何をやっているんだ俺は――。
ライドベンダーに跨る
ウヴァの脳内を疑問が駆け巡る。
自分は今まで何をやっていた? 緑陣営の……戦力増強?
はて、緑陣営の戦力が、一体いつ増強されたのか。
次第に目が覚めて来たウヴァは、思わず胸中で叫んだ。
“――っ馬鹿かッ!!?”
鋭い眼光でもって、目前を走る
月影ノブヒコが駆るライドベンダーを睨み付ける。
誰かが改めて手を加えるまでもなく、月影は元より緑陣営だ。
奴の性格を考えるなら、ウヴァが接触せずとも勝手に暴れ回ること請け合いである。
“俺は今まで何をやってたんだ!?”
それを踏まえてもう一度自分の行動を振り返る。
この男と接触してウヴァがやったこととは、一体なんだ?
“……ただ単にコアを奪われ、奴の飼い犬になり下がっただけじゃねェかーッ!!”
何が戦力の増強か、こんなにも馬鹿馬鹿しい話は他にそうとない。
冷静になって考え直してみれば、結果はただのマイナスではないか。
これで一瞬でも戦力が増強できたと思ってしまった自分が恥ずかしい。
予想だにしなかった月影の反攻にあって、流石のウヴァも焦っていたのだ。
本来のウヴァならば、こんな馬鹿な結果で充実感など得られる筈がない。
“クソがッ……俺としたことが、どうかしてたぜ!”
今となっては自分の愚かしさを悔いずにはいられない。
月影を仲間だと思って話しかけた事自体はまあいい。
同じ陣営の者を利用するという発想、これ自体に間違いはなかった。
では、ウヴァがこんなにも後悔の念に駈られる「問題点」とは。
実に簡単な話である、それは――
“飼い犬同然の扱いを受けてるってのに、一瞬でも"充実感"を懐いちまった事だッ!”
ウヴァは自分自身を呪う。
奴が今すぐに自分を殺さないと知った時、ウヴァはホッとしたのだ。
一瞬とはいえ、心の底から安心し充実感を懐いててしまったのだ。
それはこの上ないほどの屈辱だ、許せない!
奴に屈した自分自身をウヴァは呪った。
何が悲しくて緑のメダルの頂点に立つ自分が、こんな辱めを受けねばならないのか。
月影は確かに恐ろしかったが、だからといって犬になりさがる趣味などウヴァにはない。
暫し一人で考える時間を得て冷静さを取り戻したウヴァは、後悔の激情に血を滾らせていた。
“――この鬱憤、何かにぶつけねば気がすまんッ!!”
せめてゴルフクラブさえあれば……
一人誰も居ない市街地の硝子の窓を割って回ってやったというのに。
何の解決にもなりはしないが、それでも少しは気が紛れる事をウヴァは知っている。
出来ればあの月影とかいう大首領気取りの勘違い野郎をブッ潰してやりたいが――
今はまだ陣営戦の真っただ中、ウヴァが下手に動く時ではない。
強大な力を持った緑の戦力を自ら潰す程ウヴァも馬鹿ではないのだった。
いっそ、奴が戦力的に役立たずであったなら、潔く切り捨てられたというのに……
ウヴァは改めて誓った。
もしもこのゲームが終わった時に奴がまだ生きていれば、その時は――
“覚えてろよ月影ェェッ! お前だけは絶対にゆるさんッ!!
もしお前も生き残ったら、その時は真っ先にブッ潰してやるぞッ!!”
