(健太のナレーション)
あの日、俺たちは 思いがけない事件を体験した。
これはヒカルも、そして みんなも知らない冒険の物語──
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降星町の夜の町外れ。
マグマ星人が焚き火で暖を取っている。
マグマ「うぅ、寒ぅ~…… あぁ~ぁ、なんで俺だけ取り残されちまったんだろう?」
かつての回想。
マグマ星人がスパークドールズから元の姿へと甦る。
マグマ「甦らせていただいて、あざーす! 何でもやりますよ! 支配者様に仕える闇のエージェントとして、粉骨砕身がんばりま~す!」
バルキー星人が顔を出す。
バルキー「ヘーイ! ハウアーユー、ミスターマグマ? ユーの仕事は、ちょっと違うんだな~。ユーの仕事は、これだぁ!」
バルキー星人が、買物かごと財布を差し出す。
マグマ「チッ! 何なんだよ、買い出しなんて。そんなもんが、闇の勢力に必要なのかっつうの! それに、ちょっとしか金も入ってなかったし。クーッ、バルキーの野郎! 自分だけ楽しそうに暗躍しやがって!」
バルキー星人の復活、暗躍、最期の回想。
マグマ「確か、あいつが一番最初に甦ったんだよなぁ。負の感情を持ったに人間を、ダークライブさせてたんだ。いや~、楽しかったろうなぁ、暗躍。でも最期は── あ~ぁ。バルキーの野郎、ザマぁねぇぜ。あ~ぁ、あの一瞬は嬉しかったなぁ。『いよいよ次のエージェントは俺だ!』ってよぉ。でも、こいつが甦ったんだよなぁ……」
マグマ「次は、とうとう俺の番だ。しっかり、体作りしとかなきゃ……な!」
マグマ星人がベンチプレスに励んでいると、携帯電話が鳴る。
マグマ「ん、誰だ? よいしょっと。はいはい…… もしもし?」
イカルス「あ、もしもし。あのね、あの我輩、バルキー星人の後任の、イカルス星人です」
マグマ「はぁ? 後任は俺じゃ……?」
イカルス「イカカカ! ちょっとあんた、冗談言っちゃイカんよ。ところで、いイカんじに新鮮なイカ、買って来てくれなイカ?」
マグマ「ざけんな! 俺のほうが先輩……」
イカルス「頼むな」
劇場版『ウルトラマンギンガ 劇場スペシャル』に登場したイカルス星人の回想。
マグマ「こいつには、降星山でスパークドールズを回収するって目的があったんだよな。そのために、ギンガの仲間に化けたりもしてたっけ。集めたスパークドールズと合体してタイラントになったまでは良かったが、結構善戦してたんだけどなぁ。結局ティガとジャンナインに…… あ~ぁ。イカ、無駄になっちまったじゃねぇかよ」
焚き火でイカを焼いていると、そばで野良ネコが鳴いている。
マグマ「食うか? ……フン、いらねぇか。あ~ぁ、俺は何のために甦ったんだ? 最後にエージェントに指名されたのもよぉ……」
マグマ「よし、次こそ俺がエージェントだろ。そろそろ支配者様からの連絡が来るはず!」
またも体力作りに励むマグマ星人のもとへ、ナックル星人が顔を出す。
ナックル「連絡なんて、あるわけな~いじゃない!」
マグマ「な、何だ、お前は!?」
ナックル「次のエージェントの、ナックル星人よ。私、ファッションにはちょっとうるさいの。で、マグマちゃんに新しい扇子を買って来てほしいってわ~け」
マグマ「お、おい待て! 俺のほうが先輩だぞ!」
ナックル「い~い? 可愛いのじゃなきゃ、いや~よ。それじゃね~!」
マグマ「く、くそぉ~っ!」|
美鈴を利用したナックル星人グレイの回想。
マグマ「そうそう、ギンガの仲間を味方に引き込んで戦ったんだよな。あのオネェ野郎は。ウルトラ戦士を蹴散らして、あのまま勝っちまうかとも思ったんだが、若者2人の熱熱ラブラブパワーの前に── これでエージェントは、残らず敗退か…… はぁ~、どうすりゃいいんだ!? 俺、これから……」
後日の日中。
歩道橋の上の、健太と千草。
千草「健太、早く早く!」
健太「本当にこんなとこでいいの? 格好も制服だし」
千草「いいのいいの。自然体ってやつ。それより、かわいく撮ってよ。オーディション用なんだから」
