義の戦(後編) ◆QpsnHG41Mg

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 燃え上がる爆炎の中から、ウヴァは立ち上がった。
 よもや死に掛けのバースがここまでやるとは、ウヴァにとっても予想外だった。
 もっと余裕で勝利を収める予定だったのだが、現実は思いのほかウヴァの思い通りにはいかないものだ。
 だけども、予想外のバースの善戦すらもウヴァにとってはさしたる問題ではない。
「ふゥ~ん……ウン!……フフッ」
 自分の身体を一通り眺めて、大したダメージを追っていない事を確認し笑う。
 ブレストキャノンの一撃は、幾重にも張った雷撃の壁でその威力を大幅に殺した。
 最終的にウヴァの身体に届いた一撃の威力は、ウヴァを倒すには非力に過ぎたのだ。
「まあ、セル如きにしては、よくやった方だがなァ?」
「なん……だとォッ」
「フフン、一つ教えてやろうか?」
 得意げに数歩歩いたウヴァは、もはや立ち上がる力すらも残っていないノブナガを見下ろす。
「バースはな……元々俺との相性はあまり良くないんだよ」
 所詮バースは"セル"だからなぁ、と心中で付け加える。
 そう、ウヴァはオーズ相手には何度も苦戦を強いられてきたが――
 セルからエネルギーを抽出するバースに対しては、それ程手を焼いた事はない。
 元々バースでは、体力、筋力、装甲の耐久性などに優れるウヴァを相手にするには決定力に欠けていたのだ――!
「しかも、俺はバースとは何度もやりあってるんでねェ」
 バースのシステムはもう見飽きたといっても過言ではない。
 その武装も知り尽くしているし、ここへ連れて来られる少し前には、バースの二人を完膚無きまでに叩き潰しもした。
 さっきは月影に無様を晒しはしたが、ウヴァは決して弱くはない。
 月影との戦いでは、味方だと思っていた相手からの予想外の反攻に度肝を抜かれ実力を発揮し切れなかっただけだ。
 もう一つ理由を述べるなら、月影は一応ウヴァと同じ緑陣営だ。
 自らの手で戦力を奪うなどという馬鹿な真似が出来るわけもなく、それもウヴァの実力を制限する枷となっていた。
 ゆえに、最初からバースを潰す気で掛かったウヴァの実力は、対月影戦時の非ではなかったのだ。
「クッ、ククッ……ハッハッハッハ……ハァッハッハハハハハハハァッ!!
 死にかけのホムンクルスが、バース如きでこの俺に勝てる訳がねェーだろォッ!?」
 勝利に酔いしれ感極まったウヴァは、高らかに笑う。
 そう、最初からウヴァは、コイツにだけは負けないという自負があったのだ。
 戦いなれたバースを使う死に損ないなど、ウヴァにとっては恰好の標的だったのだ。
 どうだ、これでノブナガの希望は見事に打ち砕いてやっただろう。
 この上ない程の上機嫌でもって、ウヴァはノブナガの髪の毛を掴み上げ、その顔を覗き込んだ。
「ん?」
 しかし、ウヴァの予想に反して、ノブナガの眼はまだ死んではいなかった。
 ノブナガの眼は……「最期の瞬間までウヴァに牙をむいてやる!」、そんな眼をしていた。
「チッ……!」
 ウヴァはその眼が気に入らなかった。
 既に敗北が確定しているのに、どうしてそんな眼が出来るのか。
 もっと悔しがるなり、命乞いをするなりすればウヴァの気分も晴れるというのに。
 全くもって面白くない。不快感を覚えながらも、ウヴァは問うた。
「オイお前、なんだその眼は」
「俺は……最期の瞬間まで、織田、信長で……在り続ける」
「あァん?」
「友と誓った友情の為に――俺は……ッ!!」
 そう言って立ち上がったノブナガは、ウヴァの腕をぶんと振り払った。
 セルメダルは全て尽きたが――しかしノブナガには、まだコアメダルが残されている。
 その力を使って……これが本当に、最期の搾りカスというヤツか。
 正真正銘、最期の力を振り絞って、ノブナガは鎧武者の怪人へと変身した。
「オイオイ……マジかよ」
 ウヴァの声には、嘲笑すら混じっていた。
 それもその筈。鎧武者の怪人に変身したはいいが、その足取りは覚束ない。
 おそらく奴にはもう、ウヴァの姿すらも正確に見えていないのではなかろうか。
 それなのに、そんなコンディションなのに、それでも奴は立ち上がった。
 確実な負け戦であるというのに、それでも奴はウヴァに挑もうというのだ。
 あまりにも滑稽なその姿に、ウヴァは呆れすら感じていた。
「オイ織田信長……最期に一つ訊いてやる」
 振り下ろされた刀による一太刀を容易く打ち払う。
 案の定、鎧武者怪人の攻撃には威力がまるで乗っていない。
 鎧武者怪人の胸部を前蹴りで蹴り飛ばしながら、ウヴァは問うた。
「お前、なんでまた立ち上がった」
「……ッ、天下人としての……誇りッ!
 そして……我が友、火野映司との……友情のためッ!」
「……………………」
 腹から絞り出された回答に、ウヴァは返す言葉を持たなかった。
 ふらふらと千鳥足で前進するノブナガを冷たい眼で俯瞰する。
 やれやれとばかりに嘆息したウヴァは、
「…………もうテメーには何もいうことはねえ……」
 再びその頭部に稲妻を宿らせ、それを天へと舞い上げる。
 今度は先程よりも激しく迸らせて――空を、雷雲が覆う。
「とてもアワれ過ぎて――」
 刹那、空で充填された稲妻が……
 一斉にノブナガへと降り注いだ。
「――何も言えねえ」

