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義の戦(前編) ◆QpsnHG41Mg


 何をやっているんだ俺は――。
 ライドベンダーに跨るウヴァの脳内を疑問が駆け巡る。
 自分は今まで何をやっていた? 緑陣営の……戦力増強?
 はて、緑陣営の戦力が、一体いつ増強されたのか。
 次第に目が覚めて来たウヴァは、思わず胸中で叫んだ。
“――っ馬鹿かッ!!?”
 鋭い眼光でもって、目前を走る月影ノブヒコが駆るライドベンダーを睨み付ける。
 誰かが改めて手を加えるまでもなく、月影は元より緑陣営だ。
 奴の性格を考えるなら、ウヴァが接触せずとも勝手に暴れ回ること請け合いである。
“俺は今まで何をやってたんだ!?”
 それを踏まえてもう一度自分の行動を振り返る。
 この男と接触してウヴァがやったこととは、一体なんだ?
“……ただ単にコアを奪われ、奴の飼い犬になり下がっただけじゃねェかーッ!!”
 何が戦力の増強か、こんなにも馬鹿馬鹿しい話は他にそうとない。
 冷静になって考え直してみれば、結果はただのマイナスではないか。
 これで一瞬でも戦力が増強できたと思ってしまった自分が恥ずかしい。
 予想だにしなかった月影の反攻にあって、流石のウヴァも焦っていたのだ。
 本来のウヴァならば、こんな馬鹿な結果で充実感など得られる筈がない。
“クソがッ……俺としたことが、どうかしてたぜ!”
 今となっては自分の愚かしさを悔いずにはいられない。
 月影を仲間だと思って話しかけた事自体はまあいい。
 同じ陣営の者を利用するという発想、これ自体に間違いはなかった。
 では、ウヴァがこんなにも後悔の念に駈られる「問題点」とは。
 実に簡単な話である、それは――
“飼い犬同然の扱いを受けてるってのに、一瞬でも"充実感"を懐いちまった事だッ!”
 ウヴァは自分自身を呪う。
 奴が今すぐに自分を殺さないと知った時、ウヴァはホッとしたのだ。
 一瞬とはいえ、心の底から安心し充実感を懐いててしまったのだ。
 それはこの上ないほどの屈辱だ、許せない!
 奴に屈した自分自身をウヴァは呪った。
 何が悲しくて緑のメダルの頂点に立つ自分が、こんな辱めを受けねばならないのか。
 月影は確かに恐ろしかったが、だからといって犬になりさがる趣味などウヴァにはない。
 暫し一人で考える時間を得て冷静さを取り戻したウヴァは、後悔の激情に血を滾らせていた。
“――この鬱憤、何かにぶつけねば気がすまんッ!!”
 せめてゴルフクラブさえあれば……
 一人誰も居ない市街地の硝子の窓を割って回ってやったというのに。
 何の解決にもなりはしないが、それでも少しは気が紛れる事をウヴァは知っている。
 出来ればあの月影とかいう大首領気取りの勘違い野郎をブッ潰してやりたいが――
 今はまだ陣営戦の真っただ中、ウヴァが下手に動く時ではない。
 強大な力を持った緑の戦力を自ら潰す程ウヴァも馬鹿ではないのだった。
 いっそ、奴が戦力的に役立たずであったなら、潔く切り捨てられたというのに……
 ウヴァは改めて誓った。
 もしもこのゲームが終わった時に奴がまだ生きていれば、その時は――
“覚えてろよ月影ェェッ! お前だけは絶対にゆるさんッ!!
 もしお前も生き残ったら、その時は真っ先にブッ潰してやるぞッ!!”
