シン・レッド・ライン/欲望と想いと世界の破壊者(前編) ◆2kaleidoSM


「なるほどな、大体分かった」

ラウラ、フェイリスをとりあえずの仲間とした士は、この二人と一通りの情報交換を行っていた。
あわよくば破壊対象であるライダーの情報を得られればとも思ったが、士自身の出会ってきた対象の人数を考えてもそううまくはいかなかったようだ。

まず、ラウラのいた世界。
ISなる、女にしか動かすことのできないパワードスーツの普及した世界。
おそらくこのISという存在は、シンケンジャーやファイヤーエンブレムとルナティックといったヒーローのようなものであり、仮面ライダーではないのだろう。
いや、この場合ヒーローというよりはその世界の特色といったところか。
聞くと、ラウラの世界には怪人といえる存在はとりあえず発見されていないということだ。
もしかすると仮面ライダーとは無縁の世界なのだろう。

フェイリスの世界は、特に何の変哲もない普通の世界であった。
仮面ライダーも怪人もおらず、戦うヒーローや戦闘機なども存在しない。
何か隠している様子は見られたが、ライダーがいない、知らないのであれば重要なことではないだろう。

なお、ここで詳しい情報交換はこの二人もたった今のことで行ったようであり、異世界の話を聞いたラウラは驚いていた。
対してフェイリスはさして驚いている様子もなく、普通に受け入れていた。彼女の適応力の高さゆえか、あるいは他に何かあるのか。まあ関係ないが。

「ところで、一つ質問だ。お前の言うISとかいうやつ、それはあの時真木に斬りかかっていったやつの着けていたやつか?
 名前は確か―――」
「箒だ、篠ノ之箒。私の、友達…だった」
「なるほどな」

そしてラウラから聞いた情報。
セイバーという、生身でありながらそのISとやらと互角に渡り合う女の存在。
殺し合いに乗っている様子はなかったらしいが、彼女もまた別の世界の存在なのだろうか。
名前から判断するに、バーサーカー、そして既に死んだらしいがキャスターという存在とも関わりがありそうだ。
が、それが仮面ライダーと関わりを持つものなのかどうかは分からない。

そしてライダーでこそないが、士にとっては仮面ライダーとしての破壊対象であり、この殺し合いの首謀者の一人であるグリード、ウヴァ
親友の死と、仲間の裏切り。
その直後に追った先でフェイリスと合流し、今に至るということだ。


フェイリスからはラウラの知らぬ情報として、二人の天使と全裸の変態の話を聞いた。
天使はともかく、全裸の変態とは何だろうか。少し思考した後考えないことにしておいた。
そして、天使から聞いたという情報の中にいた、桜井智樹という少年の話。
話された特徴、名前には心当たりが無いわけではなかった。
だが、仮にも襲い掛かったなどということが言えるわけもなく、あえて黙っておく道を選んだ。
そして士も、とりあえず出会った人物のことを話していく。
魔法少女、ファイヤーエンブレムとルナティックといったヒーロー、そして―――仮面ライダー。
無論、彼らに何をしたかまでは話さない。自分の問題であること、言う必要もないし、下手な誤解(事実ではあるが)を与えるのも得策ではない。
だが、アポロガイストとの戦いに関しては特に何を隠すわけでもなく黙っておいた。

話している際に一々目を輝かせるようなやつがいたのは気のせいと思いたい。


一通りの情報交換を終え、士は今後についての思考を始める。
グリードを全て倒し、唯一のリーダーとなって優勝するというラウラの行動方針。
なかなかに知恵の回る子供だと、素直に関心した。
しかし、この場のグリードを滅ぼすのは俺がやるべきこと。このような子供に手伝わせるべきかどうかを判断するには、まだこの少女のことを何も知らなかった。



もし、今だけでも他の仮面ライダーとも協力することができたら、どれだけ楽だったか。
いや、もう悠長にしている段階ではないのだ。ある程度の無理があろうと全てのライダーは、この手で破壊しなければならないのだ。

剣崎一真――ブレイドについては殺し合いの中で破壊することはできなかった。
しかし、ここから脱出すればまた別のブレイドが存在する世界を見つけられる可能性もある。
剣立カズマと剣崎一真、ワタルと紅渡、同一にして別のライダーが存在したように。