           ○○○

 ウヴァは、失いかけた自信を再び取り戻していた。
 なんだ、自分は、やれば出来るじゃあないか……と。
 月影との戦いは、そう。少し調子が悪かっただけだ。
 あれは自分の本領ではない。決してないのだ。
「ああ、今ならあの月影にも負けねェ」
 それだけの自信がある。
 セルメダルへと還ったノブナガの身体を、ウヴァはその身に取り込んだ。
 あの身体を構成していた五百枚を、丸ごとごっそり取り込んだのだ。
 例えセルでも、一度に大量に取り込めばコアにも劣らないのだという事は既に実証されている。
 凡そ五百枚ものセルメダルを同時に取り込んだウヴァの身体には、強大な力が漲っていた。
 ――だが、まだだ。それだけでは、まだ足りない。
 手の中にある四枚のコアメダルを眺めて、ウヴァはそれをどうするか考える。
 一枚は色を失い無色透明となっているが、カメの紋章が描かれている。
 これは少し前のガラとの戦いで、奴の身体を構成していたメダルなのではないかと想像する。
 次に、黒色のサソリ、エビ、カニの三枚だが、ウヴァはこの三枚のメダルに心当たりがない。
 ともあれ、ウヴァの手中には今、四枚のコアメダルがあるのだった。
「ふぅん……どうするか」
 思い出すのは、ここへ連れて来られる直前の出来事。
 ウヴァは"真のオーズ"に敗れた直後、真木によって四枚のコアメダルを投入され復活を遂げた。
 暴走はウヴァ自身も恐れているが、あの時は体内に十三枚のメダルを宿していたが、その時点で暴走する気配はなかった。
 流石にそれ以上ともなれば、安全とはいいきれないが……。
 だが、それならば、四枚程度ならば大丈夫だろうか……?
 ゴクリ、と固唾を呑む。
 そして、
「俺はただでさえコアを奪われてるんだ、これくらい貰わなきゃ嘘だろ」
 そう言って、ウヴァは四枚のメダルを己が体内に投入した。
 瞬間、セルメンの表皮に緑の装甲が復活する。
 完全復活には程遠いが、それでも外見上は完全復活寸前程度には回復。
 大量のセルと、新たな四枚のコアを手に入れたウヴァは、確実なパワーアップを実感していた。
 今ならば、どんな敵にも負けない自信がある。
 もう誰が相手であろうとも、ビクビクする必要はないのだ。
 これで月影に追い目を感じる必要もない。少し様子を見に行ってやるかと、ウヴァは歩き出した。