健太「OK! はい!」
千草が笑顔でポーズを決め、健太がカメラのシャッターをきる。
健太「はい~! もう一丁! はい、いい感じいい感じ!」
千草「でも、良かった。こんな風に写真撮ってもらえるようになって」
健太「えっ?」
千草「大変だったじゃん、ついこの間までさ」
健太「確かに……」
千草「今思えば、信じられないことの連続」
健太「そうだったよなぁ…… 色々あったけどさ、俺、あの事件がなかったら、カメラマンになるの、あきらめてたかも」
千草「私も、アイドルになりたいって、今は胸張って言える」
健太「そっか。毎日レッスン、頑張ってるもんな。あ、そう言えば美鈴は? 最近見ないけど」
千草「和菓子のコンクールが近いんだって。学校終わった後、毎日試作してるみたい」
健太「へぇ~」
千草「ヒカルくんだって」
健太「今は、ロンドンか! 世界中回るんだって、飛び出して行ったきりだっけ」
千草「みんな忙しくて、なかなか逢えなくて…… しょうがないけど、ちょっと寂しいよね」
健太「そう?」
千草「えっ?」
健太「俺は、これでいいと思うよ。『負けてらんねぇ』って、刺激になる」
千草「健太…… 変わったね。私も見習わなきゃ!」
マグマ星人が、眼下の歩道を歩いている。
健太「え、えぇっ!?」
千草「どうしたの? ……あ~っ!? あ、あれ、宇宙人だよね?」
健太「あぁ……」
千草「なんで!?」
健太「わ、わかんねぇよ!」
千草「どうしよう!?」
健太「とにかく、後をつけてみようぜ」
千草「うん」
マグマ星人が、人々の行きかう町中をトボトボと歩く。
健太と千草は、その後をつける。
千草「駄目。友也くん、電話出ない」
健太「そう言えば、言ってたな。何か研究してるとか」
千草「美鈴にもかけてみようか?」
健太「いや、邪魔すんのもアレだし、もう少し俺たちで様子見よう」
千草「……そうね」
マグマ「新しい服でも欲しいな…… あ~ぁ、そんなこともできやしねぇや。腹減ったなぁ……」
千草「ねぇ、なんで街の人たちは宇宙人を気に留めないの?」
健太「さぁ…… もしかしたら、普通の人間に見えてるのかも」
マグマ「古本屋か…… 本でも読むか」
店員「いらっしゃいませ」
千草「ねぇ、なんで私たちには宇宙人に見えるの?」
健太「なんでだろう? 宇宙人に対する免疫的な?」
千草「何それ?」
健太の言う通り、町の人々には、マグマ星人が地球人の姿に見えている。
マグマ「50円? これ全部で50円?」
店員「いや、1冊50円です」
マグマ「高いよ~」
健太「なんか、ずっと見てきたけど」
千草「ちょっと、冴えない感じね」
健太「あぁ…… あ、ほら、行くぞ!」
マグマ星人が、公園のベンチで雑誌を読む。
健太と千草は相変らず、様子を窺っている。
マグマ「おっ、掘り出し物! こりゃいいな、ほい、キープっと」
千草「それで、どうするの? ここから」
健太「どうするって?」
千草「健太、男の子なんだから、ちょっとガツンといっときなさいよ」
健太「うわ、汚ねぇ! こんなときばっかり」
千草「いいから、早く!」
健太「うわ、押すなって!」
千草が健太を、マグマ星人の方へ突き飛ばす。
マグマ「な、何だ、お前は!?」
健太「い、いやぁ~、ハハハ! いい天気ですねぇ~」
千草「ここで何やってるんだ、宇宙人!」
健太「バ、馬鹿!」
マグマ「な、なぜ俺が宇宙人だということを!? ……って、お前は支配者様の邪魔をしてた──」
健太「やっぱりあいつらの仲間か! くっそぉ!」
マグマ「元はと言えば、お前らがいけないんだ! お前らがいなければ、俺はこんな惨めな思いをしなくても済んだんだ!」
マグマ星人が、雑誌を投げ捨て、健太に矛先を向ける。
千草「な、何これ? バイト情報誌?」
健太「ちょ、ちょっと待とうか、ちょっと待とうか!」
千草「ちょ、ちょっと、こっち来ないでよぉ!」
マグマ「後輩に見下される男の気概を思い知れぇ!」
健太「それは俺たちのせいじゃないだろ!?」