完全体以上の力を手に入れて、必ずやこの大首領気取りを叩き潰してやる。
今にも爆発しそうな激情を抱えたまま、ウヴァはバイクを走らせる。
全ては最後に優勝するため、月影から受けた辱めのツケを返すため。
密かな野望を胸に抱き笑みを零すウヴァの目の前で――月影のバイクが停車した。
数十メートル離れた場所に居るのは、二人組の黄色陣営の男たちだった。
「おい、どうするつもりだ月影」
月影に続いてバイクを停めるウヴァ。
されど月影がその問いに答えることはなく、月影は無言で立ち上がった。
赤く輝くサタンサーベルを抜き放ち、そこに居る二人に突き付け嘯く。
「また会ったな? ――織田信長」
「貴様……俺を追って来たのか」
月影から"織田信長"と呼ばれた方の男の眼光が鋭く光る。
“アイツは確か……”
確か、ドクターから貰った詳細資料に載っていた"ホムンクルス"だったか。
織田信長のミイラを現代の技術で蘇らせた、グリードに近い生き物らしい。
そしてその隣に居るのは、ウヴァの陣営の有力株「怪物強盗XI」の因縁の相手"魔人ネウロ"だったと記憶している。
月影らは何も彼らを追っていたわけではない。
ここで出会ったのは完全なる偶然だった。
「ここであったが百年目、貴様はこの俺が直々に討ち取ってやる」
そう嘯いて、黒と緑のバックルを取り出す
ノブナガ。
幾度となく戦ったソレを、ウヴァが見間違う筈もない。
それはウヴァにとっては既に見慣れた因縁の"バースドライバー"だった。
月影はノブナガに応えるように一歩前へ踏み出した。
「フン……放っておいても死ぬのが分かり切っている貴様を相手にしてやるのは時間の無駄だが、こうして現れた以上、捨て置くわけにもゆくまい。大ショッカーに仇成す貴様は此処で処刑する――!」
そう嘯いた月影の腹部が、緑色に輝いた。
月影の身体が銀色の装甲に包まれ、一瞬で仮面ライダーと酷似したそれへと変わる。
それが月影ノブヒコの真の身体。シャドームーンとして改造を受けた世紀王としての姿。
一触即発の空気が流れたその時、挙手をして発言したのは、
脳噛ネウロだった。
「少し待って下さい。ノブナガさん、この方は敵なのですか?」
「この男は逆らう者はみな始末すると言った」
「ふむ……なるほど」
困った顔で目を伏せるネウロ。
しかし、ウヴァには奴が見掛けほど困っているようには見えなかった。
何と言っても奴は魔人だ。この状況をも覆す何かを持っているのかもしれない。
が、あの憎きシャドームーンをわざわざすすんで助けてやる気も起きはしない。
“ちょうどいい、月影をぶつけて奴の実力を計るか……”
ウヴァは、悠然と歩き出したシャドームーンの背をただ見守ることにした。
ネウロの眼前に立ったシャドームーンは、剣の切先をネウロの首筋に突き付け嘯く。
「邪魔をするなら貴様も一緒に地獄へ送ってやるぞ」
「そんな……地獄だなんて物騒ですよ! 少し落ち着きませんか?」
「フンッ、戦う気がないなら失せろ、邪魔だ」
立ち塞がったネウロの首筋を一太刀で両断しようと、シャドームーンはサタンサーベルを振り抜いた。
しかし、サタンサーベルの一撃はネウロには当たらない。
刃がネウロの身体に触れる寸前、ネウロは何につまずいたのかひとりでに姿勢を崩したのだ。
赤い一閃は、屈んだネウロの背の上を通過するだけに終わった。
「ああ、すみません……足元の小石につまずいてしまいました」
「貴様……ッ!」
瞬間、その場の全員の間に緊迫が流れる。
ネウロは苦笑しながら「つまずいた」というが……嘘だ。
あの必殺の一閃をそんな理由で運良く回避など出来るものか。
奴は今、意図的にシャドームーンの攻撃を避けたのだ。
息を呑んでネウロを睨むシャドームーン。
“――いや待て、これはチャンスだ!”
しかしその時、同時にウヴァに天啓が舞い降りた。
飼い犬同然の絶望的な状況を覆すに足る戦略……
思い付いたなら何の迷いも必要ない、即実行だ。
「おい月影、そいつは魔人だ! 油断するな!」
「何?」
「二対一は卑怯だろう、ノブナガの方は俺に任せろッ!」
そう叫ぶや、ウヴァの肉体を凡そ五百枚のメダルが覆い尽くした。
瞬時に昆虫の王へと姿を変えたウヴァは、ネウロの後方のノブナガへと跳び組み付く。
反撃の隙など与えはしない、ウヴァは一瞬でノブナガの自由を奪った。
「ぐっ……貴様、離せッ離さんか!」
「誰が離すか馬鹿がッ! 大人しくしてろ!」
怪人となったウヴァの腕の中で暴れるノブナガの力のいかに矮小なことか。
月影の言った通り、放っておいても死ぬのが確定しているホムンクルスの力はよわい。
ノブナガが人間態を晒したままの今ならば、ウヴァの目的はたやすく達成出来るだろう。
「はっはっ、悪いなァッ! お前はあっちで俺と一対一だッ!!」
ウヴァはノブナガに組み付いたまま、バッタの跳躍力を活かし跳んだ。
市街地に無数に並ぶビルの陰に跳んだウヴァは、そのままもう一度跳躍する。
あっと言う間に二人の姿は市街地の影へと消えていった。