そう考えれば、この場の別時間軸に生きるユウスケとは、あるいは協力関係がとれたのかもしれない。
あいつはお人よしのバカだが、そのクウガとしての力は、想いは士自身も認めているものなのだから。
しかし、もう戻ろうとも、戻れるとも思わなかったが。
一度殺そうとした以上、もう和解することなど無理だろう。
ユウスケも例外なく、次に会えばこの場で破壊する。それだけだ。



「止まれ」
「ん?どうした?」

と、ラウラが士に声を掛けた。
耳をすませば、こちらに向けて歩いてくる何者かの存在を感じた。


「よお、ラウラ。やってるじゃねえか」

そんな声と共に現れたのは、緑色の服を着た茶髪の青年。

「ウヴァ…!」

だが、ラウラのその呼ぶ名、それは彼がただの人間ではないことを示すものだった。


「そいつらが俺の陣営に入る新しいやつらか?」

上機嫌そうなウヴァが指し示すのは、士とフェイリス。
無所属である彼ら二人は、ウヴァからすればラウラが見つけた新しいメンバーのようにも見えたのだ。

「お前がグリードか」
「フン、世界の破壊者、ディケイドか。お前も俺の陣営に入りたいってか?」
「お断りだ。俺が組むのはあくまで俺の意思によるものだけだ。お前らの決めた陣営だの何だののルールに組み込まれるのはごめんだ」
「そうかよ、まあお前ならそういうと思ったが。
 だが今はお前に用はねえ。用があるのはラウラ、お前だ」

と、士の少し前にいる少女に指を向けるウヴァ。

「ああ、私もちょうどお前に話があったところだ」
「ほう…?言ってみろ」
「私は、緑陣営の優勝を目指す。お前に言われたからでもない、私自身の意思でな」
「ハハハハハ、いいじゃねえか。それが親友を殺されたお前の答えか。
 だが、分からねえな。なら何故そいつらを俺の陣営に引き入れねえ?」
「話は最後まで聞け。
 私は、全てのグリードを倒した上で”緑陣営のリーダー”として優勝する。
 そしてウヴァ、倒すグリードはお前も含めて、だ」
「何?」

それを聞いた瞬間、ウヴァの顔に何とも言いがたい表情が浮かんだ。
困惑か、怒りか、驚きか。どれなのかはラウラ達には判断がつかなかったが。
だが、好意的なものではないことは確実なようにも思えた。

「お前は不要なもの、いや、害虫だ。
 私としてはもう少し先かと思っていたが、ここで会ったのであればちょうどいい。
 ここで、お前を倒し、緑陣営のリーダーの地位を貰う」

それはグリードに対する反逆宣言。
己の陣営のリーダーすらも敵に回す、その行動。
士は、若干ながらその少女に関心を覚えた。

「お前が全部メダルを貰うってか?現実的じゃねえな。
 お前らには俺達より強めの制限かけられてるんだぜ?
 さっきだって俺に手も足も出なかっただろ」
「そうだな、だから私は仲間を集める。
 お前達を倒せる、そしてこの殺し合いに反抗しようという仲間を、な」
「……」

ウヴァは値踏みをするかのように、ラウラを眺め。
一瞬ニヤッと笑った後、ラウラに向かって告げた。

「ああ、そういうことか。
 お前、何か自分の欲望を抑えてるだろ?」
「……っ」

ラウラには知る由もないことだが、ウヴァの生み出すヤミーは人間から誕生した後その宿主の欲望、欲求に応じた行動を取り、宿主のメダルを増幅させるもの。
そのメダルを効率よく増やすため、ウヴァ自身も積極的に前線に出て人間と関わり、その欲望を確かめ効率を上げてきた。
宿主自身の持っていた、心の奥底に潜んだ欲望からヤミーが誕生したこともある。
そういった経験から、人間の持つ欲望の方向性に対してはそれなりに多くの知識と経験を持っていた。

だからこそ、ウヴァにはそのラウラの姿や様子から彼女が抑えている欲望を持っていることも推測ができた。
ウヴァに対する、それまで以上に露骨な敵愾心、しかしその割に己の情報に対して妙に饒舌。冷静さも失っているように見える。
加えれば先の放送。

