破壊者と守護者と貫く正義(前編) ◆MiRaiTlHUI
円形に切り取られた土地の丁度繋ぎ目の真上に立った
鹿目まどかは、目の前に拡がる光景の奇怪さに瞠目せずには居られなかった。
秋葉原駅を出発点として、駅から続く線路に沿って真っ直ぐに歩いて来たというのに、まどかの道標の役割を果たしてくれていた線路は突然途切れたのだ。
緩やかな弧を描いて、まだ先へと続いている筈の線路が……秋葉原の街並み全てが、ある節目を境に全く別の景色へと変わっているのだった。
どうやらこのフィールドは、大きな円の中に、まるで時計盤のように無数の小さな円を配置して出来ているらしい……という事は、支給された地図を見れば理解は出来る。が、それをいざ目前にして、見たものを見たまま「成程、ここはそういう場所なんだね」と肯んじる事が出来る程、まどかの常識はまだ崩壊してはいなかった。
まどかの知る限りでは、魔女が形成する結界も確かに異様といえば異様だが、空間自体が“非日常”の塊である魔女結界と比べれば、“日常”的な景色が突然人為的に切り取られたこの景色の方が、まどかにとってはずっと稀有だった。
ともあれ、ここでじっとしていた所で現実は変わらない。一先ずまどかは、もう一度地図に目を通して、現在地を確認した。
秋葉原から線路沿いに直進し、円形に切り取られた地形にぶつかる場所。どうやらここは、地図上での北東に位置するオフィス街らしい。
「……見滝原はまだまだ遠そうだなぁ」
現在地よりもずっと北西に見知った地名が存在するが、その距離は見るからに遠い。改めて自分の居場所を認識したまどかは、憮然として項垂れた。
一体どうして見滝原中学校や鹿目家がこの場に存在しているのだろうかという疑問はあるにはあるが、恐らくここでどれだけ考えた所で得心の行く答えに辿り着くことはないのだろう。
本物の見滝原市が丸ごと円形に切り取られこの場に配置されたと考えるよりは、良く似た同じ土地を複製しこの会場を作ったと考える方が幾らか合理的ではあるが、だとしても十二分に異常だ。
一体どうして真木清人がこれ程手の込んだ会場を用意してまで、六十余人の参加者に殺し合いを強要するのかなどまどかには知る術もないのだから、今は兎に角誰かに出会うまで歩き続けるしかない。
……とは理解しているものの、その前に少しだけ休憩を挟んだって罰は当たらないだろうとも思う。何せまどかは、重たいデイバッグを担いで、それなりの長距離を歩いて来たのだ。如何な魔法少女と言えど、基本的な体力は中学二年の女子でしかないまどかの身体に疲労が溜まっていない訳がなかった。
立ち止まったまどかは、「そういえば」と呟き、デイバッグを開ける。
「私に支給された物……使い方分かんないものばっかりだったけど、一つだけ……」
メダルがあったよね、と。そう告げるよりも早く、まどかはデイバッグの奥に転がっていた金縁の黒いメダルを掴み上げた。
ゾウの紋章が描かれた黒いメダルは、確かその名をコアメダルと云ったか。
ルールブックに書かれている通りならば、このメダルは首輪に投入しておけば、いざという時にセルメダル五十枚分までの代用として使う事が出来るとの事。
それを思い出したまどかは、話し合いの通じない相手との戦闘、万一の非常時に備えて、忘れないうちに首輪に投入しておこうとメダルを首輪に放り込んだ。
投げ込まれたコアメダルはまどかの首輪に命中すると同時、どういう原理かその外殻をぐにゅりと歪曲させ、内部へと侵入していった。
体内に感じるセルメダルの総量が、僅かに増えたような気がした。
◆
言わずと知れた大都会シュテルンビルトも、この殺し合いの場にあってはゴーストタウンも同然であった。平時ならば街の至る所で耳にするであろう車の騒音も往来のざわつきも、その一切が今のこの街には存在しない。居る筈の人間が一人もいないという不可解な現状は、この街で育ったユーリに焦燥感を与えるには十分だった。
果たして、この街に一体何が起こったのか。そもそも、どうしてこの街が殺し合いの会場の一部として使用されているのか。街一つを丸々複製するなどどんな人間にも不可能だが、かといってこの街をが本物で……と考えるのも、余りにも現実離れし過ぎている。
そんな「不可能」をも「可能」にしてしまった男、真木清人。
奴は一体如何なる人物なのかというのは当然気になる所ではあるが、真木と面識のある
火野映司から話を聞く限りでは、真木が突然こんな事をしでかす事自体が不自然だし、そもそも真木一人ではこれだけの大事を成し遂げるのは、恐らく不可能なのだという。
この殺し合いの裏で、決して小さくはない組織が暗躍しているのはまず間違いないのだろうが、その手掛かりも存在しないのでは、動きようもない。
今のユーリに出来る事といえば、唯一グリードを“砕く”事が出来ると嘯く火野映司に協力し、少しずつ真木に近付いてゆく事くらいしかないのだからもどかしい。ルナティックとしての力だけでは、あの罪人には届かないのだ。
