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交わした約束と残した思いと目覚めた心(前編)◆z9JH9su20Q







 ――――交わした約束、忘れないよ






「だぁあああああああああああああああああっ!!」

 雄叫びと共に。美樹さやか――新生した仮面ライダーエターナルは、込み上げる衝動のままに目の前の道を直走る。
 右手に握るのは受け継いだ専用武器、エターナルエッジ。短く優美ながらも、力強く勇ましい刃に月光を照り返らせ、その刀身を眼前の悪へと抉るようにして繰り出す。

「――だから甘いと言っておるのだ、ド素人の小娘がっ!」

 しかしその突きは、ハイパーアポロガイストの翻した太陽を模した楯によって軽々と払い除けられた。
 仮面ライダーに変身したことで更に強化された脚力による、最速の刺突。必殺を期した一撃をあっさりと弾かれたエターナル=さやかは、思わぬ結果に瞠目する。
 そして理由を悟った時には、アポロガイストの炎を纏った翼に打ち据えられて、思わず後退させられていた。

 必中を狙った最速の一撃はしかし、正直に過ぎた。しかも得物が変わった最初の一撃では、ガイアメモリによる補正を加味しても、僅かながらとは言え誤差も存在する。
 エターナルの再誕に動揺している最中だったとはいえ、真正面から飛び込んだのでは、アポロガイストに立て直す時間を与えるのに充分過ぎたのだ。
 いくら彼の力を受け継いだとはいえ、だからこそ高揚のままにではなく、冷静に立ち回らなければならなかったというのに――漲る力と意志を御しきれず、さやかは思わぬ隙を作ってしまっていた。

 そんなエターナルを押し退けた翼を、アポロガイストはそのまま高々と掲げ、その羽の先に無数の火球を灯し出す。
「喰らうが良い!」
「く……っ!」
 同じくエターナルへの変身を果たしたとはいえ。連続で放たれる火球の全てを回避できるほどの判断力は、大道克己ならともかく、美樹さやかには未だ備わっていない。
 故にエターナルローブを翳して猛攻を凌ぐという選択肢を余儀なくされるが、被弾を許すたびに残り僅かなメダルが消費されて行くのを感じ、さやかはエターナルの仮面の奥で臍を噛む。

「――ぐぉっ!?」
 しかし次の瞬間、アポロガイストのくぐもった声と共に、火炎による制圧射撃の矛先が逸れ――その隙に気づいたエターナルは再び、膝を弛めて大地を蹴る。
「やぁあああああああっ!」
 文字通り超人の跳躍力で、一息足らずに距離を詰める。
 間合いの足りなくなった刃物では、遠距離からの奇襲に用いるには迎撃を振りきれない。
 だから、その防御ごと打ち飛ばす――!
「――っぅあぁああっ!!」
 気合の叫びと共に引き出した、エターナルメモリの余剰エネルギー。ガイアメモリの王者の力が転じた蒼炎を纏った蹴りは、アポロガイストの掲げた楯を跳ね上げるのに充分な威力を有していた。
 がら空きとなったアポロガイストの胴体目掛け、エターナルは更に距離を詰める。
 払い除けようとするようなアポロフルーレの一閃は、取り回しに優れるエターナルエッジの刀身で走らせて、受け流し――全力で、身体をぶつける!
「ぬぅおぁああああああっ!?」
 エターナルの痛烈な体当たりを受けて、アポロガイストは膝裏に突き立てられていた金の杭を支点にひっくり返る。エターナル自身が転びかねない勢いがそれで終わることはなく、アポロガイストの身体は更に後方へと投げ出されて行く。

「――立てる!?」
 その隙にエターナルは、先程の窮地を救ってくれた仲間に呼びかけていた。
「あ……、ああ」
 金色の装甲を纏った漆黒の仮面ライダー――ライジングアルティメットクウガに。
 敵手の放つ焔の弾幕にエターナルが釘付けにされていた時、アポロガイストに踏みつけられていた彼が咄嗟に肘を敵の膝裏に叩き込むことで体勢を狂わせ、逆転のチャンスをくれたのだ。
「……すまない、さやかちゃん。俺は……」
 しかし、俯くクウガから聞こえる小野寺ユウスケの声は、どこかか細かった。
 アポロガイストからあれほど手酷い暴行を受けながら、今立ち上がったその絢爛な威容は少しも貶められていない。ネウロや克己でさえ苦戦した頑健な装甲と、さやか以上の驚異的な治癒力の為せる業だろう。
 だから彼の声を翳らせている痛みの正体は、身体に受けた傷以外にあることがさやかにも理解できた。

「……良いよ、そのことは。あいつは――克己はあんたに、自分を責めて欲しいなんて思ってないよ」
 きっと、そうだ。
 操られ、利用されていただけの彼は悪くない。
 だから克己も、彼に後を任せたはずなのだ。