「隠さなくてもいいんだぜ?
 分かってるよ。織斑一夏のことだろう?」
「―――――」
「惚れてたんだってなぁ?
 お前が戦うって言った理由もやっぱりそいつのためなんだろ?
 残念だったなぁ、こんなに早く死んじまってよぉ!」
「っ……」
「大方そいつらの気持ちを汲んでそういう方向を選んだんだろうが、俺に言わせりゃまだまだ甘いんだよ。
 なあ、もし俺が織斑一夏を殺したやつを教えられるって言えば、どうする?」

ウヴァは笑いながら、そうラウラに告げる。

「な、何を…」
「ゲームが始まったときに一番近くにいたやつなら分かる。Xって名前のやつだ。こいつが殺したって保障はねえが、もしかしたら何かは知ってるかもなぁ。
 何ならこいつがどこにいるのか、ドクターに口利きして教えてもらってやってもいいんだぜ?
 いや、それだけじゃないぜ。ルールブックにもあったろ?『優勝したチームのリーダーは大量のコア・セルメダルで大きな力を得られる』ってな。
 あれは俺達グリードが使えばさらに強力な力にもできるんだよ。
 ここまで言えば俺が何を言いたいか、賢いお前なら分かるだろ?」


「織斑一夏を、生き返らせたくはないか?」

ラウラが息を呑む。

「俺達グリードなら、それもできるかもしれないんだぜ?
 この俺をリーダーに据えて、優勝した後でお前の大好きな男を生き返らせて元の世界に帰る。そしてその過程で織斑一夏を殺した誰かも殺す。
 別にお前がリーダーなんざやる必要はねえ。俺の下にいりゃ悪いようにはならねえんだよ」

実際のところ、ウヴァ自身確かなことなど一つも話してはいない。
ドクターとは連絡を取る手段も無く、また自分だけにそのような特別扱いというのも考えられない以上、今言った情報が得られる可能性は低い。
そしてグリードが完全復活して大いなる力を手に入れたところで人の命を蘇らせることができるかという点もかなりハッタリを利かせている。
だが、それが可能かもしれないというところを匂わせておくだけでもこう言った人間には効果的なのだ。

「ラウにゃん…」

何かの感情にその身を震わせるラウラに、フェイリスの心配そうな声が掛かる。
ウヴァはそんな彼女を気にも留めず、答えを求めた。

「……ぁ」
「さて、どうする?ラウラ・ボーデヴィッヒ?」
「……るな…」
「ああ、聞こえねえぞ?」
「ふざけるなぁ!!」

叫び声と同時、ラウラの体を装甲が纏い、ウヴァに向かって飛び掛っていった。
IS―――インフィニット・ストラトス。
士はそれを見るのは初めてであり、フェイリスもそれが纏われる瞬間を目撃したのはこれが最初だった。

黒き装甲、肩辺りに浮遊するバックパックのような物体、その右側に備え付けられた巨大なレールカノン。
しかし、ラウラの行った攻撃はそれらの武装を生かしたものではない、腕につけられた装甲からの、いわば鉄拳。
自身のISに備え付けられたAICすらも使うことなく、彼女はウヴァに殴りかかったのだ。

向かい来るラウラの前で、その体を緑色の、虫を模した怪人の姿に変化させるウヴァ。


「そもそも、貴様らさえこんなことをしなければ!
 箒も!シャルロットも!一夏も!
 それにセシリアも道を誤ることなどなかった!!
 それを、よりにもよって貴様らが生き返らせるだと?!ふざけるな!」

ラウラの怒りの声と共にぶつけられる拳。それをウヴァは何をすることもなく、グリードの姿で受け続けた。

「一夏を殺したやつは許さない!シャルロットを殺したセシリアもだ!
 だが、それ以上に貴様らグリードは絶対に許さん!あの真木という男もだ!私が、一人残らず全員殺してやる!」

しかし、その拳の連撃にもビクともせずに受け続け。
そのうち大きく振りかぶられた一発を、何でもないように受け止めた。

「…ダメだな。
 いいか?パンチってのはこうやって出すんだよ」

と、左の手を握り締め、ラウラの体に打ち付けた。
防御機能により肉体に直接ダメージを与えることはなかったものの、その衝撃はラウラを大きく吹き飛ばした。

「がぁ…」
「分かってるよな?今の俺がもう少し本気出せば、お前のそのバリアを破ることだってできるんだぜ?」

「フン、じゃあせいぜい頑張れよ。それでも俺には叶わないだろうがな!
 ハハハハハハハハハハハ!!」

高笑いしながらも、ラウラを見下しつつ去っていこうとするウヴァ。

未だその体に、ダメージすら与えられないこの事実。
このままあのグリードを倒すことも叶わず、ただ緑陣営の一人として戦うしかできないのか。
シャルロットの、一夏の仇も討てずに。

悔しさに、その拳を握り締める。

――――汝、より強い力を欲するか?