その為の第一歩。火野映司と共に定めた最初の目的地ジャスティスタワーを目前にして、南の方角から一機の鳥型ロボットがユーリらの元へと羽ばたいて来た。
「む……あれは?」
「ああ、さっき俺が飛ばしたタカカンドロイドです。早速誰か見付けてきてくれたんだな」
「……成程」
ユーリと合流してからややあって、火野映司はシュテルンビルトの至る所に設置されている自販機――ユーリは一度たりとも見た事のないタイプの、だが――で、セルメダルを十枚ほど消費し、カンドロイドと呼ばれるロボットを複数購入していたのを思い出す。
火野が購入したカンドロイドは一機一機があのようなロボットへと変型し、火野の「参加者を見付けてきて欲しい」という命令を受けて四方八方へ飛び立って行ったのだった。
「随分と便利なロボットだ」
「これも元はと言えば真木博士が造ったものらしいんですけどね」
「……でしょうね」
特に驚く事もなく、ユーリは首肯した。
件のカンドロイド販売用の自販機は、ざっと見ただけでも相当な数がこの場には設置されている。真木を主催とする殺し合いでそれだけ大量に用意されたものなのだから、元は真木が造ったものだと聞かされた所で何ら不自然な話ではなかった。
故にそれについてはこれ以上の言及はせず。それよりも、ユーリは今すぐに決断を下すべき事を、火野が正しく判断する事が出来るかどうかを確かめたかった。
「タカカンドロイドが誰かを見付けたというなら、手遅れになる前にすぐに向かった方がいいのでしょう。ジャスティスタワーは目前ですが、目的地を変更しますか?」
「いえ……その必要はありません。参加者の方には俺が一人で行きます」
「成程。二手に分かれるという事ですか。確かにその方が効率はいい」
「まあ、本当言うと、理由はそれだけじゃないんですけどね」
「というと?」
「……もしタカカンドロイドが見付けた参加者がグリードだったら……俺はきっと、もう止まらなくなります。その時に、ペトロフさんを巻き込みたくはないから」
神妙な面持ちでそう告げる火野を見ては、「つまり私は足手纏いという事ですか」などと意地悪な事を言う気にもなれなかった。
事実、ユーリがルナティックとしての力を秘匿している以上、どうあってもヒーローらに庇護される側の立場から脱する事は出来ないのだから。
「……成程。それが貴方の正義ですか」
「駄目、ですかね」
「立派だと思いますよ」
嘘ではない。より多くを救うため、悪を裁くため、正義を貫くため、そのために手段すらも選ばずに己が道を突き進む事が出来るのであれば、ユーリから言わせればそれは成程正義と呼んで差し支えない。
……貫く事が出来るなら、の話だが。
「じゃあ、俺は必ず帰って来ますから、それまでユーリさんにはジャスティスタワーの探索の方をお願いしていいですか」
「ええ、分かりました。誰かを見付けた場合は、私が保護しておきます」
「ありがとうございます、ペトロフさん」
そう言って頭を下げた火野が薄く浮かべた笑顔は、何処か儚げだった。
だけれども、僅かな圧力で簡単に砕け散ってしまいそうな、硝子の如く弱々しいその笑顔とは相対的に、火野の双眸に宿った光に一切の揺らぎは見受けらず。
そこに火野映司という人間の強い正義と、この決断に対する覚悟の重さを垣間見た気がして、ユーリは自分でも驚く程に、火野映司という人間に興味を抱いていたのだという事に気が付いて、自嘲気味にクスリと笑った。
(……いいだろう。貴様の正義、見極めさせて貰うぞ)
タカカンドロイドを追い掛け去って行く映司の背を見送りながら、ユーリと云う名の仮面の裏側……その奥底に潜んだ正義感――ルナティック――は、誰にともなく独りごちた。
◆
オフィス街に脚を踏み入れてからすぐの事、極々短時間の小休止を経たまどかがその後辿ったルートは、地図にも示されている一本の道だった。
この道に沿って歩いて、名も知らぬ次の街に着く頃には、流石に誰か一人くらいとは合流出来るだろうし、その調子で二つも街を越えれば、次に待つのはまどかの故郷見滝原だ。
きっとまどかの仲間の魔法少女はみんな目印となる見滝原での合流を考えるだろうし、見滝原に至るまでにこの殺し合いを打倒せんとする仲間をもっと集める事が出来るなら、それに越した事はない。
そんな考えで歩を進めるまどかの視界に入って来たのは、他のビルよりも群を抜いて巨大な、塔のように聳えるシティホテルだった。
オフィス街を歩いている内に、小さなビジネスホテルやカプセルホテルの看板ならば幾つか見掛ける事もあったが、目前に見えるそれ程に大規模なホテルを見たのは、此処へ来て初めてだった。きっとあれが、地図にも記されているホテルなのだろう。
ようやくこの長いオフィス街を半分まで制覇したのかと思った、その時だった。
ホテルの方角から歩いて来たのは――
