Lの楽園/骸なる月 ◆qp1M9UH9gw
【[→ side:E →]】
「……ふうん」
放送が終了して数秒程度の空白の後、
カザリは興味深そうに息をついた。
彼のその様子に、大樹は苛立ちを交えた視線を送っている。
何しろ、このグリードは昼間からまるで行動を起こそうとはしないのだ。
こうしている間にも、一体幾つの戦いが勃発し、そして幾つの"お宝"が持ち主を変えていることか。
長期戦を見据えているつもりなのだろうが、こうも動こうとしないとは思ってもみなかった。
こんな事なら、いっそカザリとは別行動をとるべきだったのである。
時間の浪費という痛手を再認識し、大樹は顔を顰めた。
「さてと、それじゃあ僕達もそろそろ動こうか」
「……その台詞はもっと前に聞きたかったね」
大樹の不愉快そうな声を耳にしても、カザリの余裕は崩れる気配を見せない。
彼は支給された携帯電話を、いつもの様にいじっているばかりである。
リーダーのその様子を目にして、彼の苛立ちはさらに増幅していった。
放送が正しければ、現状最も有利なのは緑陣営で、黄陣営の倍以上のメダルを所有しているのだ。
圧倒的に不利な状況だというのに、一体何が彼に余裕を滾らせているのだろうか。
「そんなにイラつかないでよ。勝つ見込みはちゃんとあるんだしさ」
カザリはそう言ったが、大樹としてはその言葉を信用できなかった。
この現状を前にして、そうまで断言できる根拠とは一体何なのだろうか。
一度問い質してみたかったが、どうせ携帯の時の様に適当にはぐらかされるのが目に見えている。
手中を見せないリーダーに対する不信感は、依然として募り続けるのであった。
「じゃあ行こうか、泥棒さん」
これまでの様に、カザリがライドベンターの後部座席に乗り込んだ。
一体何が悲しくて、こんな人を泥棒扱いする様な奴と相乗りしなくてはならないのか。
所属する陣営を間違えただろうか――溜息と同時に漏れ出るのは、後悔ばかりであった。
【[→ side:A →]】
振るった拳は全て空を切り、自慢の超能力も敵の歩みを止められない。
まるで心を読んでいるかの様に彼は攻撃を躱し、お返しと言わんばかりに拳を振るうのだ。
傷だらけとなった加頭に対し、彼の目の前に君臨する敵――シャドームーンは未だ無傷。
銀の装甲は輝きを失わず、緑の複眼は依然として加頭を見据えている。
ただ直立しているだけだというのに、シャドームーンの威圧感は絶大なものであった。
流石は創世王と名乗るだけの事はある――加頭は目前の脅威に対し、思わず息を呑む。
(……だが、ここでやられる訳には……)
彼を倒さなければ、自分はもう二度と現世には戻れないだろう。
ここで負ければ己の精神は消失し、肉体はキングストーンの操り人形となるに違いない。
愛して止まない女とも、もう二度と再会できはしないのだ。
その可能性が頭を過っただけで、心の底から闘志が湧き上ってくる。
彼女への愛を証明するまでは、まだ二度目の死を迎える訳にはいかない。
ましてや、精神世界で誰にも知られずに消滅するなど以ての外だ。
己の"愛"をキングストーンに見せつけ、一刻も早くこの世界から脱出しなくては。
「必ず手に入れますよ、あなたを」
理想郷の杖を強く握りしめ、加頭は再び創世王へ立ち向かう。
更なる覚悟を決めた彼を、シャドームーンは無言のまま迎え撃つ。
精神世界での戦いは、さらに熾烈さを増していくのであった。
【[→ side:E →]】
地上で佇む相手一体を補足し、それに向けて「Artemis」を発射。
放たれた光弾は、一つ残らずシャドームーンへと襲い掛かる。
その瞬間、彼の腰にあるバックルから翠色の輝きが放出された。
「Artemis」がその光に触れると、どういう訳か「Artemis」は消失してしまうのである。
相手へ飛び込んだ光弾は全て翠色の光の手に掛かり、全て役目を終える事なく消滅する。
