Lの楽園/砕月 ◆qp1M9UH9gw
【[→ side:E →]】
本当に、これでいいのか。
こんな簡単に生を諦めてしまって、本当に良かったのか。
血に濡れた
イカロスの脳内に響くのは、そんな自問自答。
直後に走馬灯の様に流れるのは、空見町で過ごした頃の記憶。
愛した人や"本物の"仲間達と過ごした、かけがえのない日常が鮮明に映し出される。
空見町で過ごした日々が、次々とイカロスの頭を駈け巡っていった。
辛かった瞬間も、悲しかった瞬間も、喜んだ瞬間も、全ての記憶が浮かんでは消えていく。
守形英四郎がマスターに協力していた記憶が蘇る。
何を考えているかよく分からないが、マスターからは信頼されていた。
五月田根美香子がマスターに理不尽な暴力を振るう記憶が蘇る。
マスターは、そはら以上に彼女を恐れていた。
ニンフがマスターにツッコミを入れる記憶が蘇る。
最初は敵だった彼女も、今ではすっかり日常に馴染んでしまった。
見月そはらがマスターに制裁を与える記憶が蘇る。
毎回彼に激怒しながらも、最後は幸せそうに笑っていた。
駆け巡る記憶のどれもが日常の一部であり、かけがえの無いものであった。
この日常がずっと続いていれば、どれだけ良かっただろうか。
戻りたい――"本物の"仲間が待つ日常に、帰りたかった。
例え叶えようが無いものであったとしても、願わずにはいられない。
本当に、これでいいのか。
こんな簡単に生を諦めてしまって、本当に良かったのか。
最初の自問自答が、再びイカロスの前に突き付けられる。
こんな形で終末を迎えて良かったのかと、問いかけてくる。
(……私、は)
こんな所で、一人ぼっちで心臓の鼓動を止めたくない。
せめて死ぬのなら、マスターを護って死にたかった。
(私は……生きたい……)
マスターの家で"本物の"ニンフに会いたい。
彼女と一緒に、マスターの帰りを待っていたい。
(生きて……マスターと一緒に帰りたい……!)
マスターと一緒に、もう一度空見町の夕焼けを見たい。
今日も良い日だったと笑う彼の横に、ずっといていたい。
(生きたいッ!私は――マスターと一緒に生きていたいッ!)
生きて元の世界に帰り、また本物の"仲間"がいる日常で笑い合いたい。
まだ死ねない――自分の"欲望"を満たさずに死んでなるものか。
過去の記憶は感情を増幅させ、やがてその感情は生への渇望へと変化する。
生まれかけた絶望は霧消し、それもまた生きる為の活力へ転換された。
生きたい――自分の望みを叶える為にも、まだ生きていたい。
本来であれば、それは叶わぬ望みであった。
だが、彼女の増幅された欲望は、一つの奇跡は起こしたのだ。
第二世代のエンジェロイドに搭載された進化のプログラム――その名も『Pandora』。
本来厳重なプロテクトが掛けられたそれは、持ち主の強い感情に呼応して起動する。
欲望が頂点に達したこの瞬間、イカロスによって『Pandora』を縛る鎖は解き放たれたのである。
こうして、イカロスは死の淵から生還したのだった。
『バージョンⅡ』という更なる力を得て、彼女は再びシャドームーンの前に立ち塞がる。
O O O
本能的な危機感を感じた加頭は、すぐさま新たな力を行使する。
戦いの末に勝ち取ったその力とは、シャドームーンへの変身能力だ。
詳細は掴めないが、すぐにでも変身しなければならないと本能が警鐘を鳴らしている。
きっと今の彼女は、シャドームーンの力を以て全力で挑まねばいけない程の強敵なのだ。
僅かでも気を抜いてしまえば、その瞬間に命を奪われてしまうだろう。
「動作テスト――開始」
イカロスの声と同時に、加頭が放つのはシャドービーム。
翠色の光線は、今度こそイカロスの命を奪い取らんと直進する。
これまでならば、それは「Aesis」によって簡単に防がれるだけの一撃だ。
シャドービームは見当違いの方向へ流れ、無関係な施設を破壊するだけに留まるのである。
「Aesis-Ⅱ――伝達に支障、反応速度に4,6fの遅れ。修正します」
だがそれは、イカロスがバージョンⅡへ進化する前の話だ。
性能が著しく上昇した今の「Aesis」は、ただ防御するだけに留まらない。
防がれた光線が「Aesis」に触れた瞬間、それは逆方向へ直進――つまりは反射されたのだ。
シャドービームはそのまま加頭へと襲い掛かり、見事彼に着弾する。
高威力のビームの直撃を受け、加頭は弾かれる様に吹き飛ばされた。