「え」
純白のパンツを頭から被った、すらりとした体躯の男性だった。
――反射的に身構える。相手が殺し合いに乗っているかどうかも分からないのだから、一歩間違えれば殺される可能性もある……というよりも、相手がまともな人間なのかどうかすら怪しいのだから、一歩間違えればおかしな事をされる可能性もある、という懸念の方が正しいか。
まどかが感じたのは、どちらかと言うとそういった生理的な類の恐怖だった。
そもそもの話、誰が見ているかも分からない公衆の面前で、男が女物のパンツを被って出歩くなど、まどかの常識で考えれば有り得ない話だ。
状況が状況なら、今すぐにでも「変質者が出ました」と警察に電話を掛けていてもおかしくはなかったところだろう。
悠然と歩いて来る男とは対照的に、その場で固まったまどかの内心を、殺し合いの場には不釣り合いな類の緊張が駆け抜ける。
そんな中、最初に誰何の声を掛けて来たのは男の方だった。
「んん? おまえ、だれだあ……?」
「私は……鹿目まどか、です」
「まどかぁ……?」
やけに間延びした口調で、男は首を傾げた。
被っている物もそうだが、随分な変わり者なんだなと思う。
「あの、貴方はこんな所で何をしてるんですか?」
「おれ、
ガメル。おれ、
メズールにあいたい……メズール、どこいった?」
「メズール……? あの、ごめんなさい、ちょっと分かんないです……」
そう言って苦笑いするまどかだが、ガメルは目に見えて分かる程に落胆している様子だった。まるで母親とはぐれた用事が愚図るように。今にも泣き出してしまいそうな声で、「メズール」と、何度も名を呼ぶ。
もしやこの男、身体は大人だが、人格的には子供なのではないだろうか。今まで出会った事は無かったが、世の中にはそういう人種の人間が居るという事も理解はして居る。
まどかは、出来る限り相手を脅えさせぬようにと差し障りのない言葉を選んだ。
「あの、良かったら私も一緒に探しましょうか?」
「おれといっしょに、メズールさがしてくれるの……?」
「はい。だって、一人ぼっちは寂しいでしょ?」
そう言って微笑むと、パンツに覆い隠されていないガメルの双眸に、ぱぁっと明るい光が挿した気がした。
嬉しそうに目尻を下げたガメルは、無邪気にはしゃぐ子供のようにまどかの手を取り、一枚のカードを手渡して来た。
「おまえ、いいやつ! これあげる~」
「え……これは?」
「ヒーローのブロマイド、おれとおなじ!」
そう言って、ガメルは頭に被ったパンツを指差した。
まどかは、ガメルと手渡されたカードとを交互に矯めつ眇めつ見比べる。カードに描かれた「ワイルドタイガー」なるヒーローもまた、青いマスクを被っていた。
成程そういう事かと、ようやくまどかも合点が行った。
ガメルが子供の様に無邪気な青年だというのは、事実その通りで、彼は只、このヒーローに憧れ、ヒーローになりきろうとして、このパンツをマスクの代わりに被ったのだろう。
子供は時に、大人には想像もつかないような行動に出る事もある。幼い弟を持つまどかはそれを理解しているが故、その対処の仕方も心得ている。まどかは、幼い弟に話し掛ける時と同じように――弟にしては随分と大きいが――ガメルに警戒させぬように、出来る限り優しい口調で話し掛けた。
「あのね、ガメル。これはマスクじゃないんだよ」
「んん……? マスクじゃ、ない……?」
「そう、これは、女の子が穿くパンツ。だから、頭に被っちゃいけないの」
「でも、これ、カッコイイ……」
「ううん、カッコ良くない。そんなもの被ってちゃ、皆から嫌われちゃうよ?」
「……っ、メズールにも!?」
「うん、メズールさんにもきっと」
「じゃあおれ、やめる!!」
母に嫌われる事を恐れる子供のように、ガメルは慌てて被っていたパンツを脱いだ。
始めてガメルの素顔を見てまどかが抱いた印象は、まるで子供の様に純朴で、綺麗な瞳をしている、という事だった。
こんなに純粋で無邪気な青年が、殺し合いに乗っているとは思えない。まどかにとってのガメルは、既に保護対象の一人であった。
「うん、偉いね、ガメル」
やや背伸びをしてガメルの頭を軽く撫でると、ガメルは心底嬉しそうに笑った。
まるで悪意の感じられない、優しい笑顔だ。ガメルの笑顔を見ていると、似ている訳もないのに、その無邪気さから弟の姿を夢想してしまう。この笑顔を守りたいと、より強く思う。
あの頼れる先輩魔法少女のように、今度は自分が力を持たない者を守り導くのだと強い決意を胸に秘めて。まどかは、この無邪気な子供のようなガメルを安心させる為、寂しい思いはさせまいと、弟を思いやる姉のように柔和な笑みを浮かべるのだった。
◆
火野映司にジャスティスタワーを探索すると約束した手前、一応はジャスティスタワーの内部を見ておかなければならないと判断したユーリは今、ざっとではあるがタワー内部の探索を終え、日頃自分が事務所として使用している一室のデスクチェアに腰をかけた。