 完全体以上の力を手に入れて、必ずやこの大首領気取りを叩き潰してやる。
 今にも爆発しそうな激情を抱えたまま、ウヴァはバイクを走らせる。
 全ては最後に優勝するため、月影から受けた辱めのツケを返すため。
 密かな野望を胸に抱き笑みを零すウヴァの目の前で――月影のバイクが停車した。
 数十メートル離れた場所に居るのは、二人組の黄色陣営の男たちだった。
「おい、どうするつもりだ月影」
 月影に続いてバイクを停めるウヴァ。
 されど月影がその問いに答えることはなく、月影は無言で立ち上がった。
 赤く輝くサタンサーベルを抜き放ち、そこに居る二人に突き付け嘯く。
「また会ったな? ――織田信長」
「貴様……俺を追って来たのか」
 月影から"織田信長"と呼ばれた方の男の眼光が鋭く光る。
“アイツは確か……”
 確か、ドクターから貰った詳細資料に載っていた"ホムンクルス"だったか。
 織田信長のミイラを現代の技術で蘇らせた、グリードに近い生き物らしい。
 そしてその隣に居るのは、ウヴァの陣営の有力株「怪物強盗XI」の因縁の相手"魔人ネウロ"だったと記憶している。
 月影らは何も彼らを追っていたわけではない。
 ここで出会ったのは完全なる偶然だった。
「ここであったが百年目、貴様はこの俺が直々に討ち取ってやる」
 そう嘯いて、黒と緑のバックルを取り出すノブナガ
 幾度となく戦ったソレを、ウヴァが見間違う筈もない。
 それはウヴァにとっては既に見慣れた因縁の"バースドライバー"だった。
 月影はノブナガに応えるように一歩前へ踏み出した。
「フン……放っておいても死ぬのが分かり切っている貴様を相手にしてやるのは時間の無駄だが、こうして現れた以上、捨て置くわけにもゆくまい。大ショッカーに仇成す貴様は此処で処刑する――!」
 そう嘯いた月影の腹部が、緑色に輝いた。
 月影の身体が銀色の装甲に包まれ、一瞬で仮面ライダーと酷似したそれへと変わる。
 それが月影ノブヒコの真の身体。シャドームーンとして改造を受けた世紀王としての姿。
 一触即発の空気が流れたその時、挙手をして発言したのは、脳噛ネウロだった。
「少し待って下さい。ノブナガさん、この方は敵なのですか?」
「この男は逆らう者はみな始末すると言った」
「ふむ……なるほど」
 困った顔で目を伏せるネウロ。
 しかし、ウヴァには奴が見掛けほど困っているようには見えなかった。
 何と言っても奴は魔人だ。この状況をも覆す何かを持っているのかもしれない。
 が、あの憎きシャドームーンをわざわざすすんで助けてやる気も起きはしない。
“ちょうどいい、月影をぶつけて奴の実力を計るか……”
 ウヴァは、悠然と歩き出したシャドームーンの背をただ見守ることにした。
 ネウロの眼前に立ったシャドームーンは、剣の切先をネウロの首筋に突き付け嘯く。
「邪魔をするなら貴様も一緒に地獄へ送ってやるぞ」
「そんな……地獄だなんて物騒ですよ! 少し落ち着きませんか?」
「フンッ、戦う気がないなら失せろ、邪魔だ」
 立ち塞がったネウロの首筋を一太刀で両断しようと、シャドームーンはサタンサーベルを振り抜いた。
 しかし、サタンサーベルの一撃はネウロには当たらない。
 刃がネウロの身体に触れる寸前、ネウロは何につまずいたのかひとりでに姿勢を崩したのだ。
 赤い一閃は、屈んだネウロの背の上を通過するだけに終わった。
「ああ、すみません……足元の小石につまずいてしまいました」
「貴様……ッ!」
 瞬間、その場の全員の間に緊迫が流れる。
 ネウロは苦笑しながら「つまずいた」というが……嘘だ。
 あの必殺の一閃をそんな理由で運良く回避など出来るものか。
 奴は今、意図的にシャドームーンの攻撃を避けたのだ。
 息を呑んでネウロを睨むシャドームーン。
“――いや待て、これはチャンスだ!”