シャドームーンに変身していたから良かったものの、変身していなければ即死していただろう。
遠距離攻撃が通用しないのなら、接近戦を挑むまでだ。
シャドームーンが出せる最大速度で、イカロスへ肉薄する。
「デュアル可変ウイング、動作テスト開始」
しかし、瞬きした瞬間には、既にそこにイカロスの姿はなかった。
もうその頃には、彼女は加頭の背後に回り込んでいたからである。
シャドームーンを凌駕するスピードを前に、加頭は驚愕せざるを得なかった。
「良好。可動装甲テスト、モード=クローズ。
装甲32%減少――旋回性能312%上昇――さらに加速」
イカロスの拳が、加頭に向けて突き出される。
彼は間一髪の所で、その攻撃を腕で受け止めた。
殴られた箇所から広がる痺れから、加頭は彼女の一撃の重さを思い知る。
この攻撃もまた、変身していなければ無事では済まなかっただろう。
「加速――加速――加速――加速――加速――加速――加速」
目にも止まらぬ勢いで、イカロスがパンチを乱打する。
加頭も応戦しようとするが、相手の速度の前では防戦一方になるばかりだ。
「加速――加速――加速――加速――加速――加速――加速」
その勢いはさらに熾烈に、破壊力はさらに強大に。
その頃には加頭の防御も解かれており、全身にイカロスの拳が叩き込まれていた。
彼は抵抗すらままならないまま、暴力の嵐に晒され続けるだけであった。
最後の一撃は、加頭の腹部に吸い込まれるように命中した。
これまで以上の力を籠められたそれの威力は、戦車砲が直撃したのかと錯覚しそうになる程。
加頭は後方に吹っ飛ばされ、そのまま民家にぶち当たる。
彼の身体を受け止めた壁には、大きなクレーターが一つ出来あがっていた。
「ば、馬鹿……な……ッ!?」
あり得ない――こんな話があっていいのか。
シャドームーンに変身しておきながら、何故ここまで打ちのめされているのだ。
圧倒的な性能を誇る筈の創世王が、何の間違いがあって地に伏しているのだ。
力を過信していたからか――いや、シャドームーンの力は凄まじいのは確かである。
こうなってしまったのは、単純にイカロスがその性能を遥かに上回っていただけの話。
「――動作テスト、終了。通常……起動します……」
耳に飛び込んできたその言葉に、加頭はまたしても驚愕する。
あれだけの出力を出しておきながら、まだ動作テストの段階だったと言うのである。
テスト段階を乗り越えた通常段階は、一体どれ程の能力を誇っているというのだ。
「私は……生きる……」
うわ言を呟く彼女の瞳に宿るのは、殺意。
紡がれる言葉はの内容は、さながら恋する乙女の様だが、彼女はこれから目の前の敵を殲滅するつもりなのだ。
「本物のマスターに会いたい……だから……死ねない……!」
空へ飛翔し、最後の一撃と言わんばかりにイカロスが構えたのは、禍々しい色合いをした弓矢であった。
相手に向けられた矢の先端には、彼女の髪と似た色の火の玉が揺らめいている。
それを目にした加頭は、直感で理解する――あの矢が直撃すれば、自分は確実に死ぬ。
例え百戦錬磨のドーパントであろうが、あれを受ければ塵一つ残りはしないだろう。
イカロスが持つ恐るべき兵器を前にして、加頭は愕然とする他なかった。
「……ピンチ、ですね」
これまでの人生で、今この瞬間が最も生命の危機に瀕している。
打つ手が無ければ、自分は二度目の"死"を体感する羽目になってしまうだろう。
この絶体絶命を絵に描いた様な状況を打破する策は――既に手に入れている。
自分はキングストーンの力を取り込みながらも、意識を保っているのだ。
つまりは、今の自分はこの秘石の力をコントロールできるという事である。
奇跡を起こすキングストーンの加護があれば、この状況さえ覆せる筈だ。
そうだ――今の加頭の肉体には、奇跡の権化が眠っているのである。
例えどれだけ戦力差があろうが、キングストーンにはそれを乗り越えれるだけの可能性があるのだ。
そんな力をこの身に宿して、一体どうして絶望する必要があろうか。
そして、イカロスは何の躊躇いもなく矢を放った。
身震いしてしまいそうな程の威圧感が、こちらに迫ってきている。
膨大なエネルギーの塊が、今まさに加頭の命を刈り取ろうとしている。
しかし、彼の心が恐怖に囚われる事などあるものか。
奇跡を勝ち取った今の自分なら、迫り来る絶望すら跳ね除けれる。
否――跳ね除けれられない訳がないのだ!