元よりユーリには、この広大なタワーの内部をくまなく調査する気は無かった。何処かの一室に参加者が隠れていたとしても、見付けだす事は難しいし、何よりもユーリの目的は「悪を断罪する事」であって、弱者を守る事にはそれ程の興味はない。
例えジャスティスタワーに悪人が潜んで居たとしても、生き残るためにはいつかはこのタワーから出なければならないのだから、外で行動していればいつかは出会う事になるだろう。その時にルナティックとして断罪すればいいだけの話だ。
故にそれ以上無駄な労力を使う事もせず、ユーリはふっと不意に窓の外に視線を送った。
内心で、ほう、と呟く。
ユーリの視線の先に拡がっているのは、本来シュテルンビルトを取り囲んでいる筈の大海原ではなく、巨大な溜池のように見える水の青と、それを緩やかな弧で遮った、何処までも続く灰色のビルが並ぶ異国の街。
そんな風景を、ユーリは知らない。
この場所から見える水は、恐らくは溜池などではなく、海水であるべきなのだろう。
だが、本来何処までも続いてゆく筈の海水を遮って異国のビル街が立ち並んでいるとなれば、それは最早海とは呼べない。
果たして、一体どうしてこんな奇怪な光景が拡がっているのかなどユーリには知れないが。此処がシュテルンビルトなどでなく、意図的に造られた「殺し合いの会場」であるのだろうという事だけは理解出来た。
全く規格外の連中を敵に回してしまったものだと、呆れを含んだ嘆息を落とすと同時、ユーリの目前の窓ガラスを、一機の赤いロボットがこつこつと叩いた。
それは、ユーリがジャスティスタワーに入る前に火野に倣い放った一機のタカカンドロイドだった。
命令は一つ。もしも火野が何者かと戦っているなら、ジャスティスタワーに居るユーリの元まで戻って来る事。そうでないなら、そのまま何処へなりと飛んで行け。
タカカンドロイドは、ユーリの至極簡単な命令を完遂してくれた。
つまりは、今、火野は戦っているという事だ。
あの好き好んで戦いをやるとは思えない火野がそれでも戦うという事は、相手はグリードだったか、もしくはそれに並ぶ罪人であったかのどちらかなのだろう。
ユーリは、物言わず立ち上がり、使い慣れた事務室を後にした。
◆
ホテル付近でガメルと出会ってからというもの、他愛も無い会話を重ねながら歩き続けたまどかは、今だかつて見た事の無いような、巨大な、本当に巨大な“上下三重構造の大都会”を目前に控えていた。
名も知らぬその街は、当然ながらまどかの視界に収まり切る規模ではなく、それでいて一層目から三層目まで、その全てのフロアに高層ビルを内包した街は、それそのものが何らかの芸術作品であるかのような印象を受けた。
地図に描かれた図を見たその時から、一体どんな街なのだろうと考えてはいたが、成程これはまどかの想像すらも越えている。何処の国の街なのかは分からないが、傍目から見るだけでも圧巻されるその巨大さに、まどかは一瞬、此処が殺し合いの場である事さえも忘れて、好奇心すら抱いた程であった。
「ねえガメル、見て! 凄いよ、あの街!」
「ほんとうだ! なんだあ、あのまち~……?」
どうやらガメルもあの街を見るのは初めてだったらしい。子供そのもの、というよりも、子供以上に純粋無垢な瞳を輝かせて、目前に迫った三重構造の大都会を見上げていた。
そういえば、家族みんなで何処かへ遊びに行った時も、幼い弟とはこんな会話をした事があったなと思い出す。優しく暖かい記憶を思い浮かべたまどかは、嬉しそうにはしゃぐガメルの傍らで、クスリと微笑んだ。
「あの街にメズールさんが居てくれるといいんだけどね」
「……メズール~……」
まどかの何気ない一言に反応したガメルは、寂しそうに項垂れた。
聞けば、メズールという女性は、ガメルを我が子の様に愛してくれる優しい人なのだそうだ。いつもはメズールが一緒に居てくれるから、ガメルが独りぼっちになる事はないのだが、今日は気が付いたらメズールと離れ離れになっていたそうだ。
真木清人から「よく分からない説明」をされたガメルは、そこに自身の意思を介入させる余地も無く、あのホテルへ飛ばされたのだという。
状況も分かっていない子供を独りぼっちにさせるだけでなく、その母親代わりのメズールまでもが殺し合いに参加させられているという事実を知ったまどかは密かに憤慨した。
こんなにも優しい二人の仲を引き裂いた上、互いに殺し合いをさせようなどと、人間の所業とは思えない。
どうしてこんな酷い事が出来るのか。
真木清人が、まるで人の命を何とも思わぬ悪魔のように思えて、まどかは筆舌には尽くし難い、インキュベーターに抱いたそれとは違ったベクトルの嫌悪感を覚えた。
「……私が必ずまたメズールさんに会わせてあげるから。だから安心してね、ガメル」
「わーい! ありがとう、まどか!」
