交わした約束と残した思いと目覚めた心(後編)◆z9JH9su20Q

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 ――――その瞬間、アポロガイストは己の身に起きた全てを悟り、歓喜した。

(――ならばその永遠、今この場で断ち切ってくれるのだ、美樹さやか!)
「な――っ!?」

 ハイパーアポロガイストの肉体が爆発したと同時、飛び出したコアメダルは明らかに爆風に煽られたのとは異なる機動を見せた。
 それもそのはずだった。今となってはそのクジャクのコアメダルこそが、悪の大幹部アポロガイストの意識を宿した、本体と呼ぶべきものだったのだから。
 明らかに死したはずの男の声を聞き、流石に動揺を隠せないでいるエターナル目掛けて、クジャクコアと化したアポロガイストは飛翔する。

(貴様の肉体を奪い、直ちに復活してくれる!)
 アポロガイストは、自らの肉体が滅び、コアメダルのみとなったことにより、グリードとしての性質を理解した。
 グリードの肉体は欲望の塊であるオーメダルで構成される。
 しかし自分がハイパーアポロガイストへと変じてみせたように、人間の身体もまた、メダルの代用品として機能する欲望の塊なのだと。
 そしてグリードの身体はコアが抜ければそれを形作る結合力を失い、ただのメダルの集まりへと解けてしまうが――アンクのコアメダルが全て抜けた後も、あの体は残っていたことを爆発の直前、確認していた。

 故に肉体が破壊されながらも残された自意識は、即ちその意味すること――グリードは人間の肉体を奪い、活動できる事実を知った。
 消滅することのないコアメダルに意識を宿し、何度でも肉体を新たにできる――自らがあれほど恐れた死の支配を、完全に克服した巨悪となったのだと!

(やはり私は――貴様らにとって大迷惑な存在なのだっ!)



「――まったくだな。だからここでご退場願おう」



 その声と共に、アポロガイストの意識に『線』が走った。

(あっ――?)

 満ちていた活力が漏れ出して行くような感覚に襲われたアポロガイスト=クジャクコアは、それまでの勢いを失い停滞する。
 その全体に、無数の境界線を走らせながら。

(バカな……コアメダルは、破壊不可能のはず……っ!?」
「生憎だが、ただ斬ったという結果のみを造り出すこの剣の前では、そんな事実に何の意味もない」

 静かに嘲弄するような、嗜虐心に富んだ声――その主の正体を悟り、アポロガイストは切り裂かれた意識だけで絶叫する。

(キ……サマ……脳噛、ネウロォオオオオオオオオッ!)
「魔帝7ツ兵器(どうぐ)、“二次元の刃(イビルメタル)”――貴様如きが拝謁できた栄誉を、その脳髄に刻むのだな」

 傍らに立つ魔人の宣告と同時、彼の揮った無敵の刃に囚われ不自然に停止していたコアメダルが、線に添って分断されて行く。

「おっと。刻むべき脳髄ももうなかったな」
(まさか……私が、死……)
「違うぞアポロガイスト。貴様が迎えるのは死ではない」

 そうして用を成さぬただの破片、それ以前の単なる『欲望』の残滓へと完全に溶けてしまう直前。消滅までの刹那に残された猶予に、アポロガイストは愉悦に満ちた魔人の声を聞いた。

「おまえはもう、コアメダルというただの『物』。死ぬのではなく、消えるだけだ……その意識ごと、永遠にな」
(な、お……いっ)

 残忍な宣告に何かを言い返そうとしたところで、彼の声は途切れた。

 それ以上、意味のある言葉すら残せずに――バトルロワイアル参加者にとって大いに迷惑な存在であり続けた大ショッッカー大幹部・アポロガイストの意志を宿したコアメダルは、完全に消滅したのだった。