「シャドーフラッシュッ!」
その掛け声と共に、シャドーチャージャーから翠色の光が放射された。
その光に照らされたエネルギーの塊は、その動きを鈍らせる。
シャドーフラッシュが障壁の役割を果たし、矢の行く手を阻んでいるのだ。
しかし、矢の勢いは凄まじく、妨害を受けても着実にこちらへと近づきつつある。
あれを退けるには、まだ力が足りない――そう判断した加頭は、シャドーチャージャーから放たれる輝きをさらに強める。
しかし、それでもまだ、迫り来る死を止める事は叶わない。
もっと強い光を、更に激しい輝きを放たなければこちらが打ち負ける。
ありったけのメダルを消費して、最大の出力で迎え撃たねばならない――!
「ぐ、う、お、オオオオオオオオオ――――――!」
加頭の叫びと同時に、キングストーンの輝きは最大限に達する。
目と鼻の先にまで迫ったエネルギーの塊は、その暴力的なまでの力を拡散させようとしていた。
少しでも気を抜けば、あれは加頭の命を奪い取ろうと襲い掛かるだろう。
シャドーフラッシュによって威力が削がれているものの、それでも保持しているエネルギーは凄まじい。
だが、このまま光を浴びせていれば、きっとエネルギーを全て消失させれる筈だ。
勝機はまだある――まだ、"死"は絶対のものにはなっていないのだ。
――だが、運命の神はどこまでも非情であった。
何の予兆もなく消失するのは、加頭の切り札であったシャドーフラッシュ。
彼が所持していたメダルが底を尽き、能力の行使が不可能となってしまったのだ。
障害を失ったエネルギーの塊は、そのまま加頭へと直進する。
容赦なく襲い掛かるそれが、銀色の装甲に触れたその瞬間――彼の視界を、眩すぎる光が覆った。
O O O
イカロスが放った「APOLLON」は、その場に存在する全てを平等に焼き尽くした。
膨大な熱量が大地を覆ったその瞬間は、まるで太陽が顕在したかの様。
その"太陽"は闇を暴きながら、瞬く間に世界を喰い尽くしていく。
いくら威力が削がれていたと言えど、それでもその破壊力は絶大なものである。
建物が、街路樹が、道路が、その莫大な力に呑み込まれて消失していった。
僅かな時間で、その場に存在していた物は残らず灰となったのである。
戦場が焼野原と化しても、イカロスは臨戦体制を解こうとはしない。
彼女の眼下に、まだ敵の存在が確認できたからである。
片腕が吹き飛び、銀色の装甲は煌めきを失ってしまっているが、奴は『APOLLON』の直撃を受けてもなお生きていたのだ。
イカロスが視認した直後に怪人の変身は解除され、ぼろぼろになった衣服を着た男がその場に現れる。
「見るも無残」という言葉が、あれ程似合う姿もそうはないだろう。
今のイカロスであれば、今の彼など素手でも容易く殺せる筈である。
そう考え、すぐさま敵へ向けて急降下しようとして――飛行機能が、突如として停止した。
今この瞬間を以て、彼女が所持していたメダルが全て消費されてしまったからである。
無理もない――バージョンⅡへの進化の代価として大量のメダルを消費した上、さらに「APOLLON」まで使ったのだから。
「あっ……」
まだ敵は残っているのに、こんな時にメダルが底を尽いてしまうだなんて。
こんな場所で落ちる訳にはいかないのに、そんな事お構いなしに大地へと落ちていく。
あと僅かな距離まで行けば勝利を掴めるというのに、どうして身体は言う事を聞いてくれないのだ。
地面までそれなりの距離があるが故、
今意識を失えば、確実に相手はこちらに止めを刺しに来る。
だから、こんな時に身体が動かなくなるなんて事態が起こって良い訳がないのだ。
それなのに、何故こんな、示し合わせた様なタイミングで――。
「どうし、て…………」
その言葉の直後に、イカロスは頭から地面に激突した。
抱いた未練などお構いなしに、イカロスの視界は暗転するのであった。