マグマ「逃がすかぁ! 待て待てぇ!」
マグマ星人が健太と千草を、ひたすら追い回す。
千草「はぁ、はぁ…… もう、しつこい!」
健太「何なんだよ、お前!」
マグマ「俺を、本気で怒らせやがったな!?」
マグマ星人が、怪獣
ゼットンのスパークドールズを取り出す。
千草「あっ、怪獣の人形! どうして!?」
マグマ「こっそりくすねておいた隠し玉だ! こいつで町ごと吹っ飛ばしてやるぜ!」
健太「や、やめろ!」
マグマ「やめませ~ん!」
健太が思わず飛びかかるが、マグマ星人がたやすく蹴り飛ばす。
千草「健太!?」
マグマ「どうせ、お前も俺と同じだろ? そばに力を持つ者がいなけりゃ、自分じゃ何もできやしないんだぁ!」
千草「違う…… 健太は違うよ!」
マグマ「あぁ?」
千草「健太は、ヒカルくんたちがいなくたって頑張ってる。あんたなんかと一緒にしないで!」
健太「ち、千草……」
マグマ「黙れ! そうだ、いいことを思いついたぞ」
マグマ星人がスパークドールズを、千草に突きつける。
千草「あ…… あ…… あ!?」
マグマ「お前がゼットンにダークライブし、この町を破壊するのだ」
千草が、闇の波動に包まれる。
悪の心で怪獣と一体化するアイテム、ダークダミースパークが浮かび上がる。
千草「あ…… あ……!」
健太「駄目だ、千草……!」
マグマ「誰もが主役になれると思ったか? 甘いんだよ。万年パシリの俺が言うんだ、間違いない!」
千草「……」
マグマ「そうだ、おとなしく諦めれば、苦しまずに楽になれるんだよ」
健太「そんなの……」
マグマ「あぁ?」
健太「そんなの、あんたが、勝手に諦めてるだけだろ!?」
マグマ「何だと?」
健太「負けるな、千草! 千草はアイドルになるんだろ!?」
千草「健……太……?」
健太「千草…… アイドルになったら、俺がカメラマンになって、何枚でも写真撮ってやる! みんなも絶対、千草を応援する。だから…… だから、こんなところで諦めちゃ駄目だぁ!」
千草「健太……! ああぁぁ──っっ!!」
絶叫と共にダークダミースパークが砕け散り、闇の波動が掻き消える。
千草「健太……!」
マグマ「くっそぉ! つまらん! イライラさせやがって、どうせ結末は変らないんだよぉ!」
『ダークライブ! ゼットン!』
マグマ星人自らがゼットンと一体化し、巨大怪獣となって地に降り立つ。
健太「くっそぉ!」
マグマ「見てろよ」
ゼットンが空中に瞬間移動し、攻撃の照準を定める。
マグマ「へへっ、そうだよ。俺の運気が右肩下がりなのは、あの町のせいなんだぁ! もっと早くにこうするべきだったぜ」
健太「降星町が……!?」
千草「嫌だよ…… 絶対に嫌!」
健太「やっぱり、俺たちじゃ駄目なのか!?」
光と共に、ヒカルの変身アイテム・ギンガスパークの分身であるギンガライトスパークが、健太と千草の手に現れる。
健太のもとには
ウルトラマンティガ、千草のもとには
ウルトラマンのスパークドールズが現れる。
健太「はっ!? 俺たちが…… やるんだ!」
千草「うん!」
『ウルトライブ! ウルトラマン!』
『ウルトライブ! ウルトラマンティガ!』
マグマ「この町を消し飛ばして、人生再スタートだ!」
健太「させるかぁ!」
健太と千草が、それぞれウルトラマンティガとウルトラマンに一体化し、空へ飛び立つ。
ゼットン目がけて飛び上がったウルトラマンたちが、ゼットンを抱え、さらに急上昇。
マグマ「貴様らぁ!?」
千草「私たちにだって、やれる!」
ウルトラマンたち2人は成層圏を突き破り、月面へと降り立つ。
マグマ「く、くっそお!」
千草「ここまで来れば!」
健太「降星町に手出しできないだろう!」
マグマ「こしゃくなぁ!」
ウルトラマン2人とゼットンの戦いが始まる。
パンチ、キック、光線技の応酬。
戦いの末に、ウルトラマンがマグマ星人を、後ろから羽交い絞めにする。
千草「今よ、健太!」
健太「OK、千草!」
マグマ「離せ、離せぇ!」
ティガが、必殺のゼペリオン光線の構えに入る。