【アポロガイスト@仮面ライダーディケイド 消滅】






「――よく働いたな、サヤカ」

 アポロガイストの最期の抵抗――コアメダルの襲来を砕いたネウロが顔だけをこちらに向けて、そう口を開いていた。

「犠牲は伴ってしまったが……一先ずは、我らの勝利だ」

 ――終わった。

 自らに言い聞かせるようなネウロの声を聞いて、そう思った途端。さやかはエターナルの変身を解くと同時に、その場に腰を落としていた。
 誰よりボロボロで、体の表面から皮膚の破片を零し続けて、今にも倒れてしまいそうなネウロが立ったままだというのに、思わず倒れ込んでしまっていたのだ。

「あたしはあいつを……殺した、んだね」

 そうして、最初に口から零れたのは――敵を討った喜びではなく、生き残った安堵でもなく。
 最期の瞬間、敵の残した悲鳴で直視した、そんな事実の再認だった。

「……気にすることはない。奴にトドメを刺したのは我が輩だ」

 それが事実とはいえ、この状況下においてはいっそ間抜けですらあるようなさやかの呟きに、しかし意外にもネウロは真摯な様子で応えた。

「そして我が輩、実は極力『殺人』は避けている。どんな人間であれ、生きてさえいればまた『謎』を作るかもしれんからな」

 ネウロは足元に転がる、かつてハイパーアポロガイストの肉体を構成していたメダルを拾い上げ、それを指先で弄びながら続ける。

「だが奴は既にグリード……本性はただのメダルだった。大道克己とは違う、本当にただの『物』でしかない害悪だった。だから排除したに過ぎん」
「それは……そうだけどさ」

 時折間抜けな姿を見せることはあっても、自らを悪と謳い我欲に生きるアポロガイストは徹頭徹尾、もしかすれば、魔女以上に邪悪だった。
 奴は自分達を殺そうとして来て、事実克己の命を奪った。そのことについて憎しみも恨みもあり、それを忘れる必要だってどこにも在りはしない。
 改心させることなど不可能だった。ここで殺してでも止めなければ、この先もっと大勢の犠牲者が出ていたことも疑いようはない。

 ――それでも、人の形をした、意思疎通の可能な相手に対し、一線を越えたことは初めてだったのだ。

 間違ったことをしたつもりはない。だとしても、正しいと信じることを押し通すために暴力に訴え、時には相手の生命を絶たねばならないということ。
 それが、存外、堪えるものなのだということを――さやかは漸く、実感していた。
 かつて、佐倉杏子との戦いを殺し合いなどとまどかに語っていたが、あの時はきっとこんな痛みなど、わかってはいなかっただろう。

「ヤコもそうだったが……難儀だな、ニンゲンという種族は」

 今度はアポロガイストの遺した首輪を回収しながら、やれやれとネウロが嘆息した。

「しかし、そこまで似た姿形をした物を壊すのが気に病むというのなら……まぁ、まず我々の余裕ができてからの話だが」
「――うん、考えておく」

 ネウロが言わんとすることを察して、先んじてさやかは首を斜めに振った。
 ――悪人だろうと、その命が喪われることは悲しいことだと今は思う。
 だけど、それがこの先、魔法少女として、仮面ライダーとして、正義の味方として戦っていく上で足枷となる、単なる甘さではないのかと……そんな不安が、なおもさやかに躊躇を覚えさせていた。
 しかし、それでも――佐倉杏子に向ける感情が、確かに、心変わりし始めている己を、今はさやかも自覚していた。

「そうか。なら構わんが……あの男を継ぐというのなら、貴様には立ち止まる時間とやらはないはずだぞ、サヤカよ」

 それだけを言い残し、今度はユウスケの方に進むネウロの傷だらけの背中を目の当たりにして。
 自分が喪ったものを、彼もまた奪われながら――なおも歩み続けようとしていることを理解して、さやかは迷いを払うように首を振り、立ち上がった。

「……わかってるよ」

 まどかも、仁美も。克己も、ガタックゼクターだって。
 色んな人が、色んなものを自分にくれた。
 だからこの胸の痛みさえも、保証して貰えた人間の証として受け止めて。
 それを全部受け取って、自分は前に進まなければ。
 いつかそれを受け継ぐ誰かのために、未来を描いてみたいから。