【[→ side:A →]】
全身が痛みを訴え、意識も朦朧としている。
左腕の感覚は既に無く、片目が潰れたせいで視界が狭い。
それでも、死人同然の状態でありながらも、加頭は生きていた。
残ったメダルを総動員してシャドームーンの力を行使し、『APOLLON』からその身を護ったのである。
払った代償は大きいが、加頭は敵の最大の一撃から生き延びたのだ。
今、彼の目の前には意識を失った敵が倒れている。
大方、メダルを使い果たして力を行使できなくなったのだろう。
どういう身体の造りをしているのか、上空から落下しても彼女は息絶えてはいなかった。
こちらは満身創痍の状態ではあるが、「NEVER」の身体能力なら今のあの女など容易く始末できる筈だ。
これ以上ない好機だ――このチャンスを逃す訳にはいかない。
ぼろぼろの身体を引き摺りながら、加頭は敵へと近づいていく。
一歩ずつゆっくりと、それでも確実に彼女との距離を縮めていく。
そうして、あと数歩で標的の元に辿り着こうという所で、加頭は唐突に足を止めた。
彼の表情は驚愕の色に染まっており、その瞳はイカロスを捉えてはいない。
加頭の目に映っていたのは、一人の女性の姿であった。
生涯で最も愛したと言っても過言ではない女が、彼の目の前で微笑んでいたのである。
気付いた時には、既に彼の足はその女へ向けて動き始めていた。
倒れた相手など見向きもしないで、それまで以上に覚束ない足取りのまま、加頭は最愛の人の元へと歩み続ける。
「…………冴子……さん…………」
自分の愛の示したいが故に、加頭は殺し合いに乗った。
これまでの戦いは、全て彼女の為にあったと言ってもいい。
その愛を捧げるべき人が、彼のすぐ先で手を差し伸べていた。
「……私を……認めて、くれる……の……です、か…………」
彼女は加頭の意を汲み、共に戦い抜く事を決意してくれたのである。
嗚呼――己が心中に秘めた"愛"は、今この瞬間に証明されたのだ。
彼女の傍らで戦えるという願いの成就に、どれ程の歓喜が伴うかなど想像に難くない。
加頭順の抱えた欲望が、遂に満たされる時がやってきたのである。
ほとんど言う事を聞かない身体に鞭を打って、加頭は歩み出す。
あと少しで、あの手が届く距離にまで近づける。
僅かな力を振り絞りさえすれば、求めて止まない"愛"を手に入れられるのだ。
全身は鉛を背負っているのかと思う程に重く、意識もはっきりとしない。
それでも、何としてでもあの手を取らなければならないのである。
彼女が差し出した手を掴んで、初めて加頭は彼女の隣に立つ権利を得られるのだから。
後三歩。
消えかかる意識をどうにかして持ちこたえながら、大地を踏みしめる様に歩む。
「…………わた……し、は…………」
後二歩。
倒れそうになりながらも、残り僅かな体力を振り絞ってまた一歩進む。
「あなたの……為、に………………」
後一歩。
限界に近い身体と精神に鞭打って、最後の一歩を踏み出した。
「…………さえ、こ………………さ……ん…………」
遂に、最愛の人の元に辿り着いた。
霞のかかった様な視界に、手を差し出す彼女の姿が映る。
ただそれだけで、身体の痛みが癒えていく様な気さえした。
これまでの人生は、この瞬間の為にあったとさえ思えてしまう。
さあ、最後はあの手を取るだけだ。
それさえすれば、自分の悲願は達成される。
あの手を掴んだ時、改めてこの思いを言葉にして伝えよう。
「感情が籠っていない」と笑われそうだが、それでも構わない。
この胸に溢れんばかりの"愛"は、自分の言葉に乗せて届けたかった。
彼女の手を握りしめ、紡ぎ出すのは愛の言葉。
あまりにも安直だが、それでも強い感情の籠った一言。
「…………愛……して……い、ま…………す……………………」
思いを伝えたその瞬間、加頭の意識は消失した。
最後に感じた手の触感は、温もりに溢れていた。