「それより今は、あんたの力を貸して――仮面ライダークウガ」
 故にさやかは、ユウスケに助力を乞うた。
「悔しいけど、あたしだけじゃまだアポロガイストには敵わない」
 立ち上がり、再び武器を構えた赤い怪人と向き合いながら、エターナルは微かに声を震わせる。
 先程の短い攻防で痛感した。いくら同じ祈りを理由に彼の力を継いだからって、自分はまだまだ亡き師匠に追いつけていない。
 しかし絶望する気も、意地を張る気もさやかにはない。そんな必要はないのだと、克己と過ごした時間の中で学んでいたから。

「克己との約束を果たすには……あんたの力が必要なんだ」
 あの悪を、克己の仇を一人で倒せる力が――ないわけではないのに、使い熟せない自分のことは確かに悔しい。
 それでも祈りを忘れることなく。さやかは素直に、出会ったばかりの同志に共闘を申し込めた。

「……わかった。大道さんには悪いけど、俺も今は一人じゃあいつを倒せそうない……」
 そんな新たなエターナルの言葉を受けて、クウガも落としていた視線を眼前の敵手に向け、少女の隣に並び立つ。
「だから、君の力を貸してくれ……仮面ライダーエターナル」
「オーケー、望むところっ!」
 弾むような声で頷き、エターナルはクウガに背中を預けて得物を構える。

「……ちぃ、小癪な仮面ライダーどもめ」
 その様を見て、忌々しそうにアポロガイストは舌打ちした。
「二人がかりとはいえ、弱体化したクウガに中身が小娘となったエターナル……貴様ら程度、このハイパーアポロガイストの敵ではないのだ!」
「……やっぱりやってみせなきゃわかんないみたいだね、あんたみたいなバカには」
 構えを解かぬまま、エターナルは最早怒りですら無い闘志を胸に、アポロガイストの言葉を否定する。
「それにあんたの敵は、二人だけじゃない――!」
「ふん……今更アンク達が、何の力になると言うつもりだ!?」
 少女の啖呵をアポロガイストが嘲笑い、それにさやかは笑い返す。
「だからわかってないって言ってんのよ、あんたには!」
 今――ここにさやかを立たせているのは、さやか一人の力ではない。
 さやかに勇気をくれるのは、ユウスケやアンク、ネウロ達だけではない。
 こんな自分を認めてくれた、忘れ得ぬ仲間達が今も、この胸にいるのだから。

「何をわけのわからぬことを……まぁ良い。せいぜい現実を知って絶望するまで、滑稽な夢でも見ているのだな!」

 さやかの言葉の意味は、悪の大幹部に届くことなく。しかし届かせる必要もなく。ただ今は、この力でわからせてやれば良いと彼の形見(エターナルエッジ)を強くその手に握り込む。

 次の瞬間。赤い翼を広げ、迎え撃つ悪の大幹部と――地を蹴った二人の仮面ライダーの間の距離が消失し、雌雄を決するべき最後の戦いの火蓋が、ここに切って落とされた。








      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○       ○○○






「……ふむ。まずいな」

 そうして始まった激突を目にして呟いたのは、傷ついた身体を引き摺って戦場に向かおうとしていた魔人、脳噛ネウロだった。

「笑えるほど遅いとは思っていたが、本当にここまで遅いとはな……」

 魔人の手の中には、残された魔力の全てを費やし召喚(ローディング)を始めた絶対無敵の切札が、その片鱗を顕現させようとしていた。

 魔帝7ツ兵器(どうぐ)が一、“二次元の刃(イビルメタル)”。ネウロの手持ちの武器の中でも最強であると同時、グリードと化し、通常の手段では息の根を止めることのできないアポロガイストを唯一倒し得るジョーカー。
 その強大過ぎる力故に、召喚には莫大な魔力と多くの時を必要とする。そもそも瀕死に近い今のネウロが使用できるかも怪しい代物ではあったが……意外にも、発動自体に課されたコストは低かった。
 攻撃できる範囲と捕捉数が劣るためなのか、他の魔帝7ツ道具と比べれば、Xとの戦いで使用したそれらの半分程度のメダル消費しかなかったのだ。

 しかし……それはただ、発動するだけのコストの話。
 いざ攻撃に転用できる状態――即ち召喚の完了まで、体感に基づき推測すれば、千秒近い時間を要求されていたのだ。

 仮面ライダー達は二人がかりで戦線を支えているが、方や未熟、方や疲労困憊となれば、今のアポロガイストを相手に戦力が足りているとは言い難い。
 数の差で粘れば勝ちの目もあるかもしれない。しかしこのままでは奴を倒しきる前に、エターナルとクウガのメダルは底を突くだろう。遠からず、少なくとも十五分は保たずに。
 そうなればアポロガイストに抗し得る戦力など残されておらず、“二次元の刃”による攻撃が可能となる前にネウロ自身も殺害されて終わってしまう。