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「……ということだから、教会にも今、殺し合いを止めようとしている人達が集まってる」

 暫しの後。
 ネウロに命じられた、アポロガイストの残していったオーメダルの回収を終えたユウスケは、その最中から続けていたこれまでの経緯を、簡単ながらにさやかに語り終えていた。

セイバーちゃ……さんも、千冬さんも、グリードにも負けないような強い人達だ。よっぽどのことがない限り、無事だと思う」

 そのよっぽどのことを、さやか達の身に降りかからせた張本人が己であることを自覚しながら、ユウスケは力強く断言した。
 誇り高き仮面ライダーであった、大道克己の命を奪った罪――自分自身がそれを許せなくとも、気に病むような素振りだけは、せめてさやかの前では晒すまいと心に決めながら。

「えっと……『全て遠き理想郷(アヴァロン)』だっけ。衛宮切嗣って人が治療に使ってるの」

 ユウスケに散らばったメダルを集めろ、と命じたネウロ自身は、今この場には居ない。
 コアメダルを一枚渡したところで、確認することがあるから引き続きメダルを回収しながら暫く待っていろと言い残し、早々に南東の方へと向かってしまったのだ。
 何をしているか気になるが、さておき。結果今は、気絶したアンクを除けばさやかと一対一。故に簡潔に留めた内容だったが、その中からもさやかは必要な情報を取捨選択し、必死に思考を束ねていた。

「どんな傷でも治せる伝説のアイテム……それがあれば」
「ああ、もし今のアンクが大変な状態だとしても、元に戻せるかもしれない」

 言い終えると共に、ユウスケは腰掛けた自分達の間に横たわったアンクに視線を向ける。
 さやかを助けるために、その身を削った――キバの世界に生きる多くのファインガイア同様、人間と共に生きる怪人に。

 彼に対しても、操られる以前からユウスケは酷いことをしてしまった。目覚めれば居心地の悪さが増してしまうだろうが、逃げるわけにはいかない。
 しかし、さやかの窮地に託したメダルが、彼の持つ最後のコアメダルだったようで……彼らにとっての生命そのものであるメダルを一度全て吐き出したアンクの意識は、今も戻ることがなかった。

 色が抜けるのとは逆に、金から黒に染まっているのだが――髪の色が変わるほど衰弱しているのは只事ではないと、グリードをよく知らないユウスケにも予想できた。
 グリードの血肉がオーメダルだというのなら、一度バラバラにされた物を戻されたところで果たして治癒できるのかは定かではないが、そこは怪人の生命力を信じるしかない。

 本当なら手持ちのメダルを全て彼に渡したいところだが、この状況では彼の護衛も含め、戦闘用にメダルを確保しておく必要がどうしてもあった。
 改めて忌々しい制限だと、ユウスケは臍を噛む。

「あっ、いや……それはそうなんだけど……そうじゃなくて」

 しかし、何故かさやかは言い淀み、視線を泳がせた。
 アンクを心配していない、というわけではないだろうし、そう思われたいわけでもないはずだ。
 理由を推察する前に、さやかは一つ小さく咳払いする。

「とにかく。ネウロが戻ったらあたし達もそっちにお邪魔しても良いかな、ユウスケ。ネウロが何考えているかわかんないけど、元々行く宛もなかったし」

 何かを露骨にはぐらかされたのを感じながらも、それが自分との距離を置きたい故でなかったことに、回答することに安心を伴ってユウスケは頷いた。

「ああ、こちらこそ。きっと皆歓迎してくれるよ」

 今は、互いに表面を取り繕ったままでも。
 同じ思いを残された、同じ結末を願う者同士なら、きっと手を取り合えると信じて。







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「そろそろ手を離してくれないかな」
「おや、何故だ? これまでの疲れを思えば、自分で歩かずに済むなど快適だろうに」

