塩野七生「ローマ人の物語8 危機と克服」(1999)


評価

★★★☆

ひとこと

ネロ自死後のローマ帝国の内乱を描いた一冊。
ここでローマ帝国が終わってもおかしくもなかったローマを救ったのは
健全なる常識人とその右腕であった。

分類


目次

第一章 皇帝ガルバ
  • ネロの死が、ローマ人に突きつけた問題
  • 人心掌握の策
  • 協力者人事
  • ヴィテリウス、皇帝に名乗りをあげる
  • ガルバ殺害
第二章 皇帝オトー
  • 人間オトー
  • 「ライン軍団」対「ドナウ軍団」
  • 武力衝突に向けて
  • 大河ポー
  • 「第一次べドリアクム戦」
  • オトー自死
第三章 皇帝ヴィテリウス
  • 敗者の処遇
  • シリア総督ムキアヌス
  • エジプト長官アレクサンドロス
  • ヴェスパシアヌス、皇帝に名乗りあげる
  • 本国イタリアでは
  • 帝国の東方では
  • 「ドナウ軍団」
  • 「第二次べドリアクム戦」
  • ヴィテリウス殺害
第四章 帝国の辺境では
  • 属州兵の反乱
  • ユリウス・キヴィリス
  • 攻め込まれるローマ兵
  • 「ガリア帝国」
  • ローマ史はじまって以来の恥辱
  • 反攻はじまる
  • 勝利と寛容
  • 「ライン軍団」再編成
  • ユダヤ問題
  • 反乱勃発
  • ユダヤ人ヨセフス
  • ユダヤ戦役
  • 予言
  • 戦役中断
  • 戦役再開
  • イエルサレム落城
第五章 皇帝ヴェスパシアヌス
  • ローマへの道
  • 帝国の再建
  • 人間ヴェスパシアヌス
  • 「皇帝法」
  • 後継者問題
  • 元老院対策
  • 人材登用
  • 「騎士階級」と平民への対策
  • ユダヤの王女
  • コロッセウム
  • 財政再建
  • 「パンとサーカス」
  • 教育と医療
  • 財源を求めて
第六章 皇帝ティトゥス
  • ポンペイ
  • 現場証人
  • 第一の手紙
  • 第二の手紙
  • 陣頭指揮
第七章 皇帝ドミティアヌス
  • 「記録抹殺刑」
  • 人間ドミティアヌス
  • ローマの皇帝とは
  • 公共事業(一)
  • 給料値上げ
  • 「ゲルマニア防壁」
  • カッティ族
  • 内閣
  • 司法
  • 地方自治
  • 公共事業(二)
  • “ナイタ―”開催
  • ブリタニア
  • ダキア戦役
  • 反ドミティアヌスの動き
  • 幸運の女神
  • 平和協定
  • 一つの「計器」
  • “教育カリキュラム”
  • 恐怖政治
  • 「デラトール」
  • 「終身財務官」
  • 暗殺
第八章 皇帝ネルヴァ
  • “ショート・リリーフ”
  • トライアヌス登場
  • ローマの人事


時期

AD68(ガルバ即位)~98(ネルヴァの死)

主要登場人物

  • ガルバ帝(在位68, 謀殺)
  • オトー帝(在位68, 自殺)
  • ヴァレンス
  • カエキーナ
  • ヴィテリウス帝(在位68,謀殺)
  • ヴェスパシアヌス帝(在位69-79, 病死)
  • ムキアヌス
  • ペティリス・ケリアリス
  • ユリウス・キヴィリス
  • アントニウス・プリムス
  • サビヌス
  • ヨセフス・フラヴィウス
  • ユリウス・アレクサンドロス
  • ティトゥス帝(在位79-81, 病死)
  • 大プリニウス
  • 小プリニウス
  • タキトゥス
  • ドミティアヌス帝(在位81-96, 謀殺)
  • アグリコラ
  • サトゥルニヌス
  • マルクス・ファビウス・クィンティリアヌス
  • マルティアリス
  • ネルヴァ帝(在位96-98, 病死)
  • トライアヌス


気になる表現

長い歳月をかけて熟考した末の野望ならば、こうも簡単にあきらめるはずはない。
言ってみれば偶然に手中にしたような地位だから、手離すにも潔くなれたのではないか。
しかし、死さえも覚悟していたのならば、彼のために闘った将兵たちの今後の保証を
明確にした後で、死ぬべきではなかったか(上、p111)