 しかしその時、同時にウヴァに天啓が舞い降りた。
 飼い犬同然の絶望的な状況を覆すに足る戦略……
 思い付いたなら何の迷いも必要ない、即実行だ。
「おい月影、そいつは魔人だ! 油断するな!」
「何?」
「二対一は卑怯だろう、ノブナガの方は俺に任せろッ!」
 そう叫ぶや、ウヴァの肉体を凡そ五百枚のメダルが覆い尽くした。
 瞬時に昆虫の王へと姿を変えたウヴァは、ネウロの後方のノブナガへと跳び組み付く。
 反撃の隙など与えはしない、ウヴァは一瞬でノブナガの自由を奪った。
「ぐっ……貴様、離せッ離さんか!」
「誰が離すか馬鹿がッ! 大人しくしてろ!」
 怪人となったウヴァの腕の中で暴れるノブナガの力のいかに矮小なことか。
 月影の言った通り、放っておいても死ぬのが確定しているホムンクルスの力はよわい。
 ノブナガが人間態を晒したままの今ならば、ウヴァの目的はたやすく達成出来るだろう。
「はっはっ、悪いなァッ! お前はあっちで俺と一対一だッ!!」
 ウヴァはノブナガに組み付いたまま、バッタの跳躍力を活かし跳んだ。
 市街地に無数に並ぶビルの陰に跳んだウヴァは、そのままもう一度跳躍する。
 あっと言う間に二人の姿は市街地の影へと消えていった。

           ○○○

「チィッ……ウヴァめ、勝手な真似を」
 二人の影が消え去っていった方向を眺めながら、シャドームーンは独りごちた。
 二体一が不利だということはわかるが、なにも離脱する必要はなかった筈だ。
 ……とは思うものの、ネウロから気を逸らすことも出来まい。
 今はとっととネウロを何とかして、ウヴァを再び手元に置く事が先決かと思われた。
 そこで重要になるのは、相手となる魔人ネウロのデータである。
 確か奴めは、パーソナルデータにも載っていた魔界とやらの住人だったか。
 戦う前にしっかりとデータを見て研究する月影としては、実力が未知数の相手に挑むのはあまり望ましくはない。
 が、大首領たるものここで背を向ける事も出来まい。
 シャドームーンは、悠然と向かい合ったまま問うた。
「貴様、魔人といったか」
「魔人? はて、何の事でしょう?」
 純朴な目を向け、きょとんと首を傾げるネウロ。
 あくまで惚けるつもりらしいが、こいつが意図的に先の一撃を回避した事は読めている。
 容赦なくネウロにサタンサーベルを突き付けたシャドームーンは、語調を強め言った。
「大ショッカー大首領を相手に惚け切れると思うな、魔人とやら。
 ……いや、まあいい。いちおう訊いておこう、私と手を組む気はないか?」
「手を組む? そう仰られましても……貴方の目的は一体何です?」
「我が大組織……大ショッカーによる世界征服」
「それは穏やかではありませんね……ちなみに、賛同しない人間は?」
「そんな人間に存在する価値はない、皆殺しだ」
 淡々としたシャドームーンの答えに、ネウロは「そうですか……」と顔を伏せた。
 何処か悲しげなその表情に、この男は仮面ライダーどもに味方する側だったかと推測する。
 魔人という単語から、ショッカーやゴルゴムの怪人と同類かと思って誘ったのだが。
 だが、それならそれで構わない。残念だなどと思うべくもない。
 この男が名前負けの弱者であるのなら、ここで躊躇わず切り捨ててゆこう。
「フン……魔人とは名ばかりだったか。ならば死ね」
 そう嘯いて、サタンサーベルを再び突き付けるシャドームーン。
 今度は外さない。一思いに一撃で殺してやるとばかりに剣に力を込めた、その時。
「我が輩も随分と舐められたものだな」
「………………なに?」
 ネウロの口調が、その目付きが、そして威圧感が、ガラリと変わった。
 先程までの純朴な青年は何処へやら。そこにいるのはギョロリと目を剥き気味が悪い程にニタリと笑う、人の皮を被った"何か"。
 この創世王をも怯ませるほどの殺気をもって、ネウロは言った。
「貴様、我が輩を誰だと思っている……? 喧嘩を売る相手は間違えない方がいいぞこのフナムシが」
「……フナムシ」
 ぽつりと、相手の言葉を復唱するシャドームーン。
 創世王シャドームーンとは、ゴルゴム最強を誇る大幹部の一人である。
 どんな怪人からも恐れられ、全ての世界の怪人すらも従えた大首領である。
 その偉大なる創世王に向かって、この男は今、なんといった?