ふと、いつだったか聞いたそんな音が心に響く。
力、力が欲しい。
欲する思いが、その声を手に取ろうとしたその時だった。




「ちょっと待て。そこの虫頭」

それまでラウラの後ろで情勢を静観していた士が、去り行こうとするグリードを引きとめたのは。



「なるほどな。事情は大体分かった。そして、お前らグリードの習性についても何となくだがな」
「フン、今貴様には用はないと言ったはずだが」
「お前らは俺のこと知ってるんだろ?なら俺がお前を逃がす理由もないことは知っているはずだ」
「…ディケイドとの戦いは避けたほうがいいか、とも思っていたが、まあいい。少しくらいなら付き合ってやろうか?」

やれやれと言わんばかりに振り向くウヴァ。
その怪人態は未だに解かない。やはり警戒はしているのだろう。

「何より、お前のことはどうにも気にいらねえな。
 殺し合いに放り込んでおいて、上から目線でそうやって生き返らせるだの他者の命を軽々しく扱うところがな」
「生憎だが、俺は人間じゃないからな。命の価値だのなんて知らねえ。
 大体、お前に人のことが言えるのか?世界の破壊者さんよ」

と、士を指差してそう言うウヴァ。
その言葉から察するに、きっとこの怪人は士の戦う理由、世界を破壊する意味も知っているのだろう。

「世界の破壊と再生なんて名文で、罪もない”人間”を”殺している”お前だって同じじゃないのか?」

人間、そして殺しているという部分が強調されている。
それはおそらく、仮面ライダーについてほとんど何も知らないラウラ、フェイリスの二人からの印象を、そして他ならぬ士自身を揺さぶるための言葉だろう。


「別にお前のことを責めてるわけじゃねえぜ。
 ただよ、自分の欲望を満たすために他者を蹴落とす。その何がおかしい?
 この殺し合いだって一緒だろうが。生き残りたいという欲のために他の無関係なやつを殺してでも生き残る。そして願いを叶える。
 その何がおかしい?」
「お前らと一緒にするな。
 大体、人間なんてのはな、欲望に従って生きていけばいいわけじゃないんだよ。
 望まない戦いをすることだってあるし、別の大切なもののためにもう一つを諦めなければいけないことだってある」
「ニャン…」


少女は父の友の、それぞれの命を天秤にかけ、己の欲望を捨ててでも友を救う道を選んだ。
少女は自身の想い焦がれた男の命より、この殺し合いの破壊を願った。
そしてある男は、己の友を、これまで歩んだ道のりを、自身の信念を、それら全てをうち捨てて、世界のために己の役目に殉じる道を選んだ。


「だがな、その我慢だって決して無駄なものじゃない。
 自分の中のマイナスの欲望、それに耐えた先にだって、もっと大切なものはあるんだからな。
 少なくとも俺は、そう信じてる」

だが、それにより無為になった欲望は、決して無駄なものではない。
その先に、きっとかけがえのないものがあるはずだと。
世界の破壊者はそれを信じていると言った。

「士…」
「だから、それはお前らの勝手で利用し踏み躙っていいものじゃない!」
「……貴様、一体何なんだ?」



「俺のことを知ってるなら分かるだろう?
 俺は世界の破壊者で、――――通りすがりの仮面ライダーだ、覚えておけ!」



そう宣言すると同時、士はバックルとカードを取り出す。
士の眼前に翳されたディケイドのカードを、

「変身!」

掛け声と共にバックルに差し込んだ。

KAMEN RIDE

D E C A D E!!