子供にしては低い声だが、それでも嬉しいのだろう、ガメルはすぐに聞き分けられる程に声のトーンを上げて、喜んでくれた。
共に過ごした時間は短期間だが、ガメルは既にまどかに懐いていた。
ガメルは幼児と同じだ。自分に愛情を向けてくれる存在が母親(メズール)しか居ないから、その母親と自身だけがいつだって世界の中心になる。ガメルの世界には、メズールとガメルの二人しか居ないと言うのに、その片方――自分に唯一優しく接してくれる者――が居なくなったのだから、きっと寂しくて不安で堪らないはずだ。
言うなれば、ガメルは迷子の子供だった。
相手が迷子の子供なら、周囲の大人は、一緒になって母親を探してやらねばならない。そして、本当は優しくしてくれる者は母親以外にも沢山居ると言うのだということを、世界はもっと広いのだということを、教える必要がある。
それは別に難しい事ではない。まどかからすれば、ただ守るべき者を守り、安心させてやりたいという、ただそれだけの事だ。かつてマミがしてくれた事と何の変わりもない。
「おれ、まどかのこと、メズールのつぎにすきだ~」
「本当に? ありがとう、嬉しいよ、ガメル」
ガメルは、まどかに純粋な好意を向けていた。きっと、メズール以外の誰かに優しくして貰ったのは、まどかが初めてなのだろう。
ならばまどかは、この純粋な思いを裏切らない為にも、何としてもメズールと再会させてやりたいと強く願う。
「……あっ」
不意に、そんな二人の直上を、一機の赤い鳥型ロボットが駆け抜けていった。
真っ先にそれに気付いたまどかは、何事かと空飛ぶロボットを眇めるが、まどかにそれ以上ロボットを注視するだけの余裕は与えられなかった。
名も知らぬ誰かが、まどかが目指していた三重構造の街の方角から、堂々と歩いて来る。
歳の頃は二十を回るかどうかという頃合いだろうか。見滝原の街中では中々見掛ける事のない、随分とラフな印象を受けるエスニック調のシャツを着こなした青年は、三つのスロットが設けられた無機質なバックルを腰に当てがった。
「あの、貴方は――」
「オーズ~……?」
まどかの言葉を遮って、ガメルが惚けた口調でそう言った。
名前、だろうか。オーズと呼ばれた男は、胸元から飛び出した三枚のメダルを掴み取ると、一枚ずつ、カチャリ、カチャリと音を立てて腰に装着されたベルトのバックルへと装填してゆく。
「俺はオーズ。仮面ライダーオーズ」
「仮面、ライダー……?」
「君は逃げて。そいつはグリードだ」
「えっ……」
仮面ライダーオーズと名乗った男の双眸に宿った強い光は、一切の揺らぎを見せる事もなく、真っ直ぐにガメルを捉えて据わっていた。
一体どういう事だろう。グリードとは、確か真木清人に与する怪人だったように思うが、そんな奴がこの場の何処に居るというのか。
何がどうなっているのか、現状をまるで把握出来ず、疑問符を浮かべるだけしか出来ぬまどかなど意にも介さず、男は右腰に取り付けられていた円形の機器を、
「変身!」
斜めに倒したバックルに、勢いよく通した。
――プテラ! トリケラ!! ティラノ!!!――
この場の誰のものでもない、やけに印象深いハスキーな声が響き渡ったのをまどかが認識した時には、既に男の周囲を紫のメダル状のエネルギーが飛び交っていた。
プテラノドンと、トリケラトプスと、ティラノサウルス。三体の恐竜の紋章を描いたコアメダルが男の目前に縦一列に並んだと思えば、それら三つは一つに合わさって、新たな紋章を形成して男の胸元に取り付いた。
――プッ・トッ・ティラッノザ~ウル~ス!!!――
この場の誰よりも快活で、それでいて煩い歌声が鳴り響く。
男の全身を白のスーツが覆い尽くし、更にプテラノドンを連想させる仮面が、トリケラトプスを連想させる装甲が、そして大地を踏み締めるティラノサウルスの脚を連想させるブーツが、一瞬のうちに形成された。。
「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ――ッッ!!!」
唸る様な絶叫。
オーズの後頭部で、紫色をしたエネルギー状の翼が羽撃たけば、周囲の何者をも凍えさせんばかりの冷気が、ごうっ! と吹き付けた。
オーズの臀部から、現出したエネルギー状の巨大な尾は、一度大きくうねると、硬いアスファルトをどんっ! と叩き地響きを立てた。
それは、魔女と対峙した時に感じる感覚とよく似ていた。
言うなれば、本能的な恐怖。周囲の何もかもを破壊し尽くし、殺し尽くさんとする暴君の如き威圧感が、まるで三種の恐竜の特徴全てを掛け合わせたかのような眼前のバケモノから撒き散らされていた。
◆
地面を砕き、一艇の斧を掴み取った紫のオーズは、それを高らかに振り上げ。背部の巨大なプテラの羽根を羽撃たかせ、獲物を狩る肉食獣の如き勢いで以て、未だ危機感を抱いていないのであろう棒立ちのガメルへと急迫した。
拙い――!
