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「624雹SS」(2009/03/11 (水) 22:41:20) の最新版変更点
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**雹@神聖巫連盟様からのご依頼品
/*眠らない夢*/
感覚は微か。まどろみと言うほど重くもなく、朦朧と言うほどにも軽くもない。
あえて言うなら浮遊感。ベッドで寝ているはずのこの身はもうずいぶん遠くに感じた。
「起きなさい。狸寝入りくらい、見抜けないと思って?」
どこかからかうような口調。ヴァンシスカは微かに目を開いた。
それだけで、息が切れそうになる。体を動かすのは、ずっと遠くから糸を引っ張って人形を動かすような感覚に等しい。ひどく繊細で、ひどく苦労する。それは目に見える物も同じ。視界にうつる白い天井や、友人が見下ろしてくる姿も、細長い筒を通してみた彼方の景色のようだ。
現実感がひどく遠い。
動悸すら定かでない体。浅い呼吸で、体に熱を取り戻す。唇がひどく乾いている気が、した。
「まだ限界じゃないようね。もっとも、そろそろみたいだけど」
それはでも、仕方がない。ヴァンシスカは微かに笑みを浮かべた。
目を瞑る。
そうすれば、頭に何かが触れた気がした。
勿論気のせい。今あの人はそばにはいない。だからこれは単なる思い出だ。
ああ。それでも、思い出せる。以前来た時、髪に触れていったあの暖かな感触を――。
「今日、来るらしいわ。最後になるでしょうから、好きなようになさい」
ヴァンシスカは心の中で頷いた。力の入らない、細い腕で、胸の前にあるチョコレートを抱きしめた。
/*/
実際のところ、疲労しているわけではない。
目を開くことですら大変だけれど、それは単に苦労すると言うだけで、できないわけではないのだ。
今では眠ることもない。意識は起きているのか眠っているのかはっきりしない。けれど、視覚も、聴覚も、嗅覚も触覚も全てが遠くにあるだけだ。
無いわけではない。ただ、実感するには遠すぎるだけ。
そっか、看取ってもらえるんだ。そう思うだけで、少し嬉しくなる。
「…………」
きっと口が開いたのなら、笑みがこぼれていたに違いない。
年甲斐もなく高揚している。心臓すら、思いだしたように鼓動した。
抱きしめた物が暖かい。
「はろー。ヴァンシスカ」
久しぶりの声。遠いはずの音が、何故か近い。
返事を返したかったけれど、でも、うまく声が出なかった。
姿を見たかったけれど、でも、何故か目が開かなかった。
「オゼット先生。魔法的なことは全くわからないのですが、このヴァンシスカの状況。どうなんでしょう?」
「見ての通り。もうそろそろ。――――お別れ、してあげて」
答えは無い。ただ、手をそっと握られた気がした。
なんと言ってくれるんだろう。どきどきする。
「あぁヴァンシスカ、ヴァンシスカ。もう、時間はないのか?」
でも残念。私には何も返せない。せめてその、今にも泣いてしまいそうな声をどうにかしたい。
―――唇に感触。
それだけは遠くはなく。ああ確かにキスされたのだと、何故かわかった。
「あれ?」
戸惑ったような声。そして少しして、口に何かをあてがわれる。
冷たい、水。
舌に触れる。口の中を潤していく。
久しく感じる事の無かった、体の温かさが近づいてくる。
キスをされて、どきどきしている心臓を感じてしまう。
顔がほてる。さましたくて呼吸をする。
そして、ずっしりと重たい感触。
ああそうか。
体はこんなにも疲れていたんだ。
それじゃあ、眠らないと……。
「古い神ね。悪魔と同じくらい、名前も忘れられた……」
意識を手放す。
/*/
ただ、すぐにまた、目が覚める気がした。
/*/
感覚は微か。まどろみと言うほど重くもなく、朦朧と言うほどにも軽くもない。
あえて言うなら浮遊感。ベッドで寝ているはずのこの身は、しかし徐々に重たくなっていく。
――もうすぐ。夢から覚めるな、と思う。
そうして目を覚ませば、久しぶりの外の明るさに反射的に目を瞑ろうとしてしまった。
景色は鮮烈なオレンジ色。夕暮れ時か、室内はオレンジとブラックの濃い陰影で彩られている。天井は二色で綺麗に二分されていて、まるでその色の厚紙を切り貼りしたように見えた。
手のひらに暖かな感触。ヴァンシスカはわずかに首を傾けた。左を見る。
ベッドの横。椅子に座っていた雹は、うとうとしかけていた頭を持ち上げた。
視線が合う。
「あ、あの」
口ごもる雹。なんと言おうか考えるように目を一度回した。そして一度ごくりとつばを飲んで、笑みを浮かべた。
「おはよう」
ヴァンシスカは笑顔を浮かべると、おはようございます、と言った。
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**作品への一言コメント
感想などをお寄せ下さい。(名前の入力は無しでも可能です)
- やわらかくてあたたかいSSをありがとうございました>< -- 水仙堂 雹 (2009-03-10 21:38:32)
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ご発注元:雹@神聖巫連盟様
http://cgi.members.interq.or.jp/emerald/ugen/cbbs_om/cbbs.cgi?mode=one&namber=1714&type=1696&space=15&no=
製作:黒霧@涼州藩国
http://cgi.members.interq.or.jp/emerald/ugen/ssc-board38/c-board.cgi?cmd=one;no=1864;id=UP_ita
引渡し日:2009/03/08
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**雹@神聖巫連盟様からのご依頼品