同時に、士の肉体をマゼンダのスーツが包み、異形の体がその場に顕現する。

「ニャ…、これが、仮面ライダー…」

聞いていたとはいえ初めてみる未知なる姿に驚愕するフェイリス。
彼女を尻目に、ディケイドは腰のライドブッカーをソードモードに変形させてウヴァに斬りかかる。

それに対してウヴァは、取り出した赤き剣を掲げてライドブッカーを受け止めた。

「サタンサーベル…」
「見ての通りだ。今の俺はシャドームーンすらも殺せるんだぜ?」
「関係ねえ!」

押し返そうとした士は、しかしサタンサーベルの剣圧に逆に推し返されてしまう。
それをあえて受け入れ下がることで体勢を立て直す士。同時にライドブッカーをガンモードにしてウヴァに射出する。
しかし、ウヴァはそれをものともせずにサタンサーベルを突き出した。
ライドブッカーの銃身で受けきることはできず、ディケイドはそのまま体を斬りつけられてしまう。、

それでもどうにか踏ん張ることに成功した士は、一枚のカードをバックルに差し込む。

ATTACK RIDE
ONGEKIBOU REKKA!

するとソードモードに変化させたライドブッカーの先端から、炎の弾が顕現。

「なら、虫には炎だ」

言うやいなや、それを振りかざしてウヴァに火炎弾を放つ。
響鬼が魔化魍を倒すための技の一つとして用いてきた攻撃。それがウヴァの体を包み込む。

が、それすらもサタンサーベルは切り裂き、ウヴァには届かない。

「チ、腐っても世紀王の剣か。やっかいだな…」
「そんなものか、ディケイド。なら期待外れだな」

そのままさらに振り抜かれたサタンサーベルを、ライドブッカーで受け止める。

今のウヴァは合計10枚のコアメダルに加え、ノブナガを倒した際に発生した大量のセルメダルを取り込んでいる。
それは、現在の彼の力が全参加者と比較してもトップクラスのものであることを示している。それは自信過剰というには強力すぎる力。
いくらディケイドとて、1対1で相手をできるものではない。

ATTACK RIDE
SLASH!

カードを差し込むと同時、ディケイドの動きが残像が残るほどの速さとなり、その剣捌きでウヴァに斬りかかる。
が、ウヴァは若干押されつつもサタンサーベルで的確に受け止めている。
ディケイドスラッシュを用いてようやく互角。

一撃、二撃と的確に受け止められ、五度の斬り付けの後カードの効果は消滅。
再度押され始める。
が、その威力を把握したのか、ライドブッカーを手で掴み取り、サタンサーベルでディケイドの胸部を切り裂いた。

「ぐ…!」

飛び散る火花、再度吹き飛ぶディケイド。
そこにウヴァの触覚から発された緑の雷撃が、ディケイド目掛けて落ちる。
それは周囲のコンクリートを爆破させ、一帯をコンクリートの煙で包む。

「ふん、こんなものか」

再度サタンサーベルを構え、ディケイドにとどめを刺そうと近寄る。
が、

「ん?」

その体が急に止まる。
いや、止められたという方が正しいだろうか。
肉体の動きが、何かの力により強制的に止められたのだ。
さらに、砂煙の向こうから一発の砲弾がウヴァに炸裂。

「ヌ…」

ウヴァの視界の先、ディケイドの眼前、そこにはウヴァの雷撃を受け止めたラウラのISの姿があった。

「お前、大丈夫なのか?」
「あいつは、緑陣営のリーダーとなる私が倒さなければならない。
 義務でもない、恨みでもない、私自身の欲望として、な」
「――フン」


「言うこと聞かねえガキにはオシオキするしかねえよな?」

と、AICによる拘束すらも振り切ったウヴァは、ラウラと士に再度サタンサーベルを向けた。





「モモにゃん、皆、私はどうしたらいいニャン…?!」
『フェイリスちゃん?』
「士ニャンもラウにゃんも戦ってるのに、私だけこうやって見てるだけでいいニャン…?」


あの電王のパスとやらを使えば、今の自分でも変身できる。つまりは戦えるということだ。
何より、目の前にいるのはあの時まゆりを殺したやつらの一味。

しかし、それでも今の自分があそこに入って戦うことができるのか。

『気になるなら戦ってみればいいじゃねえか』
『ちょっと、先輩。女の子にそんな無理言っちゃ…』
『亀公は黙ってろ!
 そりゃ戦いが怖いってのも分かるさ。だがよ、戦うってんなら俺達がサポートしてやる。今までだってそうやってきたんだからよ。
 お前を怪我させたりは絶対にしねえし、足手まといなんかにするつもりもねえ。
 だけどな、やっぱり痛いぜ?よく考えておけ』
「戦うニャン!」
『早っ!』