 己が五指で掴み、ぶらぶらと振り回していた白い塊が発した抗議の声に、ネウロは嗜虐心も隠さずすっとぼけた。

「爪が食い込んで痛いじゃないか」
「また、勝手に逃げられても困るのでな。まぁ暫くは我が輩の奉仕をありがたく受け取っておけ」
「こういうのは奉仕じゃなくて、虐待と言うんじゃないかな」

 E-4で回収した、自らの支給品だったインキュベーターと懐かしい調子の会話を交わしながら、ネウロは気分良く夜道を歩いていた。
 もちろん、インキューベーターと仲良く散歩することが目的ではなく、ウヴァを追う手掛かりであるこの異星獣を確保することが当初の予定だった。
 しかしもう一つ、確認すべき――否、確認できる事柄が増えたために、ネウロは少しだけ、さやか達への直線から逸れたルートを進んでいた。

「ところでインキュベーターよ」
「何だい?」
「ウヴァはディケイドとやらに倒された際、全身がメダルと化してバラバラになったのか?」

 更に別件として。先程目にしたアポロガイストの最期を思い返しながら、ネウロはインキュベーターに問いかける。

「そうだけど、それがどうかしたのかい?」
「こちらのことだ」

 そのように返答しながら、ネウロはもう一人のグリード――“全てのメダルを吐き出しながら”人型の肉体を形成したままの個体を思い返す。

「なるほど。だからウヴァの情報を売ったわけか」

 それが意味するところを、ネウロとの交渉材料にする際、即理解を促すことができるように。
 手に持ったキュゥべえにも聞こえないほど小さな声で呟いた後、ネウロは目当ての物を見つけていた。
 左手でインキュベーターを捕らえたまま。空いた右手で必要な操作を行い、目当ての画面を呼び出す。

「ふむ。やはりルールブックに記載がなかったとおり、認証する首輪はその状態を問わないようだな」

 呟くネウロの右手に握られていたのは、アポロガイストが身に着けていた首輪。
 彼の全身がメダルに解けた際に脱着できたそれをネウロは回収し、ATMと認証させていたのだ。
 先程口に出して確認したとおり、ルール上では首輪は参加者が装着しているかどうか、生存しているかどうかをATMとの認証条件に含んでいなかった。

「貯金はない、か……まぁ計画性のなさそうな男だったからな」

 まずはアポロガイストの残高を確認してみたが、残念ながら回収できるメダルはなかった。
 とはいえ、口に出したとおり想定の範囲内であり、本命はそれではない。

 ネウロがここに立ち寄った真の目的は、殺害数ランキングの閲覧にあった。
 アンクがさやかにコアメダルを託し、結果として結合力を失い吐き出されたセルメダルを回収できたおかげで「二次元の刃」で自律行動していたアポロガイストのコアを仕留めることができたネウロだが、肉体を破壊したわけではなく、メダルを砕いただけの己が殺害数ランキングの閲覧権を取得できたのかは確証が持てなかった。

 しかし、確実に大道克己を殺害したと言える実績を持つアポロガイストならば、その権利を確実に取得していると予想できた。
 故に、この首輪を使うことで――魔法少女であるさやかの精神的負荷をある程度コントロールできる状態になるよう、先んじてこれまでの犠牲者と加害者の関係を把握できるとネウロは踏んでいたのだ。
 そして、その読みは見事的中し――ネウロは無事に、バトルロワイアル中の殺害記録というこの上ない情報に辿り着くことができていた。

 画面を開いたネウロは、早速飛び込んできた名前から優先度の高い情報をピックアップして行く。

「――門矢士、というのはウヴァを倒した男だったな?」
「そうだね。どうかしたのかい?」

 ATMの画面を覗き込めない位置で宙吊りにされたインキュベーターの問いを黙殺し、ネウロは思考を巡らせる。

 アンクが――おそらくは人格を含め、戦力としてアテにできると言っていた伊達明は、門矢士が殺め。
 さやかの友人の内、鹿目まどかカオスという参加者に葬られていた。

 更に半日前に、志筑仁美はシックス率いる「新しい血族」の一人――葛西善二郎の手にかかり、
 そして、ネウロが救えなかったノブナガは、やはりあのウヴァによって命を奪われていた。