放った「Artemis」は一つも敵には届いておらず、当然彼は無傷のままだ。
この一連の流れを、今回の戦闘で
イカロスは何度目にしただろうか。
どれだけ「Artemis」を放った所で、彼には通用しないのはもう明らかだ。
相手の腕が動き出した瞬間、イカロスはシャドームーンの反撃を察する。
すぐさま移動を開始し、敵の攻撃の回避と御に神経を集中させた。
彼は攻撃を加えると、お返しと言わんばかりに手から光線を放射してくるのである。
その破壊力は凄まじいもので、コンクリートなど呆気なく破壊されてしまうのだ。
事実、幾度もの攻防の末に、辺り一帯は瓦礫だらけとなっている。
「Artemis」とシャドービームの撃ち合いは、終わる気配を見せない。
このままでは、どちらかのメダルが切れるまで戦いは続くであろう。
イカロスとしては、これ以上メダルを浪費したくはなかった。
まだマスターにすら出会っていないというのに、こんな所で戦う力を失う訳にはいかない。
しかし、だからと言って今戦っている相手を野放しにしておくのも危険だ。
仮に奴を見過ごしたとしたら、そう遠くない内にマスターを傷つけるかもしれない。
そういう可能性を考慮に入れると、やはり奴は此処で倒すべき敵という判断ができる。
遠距離攻撃が通用しないのであれば、接近戦に持ち込むまでだ。
今出せる最大出力の速度で相手の元に肉薄し、己の拳を敵に叩き込む。
成功する確信は無いが、メダルを節約したい以上、今選べる手段はこれしかない。
出力を一気に引き上げ、勢い良くシャドームーンに向かって急降下する。
相手はそれに対抗せんとばかりに破壊光線を乱射するが、イカロスは「Aesis」でその猛攻を防御する。
彼女が展開する防御壁の前では、あのビームも何ら意味を齎さないのだ。
これならば、思いの他簡単に勝利できるのではないだろうか。
僅かな油断を孕みながらも、イカロスは堅く握りしめた拳を敵の顔面目がけて突きだした。
「――――――――!?」
突き出した拳は、標的には届かない。
イカロスの一撃を遮ったのは、他でも無いその標的であった。
彼は凄まじい勢いで放たれた彼女の拳を、その手で受け止めてみせたのである。
呆気なく阻止されたという事実は、イカロスに動揺を与えるのには十分であり、
同時にその動揺は、シャドームーンが付け入るには十分すぎる隙を作り出してしまった。
イカロスが次の行動に移る前に、シャドームーンの足が動く。
その蹴りはがら空きになっていた彼女の腹部に命中し、そのまま彼女をふっ飛ばした。
上手く受け身を取れなかった彼女は、そのまま無様に地面を転がる羽目となる。
生身の人間が食らえばそのまま腹を貫かれんばかりの一撃であったが、エンジェロイドの頑丈さを以てすれば致命傷は避けられる。
だがしかし、そのエンジェロイドであっても今受けたダメージは堪えるものがあった。
事実、攻撃を受けたイカロスは逆流した胃液を地面にぶちまけてしまっている。
――――カシャン。
痛みに悶えるイカロスの耳に飛び込んできたのは、聞き覚えのある金属音。
その音を感知した直後、横方向から凄まじい衝撃が襲い掛かった。
彼女はそのまま弾き飛ばされ、またしても地に伏してしまう。
痛みに耐えながら立ち上がろうとするイカロスを、シャドームーンが見逃す訳がないのだ。
彼は持ち前の瞬発力を生かして瞬く間に彼女に肉薄し、そのまま脇腹に向けて蹴りを叩き込んだのである。
二度の打撃によって、イカロスの全身が悲鳴をあげる。
これ以上奴の攻撃を食らうのは危険だと、ひたすらに警鐘を鳴らしていた。
接近戦を挑むのは止めにして、ここは一旦空中へ逃げ出すのが賢明だ。
そう考えたイカロスが、空中へ飛び立とうと背中の翼を広げる。
そこまでは良かった――並の相手であれば、それでこれ以上の追撃は回避できたであろう。