もしここで迷って戦わなければ、あの時のアルニャンとセシニャンの時の二の舞だ。
それに、もし生き残るためにいつか決断しなければいけないというなら、それは今しかない。
目の前で戦っている、仲間のために。

『分かったよ、へっ、しゃあねえな。そのベルトを腰に巻いてパスを翳しやがれ』
『随分と楽しそうやないか』
『う、うるせえ!ずっと閉じ込められてたんだ、ちったあ暴れさせろ!』
「ニャッ、じゃあちゃんとポーズは決めニャイと…」

と、ベルトを巻いたフェイリスはパスを持った手を上に翳し、

「―――今ここに、フェイリスは己の真の力を解放するニャン…、変身!」


レールキャノンは弾かれ、AICも時間稼ぎにしかならない。
レーザーブレードで斬りかかってもその先にはサタンサーベルがある。


「どうした?こんなものかぁ?」
「く…」

ウヴァが交互に繰り出す拳と斬撃。
それをかわしていくラウラの顔には強い疲労の色が見えた。

ATTACK RIDE
STRIKE VENT!

と、ラウラとウヴァの間に距離が生まれた瞬間、ディケイドの手に装着された龍の顎の手甲が火炎を噴き出す。
ウヴァは一瞬怯むも、次の瞬間には発した雷撃で炎ごと全てを吹き飛ばしていた。


FINAL ATTACK RIDE
DE DE DE DECADE!

しかし、次の瞬間。
音声と共にウヴァの目前に並ぶ大量のカード、その奥からは膨大なエネルギーが迫った。

「…!」

ウヴァに繰り出されたディメンションブラストはウヴァの体に直撃、体を構成するセルメダルを一部吹き飛ばす。
しかしコアメダルを吐き出すほどのダメージには届かない。

「こいつでもこんなものか…、甲殻だけは硬いんだな」

そのままディケイドにのみ対象を絞った雷撃を、士はどうにかかわす。
回避した先でまたも斬りかかるウヴァの攻撃を受け止める。

「フン、ならこういうのはどうだ?」

と、ウヴァは受け止められたサタンサーベルに雷撃を当てる。
赤い刀身に宿る緑色の電流は、ライドブッカーを通して士にダメージを通す。
怯んだ一瞬で、サタンサーベルを更に押し出して斬りつける。

「ガアアア!」

斬り付けられた士の悲鳴が上がり、横に吹き飛ばされるディケイド。
そのまま突きを放ちトドメを刺そうとしたところで。

――FULL CHARGE

飛来した何かがウヴァの肉体を拘束。よく見ると、体に棒状の何かが刺さっている。
とっさの襲撃に戸惑うウヴァ、その肉体にさらに赤いポインターが狙いをつけた。

FINAL ATTACK RIDE
FA FA FA FAIZ!

二重の拘束を流石に破ることはできず、とっさに起き上がったディケイドのクリムゾンスマッシュが、横からの電王ロッドフォームのデンライダーキックが炸裂。

「グ…!」

ダブルライダーキックにより、メダルが先ほど以上に吐き出され、さらにコアメダルが一枚飛び出した。
それを咄嗟に拾い上げるラウラ。


「なるほどな、こうやって大きなダメージを与えていけばいずれはメダルを全て吐き出すということか」
「か、返せ!俺のメダルだ!」


『クォラァ亀公!俺が入ったんじゃねえか!どうしてお前が割り込んでくるんだよ!』
「だって先輩じゃ、万が一にも女の子の体に傷でもつけかねないじゃない。ここは僕に任せて休んでてよ」
『ざけんじゃねえ!』
「お前、まさかフェイリスか…?」
「どうも、始めましてラウラちゃん。戦い終わったらお茶でもどう?」
「な…、ち、近寄るな!」

