して、そんな感情を抱く可能性はありえません。」

ひどい扱いだ。

「ふふふ、坊やはそうとう病院坂ちゃんに気に入れられてるのね~。ところでそろそろ解放してあげてもいいんじゃない?」

やっとこの異様な状態に気付いてくれたようだ。
しかしまあ少しばかりこの素敵アングルが名残惜しい気がする自分がいたりもするが。

「わかりました。」

邪な雰囲気を察知したのだろうか、先ほどまで頑なに拘束を解こうとしなかった病院坂があっさりとそれを了承する。
と同時に布団がひとりでに開いていった。

「やっと開放されたか・・・」

ずいぶんと長い間拘束されていたせいで体が重いが時間をかけてゆっくりと立ちがある。

「織田さんでいいのでしょうか?病院坂さんの束縛趣味から開放して頂きありが・・・」

絶句。

人の見てくれで対応を変えるほどチンケな男でないというのを自負している自分であるが、織田さんのあまりのインパクトに言葉が詰まってしまった。

簡単に解説すると足回りは草鞋、服装は時代錯誤の装束姿、顔はちょび髭が異様に似合っている凛々しい男前。
そして極めつけは日本の代表するヘアースタイル、ちょんまげである。

「ふふふ、初めまして坊や。私は織田信長よ、よ・ろ・し・く!」

  • ENISI

「……時計。この人誰?」

時をかけると、強制的に女性にされてしまうのだろうか?肖像画も泣いてるぞ。
そもそも、なんで時計がこんな奴と接点があるんだ?

「残念な私の上司でもあり、『はれるや』システムの鍵の一人よ。もう今は違うけど。」

「ふむ、それでそれで?」

「気候を管理する『はれるや』はみだりに人に触れないよう。その巨大な柱の中に埋め込まれているわ。
厚さ50Mの超合金壁は打ち破るのはもちろん、傷ひとつさえつけることは難しい。
けど、そんな『はれるや』もただのプログラム。定期的なメンテナンスが必要不可欠。
そのために中に入る門がただ一つある。それを開ける鍵がこの人。」

「そうなの。私も頑張ったんだけどねえー。あのいけ好かない明智にとられちゃったのよ。タマと一緒に。」

「明智? あのイタイ奴か。」

「そう、あなたに接触を試みたアイツよ。目的一切不明。素性不明。今のところ何も情報がないわ。ただ、組織で3番目の実力を持つ織田さんを倒した情報以外は。」

なんか血生臭い話になってきたな。後、下半身がヒュンってなった。

「なるほどわかった。じゃあ、次の質問だ。なんで織田さんのタマが取られたんだ?」

「セキュリティ向上のため、鍵は持っている人の睾丸に封印されてるの。」

「うわー…。」

そのセキュリティを考えた奴はよほど男に恨みがあるんだろうか。
もうちょっとマシな所に封印してやれよ。

「私の他に、上杉、武田、毛利、北条のコードネームで呼ばれるキーマンがいるわ。この人達を知っているのは私たちの組織の人間以外は誰も知らないのだけれど…。」

「なんでかあいつは知っていたと。」

「そゆこと。」

やっと今までの急転直下の展開に頭が慣れてきた。
後は最後で最高の疑問を解決するだけだ。

「最後の質問。なんで俺を拉致ったんだ。後、俺が忘れてる10年前の記憶ってなんなんだ?」

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2011年09月27日 03:23
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。