だが、イカロスが対峙しているのは決して並の相手などではない。
例え操り人形同然であったとしても、相手は創世王と謳われたあのシャドームーンなのである。
「えっ――――」
飛行を試みようとした直前、妙な浮遊感がイカロスを襲う。
何が起きたのか理解する前に、彼女の身体は地面に叩き付けられた。
激突した痛みに顔を歪ませる暇も無く、再びイカロスは宙を浮く。
そして再び落下――先程とは違う地点に頭から激突する。
シャドームーンが振り向き際にイカロスの足を掴み、鞭を鳴らす様に彼女を叩き付けたのだ。
その動作は一度ならず、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も繰り返される。
それが数えるのも億劫になる回数になった頃に、シャドームーンは思い切りイカロスを投げ飛ばした。
勢いよく彼女の身体は民家の壁に激突し、そのまま地面に倒れ込む。
いくら頑丈なエンジェロイドと言えど、これ程の暴力を受けては無事では済まされない。
――――カシャン。カシャン。カシャン。カシャン。
後ろから聞こえてくるのは、シャドームーンの足音。
あの悪魔が一歩ずつ、こちらへと近づいてきているのだ。
逃げようにも、傷ついた今の身体では起き上がるのにさえ時間がかかる。
相手がほぼ無傷である以上、逃走はもう間に合わない。
そして案の定、動作を起こす前に翼を掴まれた。
「あ、が……ッ」
ぶちぶち、と。
シャドームーンが力を加えると、イカロスの背中からそんな音が聞こえてきた。
片方しかない彼女の翼が、今まさに引き千切られようとしているのだ。
悶える様な痛みに苛まれながらも、イカロスはどうにか敵から逃れようともがく。
しかし、翼を掴まれてしまっている以上は、どう足掻こうが創世王からは逃れられない。
背中が焼ける様な感覚が数秒続いた後、イカロスの身体は急に前へと倒れ込む。
彼女を引っ張っていた力が消失した――とどのつまり、イカロスの翼がもがれてしまったからだ。
両翼を喪失したという事実を前に、イカロスはただ茫然とする他なかった。
シャドームーンの猛攻は、まだ止まらなかった。
前と同じ様にイカロスを蹴り飛ばすと、今度は彼女の方向に向けて片手を掲げる。
その手から翠色の光が迸ったかと思うと、そこから同色の光線――シャドービームが発射された。
「Aesis」を張らせる隙すら与えずに、その光線はイカロスの片腕を食い千切ってしまう。
これがシャドービームの威力――例えエンジェロイドの外殻であっても、容易く破壊できてしまうのだ。
両翼を奪われ、片腕すらも破壊された。
全身を苛む激痛は判断を鈍らせ、意識さえも朦朧とさせる。
そしてそれと同時に、戦う気力さえも徐々に喪失していった。
男はやはり無言を貫いたまま、手にしたクリュサオルを構える。
あと少し時間が経てば、あの剣はイカロスを引き裂く為に振るわれるだろう。
感情は読めないが、彼が纏う雰囲気は殺気に溢れていた。
しかし、一方のイカロスには、戦う気力などもう残ってなどいなかった。
今の自分に出来る事があるとすれば、ただ処刑の瞬間を待つ事くらいだ。
そして、その先に待ち受けるのは、"死"という結果以外には存在しない。
「……ます……た、ぁ……………………」
せめて、この命が尽きる前に最愛の人と出会いたかった。
偽りの無い世界で、本物のマスターと再会したかった。
だがそれも、今となってはもう叶う見込みの無い望みである。
もうこの"欲望"は、どう足掻いた所で満たされはしないのだから。
万事休すとなってしまった以上、ただ迫り来る"死"を受け入れる事しかないのだ。
そうして、無慈悲にも刃は振るわれた。
クリュサオルがイカロスの柔肌を切り裂き、そこから大量の血が噴き出る。
イカロスが最期に目にしたのは、銀色の装甲を血で濡らしたシャドームーンの姿であった――。