「ガアアアアアアア!!」

ラウラとウラタロスの会話が繰り広げられる間に、メダルを奪われた怒りで、ウヴァは大出力の雷撃を辺り一帯に放つ。
建物を一軒丸ごと粉々にするほどの電撃。三人はかろうじてそれと、それがもたらした破壊の証を避ける。

「おい、カメ。今お前の中にあのグリードに大きなダメージを与えられる攻撃はあるか?」
「ケータッチがあるから、クライマックスフォームになれればいいんだけど、ただ今変身しちゃうとメダルがもつか分かんないんだよね。
 しかもそれで倒せなかったらもう事だし」
「なら、私が時間を作る。お前達は可能な限り強力な攻撃をぶち当てろ」

と、周囲の様子が晴れた瞬間飛び出してくるウヴァ。
狙いはおそらくメダルを持っているラウラ。

ラウラは士達から離れつつもシュヴァルツェア・レーゲンからワイヤーブレードを射出して迎え撃つ。
しかしいくら放とうとも弾かれ、かろうじて巻きついた1本は右腕に備えついた鎌で切り裂かれ拘束することもできない。
ならば、と高速で飛行しつつレールキャノンとレーザーブレードのヒットアンドアウェイで隙を伺おうと空中に飛び上がる。

が、ウヴァはサタンサーベルに纏わせた電流を、ラウラに向けて一直線に射出してきた。
一直線ならば避けるのは容易い、と思った瞬間、目の前で電撃が拡散、一気に広範囲に展開する。

どうにかAICをもって受け止めた瞬間、その横からラウラに向けて一直線に飛来した電気が直撃する。

「あああああああ!!!」

体全体を襲う衝撃と共に、ラウラの肉体は地面に落ちる。
電撃と衝撃に打ち付けられた全身が痛み顔を歪めるラウラの元に、ウヴァが迫る。

「手癖の悪いやつだ。とっととメダルを返せ」
「渡さん…!」
「そうか。まあ言うこと聞かないやつは一人くらいいなくなってもしょうがねえよな?」

と、サタンサーベルを掲げ、一気にラウラに向けて振り下ろした。
その瞬間だった。

レールキャノンが一気に火を噴いたのは。

それはウヴァへと向けられた弾丸。しかし対象はウヴァの体ではない。
サタンサーベルを持った、その腕。

「何?!」

狙われた腕がダメージを負うことこそなかったものの、レールキャノンの衝撃は持っていたサタンサーベルを吹き飛ばした。
赤き剣が宙に浮くのを見て、そちらを振り向くウヴァ。
倒れた状態で軽い笑みを浮かべるラウラを尻目に、宙に浮くサタンサーベルをキャッチしようと走る。

―――CLOCK UP

と、それを受け止めようとジャンプしたウヴァの目の前で、サタンサーベルが消失。
その事実に動揺する暇もなく、今度は目の前に飛来した何かが、ウヴァの胸を貫いた。

「な…、ぐ、がああああ!」

何が起こったのかも認識できないまま、受身も取ることができずに地面に倒れ伏せる。
胸に刺さっているそれは、紛れもなくサタンサーベル。

「お前ら、今だ!そこの剣を狙え!!」
「おっしゃあ!来たぜ来たぜ来たぜえ!!」

――――CLIMAX FORM――――


ディケイドのクロックアップによりサタンサーベルを奪取、さらにその剣自体をウヴァに突き立てることで攻撃対象を作ったのだ。
そして、それを狙うは全てのイマジンを憑依させた電王最強形態、クライマックスフォーム。
その脚に、全てのイマジンを模した仮面が集まる。

「ま、まずい…」

今サタンサーベルを引き抜けば、そのまま多くのメダルを吐き出してしまう。だから今はこのままでいるしかない。
せめて、これを安全に引き抜き、吐き出してしまったメダルも回収できる場所まで退かなければ――――

「逃がさんぞ、ウヴァ」

と、その脚に、腕にワイヤーが絡みつき、さらに全身の動きそのものが止まる。
全身に巻きついたワイヤーブレード、そしてAICによる身体停止。

「ラ、ラウラ貴様!」

―――FULL CHARGE

叫ぶ間にも、電王の攻撃態勢は整う。

「貴様は安心して消えろ。緑陣営なら私が優勝させてやる」
「ふざけるなああああああ!!!」

ラウラの言葉に怒りを爆発させたウヴァの雷が、辺り一面に降り注ぐ。
ISが警報を鳴らし始めるのにも気に留めず、ウヴァを拘束し続けるラウラ。
雷は飛び上がった電王にも降り注ぐが、クライマックスフォームはそれでも止まらない。