【[→ side:E →]】
カザリ達が見つけたのは、傷だらけになった天使であった。
周囲の荒れ様からして、恐らく激しい戦闘の末に気を失ったのだろう。
あのエンジェロイドにここまでダメージを与えたのだから、相手はきっと相当な強者に違いない。
そう考察した直後に、イカロスのすぐ近くに服が落ちている事に気付く。
かつては白かったであろうそれは、今ではぼろ切れ同然の有様となっている。
それを目にした瞬間、カザリは事の真相を察した。
不死兵士と謳われる「NEVER」にも、弱点は存在する。
彼らは一定以上のダメージを受けると、肉体を維持できなくなってしまうのだ。
損傷を受けすぎた肉体は塵へ返り、蘇った戦士は二度目の死を迎えるのである。
着ていた服がそのまま残っているという特異な状況から、「NEVER」が死亡したのだと推測できる。
このゲームに参加している「NEVER」は
大道克己と加頭順の二人で、白い服を着ているのは加頭の方だ。
イカロスと加頭がこの場で戦い、結果加頭の方が消滅した――こんな所だろう。
「凄い……!これこそ僕の求めていた物じゃないか……!」
唐突に耳に入ってきた声の方に目を向けると、見覚えの無い石を持った大樹が目を輝かせていた。
彼が反応するという事は、あれは所謂「お宝」というヤツなのだろう。
無邪気な子供の様な表情をした今の大樹からは、不機嫌さはまるで感じられなかった。
「キングストーン!まさかこんな所でお目にかかるなんて……僕は本当にツイている!」
大樹がキングストーンと呼んだその石からは、特に何も感じられない。
カザリとしてはあんな石ころの何処に価値があるのか皆目見当も付かないが、
きっと大樹にとってはコアメダルと同等の価値がある物なのだろう。
支給された者に捨てられなくて良かったなと、大喜びする大樹を鼻で笑った。
「……ん?」
白い服の上で、月光を反射して煌めく何かの存在を察知する。
近寄って確認してみると、それがカザリが最も欲している物である事が判明した。
コアメダル――しかも、彼と同系統の猫科のメダルである。
まさかこんな所で手に入るとは、どうやら自分は運命の女神という奴に好かれている様だ。
カザリは一切の戸惑いも無く、そのメダルを自身と同化させた。
するとどうだろうか――コアメダルを一枚得ただけだというのに、これまでに無い程の力が沸いてくるではないか。
この時のカザリに知る由はないが、彼が取り込んだのは八百年前のオーズが使用したとされるコアメダルである。
通常のコアメダルより遥かに強大な力を内包したそれを取り込んだのだから、彼がこれまでに無い力の滾りを感じるのは当然であった。
コアメダルを回収すると、カザリはイカロスの元に移動した。
地面に頭を打ち付けて気絶しているようだが、この女は頑丈なエンジェロイドだ。行動に支障は来さないだろう。
それにしても、辺り一帯が焼野原になる程の戦闘を繰り広げたにも関わらず、どうして身体には汚れ一つ無いのだろうか。
多少気になりはしたが、それほど詮索する必要性は無いとカザリは判断した。
「さてと、それじゃ早い所、この娘を安全な場所に移してあげないとね」
「……何を言ってるのか判断しかねるね。情でも沸いたのかい?」
「まさか。使い物になるから助けてあげるんだよ」
そう言うと、カザリはイカロスを担ぎ上げた。
相当深い眠りに就いているのか、彼女が目覚める気配は見られない。
激しい戦闘を繰り広げたせいで、相当疲労しているようだ。
まるで僕らとは正反対だなと、カザリは心中で呟いた。
「……やれやれ。また待機とはね」
不満気な大樹を尻目に、カザリは徒歩で目的地へと歩み始めた。
最強の兵器を手に入れた幸運に、口角を釣り上げながら。
O O O
あの放送で得られた情報は、カザリにとっては実に不愉快な物だった。
タイムマシンに詳しい
橋田至の死も中々の痛手ではあるが、それ以上にあの