このままでは、ガメルが殺される。瞬時に最悪の未来を想定したまどかの身体は、それ以上何も考える事なく、ほぼ反射的に動き出していた。
尋常ならざる速度で飛び込んで来たオーズの道を阻むように、一瞬で魔法少女への変身を遂げたまどかが割り込んだのだ。
木の枝にも見える魔法のステッキを構え、魔力で出来た光の障壁を前面に展開する。
ガメルを両断する筈だった紫の刃は、まどかが張った障壁とかち合って、一瞬ののちにはそれすらも容易に砕いた。
響き渡るのは、硝子が割れるような甲高い音。それに混じって、オーズの仮面の下から驚愕に息を飲む音が聞こえた気がした。
オーズは咄嗟に腕を止めようとしたのだろうが、この世のあらゆる生物よりも強靭な筋肉で地を蹴り、この世のあらゆる生物よりも力強く巨大な羽根で以て加速したその身を寸前で止めるのは至難の技だったのだろう。オーズの斧は、障壁を砕き割るだけでは止められず、まどかのステッキと激突した所で、ようやく止まった。
「きゃあああああああっ!?」
オーズの一撃は巨大な魔女による打撃攻撃よろしくまどかの身体を弾き飛ばし、この身を十メートル以上も後方へ吹っ飛ばした。受け身を取る事すらもままならぬまどかは、二度三度とアスファルトに身体をバウンドさせ、そこから更に数メートルも後方へ転がった。
幸いなことに、オーズの斧による直接の裂傷はないが、アスファルトに何度も身体をぶつけた事で、まどかは身体のあちこちに打撲と擦り傷による鈍い痛みを覚えた。
が、魔法少女として何度も魔女と戦って来たまどかにとって、この程度の傷は全く以て致命傷には成り得ない。何とか上体を起こしたまどかは、尻餅をついて、「いたたたた」と呟きながら打ち付けた腰をさする。
「ご、ごめっ――」
「まどかぁあああああああああっ!!!」
その場で狼狽したオーズは、慌てふためいた声音で謝罪の言葉を告げようとするが、血相を変えてまどかに駆け寄るガメルの絶叫によって、その声は遮られた。
まどかは、ガメルを庇って傷を負ったのだ。それくらいの事は分かるのであろうガメルは、今にも泣き出しそうにその大きな瞳を見開いて、まどかの容態を確認する。
「だいじょうぶ、まどか……!?」
「うん、私は大丈夫だよ。ガメルこそ、無事で良かった」
そう言って、何とか笑顔を作るまどかに、ガメルはほっと胸を撫で下ろした様子で緩く微笑み返した。
それからガメルは、肩に掛けていたデイバッグを、煩わしいとばかりにその場に降ろすと、無言でまどかに背を向けた。
凍てつく古の暴君となったオーズに向き直り、ガメルは唸る様に叫ぶ。
「オーズゥゥゥゥゥ――ッッ!!!」
相も変わらず無骨なその声には、乱暴で、それでいて分かり易い程に真っ直ぐな怒気が込められていた。
あの優しくて、どんな時も笑っていたガメルがこんなにも怒る姿を、まどかは知らない。
――かつて、ガメルを最も良く知るメズールはこう言った。
ガメルは、全てのグリードの中で最も自分の欲望に忠実であると。
そして、自分の欲に忠実であるが故、気に入らない事が起こった時は、全てのグリードの中で、最も力を発揮するのだと。
今が、その時だった。
まどかから見えるガメルの背が大量のセルメダルで覆い尽くされたかと思ったその刹那、ガメルの姿が人間のそれではなくなった。
上半身は、まるで人の筋肉組織を剥き出しにしたかのような質感を思わせる茶色へと変わり、下半身は人のものとは思えぬ程に太く逞しく変わって、その上を鈍い鋼の色をした重厚な鎧が覆い尽くした。
下半身と比べれば、上半身から受ける貧相な印象は、あまりにもアンバランスだが、それでも人の肉体よりは遥かに強靭なのであろう事は、ガメルが発する怒りと威圧感が物語っていた。
「そんな……その姿って……っ」
そしてその姿は、始まりのホールで見た“奴ら”と、良く似ていた。
先程のオーズの言葉にもようやく合点が行く。ガメルは、グリードだったのだ。
自分は騙されていたのだろうか。あの二人の少女を惨殺した狂人に与する怪人を、今の今まで仲間だと思い、あまつさえ守りたいとすら思っていたのか。