【[→ side:A →]】
精神世界は、言うなれば加頭の心象を具現化したものだと言っていい。
それ故に彼は、破壊された筈のユートピアメモリを使って戦えるのである。
当然この世界の主である以上、その強さも彼自身の心境で変化する。
その証拠として、強い覚悟をその身に秘めた現在の加頭は、シャドームーンと互角に戦えていた。
思うに、それまでの加頭にはまだ覚悟が足りていなかったのだろう。
表面上は戦う意思を見せていても、心の何処かで恐怖を感じていたのかもしれない。
だが今は違う――現在の彼の心には、最早恐怖の一片もありはしなかった。
そこにあったのは、創世王に自分の"愛"を証明させる為の意思と覚悟だけである。
シャドームーンの銀の装甲にはそこら中に傷が付いており、かなり疲労しているのが伺える。
ユートピア・ドーパントの肉体も同様で、この戦いの激しさを嫌でも想像させられた。
お互いに相当なダメージを負っている以上、どちらが負けてもおかしくない勝負である。
一体この状況に至るまで、何時間戦ってきたのだろうか。
憔悴した頭で、加頭はこれまでの戦いを思い返す。
正確な時間は分からないが、とにかく長い時間を戦闘に費やしたのは理解できる。
空へ目を向けると、何時の間にか太陽は姿を隠しており、その代わりと言わんばかりに満月が煌めいていた。
つまりは、昼から夜になるまでの間ずっと戦い続けていたという事である。
もしや現実世界でも、これ程の時間が経過してしまっているのだろうか。
仮にそうだとすれば、それは由々しき事態である。
数時間だけでも殺し合いの状況は激変しているだろうし、何より愛する
園咲冴子の身に何があってもおかしくはない。
それに、数時間も精神世界で戦っているという事は、即ち現実世界では何もしていないのと同義であり、
結局この場でどう戦おうが、冴子の陣営にはそれといった恩恵が齎されないのだ。
彼女に尽くすと宣言した以上、この芳しくない結果は卑下すべきものである。
「あなたとの勝負、これで終わらせます」
満月を背景に仁王立ちするシャドームーンに、そう宣言する。
最早これ以上、この空間で時間を潰している訳にはいかないのだ。
次の交戦で相手の息の根を止め、キングストーンの力を手に入れてみせる。
相手の方も加頭の意思を読み取ったのか、臨戦態勢をとった。
先に動き出したのは、加頭の方であった。
勢い良く跳躍し、そして揃った両脚をシャドームーンに向けて突き出す。
彼の周りでは炎が猛り、雷が踊り、竜巻が暴れ狂う。
加頭は必殺の一撃を以て、シャドームーンを葬るつもりなのだ。
対するシャドームーンもまた、加頭と同様に跳躍する。
そして彼と同じタイミングで、翠色の光を纏わせた両脚を加頭へ向けた。
これこそがシャドームーンが持つ最強の技――シャドーキックである。
エネルギーを充填させた両足による蹴りを以て、創世王は加頭の必殺の一撃に対抗する。
お互いが持つ最上級の技が、今ぶつかる。
そして同時に、これが二人の最後の勝負となるだろう。
打ち負けた方に齎されるのは、"死"の一文字だけだ。
同時に突き出された互いの両足が、遂に激突する。
足に纏わせた強大なエネルギーが触発し、その瞬間光となって周囲を巻き込んでいく。
その激しい光に、当事者であった加頭も飲みこまれ――――彼の意識は、そこで消失した。
【[→ side:E →]】
気付けば、景色は一変していた。
先程までいた廃墟は何処へと消え、広がるのは閑散とした住宅街。
周囲を見渡して、ようやく加頭は自分が現実世界に帰還できた事を認識した。
「――勝てたようですね」
お互いの蹴りがぶつかった直後の記憶は、どう頑張っても思い出せない。
エネルギーが衝突した際、その衝撃が自分を襲ったのは覚えているが、
そこから先に何が起こったのかは全く記憶にないのである。