「……」

 この内、ネウロにとって重要なのは、グリードであるウヴァを倒し、メズールをも屠った門矢士――タイミングを鑑みれば、ある重大な可能性が見えてくる人物のことだ。
 即ち、前回の放送までの間にグリードを倒した唯一の参加者――その間に砕かれたコアメダルを破壊した、張本人である疑いの強い参加者。

 勿論、砕かれたのがウヴァかメズールが有していたコアメダルとは限らない。先程アポロガイストのコアメダルをネウロが破壊したように、他の参加者が手にしていたメダルが破壊された可能性も考慮できる。
 しかし、主催者が複数形で呼称した、コアメダルを破壊できる者達……その放送の後まで確証がなかったネウロ自身と、オーズこと火野映司以外にも存在する場合、真っ先に候補に挙げられる名であることは間違いないだろう。

 コアメダルを破壊しないかぎりは、グリードは何度でも蘇る――そのしぶとさは先程、後天的なグリードであるアポロガイストが(頼んでもないのに)存分に見せつけてくれた。
 しかしネウロがコアメダルを破壊するのは、あまりに燃費が悪すぎる。「二次元の刃」はおそらく、その時ネウロが保有する全魔力(メダル)を強制的に吸い上げて召喚に要する時間を削るという制限をされているのだから、一撃ごとにガス欠になってしまうのだ。
 故に、可能であればグリードへのトドメはネウロ自身が身を削るより、他に存在するコアの破壊者達に委せる方が好ましいと、ネウロは考えていたのだ。

 だがそこで問題となるのは、アンクの言が正しければ、確実にコアを破壊できる存在だという火野映司は殺し合いに乗っているということであり。
 もう一人のコアの破壊者として有力な候補である門矢士もまた、伊達明を殺している事実を、どう受け止めるべきかということだろう。

 得られた情報から考察を進めながら、画面をスクロールしていったネウロは――その表情を一瞬にも満たない刹那、硬直させた。
 そしてそれを緩やかに歪め、嗜虐的に嗤う。

「おやおや。さてこれは……」

 弄ぶように思案する、ネウロの視線の先にあるのは――ランキングに記載された、『アンク』の名前と。
 彼のスコアとして並んだ、左翔太郎アストレア――火野映司の手によるものだと、アンクが語っていた犠牲者二人の名前だった。






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「……起きないね、アンク」

 ネウロの帰りを待つ間。ユウスケとのある程度の情報交換が終わってしまえば、気まずさから互いの口数が減ってしまったことに耐えかねたさやかは、何度目かになるアンクの話題に挙げていた。

「このままじゃ、教会は遠いよね……」
「……確かに、背負ってだと遠いかな」

 現在地からすれば、直線距離で20km弱。禁止エリアは迂回することを考えれば、一般的な歩行速度では次の放送まで掛かってしまう。
 そこに、意識がないアンクを背負っての移動という条件が加われば、教会組との合流は夜が明けてからになりかねない。
 無論、会場中に設置されたライドベンダーを使えば、そんな問題も即解決する……のだが。

「……四人乗り、は無理があるか」

 ユウスケに提案に、さやかは無言のまま頷く。
 かと言ってアンクは気絶中であり、さやかは仮面ライダーを継いだと宣いながらも、単車の免許は取得していない。
 単に無免許運転なだけなら、今の状況なら逮捕されるということもないだろうが……いきない二人乗りで、となれば事故が怖い。
 かと言ってネウロに運転して貰うというのは………………………………何だか怖い。

 まともに運転できるのがユウスケだけ、という状況が意外にも厄介である事実に、さやかは重い溜息を零した。

 ――そして、ふと。どうしても脳裏を過ぎった想いに釣られ、少しだけ深度を増した思考へと沈み込む。

(……やっぱりあたし、いろんなことを克己に頼りきってたんだ)

