サイパハラハラン(Saipaharaharan)
台湾の先住民サイシャット族の伝説に登場する種族。漢字表記は沙伊帕哈拉哈朗。
サイパハラハランという種族は肛門を持たず、炊いた飯の湯気を食べるという。飯を炊いて湯気を食べていたサイパハラハランを見たカロヴンルズという男性は「飯を私にくれ、私が食おう、後で私を見よ」と言って飯を鍋半分くらい、大変沢山食った。それからカロヴンルズは「私をよく見よ」と言い、横に渡した木のところへ行って、その上から大便をした。サイパハラハランがそこへ行ってよく見ると、大便がワス、ワス、ワスと音を立てて落ちた。肛門の無い種族であるサイパハラハランは驚いて「汝は如何してそんなのか、肛門というものは大変よい物だ。もし我々もあのようになったら大変よかろう。汝は如何してそんなのか」と言った。カロヴンルズは「鉄の針金を焼け、穴を開ける道具だ、そして私は汝等に穴を開けてやろう、すると私のように良くなる」さらに「穴を開けると、汝等はしばらく眠たくなる。私はあの山のところへ行くが、私があそこで叫んだら、眠っているのを起こせ、すると起きて来る」と言った。大勢の人々は穴を開けてもらい、穴を開けなかった他の人々は「もうよろしい、十分だ。この穴を開けてもらった人をしばらく見ていよう。もし穴を開けてもらった人が良くなれば、我々もまた後で開けてもらおう」と言った。カロヴンルズは「私は山へ行くが、もし山のところで私が叫ぶのが聞こえたら、彼等を起こせ」と言って山のところへ行った。そしてカロヴンルズが叫ぶ。サイパハラハランが眠っている者を起こしたが、起きなかった。死んでいたのである。サイパハラハランは弓や矢や刀や槍を持って、後からあのカロヴンルズを追いかけた。そして追っ手のサイパハラハランがカロヴンルズのところへ近づいてきた。カロヴンルズは薯榔(ソメモノイモ、芋の一種で赤茶色の染料になるらしい)を見つけたので、取って皮を剥いて細かく刻んだ。そしてセンザンコウの巣穴にそれを塗りつけた。するとセンザンコウの巣穴は血がついているかのようになった。サイパハラハランはセンザンコウの巣穴に血がついているのを見て「カロヴンルズはそこへ入ったのだ」と言った。そして一旦引き返して鍬を持ってきて掘り、穴の中に入った。穴の中にセンザンコウがいるのを見たサイパハラハランは「あのカロヴンルズはきっと我々の死の運命を決定する神に違いない。センザンコウはカロヴンルズを知らないのだ。彼は人でない神だ」と言った。それでカロヴンルズは喜んで逃げた。
サイパハハンという地名が登場する話もある。昔、サイパハハンと称する女性だけの社があった。彼女たちは肛門が無く、常に湯気のみを吸って生活していた。ある時、ロブゴツという男性がやってきて彼女たちを妻として、そして男の子が生まれた。その後、彼女たちに肛門を作ってやろうと、赤くなるまで焼いた鉄を数人の臀部に刺して斃した。そして「私が山に登って大声を発せば彼女たちは皆目覚めるはずだ」と言い捨て、その場を逃れ、山に登るふりをして家路を急いだ。彼女たちは斃れた者が目覚めなかったのを見て、ロブゴツに謀れたことを知り、報復をするために彼の後を追撃した。そして進んで行くと、途中にあったアオム(おそらくセンザンコウ)の穴を見て「彼は必ずこの中にいるだろう」と彼女たちは皆その周囲に集まり、各々が持った竹でその穴を突いたところ、竹の先は皆赤く染まっていたので、これはロブゴツだろうと思い、穴を掘って見ると一個の薯榔(ソメモノイモ)であった。
参考文献
台北帝国大学言語学研究室『原語による台湾高砂族伝説集』118頁
台湾総督府蕃族調査会『台湾総督府蕃族調査会蕃族調査報告書 排彎族・獅設族』410頁
最終更新:2023年06月24日 13:56