狼狽する。何を言えばいいのか、どんな言葉を掛ければいいのかも分からず黙り込むしか出来なかった。
何も言わない三者の間に流れる空気は嫌に重たく息苦しく、このままここでじっとしていては、ガメルとオーズが放つ互いのプレッシャーに押し潰されてしまうのではないかとさえ錯覚してしまう程だった。
そんな中で、最初に静寂を破ったのは、オーズだった。
「ガメル……っ、お前まさか、その子の事……」
「まどか、おれにやさしくしてくれた! まどかをいじめるやつ、おれがゆるさないっ!!」
「……っ! ……そっか、そうなんだな。お前今、誰かの為に戦おうとしてるんだな」
短い問答で、まるでオーズは全てを理解したというように呟いた。
その声は、先程までの感情を感じさせない冷徹な声とは違っていて。どこか寂しそうな……冷たさよりは、寧ろ暖かさすら感じさせる、優しいものだった。
一瞬の逡巡ののち、儚げに吐き出された吐息に次いで、オーズの声音は、再び冷徹なものへと戻った。
「悪いけど。それでも俺はやらなきゃいけない。
憎まれたって、怨まれたって、それでも――!」
仮面の下で、すうと息を吸い込んだオーズは、紫の斧を構え直し、叫んだ。
「俺は仮面ライダーオーズ。お前のコアは、此処で砕くッ!!」
獲物に狙いを定めた獣のように深く腰を落としたオーズは、見る者の本能的な恐怖心を呼び覚ますような絶叫と共に、いざガメルを討たんと走り出した。
ガメルもまた、剛腕を振り上げて迫り来るオーズへ向かって走り出す。
◆
一瞬ののち、互いに肉薄した二人の攻撃が交差する。オーズが振り下ろした斧は絶大な威力を持った一撃となって、ガメルの胸部を強打し、その部位からセルメダルをばらまくが、ガメルがラリアットの要領で振り抜いた拳もまた、オーズの仮面を強かに打ち付け、その身を数歩後方へと後ずらせた。
ガメルはオーズの一撃を受けても怯む事なく、追撃とばかりにオーズへと拳を打ち付ける。動きは鈍く、とても戦い慣れした者のそれとは思えぬパンチだが、それでもガメルが振るう腕にはオーズ以上の力があった。
オーズによってばらまかれたメダルは、すぐにガメルの首輪へと自動的に回収されてゆき、ガメルはまるでオーズの攻撃でも受け無かったかのように我武者羅にぶつかってゆく。
激しい組み合いの末に、ガメルの拳がオーズの仮面を殴り飛ばして、オーズの身を吹っ飛ばした。ごろごろとアスファルトを転がったオーズに、ガメルは容赦なく追撃を掛ける。
「ガメル、お前っ……何でこんな力をっ――!?」
「ウオオオオオオオオオオオオッ!!!」
驚愕するオーズだが、ガメルはオーズの言葉になどまるで耳を貸さず、未だ起き上がる事の出来ぬオーズの身体を砕こうと、鉄槌の如き剛腕を振り下ろした。
寸での所で横に転がって回避するオーズ。ガメルの拳は、ドンッ! と強烈な破砕音を響かせてアスファルトを打ち抜き、寸前までオーズが居た場所に、それが怪人一人によるものとは思えぬ程に巨大なクレーターを作り上げた。
小規模な地盤沈下を起こし歪んだアスファルトの上に立ったガメルは、両腕を打ち付け、再び立ち上がったオーズを睨み唸る。
普段はその尋常ならざるパワーを活かした肉弾戦で戦う事しかしないガメルには、自分でも理解出来ているのかは不明だが、本来ならば重力を操作する能力が備わっているのだった。
メズール以外に初めてガメルに優しくしてくれた鹿目まどかを傷付けられた事への怒りが、オーズの身体を打ち砕かんと拳を振り下ろしたガメルに無意識的にその能力を発動させ、ただでさえ強力な力を持った一撃は必殺の威力を秘めた拳へと昇華されたのだ。
が、それだけの理由で、メダル僅か五枚の不完全体のガメルが、オーズ最強のコンボであるプトティラを相手にここまで善戦できるのは些か不自然だ。
実際のところ、ガメルのこの異常なまでの戦闘力の高さは、この場での制限が大きく影響していた。
そもそもの話、本来ならば、不完全体のグリードは完全体ほど多彩な能力を用いはしない。
この場で既に行われたガメルの重力操作も、もっと離れた場所で言うなら、メズールの液状化も、完全体程ではないにしろ、不完全体にしては明らかに過ぎた力だ。