 移動手段一つ考えても、彼のことを思い出してしまう。
 ……考えてみれば、ユウスケとの二人乗りを無意識に思考から外していたのも、きっとそのせいなのだろう。頭ではわかっていても、心の深いところがまだ受け入れられていないのだ。

 たったこれだけのことで、二度と埋められない喪失を、再認識してしまう。
 終わってみれば、わずか半日――たったそれだけを共に在っただけの、仲間。
 それでも彼はきっと、さやかの人生の中でも大きなモノをくれた人だったのだろう。

 その彼は、もう、自分達の記憶の中にしか居はしない。
 それはとても悲しいことで、寂しいことで。
 けれど、大切なことでもあるのだと、今のさやかには自然と理解できていた。

(……大丈夫だよ、エターナル。あたしはあの約束、絶対に忘れないから)

 時の経過に削られて、いつかは風化してしまうかもしれない大切な記憶(メモリ)を、さやかは強く握りしめる。
 例えその外観が損なわれたところで。託された物を、決して取り零すことがないように――足掻いてみせる。

 とりあえず。いつか距離は詰めるとして、ユウスケにはアンクを任せ。不安が一杯でも、ネウロに運転を頼み込んでみようかと……そんなことを考えていた、最中。
 足元の方でもぞもぞと、何かが動く気配があった。

「あっ、アンク。目、覚めた?」

 さやかの問いかけに、黒髪のままのアンクは小さく首を振って立ち上がる。
 それから己を見たアンクの顔に、さやかは少しばかり目を丸くした。
 全く同じ顔なのに――まるで別人かと疑うほど、印象がガラリと変わっていたのだ。
 ただ、髪の色が変わっただけではなく。全く同じ輪郭でありながら、随分柔和な顔立ちへと。

「……はじめまして、二人とも」

 アンクはその顔のまま、さやか達の知らない口調で喋る。
 そうして彼は、少し困ったのか、はたまた照れたようにして、はにかみながら。

「俺は……泉、信吾です」

 さやか達の知らぬ名を、その口から名乗り上げていた。






【二日目 深夜】
【F-3(北東端) 市街地】



【美樹さやか@魔法少女まどか☆マギカ】
【所属】青
【状態】健康、決意、杏子への複雑な感情、Xへの強い怒り
【首輪】30枚:0枚
【コア】シャチ(放送まで使用不可)、ワニ(放送まで使用不可)
【装備】ソウルジェム(さやか)@魔法少女まどか☆マギカ、NEVERのレザージャケット@仮面ライダーW、T2エターナルメモリ+ロストドライバー+T2ユニコーンメモリ+T2ジョーカーメモリ@仮面ライダーW
【道具】基本支給品、克己のハーモニカ@仮面ライダーW、ライダーベルト(ガタック)の残骸@仮面ライダーディケイド、克己のデイパック{基本支給品、NEVERのレザージャケット×?-3@仮面ライダーW、カンドロイド数種@仮面ライダーOOO}
【思考・状況】
 基本:克己の祈りを引き継ぎ、正義の魔法少女として悪を倒す。
  0.泉、信吾……?
  1.ネウロが戻ったら、情報交換をしながら教会を目指したい。
  2.アンク達と一緒に悪を倒し、殺し合いを止める。
  3.佐倉杏子のことは……
  4.克己やガタックゼクターが教えてくれた正義を忘れない。
  5.T2ガイアメモリは不用意に人の手に渡してはならない。
  6.マミさんと共に戦いたい。
  7.少なくとも、暁美ほむらとは戦わなければならない。
【備考】
※参戦時期はキュゥべえから魔法少女のからくりを聞いた直後です。
※ソウルジェムがこの場で濁るのか、また濁っている際はどの程度濁っているのかは不明です。
※回復にはソウルジェムの穢れの代わりにメダルを消費します。
※NEVER、グリード、ネウロ関係に関する知識を得ました。
※アンク、ネウロが魔女について知っている事は知りません。
※佐倉杏子の、アンクから伝え聞いたこの場での活躍と、自身の見た佐倉杏子の差異に困惑しています。
※エターナルの制限については、第81話の「Kの戦い/閉ざされる理想郷」に続く四連作を参照。
※T2エターナルメモリがさやかにとっての『運命のガイアメモリ』となりました。メモリ使用の副作用はありませんが、他のT2ガイアメモリでの変身が困難となりました。
※T2ユニコーンメモリはエターナルメモリにさやかの『運命のガイアメモリ』の座を譲りましたが、ユニコーンにとっても適合率が最も高い人物は引き続きさやかのままです。