 フナムシ……フナムシと、いったか。
 初めて受ける侮辱に、怒りを通り越して、笑いさえ漏れる。
 仮面の下でフンと鼻を鳴らしながら、シャドームーンは嘯いた。
「この大ショッカー大首領にその態度……面白い、あの世で後悔させてやる」
 それに対し、己が右手を軽く掲げ、鋭く尖った爪を見せ付けるようにちらつかせるネウロ。
 爪の間から、生きた人間の目とは思えぬほどに鋭い眼光が、シャドームーンを射抜く。
「やれやれ、我が輩こんな殺し合いに興味などないし、乗る気もなかったのだが……
 しかし仕方あるまい。貴様は食えもしない残飯同然のゴミクズの上、我が輩の奴隷にしてやろうにもその存在価値すら見出せん役立たずだからな……市販の綿棒の方が貴様の百倍は存在価値があるし役にも立つぞフナムシ……」
「……貴様、何が言いたい」
「うわぁ……」
 そういって、ネウロは可哀相な人を見る目で一歩身を退いた。
「読解力もないのかこの綿棒以下のフナムシめ、そろそろ可哀相に思えて来たぞ……」
「ええい! もういいッ、もう貴様と話し合いを続ける必要などない!」
 奴は遠まわしに、ここでこのシャドームーンを殺すと言っているのだろう。
 奴隷どころか"綿棒"ほどの価値すらないから、ここで殺すと言っているのだろう。
 これ程までに屈辱的な侮辱の言葉が他にあろうか。
 もはや我慢も限界を迎えたシャドームーンは、サタンサーベルを振り抜き駆け出した。
「ハァァァァアアアアアアアアアッ!!」
 容赦などしない。
 一瞬で斬り殺してくれる!
 確かな殺意をもって駆け出した、その刹那。
 瞬きのうちに互いのシルエットが交差して――
「――ぐっ!?」
 次の瞬間、シャドームーンの膝ががくりと地に落ちた。
 対するネウロは、シャドームーンの背後に佇立し自らの爪を気楽そうに眺めている。
 凶器はあの爪だろうか。シャドームーンには、何をされたのかすらも理解出来なかった。
 が、この程度ならば大した傷とはいえない。
 すぐにサタンサーベルを杖代わりに地面に突き刺し立ち上が――
「誰が立ち上がっていいといった、綿棒以下?」
「!?」
 ――立ち上が、れなかった。
 それもその筈、ネウロが片手でシャドームーンの頭を掴み、上方から抑え込んでいるのだ。
 何たる馬鹿力か、あのウヴァすらも容易く退けたこのシャドームーンが、為す術もなく地に抑えつけられている――!
“バ……バカなァァ――ッ!?”
 銀色の仮面に覆われたノブヒコの額を脂汗が伝う。
 そしてその瞬間、こいつはデータ無しで挑んでいい相手ではない事に気付く。
「我が輩日頃は魔界でも一二を争う程に温厚なのだが、今日は厄日でな……くだらん殺し合いに巻き込まれただけでなく、貴様という視界に入れるだけでも不快感を伴う醜いゴミと出くわしてしまったせいで、非常に気が立っているのだ……」
 頭を抑えつけられながらも何とか首だけ回して、ネウロの顔色を窺う。
 奴はさも困ったような顔で、まるで同情でも誘っているかのようにそう告げていた。
「しかもそのゴミが、あろうことかこの我が輩に戦いを挑んで来たのだ。それに伴う不快感が一体どれ程のものかは想像に難くないだろう? ただの死刑でゆるしてやれればまだいいのだが……これはどうも、我が輩の憂さ晴らしに付き合って貰わねばとてもおさまりがつくとは思えんのだ」
「――ええいッ、黙れェェ!!」
 これ以上喋らせてなるものか!
 自由の効く左腕を後方へと振りかざすシャドームーン。
 掌がネウロを捉えたその瞬間、シャドームーンの左手から緑色の稲妻が迸った!
