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雹@神聖巫連盟様からのご依頼品


ここは、いったいどういった場所なのだろう。
夜だというのに、一面の光に照らされて。
普段私がいる国には見られないような、華やかな景色。
ああ、そう。
パリを少し思い出す…もっとすごい眺め。
雹もあたりを見回しながら緊張している様子。

「綺麗なところですね」
話しかけると、雹は今私に気づいたかのように微笑みかけてくる。
「ものすごくきれいですねー。こんばんは」
「こんばんは。夜会でもあるのかしら」
それなら、この光の洪水もわかる。

「今日はヴァンシスカの誕生日をお祝いしようと思ってて。
だからもしかしたらそれのせいで街が大変なことに!」
雹がそう言うと、ほんとに街が私のためにお祝いしてくれるかのように見えるから不思議。
「なるほど」
この人といると、いつでも自然に笑顔になれるのがうれしい。
「さて、行きましょう」
差し出された手に私の手を重ねて、大通りを歩く。
まるで普通の恋人同士のように。
一瞬、右目が疼いた気がするのは無視。

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あらためて、周囲を見回してみる。
ここの光は眩しすぎて、私の黒いドレスと眼帯は場違いな気がする。
……ううん、そういうこと考えていてはいけない。
雹がもっと楽しんでくれるように。
「初めてみました」
話しかけると
「高級品ばっかりで買えないけど見てるだけで華やかだねー」
とっても庶民の会話になって、思わず笑ってしまう。
この人といると、この目のことを忘れていられる。
いつまでも、忘れたままでいられたら。

「うん、せっかくのドレスに似合うかわからないけど。これ、よかったら着けて」
差し出されたのは、綺麗な紫色のリボンでできた髪飾り。
「誕生日のプレゼントー」
「ありがとう。雹」
お礼を言うと
「喜んだ顔が見たくて用意したから、もう満足ですよ」
笑顔で言われて。
「嬉しい」
もう、それだけしか言葉がでない。
鏡がないので、雹につけてもらうことにする。
黒づくめの私の姿が、髪飾りひとつで華やかに変わった気がする。
これは髪飾りのおかげ?
それとも雹のおかげ?

…頬が少し熱くなるのを振り切るように、口を開く。
「・・・そ、それでどうしましょうか」
「では、夜の街を巡りましょう。歩き疲れたら言ってくださいね」
うなずいて、雹と2人、展望台に向かうことにした。

/*/

57階の高さなんて、2人とも初めて。
「ふふーん 街を一望。まるでハイマイルを支配したような気分に!」
雹は上機嫌、でもほんとうに。
「綺麗」
ただそれだけが言葉として出てくるから。
「国は人工の光がなくて星が綺麗だけど、これはこれで綺麗でいいね」
でも、こんなに綺麗に見えるのには、理由がある。
「ヴァンシスカは、こんな華やかな街と藩国みたいなのどかな町と どっちがお好み?」
それは、決まっている。
「どちらも」
だって。
「あなたがいるから」
今だけでも、素直になりたい。
この景色の中で。

「ねぇ ヴァンシスカ」
雹が何か決心したように、話しかけてくる。
「はい」
もしかして。
頭の中の想いを言葉にしようとした瞬間、眼帯の奥が酷く痛む気がした。
そんなはずはない、雹は私のこの目のことだって知ってる。

「はじめは国のためにいてくれたけど。
俺のために、いてくれない? ずっとずっと」
否定していたはずなのに、雹はやわらかに微笑みかけてくる。
「それは求婚?」
まさか。でもそんな。
「指輪はないけれど」
ひと呼吸おいて。
「結婚してほしい」
聞きたかった言葉、でもあきらめていた言葉。
「無理よ」
右目が熱く痛むのは気のせい?
まるで契約を忘れさせないかのように。
「どうして?」
それは当然……言葉にできず、ただ目を指さす。
「そうか・・・でもあきらめたくはない。何か 方法は・・・」
「ありません」
雹がこれ以上私のせいで傷つかないように、首を横に振る。
どうにかできることなら、とうに契約解除している。

「くっ 好きなだけじゃだめなのか」
私の頬に手を添えながら、雹がつぶやく。
「気持ちだけは、嬉しく思っておきます」
雹と会ってるときは忘れてたはずの、いつものあきらめの声。
でも、今日の言葉だけは忘れない。
右目のせいで滅びるその日までこの想いを抱えていよう。

「よし よーくわかった。もう何が何でも解決策見つけてやるぜコノヤロウ」
気持ちはうれしい。
でも、こればかりはどうすることもできないから。
せめて雹に微笑みかける。
「はぁ、寂しい顔をしないでー」
寂しくなんてないから。
「幸せですよ。今死んでもいいくらい」
なのに、雹は不満の様子。
「むーん 死んでもいいとか そんなの幸せじゃないし!
ずっと幸せでいるのがいいに決まってる」
できることなら、私も幸せでいたかった。
彼の強さに触れて、私も幸せになれると思っていた。

/*/

ふと。
ガラスの割れる音。
まるで今までの幸せな時間が壊れたみたいに。
音の方を振り返ると、白いサマーセーターの男の姿。
咄嗟に雹をかばうと
「くっそ、かばわれてなんかやるか」
私を逆に守ろうと動く。
やめた方がいい。これは私の悪魔でもかなうかわからない相手。

男は雹を見て、笑った。
「こんにちは」
「どうもこんばんわ」
この男の方が、よほど悪魔のよう。
一見魅力的だけど、底の知れない笑い。
「取引でも、いかがですか。私は目を、直せます」
この提案だってそう、昔話の悪魔の誘惑。
契約したら最後、魂の全てが呪われそうな。

「ノゥ! これでも自分は男なので 自力で何とかします」
雹の言葉で我に返った。
「あれは指名手配犯です」
もう一度雹を後ろに庇うのに、この人は私の前に出てしまう。
その様子を見て、男は優しく笑う。
私の目のことなど、すべて知っているかのように。
「どうにもなりませんよ。それでも?」
「それでもです。
こんな壁に出会ってすぐに人の力に頼ったら、たとえ問題を解決したって自分が誇れない」
そして、簡単に解決できるかのように、私に微笑みかけてくれる。
「長い間、後悔するかもしれません」
「それでも。彼女を思えばこそです☆ がんばるのみです 見てるとイイデス」
雹にかかれば、悪魔の契約すらなんてことないのかもしれない。
信じて…いいのだろうか。

男は私達の様子に微笑んで、頭を下げる。
「では、そのように」
その言葉を残して、幻だったかのように男は消えていった。
ただ自らの存在を忘れさせないためか、割れたガラスだけを残して。

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「いっちゃったみたいね」
雹は汗をぬぐっている。
なんて無茶な人。
でも、そんなこの人が愛しい。
「いい誕生日でした」
ほんとうに、これで死んでもいいほど。
最後の思い出になってもいい。
「何やら闖入者もあったけど、誕生日おめでとう」
「ありがとう」
花束は、とても可愛らしく。素敵な香り。

「実はケーキとお茶も用意してたんだ。ハイマイルくるなんて思わなくてー」
ショートケーキとモンブランと紅茶、次々と取り出して。
「今は二人しかいないわ」
笑いながら答えると、雹はうれしそうに準備をはじめた。

二人で食べたケーキは、とてもおいしくて。
どうしよう。
幸せな明日があると、信じたくなる。
雹。
ほんとうに、この右目から解放してくれる?


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引渡し日:2009/02/08


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