だが、加頭はそれについて深く考えるつもりなど毛頭無かった。
今の彼に必要なのは、シャドームーンに勝利したという事実だけだからである。
遂にキングストーンを屈服させた――その歓喜に、加頭は打ち震えていた。
加頭の目の前に存在していたのは、血まみれになったイカロスの亡骸であった。
意識をキングストーンに奪われる前に交戦していた彼女が、いつの間にか死んでいる。
不可解な出来事に首を捻るが、血に濡れた自分の身体を目にして事情を察した。
恐らく自分は、意識を奪われた後もこの女とまるで機械の様に戦っていたのだろう。
どの様な戦いをしたかは知らないが、結果として勝利したという訳である。
意識が無い状態でも戦っていたから、メダルもそれ相応に消費しているのだろうと考えたが、
どういう事なのか一枚も消費されてはいなかった。
キングストーンは何を起こすか分からない奇怪な道具と聞いたが、これも所謂「不思議な事」の一種なのだろうか。
試しにクオークスの能力を行使してみると、加頭の首輪の中にあるセルメダルが数枚消滅した。
この結果を見るに、メダルが減らないのは加頭が精神世界で戦っていた時だけの話のようである。
さしずめ、試練を受けている加頭への、キングストーンからの特別サービスと言った所か。
現実世界では、まだそれほど時間は経過していなかったようだ。
未だ鮮血が流れ出ているイカロスの死体が、その証拠である。
自分が予期していた最悪の可能性が的中しなかった事に、加頭は深く安堵した。
まだ間に合う――まだ最愛の人に尽くすチャンスは無数に残されている。
今度は自分がシャドームーンとして、参加者達に死を振り撒こう。
だが、
月影ノブヒコの様に下賤な野望の為に戦うつもりはない。
ただ愛した人に振り向いてもらいたい――その思いだけを胸に、加頭は闘争に赴くのだ。
「今度こそ、私の"愛"を証明してみせます。だから――待っていて下さい、冴子さん」
その言葉を最後に、加頭は踵を返しこの場から離れていく。
向かう場所は、自身が意識を失った――つまりナスカ・ドーパントとしてイカロスと戦っていた場所だ。
一旦あそこに移動して、何処かに落ちているT2ナスカメモリを探さないといけない。
冴子への"愛"の象徴とも言えるあのメモリは、何としてでも自分が保有しておきたかった。
そう――少女の死体を残して、立ち去ろうとしていたのだ。
「再起動……」
事切れたとばかり思っていた少女の声が、聞こえてくるその瞬間までは。
加頭の耳が捉えたのは、本来なら聞こえる筈の無い参加者の声であった。
自身の判断が正しければ、斬り伏せられた彼女の生命活動は、既に停止している筈である。
再び踵を返してイカロスの姿を目にした時には、もう彼女の肉体に変化は起きていた。
「システム確認……オールレッド。
自己進化プログラム『Pandora』起動」
イカロスの身体が、眩い光に包まれていく。
その異様な光景を前にして、加頭は思わず手にしたクリュサオルを落としてしまう。
そんな馬鹿な――目の前で繰り広げられているのは何なのだ。
死亡した筈の彼女の身に、一体何が起こっているというのだ。
輝きを増した光はやがて天へ伸び、巨大な光の塔となる。
まるでそれは、天がイカロスだけを照らしているかの様であった。
そして、その光が収束した頃――加頭の目の前には、新たな脅威が立ちはだかっていた。
欠けた片腕は元に戻っており、翼は修復されるどころか一対から二対となっている。
身体には傷一つ無く、その姿はまさしく天から舞い降りた天使そのもの。
加頭がキングストーンの力を得た様に、彼女もまた力を得ていたのだ。
それこシャドームーンに匹敵するような、莫大な力を――――。
「タイプα、Ikaros。バージョンⅡ――起動します」
最終更新:2013年07月21日 16:14