 如何なる敵をも焼き尽くす稲妻はネウロの身体を焼き、その身体を爆発と共に吹っ飛ばす。
 あの馬鹿力の魔人が、いともたやすく吹き飛び、地面に転がった。
 倒れ伏したままのネウロを俯瞰しながら、シャドームーンは立ち上がる。
 油断は禁物だ。奴は……あの魔人は強い、どんな手を打ってくるかわかったものではない。
 緊迫した空気が流れる中、シャドームーンは固唾を呑んでネウロを見据える。

 一方で、爆煙によって閉ざされた視界の中、ネウロもまた立ち上がっていた。
 今の稲妻は予想外だったが、奴が人ならざるものである事には既に気付いている。
 今更この程度の稲妻攻撃を浴びせられたところで驚きはしない。
“魔界には二秒で百万の兵士を蒸発させることが出来る稲妻もあったな……”
 この状況でそんなどうでもいいことを、ぼんやりと思い出すネウロ。
 かつてネウロは、暇つぶしにその稲妻の洗礼を受けに行った事もあったなと思い出す。
 結局、その程度の稲妻ではネウロを焼き殺すには至らなかったのだが。
 アレと比べれば、かような稲妻など子供騙しもいいところ。……の、筈なのだが。
“……いや。どうやら、人間界での活動以上に我が輩の力は制限されているらしいな”
 魔界の稲妻と比べれば遥かに微小ながらも、確かに稲妻による苦痛を感じる。
 この程度の攻撃でこの魔人ネウロがダメージを追うなど、考えられなかった。
 確かに魔界と違い瘴気の少ない人間界では、色々と不自由な思いをする事もあったが、
 それでもネウロはおよそ十分もあればシャドームーン六十五人分程度ならば十二分に拷問しいたぶった上で皆殺しに出来るくらいの力はあった。
 それが今は、この数分間を使ってまだシャドームーン一人倒していない体たらく。
 真木による制限がこんなところにまで響いているのかと考えると、頭が痛くなる思いだった。
“ふむ……我が輩あんな綿棒にまで苦戦を強いられねばならんのか……”
 いちおう奴めはこの魔人ネウロに一撃でも与える事が出来たのだ。
 綿棒以下のフナムシから、綿棒まで格を上げてやってもいいと思う。
“……まあいい。少しは役に立って貰うぞ、綿棒”
 奴をこれ以上ないまでに拷問した上で潰してやる(殺す気はないが死ぬかもしれない)という行動方針に変更はない。
 ただし、目的はこのネウロの力がどの程度まで制限されているのかを計ること。
 それを確かめる為の拷問の標的になって貰うくらいの役には立って貰おうではないか。
 魔人としての本性も表向きには隠していくつもりだったが、あの綿棒はどうせここでへし折る(意訳)ので問題はない。
 魔界777ツ能力にはどういう訳か使用できなくなっているものも多いようだが、それでも元が777もあるのだ、使えるものも数多く残されている。
 それに、魔帝7ツ兵器はネウロの能力と見なされたのか、問題なく使用出来る様子だ。
 であるならば、あの程度の綿棒一本へし折るのはそれ程難しい事でもあるまい。
「この大ショッカー大首領を侮辱して、生きて帰れると思うなよ魔人ッ」
「ふむ……本音を言うと心優しい我が輩はこのような事をしたくはないのだがな……
 これも全ては綿棒があまりにも役立たず過ぎるからいけないのだ。せめて我が輩の為に役立たせてやろうという精一杯の優しさが伝わらないものか……」
 何処までが本心なのかも分からないネウロの言葉。
 それは当然、シャドームーンへの宣戦布告の言葉である。
 見た所プライドの高い奴は、このまま何もせずネウロから逃げ出す事はないだろう。
 その反攻の意思だけは認めてやってもいいとは思う。それでも所詮は綿棒だが。
 そんな下らない事を考えながら、ネウロは戦いへと身を投じるのだった。

           ○○○

 いがみ合う二人を眺めながら、温かみを微塵も感じさせない笑みを浮かべる小動物。
 名前はキュゥべえ。先程までネウロと行動を共にしていた"インキュベーター"である。
 キュゥべえは、小高いビルの屋上からネウロにその視線を注いでいた。
「丁度いい機会だ。見せて貰おうかな……君の魔法を」
 ソウルジェムを介さず、膨大なまでの魔力を使いこなす魔人ネウロ。
 キュゥべえはネウロのような規格外の存在――魔人を知らない。
 魔人ネウロが用いる未知の魔力は、興味の対象としては十分過ぎる程だった。
 魔法少女が用いるものとは根本的に違う魔力を用いて戦う魔人。