「……手が足りん」
 精彩を欠いて、あるいは未熟ゆえに攻撃を捌かれ、焔に押されて後退する二人の姿を目にしたネウロは、苦々しくそう吐き出した。
 勝ち筋は見えている。だがそこに到るまでの道を崩され、間に合わない。今のままでは勝機はない。
 何か、もう一手。その欠損を埋めるだけの何かを見出さなければ……

「おい」

 そんな思考を遮る声が届くまで、ネウロは彼の接近に気づくことができなかった。
 魔力の枯渇と身体的ダメージによる精神消耗と、”二次元の刃”の召喚に意識を割いていた間に――身を隠していたはずのアンクが再び、その姿を現していた。
 アンクはその険しい視線をネウロの右手に向けたまま、口を開く。

「今呼び出してるそいつが、コアを砕ける能力か」
「……気づいていたのか」
 微かな驚嘆を胸に覚えながら、ネウロは婉曲な肯定を返した。
 そしてそれ以上の――喜悦にもよく似た、ある意味先程さやかに感じた物にも近しい感情に満たされていくのを自覚しながら、アンクの姿を睨めつける。

「それは単にコアを砕くだけじゃなく……奴を倒すのに使えるのか?」
「ああ。完成すれば魔界王にも防げない……あのアホ一匹に使うには豪勢に過ぎるが、確実に無力化できるだろうな」
「……なら、何でさっさと叩き込まねえ。何が足りないんだ」
「間合いもそうだが……これは呼び出すのに時間が掛かる兵器なのだ。完了までまだ500秒近くは必要だろう」

 ネウロの返答に、仮面ライダーの健闘も限界が近いことを見取っていたアンクは、苛立ちを隠そうともせず舌打ちした。

「使えねぇじゃねぇか」
「我が輩もここまでとは思っていなかったぞ。時間を短縮できるにしても、余力が残らんのでは時間稼ぎもできん」
「……何?」

 ――喰いついた、とネウロは微かに頬を緩めた。

「どうやらこの刃、召喚を始めるコスト自体は15枚で済むらしいのだが……追加で我が輩の持つメダルを強制的に吸い上げて、その分召喚に要する時間を圧縮できるらしい。おかげで召喚しながら奴を抑える目論見が崩れた」

 制限がもう少し緩ければ、この体調(コンディション)でも召喚に要する時間はもう少し短かったかもしれない。
 あるいは発動まで魔力(メダル)をプールしておけるのなら、まだ多少は動けるネウロもさやか達に加勢することで単純に的を増やし、戦線を維持できる時間を引き伸ばす手筈だった。
 そしてそもそも発動ができないなら、手元に残った魔力で別の手段を模索するのみ。
 そんな考えだったが、しかし実際には、どれも叶わなかった。召喚に要する時間は予想以上で、発動を終えてではなく先にコストを要求された。それもどんな悪徳か、ネウロに有無を言わさず根刮ぎメダルを持って行かれたのだ。
 切札中の切札であるからと、ここまで試し打ちもせず、制限を確認していなかったことが土壇場で響いてしまった。

 だが……それを補う手段があることを、ネウロは知っている。

「それで? 貴様もまさか、ただ世間話に来たわけではあるまい」

 そう――非常食とも見込んでいた、アンクという存在を。
 今、彼を殺してメダルを奪う余力すらネウロには残っていない。しかしアポロガイストを撃退しなければ先がないのは、おそらくは他の誰よりアンク自身だ。
 この危機的状況において協力を拒まれることはないと、ネウロは踏んでいたのだ。
 但し。

「……何枚だ」
「さあ。先程は十枚ほどの追加で一割は短縮できたが、この先も同じ比率とは限らん。そもそもが我が輩が干からびるほど燃費の悪い兵器であることを考えれば妥当なところなのだろうが……さてアンクよ、今は何枚余裕がある?」

 そう――そもそもアンクが提供できる限界値に達していれば、話は変わって来てしまう。
 未だに体を維持できているのなら、枯渇しているということはないはずだ。
 だがそこに余裕が無いのであれば。アンクに延命のために血肉を削る覚悟はあれど、それで死んでしまうような愚は犯すまい。

「……貴様のコア、アポロガイストに奪われているのだろう? あの虫頭ではない貴様は、どこまで保つ?」
「……さあなァ。少なくとも、今すぐ撃てるほど貸してやれそうにはない」

 案の定のアンクの返答に、しかしネウロも引くことはできない。
 限界があるなら、限界まで絞り取る――それがネウロの考え方であり、やり方であり、そしてこの場における唯一の活路である以上、譲歩することなどあり得ない。
 そんな風にネウロの意志が固まる横で、再びアンクが口を開いた。

「……だが、そいつを完成させるまで、おまえは使い物にならないんだったな?」
 溜息と共に漏れた言葉には、諦念――というよりはそれを装った何か別の感情が潜んでいる気もしたが、あいにくネウロはその手の機微には疎かった。