/*眠らない夢*/
感覚は微か。まどろみと言うほど重くもなく、朦朧と言うほどにも軽くもない。
あえて言うなら浮遊感。ベッドで寝ているはずのこの身はもうずいぶん遠くに感じた。
「起きなさい。狸寝入りくらい、見抜けないと思って?」
どこかからかうような口調。ヴァンシスカは微かに目を開いた。
それだけで、息が切れそうになる。体を動かすのは、ずっと遠くから糸を引っ張って人形を動かすような感覚に等しい。ひどく繊細で、ひどく苦労する。それは目に見える物も同じ。視界にうつる白い天井や、友人が見下ろしてくる姿も、細長い筒を通してみた彼方の景色のようだ。
現実感がひどく遠い。
動悸すら定かでない体。浅い呼吸で、体に熱を取り戻す。唇がひどく乾いている気が、した。
「まだ限界じゃないようね。もっとも、そろそろみたいだけど」
それはでも、仕方がない。ヴァンシスカは微かに笑みを浮かべた。
目を瞑る。
そうすれば、頭に何かが触れた気がした。
勿論気のせい。今あの人はそばにはいない。だからこれは単なる思い出だ。
ああ。それでも、思い出せる。以前来た時、髪に触れていったあの暖かな感触を――。
「今日、来るらしいわ。最後になるでしょうから、好きなようになさい」
ヴァンシスカは心の中で頷いた。力の入らない、細い腕で、胸の前にあるチョコレートを抱きしめた。
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実際のところ、疲労しているわけではない。
目を開くことですら大変だけれど、それは単に苦労すると言うだけで、できないわけではないのだ。
今では眠ることもない。意識は起きているのか眠っているのかはっきりしない。けれど、視覚も、聴覚も、嗅覚も触覚も全てが遠くにあるだけだ。
無いわけではない。ただ、実感するには遠すぎるだけ。
そっか、看取ってもらえるんだ。そう思うだけで、少し嬉しくなる。
「…………」
きっと口が開いたのなら、笑みがこぼれていたに違いない。
年甲斐もなく高揚している。心臓すら、思いだしたように鼓動した。
抱きしめた物が暖かい。
「はろー。ヴァンシスカ」
久しぶりの声。遠いはずの音が、何故か近い。
返事を返したかったけれど、でも、うまく声が出なかった。
姿を見たかったけれど、でも、何故か目が開かなかった。
「オゼット先生。魔法的なことは全くわからないのですが、このヴァンシスカの状況。どうなんでしょう?」
「見ての通り。もうそろそろ。――――お別れ、してあげて」
答えは無い。ただ、手をそっと握られた気がした。
なんと言ってくれるんだろう。どきどきする。
「あぁヴァンシスカ、ヴァンシスカ。もう、時間はないのか?」
でも残念。私には何も返せない。せめてその、今にも泣いてしまいそうな声をどうにかしたい。
―――唇に感触。
それだけは遠くはなく。ああ確かにキスされたのだと、何故かわかった。
「あれ?」
戸惑ったような声。そして少しして、口に何かをあてがわれる。
冷たい、水。
舌に触れる。口の中を潤していく。
久しく感じる事の無かった、体の温かさが近づいてくる。
キスをされて、どきどきしている心臓を感じてしまう。
顔がほてる。さましたくて呼吸をする。
そして、ずっしりと重たい感触。
ああそうか。
体はこんなにも疲れていたんだ。
それじゃあ、眠らないと……。
「古い神ね。悪魔と同じくらい、名前も忘れられた……」
意識を手放す。
/*/
ただ、すぐにまた、目が覚める気がした。
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感覚は微か。まどろみと言うほど重くもなく、朦朧と言うほどにも軽くもない。
あえて言うなら浮遊感。ベッドで寝ているはずのこの身は、しかし徐々に重たくなっていく。
――もうすぐ。夢から覚めるな、と思う。
そうして目を覚ませば、久しぶりの外の明るさに反射的に目を瞑ろうとしてしまった。
景色は鮮烈なオレンジ色。夕暮れ時か、室内はオレンジとブラックの濃い陰影で彩られている。天井は二色で綺麗に二分されていて、まるでその色の厚紙を切り貼りしたように見えた。
手のひらに暖かな感触。ヴァンシスカはわずかに首を傾けた。左を見る。
ベッドの横。椅子に座っていた雹は、うとうとしかけていた頭を持ち上げた。
視線が合う。
「あ、あの」
口ごもる雹。なんと言おうか考えるように目を一度回した。そして一度ごくりとつばを飲んで、笑みを浮かべた。
「おはよう」
ヴァンシスカは笑顔を浮かべると、おはようございます、と言った。
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**作品への一言コメント
感想などをお寄せ下さい。(名前の入力は無しでも可能です)
- やわらかくてあたたかいSSをありがとうございました>< -- 水仙堂 雹 (2009-03-10 21:38:32)
- お幸せに。またのご依頼をお待ちしておりますw -- 黒霧 (2009-03-11 22:41:20)
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ご発注元:雹@神聖巫連盟様
http://cgi.members.interq.or.jp/emerald/ugen/cbbs_om/cbbs.cgi?mode=one&namber=1714&type=1696&space=15&no=
製作:黒霧@涼州藩国
http://cgi.members.interq.or.jp/emerald/ugen/ssc-board38/c-board.cgi?cmd=one;no=1864;id=UP_ita
引渡し日:2009/03/08
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