 これでヒントを得られれば、もっと効率良くノルマを達成する方法を見付けられるかもしれない。
 キュゥべえの現在の観察対象は、完全にネウロへとシフトしていた。

           ○○○

 緑の怪人、ウヴァと相対する若者の名はノブナガ。
 ノブナガはウヴァを見たことがある。奴は、始まりのあの広場に居たグリードだ。
 多くの民をこの空間に閉じ込め、殺し合いを強要した真木の手下だ。
 そんな男を討ち取ることに、一切の躊躇いはない。
 ノブナガは、腰に装着したバースドライバーにセルメダルを投入。
 ダイヤルを回せば、カポン、という音と共に、現代の鎧がノブナガの身を包む。
 緑と黒の装甲に身を包んだノブナガの戦士としての名は、仮面ライダーバース。
「ふっふっふ……来いよ、バース?」
 ウヴァはそう言って、手でくいくいと手招きをする。
 不敵に漏れる嘲笑。今のノブナガにならば絶対に勝てる、そんな自信。
 先日ロールアウトしたばかりのバースシステムを使ったノブナガをたやすく倒せるとでも思っているのか。
 だとしたら、バースも、この織田信長も、随分と見くびられたものである。
“いや、よかろう……ならばその自信ごと打ち砕いてくれる”
 そんな思いで、ノブナガはバックルに一枚のセルメダルを投入した。
 ――DRILL ARM――
 瞬時に構成されるドリル状のアームユニット。
 相変わらずノブナガの知り得る常識を越えた"未来の技術力"には舌を巻く。
 が、未来の技術たるそれをも使いこなして見せるのが天下人織田信長なのである。
 腕のDRILLを高速回転させながらウヴァへ向かって突撃するバース。
 ウヴァの身体を削り取ってやろうと振り下ろした一撃は、
「おっとォ……! っとと、フフン」
 しかしウヴァが一歩身を退いたことでたやすく回避される。
 そして、バースが攻撃を振り抜いた直後に出来た隙を、ウヴァは見逃さない。
 バッタの脚力でもって振り上げられた脚が、バースの装甲を下方から蹴り上げた。
 派手に舞い散る火花。錯覚だろうか、身体が軽く浮く感覚すら感じる。
 それでもすぐに体勢を立て直し、ドリルを振り抜くバース。
 ウヴァはその一撃も回避して、ドリルを装着したバースの腕を己が脇に挟み込んだ。
 身動きを封じられた、その直後。至近距離で緑色の雷が迸った。
「フン、喰らいな、バース!」
「――ッ、ガァアアァアアァアアアアアッ!?」
 ウヴァの頭部から走った稲妻がバースの装甲を駆け抜ける。
 装甲のあちこちが爆ぜて、内部のノブナガを雷による熱と痺れが襲う。
 一瞬怯んだその隙に、ドリルアームのビットをへし折ったのは、ウヴァの膂力による力技だった。
 驚愕する暇などない。すぐに腕は解放されるが、がら空きの胸部にウヴァの鍵爪が幾度となく連続で叩き込まれる。
 無様な呻き声と共に仰け反ったバースは、そこに再びウヴァによる蹴りを叩き込まれ後方へと吹っ飛んだ。
“くぅっ……もう、こんなに力が弱っているのか!?”
 不自然なまでの戦力差に戦慄するノブナガ。
 確かに今の自分が持てるセルメダルは、あまりにも少ない。
 それが自分にとって致命的だということはわかるが、しかしここまでとは――!
“いや、だが……負けるわけにはいかんな”
 されど、ノブナガは諦めない。
 ノブナガには、友の恩に応える義務がある。
 そして、義によって立つノブナガの精神は、強い。
 崩壊寸前の身体を魂の力で繋ぎとめて、ノブナガは立ち上がった。
「俺は……負けるわけには、いかんのだ……!」
 へし折られたドリルアームを放り投げて、新たなセルメダルを投入する。
「友の為にも……ここで果てる訳には、いかんのだ……!」
 ――CATERPILLAR LEG――
 脚部を覆い尽くす鉛色の重厚な装甲。
 キャタピラのローラーが回転して、バースの身体を前方へ押し出す。
 ウヴァの目前まで迫ったバースは、その重量を活かしたキックを叩き込む。
 流石に弾き返せる威力ではなかったのだろう、蹴り脚はウヴァの胴を跳ね上げるが、ウヴァは下手な抵抗をしようとはしなかった。
 蹴り上げられたまま、その勢いさえも利用して後方へ跳び退る。
 それは戦いに慣れた男のみにゆるされる戦法だった。
 着地したウヴァの頭部に、再び稲妻が宿るが――二度も同じ手を食いはしない。
 すぐにバースバスターを取り出したノブナガは、それをウヴァの虫頭目掛けて発射する。