「あいつらだけじゃ手が足りないんなら、出し惜しみしたって俺まで死ぬだけだ」
 もう少し難儀するかと思ったが、意外にもあっさりと、アンクも覚悟を決めたようだ。
 いや、そもそもネウロに声をかけてきた時点で、アンクとてこの展開は予想していたのだろう。ならば覚悟など、とっくの昔に決まっていたに違いない。
 奥の手を見透かされていたことといい、ネウロはこの人外への評価を改める必要があると認識した。
 微かに愉悦の滲んだ笑みを漏らしていることを自覚しながら、ネウロはアンクに告げた。

「どの程度短縮できるのかはわからんが、使い物にならない者を徒に増やしても仕方あるまい。献上は意識の消える寸前で止めても許してやろう」
「てめぇ、状況が状況だからってなァ……後で覚えてろ」

 ネウロの物言いに顔を顰めながらも、怪人が魔人へとその異形の腕を差し出した、次の瞬間のことだった。

「――っ、さやかァッ!」

 アンクの切迫した叫びに振り返ったネウロが――アポロガイストの前で生身を晒すさやかの姿を、その目に収めたのは。






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 拳の打ち込みを潜り抜けられ、逆袈裟の反撃に姿勢を崩す。
 横合いから突撃していたエターナルをついでに牽制する翼の一振りで、重心の安定を欠いていたクウガはその身を宙に舞わせていた。

「……クソッ!」
 ダメージは軽い。それによるメダルの放出すらない程度でしかない。
 なのにこうも踏み止まれない身体の鈍さに、クウガに変身したままユウスケは臍を噛んだ。
 奴に操られていた間は、経験したことのないほどの力が身体に満ちていたというのに――今はそれを引き出すことができない。
 この身に植え付けられた力――笑顔を奪ってしまったそれを、笑顔を守るためには揮えない。

 苦い思いを噛み潰しながら、ユウスケはその足で走り出す。ナイフによる一撃をまたも楯に阻まれ、その隙に連撃を受けて防戦一方となったエターナルの元に駆けつけると、体当たりでアポロガイストを引き剥がそうとする。
 ……だが、ここに至っても、まるで神経や筋組織に異物が潜り込んでいるかのように、思うような力が出せない。

「ぬるいわ!」
 そうして手間取っている間に、アポロガイストの振り下ろした剣の柄で強かに背中を打たれ、更に崩れた先を膝で迎え撃たれる。
「ユウスケっ!」
 蹴り上げられたまま転がっているところを、守るべき少女の変身したエターナルに受け止められる不甲斐なさに、クウガは再び拳を握り締める。

「言っただろう。地の石に抗った反動と、矛盾した命令でアマダムの混乱した今の貴様では、私に勝つことなど不可能! 大人しく死を受け入れるのだ!」
「――っ、誰が!」
 反発して立ち上がるが、鈍った反動ではアポロガイストが構えた銃口から逃れきれず、放たれた炎弾に呑まれて再び後方へと身を運ばれる。

 地に叩きつけられるまで追撃がなかったのは、その間にエターナルがアポロガイストに突貫し、クウガの隙を庇ったからだ。

 だが、またしてもコンバットナイフによる攻撃は日輪の楯に食い止められ、その影から突き出された刃が肩口を掠める勢いのままにエターナルは後退する。
 後は繰り返しのように、広がった翼がエターナルを打ち据えるだけ――かと思われたが、アポロガイストは舌打ちを残し、その翼を停滞させた。

 ――同じ攻防の繰り返しの中で、しかしさやかは消耗より早く学習していたのだ。
 クウガが不調である分まで補おうとする気持ちと、残されたメダル量への焦燥が、彼女の攻め気を高め過ぎていることは、ユウスケにも見て取れていた。
 しかし初めての変身、慣れない武器で防御より攻撃を優先して勝てるほど、アポロガイストは甘くない。
 だから、彼女はかつて我武者羅なだけの攻めを諌められたことを思い出し――敢えて踏み込みを浅くして、反撃に備えたのだ。
 ここまでのパターン通りに、その追撃として翼が振り抜かれれば、更なる反撃としてそれを切って捨てられるように。

 しかし相手もさるもので、アポロガイストは寸前にそれに気づき、逆に距離を取られてしまった。
 再び火炎の嵐に見舞われるエターナルの元に駆け出そうとして、しかしクウガは一度冷静に立ち返る。

 居ても立ってもいられないのはさやかも同じだ。ユウスケよりも、目の前で大道克己を喪った彼女の方が、心に受けた傷も大きいはずだ。
 なのに、自分が耐えられないからと、我武者羅に飛び込むばかりで一体どうする。
 本当にそれしか手段がないなら仕方ない。だが、ひたすらに突撃を繰り返すしか本当に打てる手段はないのか、もう一度よく考えろ。
 克己の繋いだ希望を――さやかの奮戦を、無駄にするな。