【アンク(泉信吾)@仮面ライダーOOO】
【所属】赤・代理リーダー
【状態】ダメージ(大)、疲労(大)、覚悟(アンク)、仮面ライダーへの嫌悪感(アンク)、『王』への恐怖と憎悪(アンク)、さやかと克己のやり取りへの非常に強い興味 (アンク)、気絶中(アンク)、覚醒(泉信吾)
【首輪】20枚:0枚
【コア】タカ(感情A・放送まで使用不能)、クジャク(放送まで使用不能)、コンドル(放送まで使用不能)、パンダ(放送まで使用不能)
【装備】シュラウドマグナム+ボムメモリ@仮面ライダーW
【道具】基本支給品×5(その中からパン二つなし)、ケータッチ@仮面ライダーディケイド、大量の缶詰@現実、不明支給品1~2
【思考・状況】
 基本:???
  0.???
【備考】
※本編第45話、他のグリード達にメダルを与えた直後からの参戦
※翔太郎とアストレアを殺害したのを映司と勘違いしています。
※参加者毎に参戦時期の差異が生じることに気づきました。
※ネウロにコアメダルを破壊することができる能力があると推察、警戒しています。
※『王』と真木の結託に何かしら裏があり、それが主催陣営の弱点になるかもしれないと予想しています。
※「泉信吾の肉体」とコアメダルの融合が一度解除されました。またタカ(感情A)のコアメダルから色が失われたせいか、泉信吾の意識が回復し主人格となりました。アンクの意識がどのような条件で回復するのかについては後続の書き手さんにお任せします。


小野寺ユウスケ@仮面ライダーディケイド】
【所属】無所属(元・赤陣営)
【状態】疲労(大)、精神疲労(大)、克己を殺めてしまった罪悪感、さやかへの負い目
【首輪】30枚:0枚
【コア】クワガタ(次回放送まで使用不能)、カンガルー(次回放送まで使用不能)
【装備】龍騎のカードデッキ@仮面ライダーディケイド
【道具】なし
【思考・状況】
 基本:みんなの笑顔を守るために、真木を倒す。
  1.ネウロが戻ったら、B-4に戻って千冬、切嗣達と合流する。
  2.井坂、士、織斑一夏の偽物を警戒。 士とは戦いたくないが、最悪の場合は戦って止めるしかない。
  3.千冬さんは、どこか姐さんと似ている……?
  4.大道克己の変わり様が気になる。
【備考】
※九つの世界を巡った後からの参戦です。
※ライジングフォームに覚醒しました。変身可能時間は約30秒です。
 しかし千冬から聞かされたのみで、ユウスケ自身には覚醒した自覚がありません。
※ライジングアルティメットクウガへの変身が可能になりました。
 但し地の石の破片を取り込んだことや、他に何らかの影響があるためか、ライジングアルティメットに変身した際のアマダムの色が黒ではなく金になっています。
 通常のライジングアルティメットとのその他の具体的な変化については後続の書き手さんにお任せします。



