塩野七生「ローマ人の物語9 賢帝の世紀」(2000)


評価

★★★☆

ひとこと

ローマ人が考えていた「賢帝」とはどういうものであったのかに迫る。
五賢帝のうちのトライアヌス・ハドリアヌス・アントニウス・ピウスの時代を取り上げられている。
資料が少ない中、石柱に書かれた絵を元に戦役を描写する方法は面白い。
とはいえ、全体的に「リフレイン」が鼻につきすぎるのが残念。


分類


目次

第一部 皇帝トライアヌス
  • 皇帝への道
  • 気概を胸に
  • ひとまずの帰途
  • 古代ローマの“君主論”
  • 空洞化対策
  • 育英資金
  • ダキア問題
  • 第一次ダキア戦役
  • 建築家アポロドロス
  • 「トライアヌス橋」
  • 黒海から紅海へ
  • 第二次ダキア戦役
  • 凱旋
  • 戦後処理
  • 公共事業
  • 属州統治
  • プリニウス
  • 私人としてのトライアヌス
  • パルティア問題
  • 遠征
第二部 皇帝ハドリアヌス
  • 少年時代
  • 青年時代
  • 皇帝への道
  • 年上の女
  • 登位時の謎
  • 皇帝として
  • 粛清
  • 失地挽回の策
  • ハドリアヌスの「旅」
  • ライン河
  • 再構築
  • ブリタニア
  • ヒスパニア
  • 地中海
  • オリエント
  • アテネ
  • 北アフリカ
  • 「ローマ法大全」
  • ヴェヌス神殿
  • パンテオン
  • ヴィラ・アドリアーナ
  • 再び「旅」に
  • ローマ軍団
  • エジプト
  • 美少年
  • ユダヤ反乱
  • 「ディアスポラ」
  • ローマ人とユダヤ人
  • 余生
  • 後継者問題
第三部 皇帝アントニヌス・ピウス
  • 幸福な時代
  • 人格者
  • マルクス・アウレリウス
  • 「国家の父」


時期

AD117(トライアヌス即位)~161(アントニウス・ピウスの死)

主要登場人物

  • トライアヌス帝(在位98-117, 病死)
  • デケバロス
  • スーラ
  • 小プリニウス
  • バール・コクバ
  • ラビ・アキバ
  • アポロドロス
  • ハドリアヌス帝(在位117-138, 病死)
  • アティアヌス
  • ハヴィディウス・ニグリヌス
  • コルネリウス・パルマ
  • プブリウス・ケルスス
  • ルシウス・クィエートゥス
  • アントニウス・ピウス帝(在位138-161, 病死)
  • マルクス・アウレリウス
  • フロント


気になる表現

女とは、同性の美貌や富には羨望や嫉妬を感じても、
教養や頭の良さには、羨望もしなければ嫉妬も感じないものなのだ。(上、p61)


メモ

  • ローマ皇帝の三大責務
    • 安全保障、つまり外政
    • 国内を治めること
    • インフラストラクチャーの整備

  • 属州統治の3原則
    • 税率を上げないことを根本前提にする
    • インフラを整備することで属州の経済が活性化し、それによって属州民の生活水準が向上するように努める
    • 地方分権の徹底

  • ローマ皇帝の情報収集方法
    • 各属州勤務の公職者からの報告
    • 属州民側からの請願や陳情
      1. 年に一度の首都ローマへの、属州議会の代表たちの表敬訪問
      2. ロビー活動(パトローネスとクリエンテスの関係)
      3. 属州が直接に皇帝に制限(官邸の文書係が受け付け)
      4. 属州総督裁判