「――――!」
 そうして突破口を見つけるべく、思考を巡らせたユウスケの脳裏に一つの賭けが閃いたのは……アポロガイストの強烈な一撃によってエターナルのメダルが枯渇し、美樹さやかがその生身を晒す寸前のことであった。






      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○       ○○○






 薙いで、打って、撃つ。
 爆炎を孕んだ剣閃を繰り出して、アポロガイストはエターナルを間合いの外に弾き出す。

「ぐぅ……っ!?」
「甘いと言ったはずだ小娘。貴様が仮面ライダーの力を得たところで、中身が貴様のような未熟者では意味など無いのだ!」

 確かにエターナルエッジによる攻撃は速さと回転数に加え、ハイパー化したアポロガイストの躯さえ貫くに充分な威力を兼ねた脅威そのものだ。
 だが間合いは短い。距離を詰めさせなければどうということはなく、左右の翼にアポロフルーレ、ガイストカッターと近中距離を制圧する攻撃手段を豊富に揃えた今のアポロガイストからすれば、それは実に容易いことなのだ。
 距離を詰めなければ何もできないのは、空いた手足の三本も同じこと。先程は防御ごと跳ね上げられたが、エターナルの打撃と言えど来るのがわかっていれば充分持ち堪えられる。
 そしてマントの防御だけに頼って距離を詰めようというのなら、攻撃しても無駄なのがわかっているのだから付き合うことなどせず、牽制でメダルを削りながら距離を取れば良い。
 文字通り足元を掬いに来ていたクウガも今は密着しておらず、視界の隅で常に動きを把握できている。
 邪魔が入ることもなくなった以上、アポロガイストにエターナルが攻撃を届かせることは叶わず、一方的に攻撃を受けるだけとなるのも当然の帰結だった。

 しかし、アポロガイストの繰り出す怒涛の攻めは、なおもエターナルを仕留めるには及んでいなかった。
 変身者である美樹さやかの、ゾンビ故の再生力は疾うに把握している。何度攻撃を浴びせたところでその動きに陰りは見られず、その持久力は間違いなく厄介であるとアポロガイストも認めていた。

 ――だが、それだけではないのだ。要因は。

 アポロガイストの一撃を、エターナルはローブで捌く。
 そう、捌く。
 正面から万全の防御として受け止めるのではなく、最低限の接触でメダル消費を抑えながら、攻防の転換のラグを最低限に抑えることができるように。
 それでも彼女の刃は未だアポロガイストに届くことはないが、徐々に、しかし着実に、その喉笛までの距離を縮めつつあった。

 ――最早美樹さやかのそれは、殺し合いが始まった直後の交戦時のように、自らの弱点を晒すような素人丸出しの戦い方とは違う。
 挙動に緩急をつけ、時には反撃のための誘いの隙を見せるなど……ほんの数分前と比べてみても、格段に戦士として成長しているのだ。
 変身直後の、感情に振り回された初撃はともかく。既に彼女を本気でド素人と罵ることはできまいと、アポロガイストも内心では認めていた。

 素人ではなくとも、未だ歴戦の精鋭とはとても言えないだろう。だがこの短時間で成長していく彼女のセンスを軽視することは決してできない。

 こちらがこれだけの好条件を揃えていても、変身者があの大道克己のままならば、おそらくエターナルはアポロガイストの呼吸を読んで喉笛を狙うこともできていただろう。
 もちろん経験の不足している今の美樹さやかに、繊細な洞察力があってこその大胆さを要求される技術を発揮することはできないが――この少女は、その大道克己の指南を受けた後継者なのだ。

 持久戦に持ち込めば、不死身のゾンビだろうと先にメダルが尽きるのは仮面ライダー達の方だ。
 だが逆を言えば、持久戦ではメダルが切れるまでこちらも彼らを仕留めることはできない……その短いはずの猶予で、エターナルが真の意味で復活することをアポロガイストは恐れていた。

「気味の悪いゾンビぶりだが、いつまで続くか見ものなのだ!」
 だからこそ。そんな焦りはおくびにも出さないまま、敢えて舌先に載せる言葉は実際の認識とは真逆のものを選んでいた。
 全てはさやかの油断を招き、焦燥を煽り、感情に惑わされた末に生まれる、勝負を決める隙を作らせるために。
 今この瞬間は安全であっても、成長の余地を与え窮鼠が猫を噛みかねない長期戦に持ち込むのではなく、急所の宝石を早々と打ち砕いてその芽を詰むために。

「……だったら!」
 そんな狙いを秘めながらも、表面的に続けるのは延々と距離を保つような消耗戦。それにエターナルも痺れを切らしたのか、ローブを前面に展開して再びの突貫を開始する。
 当然、それまでの繰り返しのように距離を稼ぎながらアポロガイストは飛び道具による牽制を重ねる。しかしエターナルはメダルの消費を惜しまず、更なる勢いで突っ込んで来る。
 追い詰められた彼女が勝負に出たのだと気づいたアポロガイストはそこで迎撃をやめ、更に距離を稼ぐことに専念する――のではなく、敢えて狙いに乗ることにした。
 エターナル=さやかにとってのみならず。これこそがアポロガイストの待ち望んだ、千載一遇のチャンスと見なして。