脳噛ネウロ@魔人探偵脳噛ネウロ】
【所属】黄
【状態】ダメージ(大)、疲労(大)、ボロボロの服
【首輪】55枚:0枚
【コア】コンドル:1(放送まで使用不可) 、タカ(十枚目・放送まで使用不能)
【装備】魔界777ツ能力@魔人探偵脳噛ネウロ、魔帝7ツ兵器@魔人探偵脳噛ネウロ
【道具】基本支給品一式×2、弥子のデイパック(桂木弥子の携帯電話+あかねちゃん@魔人探偵脳噛ネウロ、ソウルジェム(杏子)※黒ずみ進行度(中)@魔法少女まどか☆マギカ、 衛宮切嗣の試薬@Fate/Zero)、赤い箱(佐倉杏子) 、キュゥべえ@魔法少女まどか☆マギカ、首輪(アポロガイスト)
【思考・状況】
 基本:己の欲望を満たす
  1.???
  2.怪盗Xに今度会った時はお望み通り“お仕置き”をしてやる。
  3.火野映司及び門矢士の動向に注目し、利用価値を見極める。
  4.佐倉杏子を復活させられる人材とメダルを準備したい。
  5.ラウラ・ボーデヴィッヒを探し出し、ウヴァに操られていないかを確認する。ウヴァが生きている場合は丁重にもてなした(※意訳)後コアを砕く。
【備考】
※DR戦後からの参戦。制限に関しては第84話の「絞【ちっそく】」を参照。次回消費の二日目2時時点での維持コストはセルメダル7枚です。
※魔界777ツ能力、魔帝7ツ兵器は他人に支給されたもの以外は使用できます。しかし、魔界777ツ能力は一つにつき一度しか使用できません。
 現在「妖謡・魔」「激痛の翼」「透け透けの鎧」「醜い姿見」「禁断の退屈」「花と悪夢」「無気力な幻灯機」「惰性の超特急5」「射手の弛緩」「卑焼け線照射器」を使用しました。
※ノブナガ、キュゥべえ、アンク、克己、さやかと情報交換をしました。魔法少女の真実を知っています。
※杏子のソウルジェムについては第131話の「悩【にんげん】」を参照。
※体の維持が少しずつ困難になってきています。メダルの枚数の為なのか、最早メダル関係無しに限界なのか、弥子の命の炎ではネウロの体にパワー不足が生じているのかは不明です。
※コンドルメダルはアンクだけでなくここにいる全員に秘匿中です。
※参加者毎に参戦時期の差異が生じることに気づきました。アンクから聞いた情報によっては、ノブナガと映司にはそれ以上のものが発生していると気付いているかもしれません。
※『王』と真木の結託に何かしら裏があり、それが主催陣営の弱点になるかもしれないと予想しています。
※アポロガイストの首輪を使い、キルスコアランキングを閲覧しました。
※門矢士がコアメダルを破壊できる可能性を考慮しています。
※キュゥべえを嬲ることで少しメダルを獲得しています。

※「二次元の刃」の制限について:発動コストは通常の必殺技のレートに収まりますが、効果を発揮するまでに要する召喚時間として1000秒が設けられています。
 また、発動時にネウロが所持する全てのセルメダルを自動的に消費して、効果発動までの時間を短縮することができます。
 但しシグマ算でコストが設定されており、具体的な目安としては、10枚で100秒、次の100秒は追加20枚(合計30枚で200秒)、次の100秒は更に追加30枚(合計60枚で300秒)ずつ短縮できる模様です。



【全体備考】
※「二次元の刃」により、クジャク(感情:アポロガイスト)が破壊され消滅しました。
※アンクが一度泉信吾の体内から全てのコアメダルを放出したため、深夜の時間帯に赤陣営が一時的に消滅しました。現在のリーダー代行は泉信吾です。
※キルスコアランキングでは、作中の名簿同様アンクとアンク=ロストの表記に区別がありません。
※アポロガイストが自律行動するための肉体を破壊したのは美樹さやかであるため、キルスコアは彼女の物として計上されていますが、少なくともネウロが閲覧した時点ではまだ第二回放送までの情報しかランキングには反映されていません。





148:戦いの果てに待つものはなにか 投下順
時系列順
140:sing my song for you~青空の破片 美樹さやか
アンク
脳噛ネウロ
小野寺ユウスケ
アポロガイスト GAME OVER


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最終更新:2016年09月03日 00:44