塩野七生「ローマ人の物語3 勝者の混迷」(1994)


評価

★★★☆

ひとこと

カルタゴを滅亡させた後のローマの内乱、共和制ローマの限界について書かれた一冊。
通史をきちんと理解していないと、めまぐるしく人が入れ替わる展開を消化するのが難しい記述なので★3つとしました。
元老院が機能しなくなっていく様を描いた一作。

分類


目次

第一章 グラックス兄弟の時代(紀元前一三三~前一二〇年)
第二章 マリウスとスッラの時代(紀元前一二〇一年~前七八年)
第三章 ポンペイウスの時代(紀元前七八年~前六三年)

時期

BC133(内戦状態)~BC63(ポンペイウスがオリエント制圧)

主要登場人物

  • ティベリウス・グラックス(BC163-BC133):自作農復旧に注力。グラックス兄弟の兄。スキピオ・アフリカヌスの孫
  • ガイウス・マリウス(BC157-BC86)平民出身。
  • ガイウス・グラックス(BC154-BC121):グラックス兄弟の弟。スキピオ・アフリカヌスの孫
  • クイントゥス・チェチリウス・メテルス:ローマ貴族
  • ルキウス・コルネリウス・スッラ(-BC78)

  • キンナ(-BC84)
  • ポンペイウス
  • クラッスス
  • ミトリダテス六世:ポントス王(-BC63)


気になる表現

すべての物事は、プラスとマイナスの両面を持つ。
ゆえに改革とは、もともとマイナスであったから改革するのではなく、
当初はプラスであっても時が経つにつれてマイナス面が目立ってきたことを改める行為なのだ。(上p155)

システムのもつプラス面は、誰が実施者になってもほどほどの成果が保証されるところにある。
反対にマイナス面は、ほどほどの成果しかあげないようでは敗北につながってしまうような場合、共同体が蒙らざるえない実害が大きすぎる点にある。
ゆえに、システムに忠実でありうるのは平時ということになり、
非常時には、忠実でありたいと願っても現実がそれを許さない、といいう事態になりやすい。(下p120)

メモ

  • ポエニ戦争後の元老院の権力集中
    1. 外交権
    2. 人事権(主要公職選挙への立候補の許可)
    3. 財産権(属州の税制、公共事業への発注)
    4. 司法権(法務官、陪審員の独占)
    5. 群事件(執政官の任地決定)

  • ポエニ戦争後の経済構造の変化:中産階級の没落
    1. 十分の一税、間接税増のため直絶税全廃。富裕層への “金あまり状態”
    2. 騎士階級(経済階級)の台頭

  • ティベリウス・グラックス:自作農の復帰による失業者救済・社会不安解消
    • センプローニウス農地法
    • 兵役期間の短縮法案
    • 陪審員を元老院と騎士階級で半々の構成とする法案
    • 反対する護民官の解任

  • ガイウス・グラックス:自作農奨励策+福祉政策
    • センプローニウス農地法の再承認
    • 農地改革実施期間「三人委員会」の復活
    • 小麦法(国家が一定量の小麦を買い上げ、市価より安く貧者に配給)
    • 軍隊法(武装、武器、兵役中の食糧などは国負担とする)
    • 公共事業法(公共事業の振興による失業者対策)
    • 植民都市法(社会資本充実で活性化する経済活動の受け皿づくり)
      • ユノー植民都市(カルタゴ)
    • 陪審員改革法(陪審員はすべて騎士階級で構成)
    • 属州法の改革(属州の税の強化。各種改革への財源確保目的)
    • 選挙方式の変更(投票を全階級同時に実施)
    • 市民権改革法(ラテン市民への投票権・公訴権を認める、イタリア人にラテン市民権取得を認める)

  • グラックス兄弟の破滅の原因
    • ローマ市民の支持を失った点(反対派による中傷工作)
    • 元老院良識派の支持を失った点(護民官強化による元老院主導のローマ型共和制の崩壊への危惧)

  • ガイウス・マリウス
    • ユグルタ戦役(ヌミディア内乱)でメテルスの副将から執政官に立候補
    • 正規軍団の編成を徴兵制から志願兵に変更(市民の義務から職業へ)
      • 志願兵は失業者だけではなかった
      • 共和制ローマの政官界志望者には最低限10年間の軍団経験が課されていた
    • 軍政改革
        1. 総司令官の使える軍団の数が伸縮自在に(防衛→攻撃型)
        2. 資産の多少によって分けられていた歩兵間の分類の全廃
        3. 志願兵とローマ連合からの参加兵の区別の廃止 
        4. 将官や幕僚は総司令官の任命による
        5. 歩兵間の武装の違いも撤廃(同じ投げ槍、盾、剣を持つ)
        6. 全軍同じ銀製の鷲を隊旗とする
        7. ヌミディア、スペイン、ガリア兵による騎士団
        8. 近衛隊を全軍団兵から選抜
  • ガイウス・マリウスの改革が実現した背景
    1. 元老院階級の(ローマ軍)指揮能力にローマ市民が疑念を抱いていた
    2. 農地改革を伴わなかった(富裕層の反発を招かなかった)
    3. 元失業者から好評(下層市民の職業を再復)
    4. 体制内改革(執政官として実施)

  • 同盟者戦役
    • ユリウス市民憲法の制定:ローマ連合の発展的解体
      • ローマに対して向けられていた剣を治めた同盟者のローマ市民権取得の全面的受入れ

  • スッラ 任期無期限の独裁官就任
    • ユリウス市民権法の継続(イタリア上陸後にスッラを迎撃したエトルリア、南伊はローマ市民権を失う)
    • スルピチウス法の継続(新市民は35の選挙区のいずれでも投票できる。解放奴隷は制限)
    • 小麦法全廃(福祉よりも国家財政の健全化を優先)
    • 新植民都市建設の活性化(古参兵への退職金対策)
    • 元老院の欠員補充&定員拡大(騎士階級の取り込みで元老院の強化)
    • 陪審員は元老院の独占に戻す
    • 官職の序列、再選の厳格化
    • 属州統治の厳格化
      • 属州:シチリア島、サルデーニャ島、近スペイン(東部)、遠スペイン(西部、ポルトガル)、ガリア・ナルボネンシス(プロヴァンス)、マケドニア、アジア属州(小アジア西部)、キリキア(小アジア南東部)、アフリカ属州(旧カルタゴ)、ガリア・チザルピーナ(アルプス以南)
    • 護民官経験者のほかの官職への選出を不可(護民官制度の弱体化)

  • 穏健派ガイウス・アウレリウス・コッタの法案
    • 護民官経験者にも他の官職への道を開く
    • 小麦法復活(上限4万人という枠は設ける)
    • スッラの追放者リストからの没収財産を国庫に戻させる
    • アウレリウス法(反スッラ派の名誉回復)

  • ポンペイウス・クラッススの提案
    • 護民官の完全な復活(ホルテンシウス法の復活)
    • 陪審員制度改革(元老院・騎士階級・平民がそれぞれ1/3ずつ)

  • 古代ローマ人の名前
    • 個人名・家門名・家族名の構成(平民階級は家門名はない)
    • 女性は家門名の語尾変化形
      • コルネリア(コルネリウス一門)、エミリア(エミリウス一門)、アウレリア(アウレリウス一門)


参考文献


本書を引用している文献

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最終更新:2011年08月19日 12:22