「グゥッ!?」
 呻きと共に大きく仰け反るウヴァ。
 収束していた雷が大気へと溶けてゆく。
 ――CRANE ARM――
 ウヴァが怯んだその一瞬で、バースはクレーンアームを装着。
 左腕でバースバスターを構えたまま、右腕のワイヤーフックを飛ばした。
 ワイヤーはウヴァの身体を絡め取り、身動きを封じる。
 対するバースはウヴァへと続くワイヤーを辿って、キャタピラレッグで前進。
 同時にバースバスターを発射しながら、ウヴァの体力を削ることも忘れはしない。
 身動きも取れず一方的な攻撃に晒され、呻きをあげるウヴァ。
「例えこれが織田信長最期の戦いなれど、貴様だけは討ち取ってみせようッ!!」
 バースの仮面の下で、強敵グリードに対しそう叫ぶノブナガ。
 ほんの少しでもいい、友情を誓い合った友の戦いの助けになるならば。
 一体でも多くのグリードを倒すことがそれに繋がるならば、意地でもやり遂げてみせる。
“出来るなら、映司と共に真木を討ちたかったがな”
 実際、ほんの少し前まではそうするつもりだった。
 けれども、身体の崩壊が始まっている今の自分がウヴァを倒すには、決死の覚悟は必須。
 奴はここで命を賭けずして、容易に倒せる相手ではない。それくらいはノブナガにもわかる。
 ノブナガは、残されたありったけの力をウヴァにぶつける心算であった。
 これはもはや意地の戦いだった。
 数秒と待たず、予めバースバスターに装填されていた分のメダルが尽きた。
 即座にそれを投げ捨て、次のメダルをバックルに投入。
 ――SHOVEL ARM――
 がら空きになった左腕に、今度はショベルアームが装着される。
 ウヴァの懐に飛び込んだバースは、ショベルの腕を思い切りウヴァに叩き付けた。
「うぐおッ!?」
 ワイヤーで身動きの取れぬウヴァに、快心の一撃を叩き込んだ。
 ウヴァの身体から無数のメダルが弾け飛び、ワイヤーの拘束をも振り切ってその身体は大きく弾き飛ばされてゆく。
“これで終わらせてくれるッ”
 ――BREAST CANNON――
 チャンスは今をおいて他にない!
 必殺の一撃を叩き込む為に、セルをバックルに投入。
 バースの胸部に展開された巨大な砲身――ブレストキャノン。
 ウヴァが起き上がるまでに、一枚、二枚、三枚、四枚と、可能な限りのメダルを投入する。
「誰が黙ってやられるかッ!」
 起き上がり様に、ウヴァの頭部が輝いた。
 緑の雷撃は一度天に昇り、本物の稲妻と寸分違わぬ威力となってバースへ降り注ぐ。
 ブレストキャノンの発射態勢のまま、身体を貫く雷撃を受けるバース。
 その首輪から大量のセルメダルが放出され、足元がぐらりとフラつく。
“されどッこの一撃だけは……ッ!!”
 バースは倒れない。
 ここまでの戦いを、決して無駄には終わらせないために。
 そして映司との友情に応えるために――何も成さずに負けてなるものか!
 雷撃に撃たれ続けながらも、バースは最後の力を振り絞って、
「シューーーーーーーーーーーーーーーーーーーーートッ!!!」
 友への思いをも乗せた必殺の砲撃を発射した。
 弱った身体では、反動で上半身が吹き飛ばされてしまいそうな威力。
 だがそれでも。キャタピラレッグをアスファルトに食い込ませ、バースは耐える。
 ウヴァの雷が何層にもなってブレストキャノンのエネルギーの奔流を阻むが――
 しかしノブナガの最後の一撃は、雷如きで完全に相殺されはしない。
 数瞬ののち、赤い輝きはウヴァに届き、その身体を大爆発させた。
“やった、か……!”
 刹那、力が抜けたようにバースの身体がくずおれた。
 全身の武装が消失して、ついに首輪のメダルも底を尽き、バースの鎧が消え去る。
 崩壊寸前の肉体に、雷による過度のダメージはあまりにも甚大過ぎた。
 もうこれ以上、ノブナガには立ち上がる力すらも残されてはいまい。
 だが、しかし問題はない。
 織田信長は、最期の戦いに勝利したのだ。
 あの強敵グリードを、この手で倒したのだ。
 これで、友である映司に顔向けが出来る。
「やったぞ、映司……俺は……勝っ、た」
「――と、思ったろう?」
「!?」


NEXT:義の戦(後編)





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最終更新:2013年05月25日 20:59