ウングフォトゥス(Ungufotus)


パプアニューギニアのワヘイ族における霊的存在ヤボスガスの一種。
ウングフォトゥスは山間の川沿いに生えるクバイムス(Kubaimus)という大木の中に棲む女性霊で、人間の男性と強引に交接をして精気を奪うという。そのため特に男性に恐れられる。クバイムスの木の中は広い空間になっており、老若大勢のウングフォトゥスたちが棲まう。木の皮を噛み、唾とともに幹の下部に吐きかけて穴を作って、そこから出入りしているようだ。クバイムスの木は実際にあるようで、太い幹から白い樹液を出し、空に伸びる多くの小枝に小さな葉が生い茂った木である。その白い樹液がウングフォトゥスたちに吸い取られた男性の精液が滲み出てきたものとして忌み嫌われていた。

モンブゴトゥス川の中流にあったバグロトスでワグヌマギという男性がウングフォトゥスたちに精気を奪われ、命を落としたという伝説が伝わっている。ある日のこと、ワグヌマギは豚狩りに出かけたが、獲物が見つからずに日が暮れてしまった。そして村に帰ろうと暗くなった川沿いの道を引き返す道中、クバイムスの木のそばを通りかかった。すると中から1人の女性(ウングフォトゥス)が出てきて、ワグヌマギのことを捕まえて無理やり木の中に引っ張り込んでしまった。木の中は広い空間になっていた。ワグヌマギ以外に男性はおらず、若い女性から老婆まで大勢のウングフォトゥスたちしかいなかった。ウングフォトゥスたちは体中に赤土と黒土を塗りたくって「ワグヌマギー、ワグヌマギー、エー、ヨー」と彼の名前を呼びながら歌を歌い始めた。そして歌が続く中、ワグヌマギのことを連れ込んだウングフォトゥスが、ワグヌマギの男根を掴んで引き寄せて強引に交接した。そして別のウングフォトゥスたちも次々にワグヌマギを犯していった。これが夜通し続き、ワグヌマギはすっかり精気を奪われて骨抜きにされてしまった。夜が明ける前、ウングフォトゥスたちはワグヌマギを連れて近くの川に行き、土と体液で汚れた体を綺麗に洗った。そしてワグヌマギは川べりでぐったりとしていた。その時、夜通し続く歌声で異変に気付いた村の男性たちが槍と盾を持ってやってきた。男性たちは一斉に槍を放ったが、突き刺さったと思った瞬間ウングフォトゥスたちの姿はスッと消えてしまい、槍は空を切るばかりであった。やがてウングフォトゥスたちは影も形も見えなくなったので、男性たちはワグヌマギを背負って村に戻ったが、手当をしても効果がなくワグヌマギは2日後に息を引き取ったという。

ウングフォトゥスが登場する話は他にもある。湖や池や沼地の水中に棲む女精霊マヤモトゥスの姉妹であるヤムスとボブスがいた。ボブスはウェイサス川上流の湿地帯に棲み、1人の男の子を産んでいた。ボブスが自分の息子を編み袋に入れてウェイサス川に行き、編み袋を近くの木の枝に掛けて、川で貝を採っていたときのこと。ウングフォトゥスが現れ、あやしてやると言って息子を抱いて木陰に入っていった。息子は尻に大きな腫れ物ができていたが、ウングフォトゥスはそれを噛み取って食べてしまった。痛みで激しく泣く息子の声を聞いたボブスはウングフォトゥスから息子を取り返し、集めた貝を持って帰ることもできないまま急いで沼地に帰った。そしてウングフォトゥスもクバイムスの木の中に戻って行った。ボブスはふと、姉のヤムスの元へ会いに行こうと思い立つ。ヤムスは生まれてすぐにウォグプメリ川に行き、中流ぞいの沼地でヘビと一緒に棲んでいた。息子を連れて地下水路に潜り込んでウォグプメリ川の中流まで来ると、岸辺でカヌーを作っているマヤモトゥグ(湖や池や沼地の水中に棲む男精霊)に姉の居場所を尋ねた。マヤモトゥグがヤムスなら近くの沼に棲んでいると話していたところ、遠くの方からウングフォトゥスが不気味な声で、お前の子を食べてやると叫ぶのが聞こえた。ボブスの後を追ってきたのだ。ボブスはすぐさま沼に続く水路の奥へと入っていった。残ったマヤモトゥグのところにウングフォトゥスがやってきてボブスの行方を問うが、マヤモトゥグはウングフォトゥスを騙してカヌーで別の沼地へと連れて行き、わざとカヌーを揺さぶって転覆させた。水に弱いウングフォトゥスは沈んでいくばかりであったが、さらにマヤモトゥグは水に潜ってウングフォトゥスの体を籐の蔓でぐるぐると巻いて、蔓の端を川底から生えた木の根元にしっかりとくくりつけた。これでウングフォトゥスは身動きが取れなくなった。

参考文献
 山田陽一『霊のうたが聴こえる ワヘイの音の民族誌』

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最終更新:2023年05月18日 19:24