「喰らうが良いのだ!」
 数瞬の溜めの後、繰り出したのは特大の火炎弾。
 爆炎による破壊そのものは掲げられたローブに阻まれるも狙い通り、それ自体が死角となってエターナルの視野を塞ぐ――アポロガイストの姿を隠すのに、充分なほどに。
「――終わりだっ!」
 口端を歪めながら、アポロガイストは即座に身を運ぶ。こちらの攻撃を尽く無為化する絶対防御の暗幕、その背面へと。
 これまでの動き通り、距離を取られるものと予想しただろうエターナルの意表を突き、明確な隙となった瞬間を狙うためにローブの裏側に回り込んだアポロガイストは愛刀を構え――そして瞠目した。

「いないっ!?」
《――UNICORN!!――》

 明かさた暗幕の裏の空白に驚愕の声を漏らしたのと、上空からその電子音が降りて来たのは全くの同時。
 辛うじて視線だけを間に合わせれば、そこにはローブを脱ぎ捨てたエターナルが、拳を番え降って来ていた。
 アポロガイストにもどうしようもない、絶対防御のローブこそエターナルの切札――その認識を逆手に取られた。
 悪の大幹部との読み合いを制し、手玉に取ることができるほど彼女は既に成長していたのだと悟った時には、既に遅かった。
 勝負を終わらせるつもりで構えていたアポロガイストの隙を突き、最早防御の間に合わないところにまで翠の閃光と化した拳が肉薄していたのだから。

「やぁあああああああああああっ!!」
《――MAXIMUM DRIVE!!――》
「おぐぅっ!?」
 エターナルの繰り出した一撃は、咄嗟に身を捻るぐらいしかできなかったアポロガイストの横面を思い切り捉えた。
 首が取れるかと錯覚する一撃。兜が拉げ、左側の飾りが折れ、そして身体が宙を舞うで、しかしアポロガイストもただでは転ばない。
「舐めるなっ!」
 防御が間に合わないと悟った時点で、アポロガイストは既に反撃に意識を割いていた。結果として照準できたマグナムショットは、ローブを手放し、攻撃後の微かな隙を突いてエターナルを確かに捉えた。
 起死回生の博打に精魂を一度絞り尽くしていたエターナルは、焔を纏った着弾にもんどりを打って倒れ、そしてその白い装甲を消失させた。

「……小娘なりによく頑張ったと褒めてやりたいところだが、これで終わりなのだ!」

 今の攻防で、遂にメダルが枯渇したのだろう。あるいはそれ故の捨身だったのか。
 駆け引きに敗北しようとも、どんな形であれ生き残った者こそが勝利者――ベルトに触れることなく生身を晒した美樹さやかを目にした己にそう言い聞かせながら、アポロガイストは再びマグナムショットの銃口を向ける。

「――さやかァッ!」
 銃爪を引く一瞬前、アンクの絶叫が耳に入り、アポロガイストは微かに視線だけをそちらに向ける。
 見ればアンクが、またガイアメモリらしき長方形の物体と――気配でわかる、奴に残されていた最後のコアメダルを、さやか目掛けて投擲したのが確認できた。

(哀れな奴なのだ)
 いや、それとも幸運なのだろうか。
 コアの放出によって瞬く間に失われていくアンクの気配、結果として崩れて行く躯の様子を目にしながら――そこまでして救おうとした相手が吹き飛ぶのは、最早避けようがないことなのだと、アポロガイストは嘲笑とともに銃爪を引ききった。
 勝負は決まった。コアメダルの到達より、ハイパーマグナムショットの弾丸がさやかを砕く方が早い。それを見届けることすらできず、自らの感情を宿したコアメダルを間抜けにも死体の前に転がし、そのままアポロガイストの糧となる愚か者の無念を想像するのに浸ろうとして――

 突然、目の前が金色の闇で染まった。

「――っ!?」
「おぉりゃあっ!」
 忽然と現れたそいつは、凶弾と少女の間に割り込ませた己の肉体を楯として――しかし被弾した事実がなかったかのように。停滞することなく思い切り、アポロガイストの横っ面を殴りつけに来た。
 ガイストカッターの移動が間に合わなかったアポロガイストは、咄嗟に左の翼を即席の楯として構えた。勢いを削いでくれることを期待したそれはしかし、薄紙のように破られてアポロガイストの側頭部に拳の着弾を許す。
 残されていた兜飾りの片割れが砕け散るのを、音より早く伝わった衝撃で理解しながら。吹き飛んだアポロガイストは、穴の空いた翼の弾みを利用して何とか、それ以上の無様を晒さずに起き上がった。

