塩野七生「ローマ人の物語1 ローマは一日にして成らず」(1992)


評価

★★★★

ひとこと

大作「ローマ人の物語」の記念すべき第一作。
教科書にはほとんど登場しない、古代ローマの建国、成長が理解できる一冊。
すべてはここから始まる。


分類


目次

第一章 ローマ誕生
  • 落人伝説
  • 紀元前八世紀当時のイタリア
  • エトルリア人
  • イタリアのギリシア人
  • 建国の王ロムルス
  • 二代目のヌマ
  • 三代目の王トゥルス・ホスティリウス
  • 四代目の王アンクス・マルキウス
  • 五代目の王タルクィニウス・プリスコ
  • 六代目の王セルヴィウス・トゥリウス
  • 最後の王「尊大なタルクィニウス」
第二章 共和制ローマ
  • ローマ、共和国に
  • ギリシアへの視察団派遣
  • ギリシア文明
  • アテネ
  • スパルタ
  • ペルシア戦役
  • 覇権国家アテネ
  • ペリクレス時代
  • ギリシアを知って後
  • ローマの貴族
  • ケルト族来襲
  • ギリシアの衰退
  • 立ち上がるローマ
  • 政治改革
  • ローマの政体
  • 「政治建築の傑作」
  • 「ローマ連合」
  • 街道
  • 市民権
  • 山岳民族サムニウム族
  • 南伊ギリシアとの対決
  • 戦術の天才ピュロス


時期

BC753(ローマ建国)~BC270(ルビコン川以南のイタリア半島統一)

主要登場人物

  • ロムルス:(BC781-BC715)。王政ローマ初代王【BC753-BC715】
  • ヌマ:(BC755-BC673)。王政ローマ二代目王【BC715-BC673】。サビーニ族出身。
  • トゥルス・ホスティリウス:王政ローマ三代目王【BC673-BC641】。ラテン系ローマ人。
  • アンクス・マルキウス:(BC678-BC616)。王政ローマ四代目王【BC641-BC616】。サビーニ族出身。ヌマの孫。
  • タルクィニウス・プリスコ:王政ローマ五代目王【BC615-BC579】。エトルリア人
  • セルヴィウス・トゥリウス:王政ローマ六代目王【BC579-BC534】。エトルリア人。タルクィニウスの女婿。
  • タルクィニウス:七代目王。尊大な王【BC534-BC509】。エトルリア人。タルクィニウス・プリスコの実子。セルヴィウスの女婿。
  • ルキウス・ユニウス・ブルータス:共和政ローマ創始者。
  • ヴァレリウス:共和制ローマ執政官。通称「プブリコラ」
  • ソロン:アテネの貴族。借金返済としての奴隷制を廃止
  • ペイシストラトス:アテネの貴族。独裁政。
  • クリステネス:アテネの貴族。全地方を行政区別に分割。陶片追放導入。
  • アリステデス:アテネの貴族。穏健派。
  • テミストクレス:アテネの貴族。急進派
  • ペリクレス:アテネの貴族
  • マルクス・フリウス・カミルス:共和制ローマの独裁官。
  • アレクサンダー大王:マケドニア王
  • ピュロス:エピロス王
  • アッピウス・クラウディウス:共和制ローマの執政官。アッピア街道の創設者。
  • アルド・マヌッツィオ:文庫本の産みの親


気になる表現

一神教と多神教のちがいは、ただ単に、信ずる神の数にあるのではない。
他者の神を認めるか認めないか、にある。
そして、他者の神も認めるということは、他者の存在を認めるということである。
ヌマの時代から数えれば二千七百年は過ぎているのに、いまだにわれわれは、一神教的な金縛りから自由になっていない。(上p75)

急進派の考えは、常に穏健派の考えより明快なものである。(上p184)

民主政体を機能させるのに、民主主義者である必要はない。(下p12)

偉大な人物を慕ってくる者には、なぜか、師の教えの一面のみを強く感じとり、
それを強調する生き方に走ってしまう者が少なくない。
すべての事柄には、裏と表の両面があるのを忘れて。
そして、真の生き方とは、裏と表のバランスをとりながら生きることであるのを忘れて。(下p71)


メモ

  • 古代のローマ人の周囲にいた他民族の優位性
    • ギリシャ人:知力
    • ケルト(ガリア人):体力
    • エトルリア人:技術力
    • カルタゴ人:経済力

  • 都市建設にあらわれた三民族の違い
    • エトルリア人:防御重視。丘の上を好む。欠点は発展が阻害されやすい。
    • ローマ人:防御が不十分な土地に街を建てた。結果として外に向かって発展。
    • 南伊ギリシャ人:通商重視。海沿いの土地に街を築く。

  • 王の性質の違い
    • ローマ王:共同体を率いる存在。終身だが世襲ではない。
    • エジプト(ファラオ):王自らが神
    • メソポタミア王:神官的色彩が濃い(神と人間たちをつなぐ)
    • ギリシャ王:豪族の首領