           ○○○

 月影ノブヒコは、既に満身創痍だった。
 否、満身創痍というだけならば、まだ幾分かマシに聞こえる。
 現状のノブヒコは、満身創痍という言葉すらも生温い程の拷問を受けていた。
「ガッ、あぁぁあアァああガァあァああぁぁあッ、づぁぁっ、ああぁあァァあぁあああ――――ッッ!!!」
 それは、絶叫だった。
 市街地全域に響き渡る程の絶叫。
 ノブヒコの腹から絞り出される、金切声にも近い絶叫。
 つい先刻までの彼の姿を知っている者ならば誰も想像だにしないだろう。
 無様に地を這い、絶叫するだけしか出来ない男が、かの月影ノブヒコであるだなどと。
 ――ギィコ、ギィコ、ギィコ、ギィコ、ギィコ…………。
 月影の絶叫に混じって、ヴァイオリンの弦で掻き鳴らす不協和音が響く。
 首輪からセルメダルを放出し続けながら、月影はただ絶叫する。
 シャドームーンへの変身などはとうの昔に解除されている。
 今ここに居るのは、無様な芋虫同然の一人の男。
「……魔界777ツ能力、拷問楽器"妖謡・魔(イビル・ストリンガー)"」
 何処か楽しそうで、限りなくサディスティックな声音が響く。
 イビル・ストリンガーとは、ネウロが持つ魔界777ツ道具のひとつ。
 人に寄生し、宿主の神経繊維を弦として奏で、音を掻き鳴らす拷問道具である。
 月影ノブヒコは今、全身の神経線維を楽器として使われ、音を奏でられよう筈もない箇所から音を奏でさせられているのだ。
 それに伴う激痛が一体どれ程のものかなど、想像に難くはない。

 シャドームーンとネウロの戦い自体は、圧倒的なまでの実力差でネウロが勝利した。
 勿論、奴を弱者だとは思わないが、それでもネウロからすれば赤子も同然。
 此処へ来る少し前に戦ったDRとかいう血族よりはずっと強いのだろうが……。
「どうだ綿棒、これは我が輩からのせめてもの贈り物だ。自分の神経で奏でる音はリラックスするだろう?」
「あがっ、あぁああッあァあああぁッ、誰、がぁあァアああああァァアアッ!!」
「ん? なんだそんなに心地いいのか。我が輩も気に入ってくれて嬉しいぞ!」
 そう言って爽やかな笑顔を浮かべたネウロは、絶叫を続ける月影から視線を逸らす。
 そして、瞬く間に月影の存在など忘れたかのように冷静な面持ちに戻り、思考するネウロ。
“ふむ……この場所で使える魔界777ツ能力は、一度きりの使い捨てか”
 今使用したイビル・ストリンガーに、二回目分のストックはない。
 ここで月影に使ってしまった以上、もう次の参加者には同じ能力を使えないのだ。
 777ツ能力は無数にあるが、それでも同じ能力は一度しか使えないのだとすれば、使いどころには気を使わねばなるまい。
“全く面倒なことをしてくれたものだな”
 心中で、今も何処かで見ているのであろう真木清人に毒を吐くネウロ。
 ゲームとしての全体のバランスを考えるならば、それくらいの制限は当然なのだろうが。
 ネウロには、魔界777ツ能力と、かのインキュベーター以外には何の道具も支給されてはいなかった。
 それは、ただでさえ強力すぎるネウロに対するちょっとしたハンデであろうか。
 ネウロ自身、残された魔界777ツ能力だけで十分戦っていける自身はあるのだから、それ程の不安を懐いてはいないが。
 ともあれ、真木清人にはとっておきの拷問器具を残しておく必要がある。
 今の内からどんな拷問が最適かを考えながら、ネウロは魔界777ツ能力の使い道についても考えながら行動しようと認識を改めた。
「では、そろそろノブナガさんでも探しに行きましょうか」
 ネウロの中には、既に綿棒(月影ノブヒコ)という人物は存在しない。
 ゆえに、傍らで絶叫を続ける綿棒など意にも介さずにネウロは歩き出した。
 一応この場ではノブナガの助手(臨時)であるのだから、はぐれっぱなしはまずい。
 もしもあのゴミ虫(虫頭)に苦戦しているようなら、同じようにあのゴミ虫も拷問に掛けてやってもいい。
 いや、寧ろそれがいい。というよりもそうしたい。
 そうすれば、幾分かは真木に対する憤りも晴れるような気がした。
 ネウロは、此処へ来ても変わらず絶好調であった。