「ば、馬鹿な……」
 未だ震れる頭を起こして、アポロガイストは視界に収まった敵手の姿に――先程の一撃で伝えられた力の程への驚愕を、辿々しくも口から漏らす。
「何故、貴様が既に回復を……!?」
「……おまえが教えてくれたおかげだ、アポロガイスト」
 早過ぎる、と毒突くアポロガイストに対峙して、それは――突如として本来の力を取り戻したライジングアルティメットクウガは、静かに滾る調子でそう答えた。

「俺の身体は石に逆らって消耗して、アマダムも二つの指令に混乱して……そこから元に戻るまで満足に戦えない。
 だから思ったんだ。だったら、俺が地の石を使えば良いってな――!」

 構える凄まじき超戦士から伝わる圧力に、アポロガイストは思わず身動ぎする。
 この迫力、そして先程の一撃、奴の言葉はハッタリではない――!

 成程、地の石からの指令と小野寺ユウスケの意志の乖離がアマダムの混乱の元ならば、それを統一すれば解消されるというのは道理だ。
 だが、しかし――使えば良いと言った割には、どこにも地の石を身につけている様子はない。そもそもあれは、憎っくきアンクの放った凶弾で破壊され――
 そこでアポロガイストの脳裏を、一つの仮説が閃いた。

「貴様――まさか、地の石を取り込んだのかっ!?」

 究極の闇から零れ落ちたのゲブロンの破片を取り込んだグロンギや、二つのキングストーンを揃えた創世王のように。
 あれらの霊石が持つ、他の霊石と同調する能力を持って――地の石の残骸を、アマダムが取り込んだとすれば。
 二つの石が等しく小野寺ユウスケの物となれば、反発していたはずの霊石の力まで合一して取り込むことで、肉体の負担さえも緩和される。

 しかし……口は災いの元だったと悔やむとともに、本当にそれだけでライジングアルティメットに大ショッカーが埋め込んでいたセーフティが突破されたのだろうかと、微かな疑問がアポロガイストの脳裏を掠める。
 筋は通っている。しかしそれだけで、果たして消耗に回復が追いつくのだろうか。
 あるいは他にも、何か。地の石以外にも、彼奴のアマダムに影響を与えた何かがあるのではないかと。

 先程までの闇色とは異なり、金色に輝くアマダムの様子に気づいたアポロガイストはそんなことを考えたものの、それ以上悠長に構えては居られなかった。

「行くぞ!」
「く――っ!?」
 微かな思考の彷徨から帰還する前に、クウガは肉薄を開始していた。
 距離を詰めさせまいとするマグナムショットの一撃。しかしそれが、この凄まじき超戦士に通じないことは先刻証明されている――!
 当然のように、灼熱の弾丸を無造作に叩き落としたクウガは足を止めることなく懐に潜り込む。発砲の反動でやや跳ね上がっていた銃身を容易く掴み上げられ、アポロガイストは手首ごと持って行かれるかという悪寒を覚え、しかしすぐにそれを杞憂と悟った。
 何故なら代わりに、金属が爆ぜる不快な音が響いていたことに喫驚するハメとなったのだから。

「き、貴様――っ!」
 愛銃を奪い取るよりも早く、掴んだ勢いのまま軽々と握り潰された畏怖に声を震わせるアポロガイストは、続く一撃を咄嗟にガイストカッターで受け止め、切れなかった。楯を構えることは間に合っても打撃の威力に押され、そのまま胸と顔面にガイストカッターを減り込ませてしまっていたからだ。

 目の奥で散る火花が視界を封じて、一瞬の暗転。後頭部と脚部に感じる鈍い感覚は、それぞれを一度ずつ打っていた証左だろう。
 勢いのまま後方に一回転して、偶然にも元通り立ち上がった状態に戻れていたアポロガイストは、痺れが残る左腕を持ち上げるのが間に合わないのを直感的に理解して、空いた右手にアポロフルーレを握り込んだ。
 ――握り込んだ時には、やはりクウガは眼前に出現していた。

「っ!」
 焔を纏わせた刺突は、易々とエルボースパイクに払われる。そのまま流れるような手刀に右手を襲われ、アポロガイストは愛刀を取り零す。
 無手になったことを度外視しても、ここまで距離が詰まれば、後は速さと回転数に優れる徒手空拳の独壇場。そしてその土俵において、今のクウガに敵う者など――っ!