  • 人間の行動原則の正し手
    • ローマ人:法律
    • ギリシャ人:哲学
    • ユダヤ人:宗教

  • 王政ローマ
    • ロムルス
      • 王(宗教祭事・軍事・政治の最高責任者)、元老院(百人の長老)、市民集会に分ける
      • サビーニ族の女たちの強奪
      • 百人隊長制度
    • ヌマ
      • ヤヌス神殿建設
      • 市民を職能別に分け団体結成(農業・牧畜の振興、民族間の対立の防止)
      • 暦の改革
      • 神官の組織化:専門の神官を置かず、市民集会の選挙で決める。
    • トゥルス
      • アルバ攻略(ローマがラテン民族の本家に。敗者同化と裏切りは容赦しない路線の確立)
    • アンクス
      • テヴェレ河に橋をかけた
      • テヴェレ河口オスティア征服(塩田事業を手中)
    • タルクィニウス
      • 元老院議員数を倍増(王権強化)
      • 湿地帯の干拓事業(フォロ・ロマーノ、大競技場誕生)
    • セルヴィウス
      • セルヴィウスの城壁完成
      • 初めての人口調査を実施
      • 税制・軍制改革
      • 戦法の確立(前衛・本体・後衛)
  • 共和制ローマ
    • ヴァレリウス
      • 国力低下対策
        • 塩の国有化(国庫収入の確保)
        • 間接税の軽減
        • 他国人のローマ移住の推奨
    • 貴族対平民の抗争の要因(アテネとの比較)
      1. 農牧民族ローマ人の保守的な性向
      2. ローマ貴族に対決の姿勢が強かった
      3. ローマの平民は少数指導政下での機会均等を要求したが、寡頭政そのものを変えよとは要求しなかった
    • 護民官成立と貴族側の巧妙なしかけ
      1. 二人の護民官と交渉すればよい点(団体交渉ではない)
      2. 護民官は拒否権を持つが、戦時には使えない点(当時のローマは大半が戦時中)
    • ケルト人来襲後のローマ人の立ち直りの優先順位
      1. 防衛を重視しながらの、破壊されたローマの再建
      2. 離反した旧同盟諸部族との戦闘と、それによる国境の安全の確保
        • ラテン同盟からローマ連合へ。(加盟国間の同盟を禁じ、ローマを仲介とする同盟
      3. 貴族対平民の抗争を解消することでの、社会の安定と国論の統一
        • リキニウス法
        • 六人の軍事担当官から執政官制度に戻す(=寡頭政体の継続)
        • 政府のすべての要職を平民出身者に開放(=利益代表制度を解消)
    • サムニウム族への降伏「カウディウムの屈辱」後のローマ人の態度
      1. 敗軍の将は罰せられない(名誉を失って既に罰を受けている)
      2. 新戦術の導入(サムニウム兵の投げ槍の導入)
      3. ローマ連合の拡大と確立

  • ローマの政体
    • 執政官(コンスル)
    • 独裁官(ディクタトール)
    • 法務管(プラエトル)
    • 会計検査官(クワエストル)・・・戦場での財務担当
    • 財務官(ケンソル)・・・人口調査担当
    • 按察官(エディリス)
    • 護民官(トリブーヌス・プレビス)
    • 元老院(セナートゥス)

  • ローマ連合の種類
    1. ローマ:連合の主体。ローマ市民権、直接税の納税義務、国政参加権を有する
    2. 旧ラテン同盟の加盟国:完全なローマ市民権を与える(=併合)
    3. ムニオチピア:投票権なしのローマ市民権。ラテン語習得により3年も経てばローマ市民権が与えられるのが通例。私有財産権、国内の自治も完全に認められる。
    4. コローニア:戦略上重要地域にローマ市民団が入植。入植者は完全なローマ市民権所有者で兵役の義務あり。
    5. ソーチ:同盟国。BC350以降の敗者。完全な国内自治、言語・宗教・風俗の継続が許される。兵力の提供義務が課せられる。ローマ市民権は与えられない。

  • ローマ市民権
    • 私有財産の保証・自由
    • 国政参加権
    • 公訴権
    • 独立して自由な身分を持つ
    • 兵役義務

  • 二大政党の分類
    • 民意優先派:性善説、(米)民主党、古代では民衆派
    • 公益優先派:性悪説、(米)共和党、古代では貴族派

  • 二千年前の人物のローマ観がしっくりくる点
    1. ローマの興隆の因を精神的なものに求めなかった点
    2. キリスト教の倫理や価値観から自由でいられた点
    3. フランス革命による「自由・平等・博愛」の理念に縛られない点
      • 民主政であれ、帝政であれ「善政」であれば良しとする見方。
    4. 問題意識の切実さ

参考

  • ホメロス「オデュッセイア」
  • ホメロス「イーリアス」
  • ヘロドトス「歴史」
  • ツキディデス「戦史」
  • プラトン
  • アリストテレス
  • アリストファネス
  • クセノフォン
  • プルタルコス「列伝」

本書を引用している文献

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最終更新:2011年08月19日 12:21