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牢破り - (2005/08/22 (月) 15:14:18) の最新版との変更点

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お奉行配下の兵およそ300が、川越を発ちました。 僕は相変わらず牢の中です。 しかし、僕の幽閉生活に彩りを加えるものが現れました。 一匹のねずみです。 どこから迷い込んだのかはわかりませんが、 戯れに食べ残しの食料を投げ与えてみました。 それ以来、食事時には顔を出すようになりました。 「ねず吉」と名前をつけました。 我ながらひどい名前をつけたものですね。 でも、なんだか似合いの名前のような気がしたのです。 その夜は食事がのどを通りませんでした。 兵は川越を (作成中・・・続く)
お奉行配下の兵およそ300が、早朝、川越を発ちました。 僕は相変わらず牢の中です。 しかし、僕の幽閉生活に彩りを加えるものがいました。 一匹のねずみです。 どこから迷い込んだのかはわかりませんが、 戯れに食べ残しの食料を投げ与えたことがありました。 それ以来、食事時には顔を出すようになったのです。 「ねず吉」と名前をつけました。 我ながらひどい名前をつけたものですね。 でも、なんだか似合いの名前のような気がしたのです。 その夜は食事がのどを通りませんでした。 ねず吉がいつもの通りに現れ、僕のそばによって来ました。 食べ物を投げ与えてやると、「ちゅっ」と一声啼き、 嬉しそうに食事を始めました。 そしてそれが、ねず吉の最期の食事となりました。 痙攣し、やがて動かなくなったねず吉を見ながら、 僕はひどく静かに物事を考えていました。 僕などを毒殺したところで仕方のないことです。 まして何の罪もないねずみ一匹が死ぬことになろうとは。 一計を案じました・・・といえば聞こえはいいのですが、 あまりよい策であるとは思えませんでした。 しかし、やる気になっていました。 その気を起こすのが遅すぎたかもしれません。 兵がコタンに向かっていると知った時点で、 こうすべきだとは思っていたのですが・・・。 ねず吉の小さな命が、僕の背を押す結果となりました。 幸い、お奉行も芦尾どのもここにはいません。 逃げられる、と思いました。 仮に逃げられなかったとして・・・それが何だというのでしょう。 毒がなんであるかはわかりませんでしたが、 毒を盛られたふうを装うことにしました。 膳を盛大にひっくり返し、必死で助けを求めました。 牢役人が二人やってきました。 慌てているようです。 役人すべてが僕の毒殺に加担しているわけではなかったことが、 これでわかりました。 一人が医者を呼びに行ったようです。 もう一人は、僕の様子を見るためでしょうか。 わざわざ牢の鍵を開けて、中に入ってきたのです。 それが芦尾どののかけた呪を、一時的にであれ破ることになるとは、 陰陽の道の玄人ではない役人にわかるはずがありません。 部屋というのはそれだけでも結界の役割を果たします。 それが大きく開け放たれたとあっては・・・ 芦尾どのの呪をもってしても、僕を阻む力はもはやありません。 痙攣している振りをしつつ、ひそかに印を結び、 呪を唱えました。 役人を眠らせると、呪によって姿を消し、ねず吉の亡骸を 懐におさめました。 後はたやすいことです。 騒ぎを尻目に、呪によって宙に浮き、 会所の高い塀を越えました。 川越を出てしばらくしたところで、 ねず吉を埋葬しようとおもいました。 しかし、ふと思い立ち、呪を唱えました。 ねず吉には気の毒ですが、彼を式として用い、 一足先にコタンへ危機を知らせてもらうことにしました。 呪は、すべてのもののありようを縛るものです。 僕は呪によってねず吉にいまひとたびの生をあたえました。 酷なことです。 これはねず吉が望んだことではないのですから。 ねず吉が呪によって得た翼でコタンを目指し飛び去ったとき、 背後に気配を感じました。 例のアイヌ娘が、二人のアイヌとともにそこにいました。 二人はチュプライ党の男たちでしょう。 「まさか自力で抜け出すほどのことができるとはね」 「・・・君は・・・」 「ついてきて。熊八はあたしたちが預かってるんだからね」 「・・・」 僕は静かに頷きました。 事態の急な進展にも、もう慣れてしまいました。 北辺の地は、そういう場所なのです。

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