「てりゃああああ!!」

そして、繰り出されたボイスターキックは、ウヴァのサタンサーベルをさらに深く突き刺し。
それだけに止まらず莫大な威力を持ったキックと共にウヴァの体を貫き。

ラウラが離れ、電王が着地すると同時、爆風とメダルを撒き散らしながら爆散した。


「やったぜ!」
『アカン、若干浅い!』
『雷のせいでちょっと勢い落ちちゃったよ~』
「じゃあまだ生きているということか?ゴキブリみたいなやつだ」

カポーン

と、謎の音が鳴り響くと同時、その爆風の奥から黒と緑のスーツに身を包んだ人影が現れる。

「き、貴様ら、よくも…!!そのメダルを、返せぇ!!」

多くのセルメダル、コアメダルを吐き出してしまった以上、まともに戦うのはもはや厳しい。しかしコアメダルだけは何としても取り返さなければいけない。
屈辱ではあるが、最後の抵抗として仮面ライダーバースに変身したウヴァ。
ふらつきながらもセルメダルをベルトにつぎ込むと同時、その胸に巨大な砲台が顕現する。

カポーン
――セル バースト

「!」

と、音声が聞こえた瞬間、ラウラは電王を掴み飛翔する。
それと同時に、今まで彼らのいた場所に高エネルギーの砲撃が撃ち込まれた。


「ハハハハハハハハハ!!!なるほど、こいつの力も意外と悪くはねえなぁ!」

もはや冷静さを失ったか、かつて貶めたバースの力を賞賛するウヴァ。
そこへ、

「なるほど、その力も仮面ライダーか。なら、破壊しないとな」
「―――ハッ!?」

FINAL ATTACK RIDE
DE DE DE DECADE

と、眼前の空中にカードが列を作り出現する。
さらにその奥には、足を突き出す体勢のディケイド。

避けようにも、ブレストキャノンにより機動力の下がったバースでは避けきれない。
そしてあのライダーキックは、バースでは受けきることもできない。

(ふざけるな、俺が、こんなところで俺が―――)

ここまでは絶好調であった。
ラウラ・ボーデヴィッヒを緑陣営に引きいれ。
ショドームーンには後れをとったもののノブナガを殺すことでメダルを大量に増やし、そのまま死にかけのシャドームーンすらも殺し。
高い戦闘力を誇るイカロスをも緑陣営にすることに成功し。
あのネウロですらも殺したこの俺が、俺が。

こんなところで―――――

結局のところ、彼は増長しすぎたのだ。
その手でシャドームーンを倒し、ネウロをも殺し、さらには膨大なメダルを収め。
それがこの場における、ディケイドをも越える力になっていると、完全に思い込んでいた。
だからこそ今ならば勝てると思い込んでしまった。
ディケイドの強さはその単純なスペックだけでなく、数々の力を使いこなすことにもあるという点を見逃し、その結果奪われた一枚のメダルに執着してしまった。


皮肉にも、彼を滅ぼしたのは、増幅しすぎた自身の欲望だったのだ。




「たああああああああ!!」

カードを貫き、その奥から現れたディケイドのキックがバースの胸部に突き刺さる。
それはブレストキャノンを破壊、バースの装甲をも貫き、中のウヴァ自身をも打ち砕く。

「ガアアアアアアア!!」

衝撃で大きく後ろに吹き飛ばされるウヴァ。

「おのれ、…ラウラ・ボーデヴィッヒ、おのれ…!」

バースの変身が解除され、外骨格を消失させ茶色の肉体を晒すウヴァが、ふらつきながらも怨嗟の声を上げる。
しかし、それももはや悪あがきにすらならず。

「おのれ、ディケイドオオオオ!!――――ガァッ?!」

そのまま地面に倒れこんだと同時、肉体を構成していたメダル全てを吐き出しながら、その体は爆風の中に包まれ、今度こそ完全にその肉体は消え去った。

NEXT:シン・レッド・ライン/欲望と想いと世界の破壊者(後編)



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最終更新:2013年07月21日 16:10