【一日目-午後】
【E-4/南側 道路】

脳噛ネウロ@魔人探偵脳噛ネウロ】
【所属】黄
【状態】少し気分が晴れた、ダメージ(小)
【首輪】120枚(増加中):0枚
【装備】魔界777ツ能力、魔帝7ツ能力
【道具】基本支給品一式
【思考・状況】
基本:真木の「謎」を味わい尽くす。
 1.ノブナガと合流し鴻上ファウンデーションに向かう。
 2.表向きはいつも通り一般人を装う。
 3.知り合いと合流する。そう簡単に死ぬとは思えないので、優先はしない。
※DR戦後からの参戦。徐々に力は衰え始めていますが、まだまだ現役です。
※ノブナガ、キュゥべえと情報交換をしました。魔法少女の真実を知っています。
※魔界777ツ能力、魔帝7ツ兵器は他人に支給されたもの以外は使用できます。
※しかし、魔界777ツ能力は一つにつき一度しか使用できません。
※現在「妖謡・魔」を使用しました。
※キュゥべえがネウロの手から離れ、ネウロを観察していますが気付いているかどうかは不明です。
※月影がばら撒いたセルメダルを幾分か回収しました。



           ○○○

 へし折られた綿棒には、既に存在価値など存在しない。
 存在価値を失ったガラクタの行く先は、ゴミ箱だけだ。

           ○○○

 月影には、最早一枚のセルメダルすらも残されてはいなかった。
 ネウロとの戦闘と、その後の拷問による過度のダメージによって、全てのメダルをバラまいてしまったのだ。
 セルメダルだけでなく――首輪に収納していたコアメダルまでも。
 せめて全身で掻き鳴らされる音による拷問さえなければ、メダルの回収くらいは出来ただろう。
 されど、体中の神経が悲鳴を上げている中で、そんなことにまで気が回る訳もない。
 今の月影は、ただ痛みに耐えるだけでも精一杯なのであった。
「おっ、おオォォのォれェェェェッ!!!」
 が、それでも月影の心に宿ったプライドだけは一級品だ。
 全身の神経を焼き切らんばかりの痛みに絶叫しながらも、その眼に宿った光は未だに怒りに熱く燃えていた。
「ぐっ、あぁああァ、私に……ッこんな、真似をしてェェ……ただで済むと思うな――!」
 憎むべきは脳噛ネウロ。
 あの魔人、次に会った時には何としてでも八つ裂きにしてくれる。
 絶対に、絶対に、絶対に、絶対に、ゆるしはしない。
 ただ殺すだけでは気が済まない。とことん傷め付けてから処刑してやる!
 燃え上がる激情には、痛みすらも薄れるほど。
 こうして口が効けるだけでも、月影の精神力はかなり強い部類に入る。
「必ずッ、報復する……ッ脳噛ィィ……ネウロォォオオオオオオオッ!!!」
「ほォう? そんな姿になってもまだ戦うつもりとは、立派な心掛けだなァ~?」
「ぐっ……き、貴様ァ……」
 ふいに聞こえた声には、確かな聞き覚えがあった。
 それは、月影がついさっきまでずっと一緒に行動していた男の声。
 痛む身体を抑え込み、なんとか頭を持ち上げれば、そこに居るのは案の定、
 緑の皮ジャケットに身を包んだ若い日本人男性――ウヴァだった。
 薄ら笑みを浮かべたウヴァは、月影の傍に落ちていたサタンサーベルを拾い上げた。
「きっ、さまァ……返、せェェ……!! それは、創世王、の――」
「そんなこと言われてもねェ? もうお前じゃ使えんだろう、これはよ」