かわいそうなオレ、神になりつつあるようだよ(中、p168, 死にゆくヴェスパシアヌスの言)

ローマ史とはリレー競走に似ている、という想いである。
既成の指導者階級の機能が衰えてくると、必ず新しい人材が、ライン上でバトンタッチを待っているという感じだ。<中略>
ローマの歴史がリレー競走に似ているのは、現に権力をもっている者が、自分に代わりうる者を積極的に登用し育成したところにある。(下、p194)


メモ

  • ガルバ
    • 貴族階級
    • 市民、支援者候補(オトー、軍団兵、元老院)への人心掌握策の失敗
    • 後継者指名で失敗し、暗殺
  • オトー
    • 騎士階級出身。ネロ帝の遊び仲間だったが、地方に左遷されていた。
    • 近衛兵らを掌握するも、ヴィテリウスを推挙するライン軍団との戦いに敗れ、早々に自死
  • ヴィテリウス
    • 低地ゲルマニアの司令官。軍団兵に推挙されて皇帝に
    • 敗者の処遇に失敗し、多くの敵を作り、反対派に殺害される。
  • ヴェスパシアヌス
    • 騎士階級出身。軍団内のたたきあげでキャリアを重ねる。
    • ムキアヌスをローマに派遣、ティトゥスをユダヤ戦役の総司令官とし、自らはエジプトで待機。ユダヤ戦役終結後に、ローマ入り。
    • 「ガリア帝国」(と言う名のゲルマン民族による反攻)に対して寛容の態度とる
    • ライン軍団再編
    • ヴェスパシアヌス皇帝法:従来の皇帝の権利を成分化。皇帝を告訴したり弾劾裁判をする権利も剥奪。
    • 平和のフォルム、コロッセウム建設
    • 財政再建
      • 国勢調査実施
      • 国有地の借地最小単位を下回る「端切れ農地」の計測と借地料支払いの徹底化
      • 小便税(排泄物を羊毛の油抜きに使う繊維業者への課税。現代ヨーロッパでは公衆便所のことを“ヴェスパシアヌス”と表現している)
  • ティトゥス
    • ヴェスパシアヌスの長男。治世2年。災害対策で終わる。
  • ドミティアヌス
    • ヴェスパシアヌスの次男。さまざまな施策を実施するも、独善的な行いに対する元老院の反発も大きく、死後「記録抹殺刑」に処される。
    • 公共事業
      • スタディウム・ドミティアーニ、ネルヴァのフォールム
      • 属州の街道メンテナンス、灌漑工事、水道工事
      • ドミティアーナ街道
    • 兵士の給料値上げ(110年ぶり)
    • リメス・ゲルマニクス(ゲルマニア防壁)
      • 400~700mの距離を置いて40m四方の石造の砦を築く。
      • 監視用の砦、補助部隊がつめる基地、軍団兵がつめる基地、それらを連絡する街道網から成り立つ
    • 内閣の改革(元老院階級の定員を減らし、騎士階級出身者を登用)
    • 官邸システムの強化(秘書官システム。但し騎士階級からの登用)
    • 司法の厳格化
    • 地方自治
    • ダキア戦役
      • ゲルマニアの不穏な動きを察知し、ダキア王とは平和協定を締結。(ローマ人には不評)
    • 教育カリキュラム
      • クィンティリアヌスによる「弁論術大全」(ラテン語を駆使して話し書くための最良のマニュアル)
    • デラトールを活用した恐怖政治
    • 終身財務官
      • 財務官の権限(国勢調査、公共事業の発注、国家ローマの風紀を正す権限=元老院議員の議席を剥奪する権限)
  • ネルヴァ
    • ローマ出身。元老院階級。皇帝就任時70歳。ドミティアヌスに対しては中立派。
    • 元老院を皇帝の司法権の治外法権とする法律(通常の司法についてはこの限りではない)
    • デラトールの力をそぐ法律
    • ドミティアヌスを「記録抹殺刑」
    • トライアヌスを後継者に指名

  • 「ローマ皇帝は、ローマ市民の第一人者に過ぎない」に対するスタンス
    1. 信じていた
      • 統治前半のティベリウス
      • クラウディウス
      • ティトゥス
    2. 信じていないが、信じているフリはした
      • アウグストゥス
      • ヴェスパシアヌス
    3. 信じてもいず、信ずるフリもしなかった
      • 統治後半のティベリウス
      • ドミティアヌス

参考


本書を引用している文献

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最終更新:2011年11月19日 18:51