ウヴァが自分より優位に立っているのが何とも苛立たしい。
どういう経緯であの単細胞が率いる陣営がトップに躍り出たかは知る由も無いが、どうせ暴れ回ったり脅したりでメダルを奪い取ったのだろう。
(まあいいさ。今はお山の大将気取ってなよ)
間違いなく今のウヴァは調子に乗っている。
自分の勝利は目前だと、根拠の無い自信を胸に秘めているに違いない。
馬鹿が――この戦いにおいては、そういう奴が最も足をすくわれやすいのだ。
こんな序盤から暴れていては、奴は大方ゲームの終盤では疲労してしまっているだろう。
疲れ果てたリーダーなど、他陣営の者にとっては葱を背負った鴨も同然だ――どうなるかなど、想像するまでもない。
自分の力量を弁えずに行動すれば、いずれは惨めに死ぬ運命にあるのである。
尤も、あの馬鹿にそれが理解できるとは到底思えないのだが。
このゲームに必要なのは、単に強い"だけ"の仲間ではないのだ。
確実に相手の寝首を掻ける狡猾な仲間こそが、このゲームを優位に働かせる。
「FB」にのみ従う
桐生萌郁の様な、他の陣営でありながら自身に利益を齎す者など、これ以上無い程の逸材だ。
ああいう者を有効活用した陣営こそ、このゲームに勝利できるのである。
(そういう意味じゃあ加頭順も利用価値があったんだろうけどねぇ……仕方ないか)
自陣営の参加者である
園咲冴子を第一とする加頭は、カザリにとっては扱いやすい参加者の一人だった。
彼が戦闘の末死亡したのは実に残念ではあるが、イカロスと共倒れしなかっただけまだ良いとしよう。
今も眠り続けている空の女王を保護できただけでも、十分幸運なのだから。
どういう経緯があったかは知らないが、彼女の首輪の光の色は赤ではなく緑となっている。
どうにも信じ難いが、ウヴァは彼女を緑陣営に引き込むのに成功していたのだ。
少しは頭を使っているのだなと、カザリは僅か彼への評価を改める。
(ま、結局僕のモノになるんだけどね)
イカロスの
桜井智樹に固執する一面を突けば、あの虫頭でも籠絡自体は容易い。
しかし、裏を返してしまえば、彼女は智樹の存在一つでその在り方を簡単に揺らがせてしまうという事だ。
あの男の事だから、どうせこの女に大した事は言ってないに違いない。
頭脳面では彼に勝るカザリにならば、今の彼女を利用する術など無数に考えられる。
今は不利だとしても、結局は最後に勝てればそれで良い。
この場に存在するいあらゆる欲望を道具にし、この戦いに勝ち残ってみせようではないか。
美談の様な正義も、心を揺さぶる愛情も、自分が王の座にたどり着く為のパーツでしかないのだ。
「せいぜい頑張ってよ――僕の為に、ね」
【一日目 夜】
【E-6 北西】
※加頭の基本支給品、ガイアドライバー@仮面ライダーW、超振動光子剣クリュサオル(メラン)@そらのおとしものは消滅しました。
【イカロス@そらのおとしもの】
【所属】緑
【状態】健康、気絶、そはらと
アストレアの死に動揺
【首輪】0枚:0枚
【コア】エビ(放送後まで使用不可能) 、カニ(放送後まで使用不可能)
【装備】なし
【道具】アタックライド・テレビクン@仮面ライダーディケイド
【思考・状況】
基本:生きて、"本物の"マスターに会う。
1.本物のマスターに会う為にも偽物の世界は壊す。
2.嘘偽りのないマスターに会うために緑陣営以外は殲滅する。
3.共に日々を過ごしたマスターに会うために緑陣営を優勝させねば。
【備考】
※22話終了後から参加。
※“鎖”は、イカロスから最大五メートルまでしか伸ばせません。
※“フェイリスから”、電王の世界及びディケイドの簡単な情報を得ました。
※このためイマジンおよび電王の能力について、ディケイドについてをほぼ丸っきり理解していません。
※「『自身の記憶と食い違うもの』は存在しない偽物であり敵」だと確信しています。