「な……にィッ!?」
 さぞ気持ち良さそうにサタンサーベルを眇めるウヴァ。
 赤い刀身を太陽に透かして見て、満足げににんまりと破顔する。
 こいつが何を言っているのか、月影にはまだ理解が出来ていなかった。
 何せ、確実に自分に逆らうことはないと思っていた犬が、突然態度を変えたのだから。
「ああ、残念だぜ……俺はお前とこれからも仲良くやって行きたかったんだけどなァ~」
「これは、命令……だッ! すぐにッ私にメダルを寄越せェ……こんな小細工、すぐに……ッ!!」
 そう、メダルがあれば、能力さえ発現出来れば。
 体内に救った奇妙な虫など、月影の稲妻で焼き殺す事が出来る筈だ。
 そうすれば、今度こそ――!
「今度こそォ、あの魔人を! ネウロを……ッ、必ずッ、八つ裂きに――!!」
「オイ、知ってるか月影」
 月影とは対照的に、涼しげな声音のウヴァ。
 ひゅん、と音が鳴った。
 サタンサーベルが、月影の顔面に触れるかどうかの位置に突き立てられたのだ。
 赤い刃が、月影の肌を薄く裂いた。流血こそないものの、月影の頬に薄く引っかき傷が出来る。
 さっと血の気が引くのを感じながら、月影はウヴァの顔を見上げた。
「人間の脳ってのはな、薄い鉄板のようなものらしいぜ」
「なァ……っ、何が、言いたい!?」
「一度折れちまった鉄板はな、どう伸ばしたって折れ目を消せはしないのさ」
「………………ッ!!」
 月影の目前、アスファルトに突き刺さった赤い刃を、ウヴァが引き抜く。
 ソレの切先は、次に月影の首筋に宛がわれる。
 ついとなぞられた肌から、一滴の赤い滴が流れ落ちた。
 冷たい刃の感覚と、熱い流血の感覚。
 二つを同時に感じながら、月影の息が詰まる。
 ウヴァは、さぞかし可笑しそうに言った。
「ああ残念だ! 本ッッ当に残念だなァ月影ェェ! お前はもう折れ目が付けられちまった!
 助けてやってもいいが、メダルも持ってない上、心も折られたお前じゃ役立たずだよなァ!?
 ここを生き伸びても、すぐに他の参加者に殺されちまうのがオチってところだよなァ!?」
「……ッ、貴様ァァァアアアアッッ!!!」
 気味が悪いまでに引き攣ったウヴァの笑顔。
 殺意さえ孕んだ、その暴力的な笑みに戦慄する月影。
 奴が何を言いたいのかを、月影は理解してしまったのだ。
「だが安心しろ、他の陣営の奴に殺されるくらいなら、俺が――」
「やめろォォォォォォォォォォオオオオオオオオオオオッッ!!!」
 月影の絶叫を聞きいれてくれる者は何処にもいない。
 裂帛の叫びも虚しく、サタンサーベルは、月影の首筋を裂いた。。
 皮が裂かれる。肉を断たれる。骨が斬られて――月影の頭部が、身体から離れた。
 自分の頭がごろんと地べたを転がる感覚を、月影の脳はまだ判断出来ている。
 次いで、切断口から夥しい程の血が吹き出て、月影の顔面を赤く塗りつぶした。
 首を切断されても、月影の頭にはまだ意識があった。
 視界は全て赤で覆われて、せいぜいが瞼を動かす程度しか出来はしないが。
 それでも、最期のウヴァの一言を聞き取るくらいは出来た。
「ハハッ、俺がお前の分まで戦ってやる。だから安心して眠ってくれ、月影」
 次第に朦朧としていく意識の中。
 徐々に離れていくウヴァの笑い声だけが、不快にも月影の脳内を反響していた。