  • トライアヌス
    • 98.ドナウ沿岸にとどまる
      • 一時前帝ネルヴァを監禁した近衛軍団長官とその同調者をケルンに呼び寄せ殺害(不穏分子の抹殺)
      • ライン河全域とドナウ河上流部までのリメル・ゲルマニクスの完備
    • 99.ローマ帰還
    • 101.第一次ダキア戦役
    • 103頃.ドナウ河にトライアヌス橋完成→トライアヌス橋完成記念の貨幣
    • 105.第二次ダキア戦役
    • 111.ビティニア属州を皇帝属州化。小プリニウスを属州総督として派遣
    • 112.トライアヌスのフォールム完成
    • 113.トライアヌス円柱公開
    • 114.パルティア戦役
    • 116頃.ローマ帝国の版図最大となる
    • 117.死去
    • 主な政策
      • 空洞化対策:元老院議員は少なくとも資産の1/3を本国イタリアに投資する
      • 育英資金制度(アリメンタ):嫡出/庶出、男女により金額は異なるものの成年に達するまで月額補助。成年後の返却は不要。→皇帝と子供の図柄の貨幣
      • 港の開港:オスティア完備。アンティウム、タッラキーナ(漁港)の港湾化、ケントゥムケラの港湾化。
      • アッピア街道の複線化
      • 属州の公共事業:スペインのアルカンタラ橋ほか多数

  • ハドリアヌス
    • 117.皇帝即位時の課題
      1. ユダヤ問題(115~ユダヤ教徒の反乱)
      2. ブリタニアでの原住民の反乱
      3. マウリタニア属州での反乱
      4. ドナウ北岸サルマティア族の動き
    • 118.近衛軍団長(ハドリアヌス代父)による4人の執政官経験者(反ハドリアヌス派)を殺害
    • 118.ローマ帰還。
      • 皇帝就任祝いの一時下賜金を通常の二倍
      • 剣闘士試合・戦車競走などの見世物
      • 新皇帝に贈る黄金の冠の廃止(属州からは従来の半額)=減税効果
      • 滞納税金の帳消しと以後は15年毎の不動産登記のやり直しの実施
    • 121.リヨン~リメス・ゲルマニクス~ライン河防衛線視察
      • ヌメルスの組織化:季節労働者的な兵士。見張りなどが主な任務。(訓練不要・退職金等は不要。失業者対策)
    • 122.ライン河口~ブリタニア~ガリア~スペイン視察
      • ブリタニアにハドリアヌス防壁建設を指示
      • アヴィニヨン建設
    • 123-124.シリア~小アジア~トラキア~ドナウ河防衛線~ウィーン視察
      • パルティアとの危機を交渉で回避
    • 124-125.アテネ~シチリア~ローマ帰還
      • ゼウス神殿建設
    • 126.アフリカ視察
    • 126.ローマ法大全の編集を指示(131年に完成)
    • 128-129.アテネ~小アジア~シリア視察
    • 130.ユダヤ~エジプト視察
      • アエリア・カピトリーノ建設
      • ユダヤ教徒の割礼を禁止
    • 131.エジプト~アンティオキア~トルコ~アテネ視察
    • 131-134.ユダヤ教徒の反乱
      • イエルサレム陥落
      • 反乱に加わったユダヤ教徒をイエルサレムから追放、ユダヤ属州を「パレスティーナ」に変更
    • 134.ローマ帰還
    • 136.後継者としてアエリウス・カエサルを養子にする(義兄とその孫は処刑)
    • 137.アエリウス・カエサル死去
    • 138.アントニウスを養子に、マルクス・アウレリウスとルキウス・ヴェルスをアントニウスの養子に迎える
    • 138.死去

  • アントニウス
    • 138.ハドリアヌスの神格化をめぐり元老院に対し弁護。
      • アントニウス・ピウス(慈悲深い)と呼ばれるようになる
    • 138.国家の父の称号を受ける
      • ローマ帝国は一つの大きな家であり、帝国の父親を務めることと理解(トライアヌス、ハドリアヌスは“統治者”としての治世を全うしたのと対照的)
    • 139-142.ブリタニアの反乱
      • ハドリアヌス防壁のさらに北にアントニウス防壁を建設
    • 161.死去





参考

  • ユルスナル「ハドリアヌスの回想」


本書を引用している文献

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最終更新:2011年11月19日 19:09