※「『自身の記憶にないもの』は敵」かどうかは決めあぐねています。
※最終兵器『APOLLON』は最高威力に非常に大幅な制限が課せられています。
※最終兵器『APOLLON』は100枚のセル消費で制限下での最高威力が出せます。それ以上のセルを消費しようと威力は上昇しません。
『aegis』で地上を保護することなく最高出力でぶっぱなせば半径五キロ四方、約4マス分は焦土になります(1マス一辺あたりの直径五キロ計算)。
※消費メダルの量を調節することで威力・破壊範囲を調節できます。最低50枚から最高100枚の消費で『APOLLON』発動が可能です
※『Pandora』の作動によりバージョンⅡに進化しました。
【カザリ@仮面ライダーOOO】
【所属】黄
【状態】健康
【首輪】90枚:0枚
【コア】ライオン×1、トラ×2、チーター×2、トラ(10枚目)(放送後まで使用不可能)
【装備】ヴァイジャヤの猛毒入りカプセル(左腕)@魔人探偵脳噛ネウロ
【道具】基本支給品、詳細名簿@オリジナル、天王寺裕吾の携帯電話@Steins;Gate、ランダム支給品0~1
【思考・状況】
基本:黄陣営の勝利、その過程で出来るだけゲームを面白くする。
1.イカロスを保護する。
2.
メズールが居ると思しき場所へ向かい、青陣営を奪う。
3.「FB」として萌郁に指令を与え、上手く利用する。
4.笹塚に期待感。きっとゲームを面白くしてくれる。
5.海東に興味を抱きながらも警戒は怠らず、上手く利用する。
6.タイムマシンについて後で調べてみたい。
7.ゲームを盛り上げながらも、真木を出し抜く方法を考える。
【備考】
※対メズール戦ではディエンドと萌郁を最大限に利用するつもりです。一応青陣営である萌郁は意外なところで切り札にもなり得ると考えています。
※10枚目のトラメダルを取り込みました。
【海東大樹@仮面ライダーディケイド】
【所属】黄
【状態】健康、上機嫌
【首輪】20枚:0枚
【コア】クワガタ:1
【装備】ディエンドライバー@仮面ライダーディケイド、ライドベンダー@仮面ライダーOOO
【道具】基本支給品一式、支給品一覧表@オリジナル、不明支給品("お宝"と呼べるもの)、キングストーン@仮面ライダーディケイド
【思考・状況】
基本:この会場にある全てのお宝を手に入れて、殺し合いに勝利する。
1.今はカザリに協力し、この状況を最大限に利用して黄色陣営を優勝へ導く。
2.チャンスさえ巡ってくれば、カザリのメダルも全て奪い取る。
3.他陣営の参加者を減らしつつ、お宝も入手する。
4.天王寺裕吾の携帯電話(?)に興味。
5.“王の財宝”は、何としてでも手に入れる。
6.いずれ真木のお宝も奪う。
【備考】
※「555の世界」編終了後からの参戦。
※ディエンドライバーに付属されたカードは今の所不明。
※キングストーンは現在発光していません。
【[→ side:A →]】
果たして、加頭が最期に見たのは何だったのか。
幻覚なのは誰にでも理解できるが、それを生み出したのは何者だったのだろう。
彼自身の脳が生み出したのか、はたまたキングストーンの効力の一つなのか。
何にせよ、加頭は二度目の死を迎えた。
彼が愛していた女がそれに気付くのは、次の放送が終わってからだろう。
詳細は定かではないが、恐らく彼女は加頭の死に涙を流しはしない。
欠片も愛していない男など、女にとってはどうでもいい存在に過ぎないのだから。
彼が秘めた深い"愛"を知る者は、もう何処にもいない。
少なくとも、このゲームにおいては彼の"愛"が語られる事はないだろう。
命懸けの献身には、一寸の価値すら無かった。
加頭順の"愛"は、もう誰にも届かない。
【加頭順@仮面ライダーW 死亡】
※T2ナスカメモリがE-6の何処かに放置されています。
最終更新:2014年05月21日 00:42