内田樹「街場のアメリカ論」(2005)

評価

★★★★

ひとこと

「街場の~」シリーズの一作。
直前に読んだ寺島実郎「世界を知る力」が期待外れだったので、こちらを読んでみたらかなりスッキリした。
2005年に書かれたものなのに、2011年も終わろうとしている今読んでも「腐っていない」良書。
この本で「アメリカ」の常識について理解した後で、もう一回サンデル本を読むとよいのかもしれないと思いました。
もっと軽いエッセイなら、町山智浩「アメリカ人の半分はニューヨークの場所を知らない」もあります。

分類


目次

第1章 歴史と系譜学
第2章 ジャンクで何か問題でも?
第3章 哀しみのスーパースター
第4章 上が変でも大丈夫
第5章 成功の蹉跌
第6章 子供嫌いの文化
第7章 コピーキャッツ
第8章 アメリカン・ボディ
第9章 福音の呪い
第10章 メンバーズ・オンリー
第11章 涙の訴訟社会

気になる表現

私は本書の中でアメリカの政治、アメリカの文化、アメリカの社会構造を辛辣に批判するけれども、それは「こんなことを言ってもアメリカ人は歯牙にもかけないだろう」という「弱者ゆえの気楽さ」がどこかにあることで成立する種類の辛辣さである。<中略>
日本人はアメリカに対して実に多様な感情を抱くけれど、決して日本人がアメリカ人に対して抱くことがないのが、この「保護者の責務の感覚」である。(p28-29)

「原因とはうまくゆかないものにしかない」(p35, ジャック・ラカンの言)

どこの国でも、「食品」にかかわる運動は強い政治性を帯電します。
「自然食」運動は例外なしに反近代、反都市、反資本主義、反市場主義的な
メンタリティーを惹きつけ、ある種の「大地信仰」に結びつきます。<中略>
これは使い方次第ではかなり危険な思想だと私は思います。
ひとつには強い排外主義をもたらしかねないこと。<中略>
もうひとつは、文化の本質的な混質性・雑食性を看過するようになること(p69-70)

私たちが「伝統」とか「固有の」とか思っているもののかなりの部分は
伝統的でもオリジナルでもなく、ちょっと前にどこかから入ってきたものです。(p70)



メモ

  • 「起きてもよかったのに起きなかった出来事」をどれだけ多く思いつけるか?
  • スローフード発祥地のピエモンテとはどのような土地だったのか?
  • アメリカン・ヒーローが象徴するもの:アメリカが国際社会に対して抱いている本音の不満。「もっと感謝しろ!」
    • 主人公は特殊な能力を持つ白人男性
    • スーパーな本性を見せる事を禁じられ、市民的な偽装生活を送ることを余儀なくされる
    • スーパーヒーローとして活躍しても必ず誤解されて、バッシングを受ける
  • アメリカのような国は、アメリカ以前には存在しなかった
    • 自力で自分を作り上げた国
    • はなからずっとアメリカだった。だから「成熟」という概念は重要視されていない。(理念先行の国)
    • 間違った統治者が選出されても破局的な事態にならないように制度化している(権力の集中を許さない。多数の支配を徹底)
  • アメリカ人は真珠湾攻撃の死者と東京大空襲の死者では真珠湾の死者の方が多いと思っている。(二発の原爆による死者は太平洋戦争におけるアメリカの全戦死者数よりも多い)
  • アメリカ人は軍功を過大評価する傾向にある。
  • アメリカは「戦争で打ち負かした相手は進んで同盟者になる」と思っている。だから「とりあえず戦争に勝つ」ということを世界戦略の基本にする。
  • アメリカ人にとっての自分の身体は、彼らの意思や野望を実現するための「道具」として扱われている。
  • アメリカ人の肥満の切ない事情:記号としての肥満
    • ジャンク・フードによる肥満者が白人低所得階層やヒスパニック、黒人に偏っている。
    • 低所得者層に対するステレオタイプに対する階級的な怒りを、誰にでもわかる仕方で表象しないと理解されない。(アメリカの悲劇)



参考文献

  • ベネディクト・アンダーソン「想像の共同体」
  • 加藤典「アメリカの影」
  • 佐々木正人「ダーウィン的方法 運動からアフォーダンスへ」
  • アレクシス・ド・トクヴィル「アメリカにおけるデモクラシーについて」
  • マックス・ウェーバー「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」
  • リチャード・ホーフスタッター「アメリカの反知性主義」
  • エマニュエル・トッド「帝国以後 アメリカ・システムの崩壊」
  • フィリップ・アリエス「<子供>の誕生」
  • エリザベート・バダンテール「母性という神話」
  • E・F・ロフタス「抑圧された記憶の神話」
  • ヘーバート・スペンサー「進歩について」
  • ハロルド・シェクター「オリジナル・サイコ」
  • グレゴリー・ベイトソン「精神の生態学」
  • クリスティーヌ・デルフィ「なにが女性の主要な敵なのか」
  • ジグムント・フロイト「トーテムとタブー
  • クロード・レヴィ=ストロース「悲しき熱帯」
  • 堀内一史「分裂するアメリカ社会」
  • 中山義壽「わからなくなった人のためのアメリカ学入門」

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最終更新:2012年11月21日 20:28