黒苺(Kuro Ichigo)


信濃(現在の長野県と岐阜県)の昔話に登場するツヤツヤとした真っ黒なイチゴ。これを食べれば突然の腹痛に苦しみ、やがて体中が黒色に変色し、そして死に至る。

昔、あるところにお千代とお花という姉妹がいた。お花は後妻の子で、お千代は先妻の子であった。ある冬のとても寒い日のこと、母親(後妻)と炬燵に当たっていたお花が急に「赤いうまいイチゴが食べたくてならん」とせがみ出した。だがもう冬で寒いのにイチゴなど、どこを探しても無いはずであった。母親は台所の隅で働いていたお千代を呼んで「お千代やお前はこのカゴに一杯赤いイチゴの実を採って来ておくれ」と言った。素直なお千代はハイと返事をして、カゴを抱え、寒いのに足袋も履かずに素足に草履で外へ出て行った。野山は真っ白く雪が積もっており、そのうちに雪が降り出した。谷間や野原を探し回ったがもちろんイチゴはどこにも無く、お千代の足は寒さで千切れるほどに冷たくなって、歩き疲れて雪の中に倒れてしまった。その後、お千代お千代と耳元で誰かが呼ぶ声がしたのでふと気がついて見ると、白い髭を長く垂れた立派な老人が杖を突いて雪の中に立っていた。老人に「お千代お前は何をしている」と聞かれたので「ハイ、イチゴを探しております」と答えると、老人はよしよしワシが何もかも知っとる「イチゴの成っとる所へ連れて行ってやるに」と先に立って歩きだした。お千代が後からついて行くと、そこには草木が茂った雪の無い場所があって、その中に真っ赤に熟したイチゴが成っていた。そして老人は「サアここで沢山採ってお帰り」と言ってどこかへ消えてしまった。カゴ一杯のイチゴを採って家に戻ると、お花と母親は炬燵に当たりながらうまいうまいとイチゴを全て食べてしまい、お千代には一粒もくれなかった。翌日になると、今度は黒いイチゴが食べたいとお花が無理なことを言い出した。そして「お千代は今日は黒いイチゴを採っておいで」とカゴを差し出される。黒いイチゴなんてあるわけが無いのに仕方なくまた雪の路を昨日のところまで行くと、白髪の老人が現れ「お千代、今日はどうした」と言った。黒いイチゴを採ってこいと言われましたと答えると老人は大層に腹を立てて、よしそんなひどいことばっかり言いつける母娘ならワシが思い知らせてやる、お千代黒いイチゴを教えてやるから来いと言うので、ついて行くと真っ黒なイチゴがツヤツヤと成っていた。カゴへ一杯採って家に戻ると、今度もお花と母親は一粒もくれず、黒いイチゴを全て食べてしまった。すると突然腹が痛くなって苦しみだし、とうとう2人は神様の罰で体中が黒くなって死んでしまった。それからお千代は村の良い家へ嫁に貰われて幸福に暮らしたという。

参考文献

 牧内武司『信濃昔話集』170頁
 松谷みよ子『昔話十二か月 二月の巻』46頁

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最終更新:2023年09月18日 05:15