それを行えるのも、主催である真木清人による補助があるからこそ、なのだが――それで他の参加者との間に生じる戦力差など、微々たるもの。
そして、例えどれだけ戦力の補助が為されようとも、所詮ガメルは不完全体で、相手はあのプトティラコンボだ。最強と謳われた絶滅種のメダルを前に、その程度の差は決して埋められぬものではなかった。
そしてオーズは、一度ガメルの攻撃を回避せしめた事で、その威力を理解し、ガメルに対する戦い方を覚えてしまった。先の一撃を外してしまったのは、ガメルにとって致命的なミスであるのだが、怒りに身を委ねて襲い掛かるガメルには、それすらも理解出来はしない。
もう一度胸の前で拳を打ち付けたガメルは、両腕を振り上げ、猛然と走り出した。
「――オオオオオオオオオオオオオオズゥゥゥゥゥッッ!!!」
それを受けて、オーズもまた、獣のように吠える。
「ウウウウウウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」
巨大な翼と、巨大な尾がオーズの背部から現出し、オーズが身を翻すと同時、尾は巨大な弧を描いて、馬鹿正直に真正面から突撃を仕掛けて来たガメルの身体を薙ぎ飛ばした。
遠心力によって更に威力を上げた恐竜の尾による一撃は、絶大な重量を誇るガメルの身体すらも容易に浮かせ、想定外の攻撃に対処など出来る訳もないガメルは、その身をどさりとアスファルトに横たえた。
ガメルはすぐさま起き上がろうとするが、
「――オオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」
もう遅い。その巨大な翼で以て、砂埃を巻き上げながら地面すれすれを滑空し急迫したオーズが、絶叫と共に渾身の一撃をガメルに叩き込んだ。
輝く紫の刃が、何度となく抉った筈のガメルの胸部を、今度はより深く斬り裂く。
ガメルの身体を支える力――すなわちメダルが、ガメルの体内で粉々に砕け散った。
自分の身体――メダル――が砕かれる音がガメルの耳朶を打った次の瞬間には、ガメルの下半身を覆っていた装甲が姿を変え、ただのセルメダルとなって崩れ落ちる。砕かれたのは、下半身を司るゾウのメダルだった。
感情を内包したコアメダルを砕けばそれで勝負は終わっていたのだが、オーズにはそれがどのコアメダルなのか分からない。また、一瞬のうちに繰り出された連撃であったが故、そういった狙いを付ける事すらもままならなかったのだろう。
「あ、あれえ……なん、でえ……?」
これには堪らず怯み、ふらつくガメル。
オーズは、そんなガメルにも一切の容赦をする事無く、斧を持たぬ左腕をガメルの胸部へと叩き込んだ。
体内に腕をブチ込まれたのだ。それが苦痛でない訳がない。
呻きを漏らしながらも、ガメルは持てる力を振り絞って、肉薄し切ったオーズのプテラノドンを模した仮面目掛けて渾身のストレートパンチをぶつけた。
うぐ、と嗚咽を漏らしたオーズは、堪らず後方へと吹っ飛び、一度地面を転がってから起き上がるが――その腕には、黒い色をした二枚のコアメダルが握られていた。それが自分から抜き取られたものであるのだと即座に気付く事が出来る程、今のガメルに精神的な余裕はない。
「おかしい、ぞう……ちからが、でない……」
最早ガメルに、先程までのような威勢など残されてはいなかった。
次いで、現状を理解する事すらままならぬガメルの下半身から、僅かに残されていた漆黒の装甲すらもメダルへと変じ崩れ落てゆく。ガメルの身を守ってくれる装甲は、ついに足首よりも下と、ゾウを模した頭部のみとなった。
オーズは、ガメルから奪い取った二枚のコアメダルを自分の首輪へと放り込むと、入れ替わりに取り出したセルメダルを携えた斧に「ゴックン!」という声と共に飲ませ、それをバズーカ状の形態へと変形させる。
――プッ・トッ・ティラッノヒッサ~ツ!!!――
最早オーズへ立ち向かってゆく力すら残されてはいないガメルの耳朶を打つメダガブリューの歌声は、さながらガメルへと送られる鎮魂歌のようだった。
最終更新:2012年06月20日 00:04