           ○○○

 ウヴァは今、非常に上機嫌だった。
 鬱屈とした気持ちを晴らして、奪われたものを全て取り返したのだ。
 元々所持していたコアメダルも、支給品も、利子つきで返して貰ったのだ。
 おまけに仲間だと考えるだけでも胸糞の悪い野郎まで排除出来たのだ。
 これで喜ばない筈がない。
 尤も、陣営全体で見れば確かに月影という戦力の欠落は惜しいが……
「何、問題はない」
 道路のど真ん中で絶叫しながら芋虫の如く這いまわるような奴はもう駄目だ。
 尊厳も何も失って、悶え続けていた男など、一思いに殺してやった方がマシだろう。
 あいつはあそこで助けたところで、もうどうしようもない。
 心が完全に折られちまった男には、もう存在価値などないのだ。
「もし――使おうとしてた綿棒が折れちまったら、お前ならどうする?
 なァ、普通ソイツはもう捨てて、次の綿棒を取り出して使うだろォ?」
 手にした月影の首輪に「そういうことだ」と言葉をかける。
 月影はたまたま使い物にならなかっただけだ。
 すぐに次の駒を補充して、自らの戦力として使ってみせよう。
 ウヴァの今のコンディションは開始直後にも増して絶好調だ。
 今ならば例え紫のオーズが相手であろうとも負ける気はしない。
 それもこれも、あそこで死に掛けの月影にきちんとトドメを刺して、
 他の陣営の参加者に奪われる前に彼の支給品を確保出来たから、というのも大きいと思う。
 そう考えるならば、やはりウヴァの取った行動は最善の手だった。
「フフン……さァて、と」
 大量のコアとセルを手に入れた緑の王は、次の戦場へ向かうべく変型させたライドベンダーに跨った。
「あのヤローの所為でそれどころじゃあなかったが、そろそろラウラとも合流しないとなァ?」
 ライドベンダーの向かう先は、ラウラと別れた南西方面。
 あいつのことだ、今頃反旗を翻そうと何らかの計画を立てているのかもしれない。
 しかし今のウヴァには恐れるものなどなにもない。
 どんな敵が現れようとも、絶対に打ち倒せるだけの力を手に入れたのだから。
 高らかに笑いながら、ウヴァはライドベンダーを疾走させるのだった。




【一日目-午後】
【F-4/道路】

【ウヴァ@仮面ライダーOOO】
【所属】緑・リーダー
【状態】健康、絶好調、ライドベンダーを運転中
【首輪】300枚:250枚(増幅中)
【コア】クワガタ(感情)、カマキリ×2、バッタ×2、サソリ、エビ、カニ、カメ(一定時間使用不可)、ショッカー
【装備】バースドライバー@仮面ライダーOOO、バースバスター@仮面ライダーOOO、サタンサーベル@仮面ライダーディケイド
【道具】基本支給品×3、参加者全員のパーソナルデータ、ライドベンダー@仮面ライダーOOO、メダジャリバー@仮面ライダーOOO、ゴルフクラブ@仮面ライダーOOO、首輪(月影ノブヒコ)、月影ノブヒコのランダム支給品0~1、ウヴァのランダム支給品0~2(確認済み)、ノブナガのランダム支給品0~1
【思考・状況】
基本:緑陣営の勝利。そのために言いなりになる兵力の調達。
 1.ラウラと合流する。
 2.もっと多くの兵力を集める。
 3.月影を倒したネウロを警戒。
【備考】
※参戦時期は本編終盤です。
※ウヴァが真木に口利きできるかは不明です。
※ウヴァの言う解決策が一体なんなのかは後続の書き手さんにお任せします。
※ノブナガの身体を構成していたセルメダルと月影がばら撒いたセルメダルを回収しました。

【全体備考】
※E-4南側に首を切り落とされた月影ノブヒコの遺体が放置されています。



【ノブナガ@仮面ライダーOOO 消滅確認】
【月影ノブヒコ@仮面ライダーディケイド 死亡確認】



056:戦いと思いと紫の暴走(前編) 投下順 058:Cにさよなら/トゥー・ザ・ビギニング
056:戦いと思いと紫の暴走(前編) 時系列順 059:迷いと決意と抱いた祈り(前編)
043:王【のぶなが】 脳噛ネウロ 082:衰【すいたい】
ノブナガ GAME OVER
034:創世王、シャドームーン ウヴァ 072:はみだし者狂騒曲
月影ノブヒコ GAME OVER



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最終更新:2024年09月24日 11:49