 咄嗟に後退しようとした足を、上からの激烈な踏みつけで大地に縫い付けられ。逃げ場を失くしたことを悟ったアポロガイストの背を氷塊が滑り落ち、その肩に。

 脇に、顎に。
 腹に、胸に。
 鼻っ面に。

 一息吐く間もなく突き刺さる猛烈なラッシュが、一撃ごとにアポロガイストの鎧を凹ませ、亀裂を走らせ、砕け散らせる。

 六発目で一度クウガの攻勢が途切れたのは、一つ一つがマキシマムドライブに相当する打撃の威力に踏みつけの拘束が耐え切れず、クウガ自らアポロガイストを追撃の届く距離から打ち出してしまったためだ。
 だがそれでは終わらないということを、アポロガイストはよく知っている。

「はぁああああああああ……っ!」

 残り僅かだったメダルを、アポロガイストに放出させることで逆に回復したクウガは、その拳に烈火を灯す。
 それはアポロガイストが圧倒された近接戦でも持ち堪えていたあの大道克己や、ネウロが召喚した魔界生物すら葬った必殺の一撃。
 ライジングアルティメットナックル。

「うおぉりゃぁああああああああああっ!」
 爆発的な踏み込みで距離を詰めたクウガの拳の一撃に、何とか迎撃に間に合わせたガイストカッターが、四散する。
 ライジングアルティメットナックルを前に、握っていた左腕ごと太陽を模した楯は砕け、散り散りとなって闇に葬られる。爆ぜるように腕の取れた勢いのままアポロガイストは後方に飛ばされていたが、しかしそれは僥倖だった。
「……メダルを切らしおったな、馬鹿めがっ!」
 罅割れた仮面の下の表情は、未だ余裕がなく凍結したまま固まっていても。本来ならばこの体そのものを砕かれていた一撃が届く前に、生身を晒してしまった小野寺ユウスケを狙って、アポロガイストは火球を飛ばす。

《――ETERNAL!!――》

 しかし逆転のための一撃は、夜闇を切り裂いて現れた、蒼白い光に遮られる。
 それを為したのが何者であるかなど、最早考えるまでもない。
 アンクから与えられたコアメダルを使って再変身した美樹さやか――仮面ライダーエターナル。
 先程己がクウガに救われたように。今度はエターナルが、メダルを得たことでその真価を取り戻したあの絶対防御のマントで以て、グリードの放つ猛火を完全に防ぎきっていた。

「小娘……っ!」
「――これで、終わりだ!」

 目前の勝利を阻まれる――その再演を歯噛みするアポロガイストに、今度は仮面ライダーが勝利宣言を叩きつけた。

《――ETERNAL!! MAXIMUM DRIVE!!――》

 マキシマムドライブ――名前の通り最大出力に達したガイアメモリのエネルギーが、エターナルの全身へと伝播されて行く。
 そしてエターナルが一度に発動できるマキシマムは、一本だけではない。

《――JOKER!! MAXIMUM DRIVE!!――》
 アンクが投げ渡していた新たなガイアメモリもまた、エターナルの手でその真の力を起動する。
 全身に拡散していたエターナルの蒼白いエネルギーが、ジョーカーの放つ紫電によって導かれ、エターナルの足元へと帯雷して行く。

「だぁああああああああああああああっ!!」

 討つべき悪を目指し、吹き荒れる雷嵐を従えて、エターナルが宙に跳ぶ。高々と、力強く。
 それはまるで、左翔太郎と大道克己――同じく風都の希望たる仮面ライダーでありながら、在りし日に相容れることは遂になかった二人の力が今ここに合わさったかのような、ツインマキシマムのライダーキック。
 悪を駆逐するそれを名付けるならば、そう――死神の鎮魂歌(ジョーカーレクイエム)。

「りゃあああああああああああああああああああっ!!」

 黒白の螺旋を描く両足は、アポロガイストが迎撃に放った火球を易々と貫き、二枚を重ね最後の守りとした両翼さえも突き破る!

「ぐぬぁっ!?」

 そうして到達した両足は、アポロガイストの胸郭を踏み砕き――そこから膨大な稲妻を体内に流し込んだ。
 全身の内で莫大な電圧が荒れ狂い、灼き尽くす。圧倒的な力の炸裂に耐え切れず、アポロガイストは弾かれたように吹き飛ばされた。

「お……おのれエターナルッ!」

 立ち上がった瞬間、膝が折れる。致命傷を受け崩れ行く肉体は、限界を迎えたことを告げていた。
 だが、そのまま敗北を受け入れることをアポロガイストの矜持は認めなかった。

「……これで勝ったと思うな。私は必ず、宇宙で最も迷惑な存在として蘇ってやる……っ!」
「だったらまた倒してやる。克己の祈りを受け継いだあたしや、あたしの次の他の誰かが、そのたびに!」
 崩壊までの、わずかな猶予を振り絞って吐き出されたアポロガイストの捨て台詞を、即座にエターナルは切って捨てた。

「あんたの思い通りになる時なんか、もう二度とやって来ない――永遠に!」
 先代となる男を喪った事実を受け止めた上で、それを二度と繰り返させないと、決意を表明したエターナル=さやかは、その左手の親指を下に突き出した。
「だからあんたは、せいぜい……地獄を楽しんできな」

 別れの言葉を告げられた次の刹那――ハイパーアポロガイストの肉体は遂に限界を迎え、爆散した。






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最終更新:2016年08月22日 22:24