マグマ「おのれぇ、こうなったら!」
ウルトラマンの背後から、攻撃が炸裂する。
千草「うぅっ!」
健太「千草!?」
攻撃の主は、マグマ星人。
ゼットンから分離して自ら巨大化している。
マグマ「ハハハ、甘いな!」
健太「お前も、巨大化できるのか!?」
マグマ「それよりも、ほら、後ろ」
健太「えっ!?」
健太が油断した隙に、ゼットンがティガに攻撃を加える。
健太「うわぁっ!」
千草「健太ぁ!?」
マグマ「お前もだよ、甘ちゃん!」
ウルトラマンにも攻撃が炸裂する。
さらに、ウルトラマンたちのカラータイマーが点滅を始める。
千草「力が……」
健太「抜けていく……」
マグマ「どうやら、ここまでのようだな。フン、ここなら町に手が出せないだと?」
ゼットンが月の上空に瞬間移動し、地球目がけて照準を定める。
健太「まさか!?」
マグマ「超遠距離砲だぁ! やれ、ゼットン!」
健太「何っ!? くそぉ!!」
千草「駄目ぇっ!!」
ゼットンの火球が放たれる寸前、ウルトラマンたちが飛び上がって自ら火球を受け、月面に叩きつけられる。
マグマ「貴様らぁっ! くッ!」
千草「あの町には、美鈴や友也くんもいるの!」
健太「それに、いつかはヒカルも帰って来る! そのときに町が無くなってたんじゃ、友達として合せる顔がないじゃないか!」
健太たち「降星町に、手出しはさせない!!」
言い切る健太たちだが、依然としてカラータイマーは点滅し続け、ウルトラマンたちはガックリと膝をつく。
マグマ「フフフ。そんなにピコピコ鳴っちまって、もう力なんて残ってねぇんだろ? 現実を知れ…… ガキどもめぇ! うりゃああぁっっ!!」
マグマ星人がウルトラマン2人を目がけて、サーベルを振り下ろす。
あわやというとき── 一筋の光の剣が、マグマ星人の剣撃を受け止める。
何とそこには、地球を去ったはずのウルトラマンギンガの雄姿。
マグマ「何ぃ……っ!?」
健太「ギンガが、来てくれた!?」
千草「嘘…… そんなことって!?」
マグマ「くそぉ! こんなはずじゃあ!?」
ギンガは健太と千草に静かに頷くと、マグマ星人とゼットンに立ち向かう。
ギンガのパワーは、1対2のハンデをものともせず、どんどんマグマ星人たちを追いつめてゆく。
千草「すごいすごい! すごぉい!」
健太「やっぱりギンガは最強だ!」
ギンガの全身のクリスタルが青く輝く。
マグマ「ちょっと待って! やめてやめて!」
健太たち「行っけぇ──っ!!」
必殺光線、ギンガクロスシュートが炸裂──!
マグマ「おいゼットン、頼むぞ! ゼットン!」
ゼットンがバリアを張り、光線を食い止める。
マグマ「そうだ、そうだ!」
ギンガが力を込める。
光線がバリヤーを突き破る。
マグマ「うっそぉ~っ!?」
マグマ星人とゼットンが2人まとめて吹っ飛ばされ、大爆発──!
だが── ウルトラマンたちのカラータイマーの点滅が激しくなる。
千草「えっ、何何!?」
健太「そういえばウルトラマンって、ライブできる時間に制限があったんじゃ!?」
千草「え~っ、どうしよう!? こんなところで、ライブが解けたら……」
健太「俺たち死んじまう~っ!」
ギンガがそれに気づき、ウルトラマンたち目がけて駆け出し、手を伸ばす。
手が2人に触れる寸前、カラータイマーの光が消える──
健太・千草「うわっ!?」
夜の降星町の公園に倒れていた健太と千草が、気づく。
健太「……って、あれ?」
千草「ここは?」
健太「そ、そうだ、宇宙人は!?」
千草「怪獣は!?」
目の前には、平和な降星町の夜景が広がっているばかり。
千草「えっ…… 夢、だったの?」
健太「でも、2人で同じ夢見るって、変じゃね?」
千草「じゃあ……?」
地球の遥か上空。
ウルトラマンギンガが、日本列島を見下ろしている。
彼の元には、スパークドールズに戻ったマグマ星人とゼットン。
マグマ「俺…… 人形に戻ってる!? もしかして、取り残された俺たちを迎えに来てくれたのか、ギンガ!? やったぁ! これで仲間と合流できる! あざーす! ギンガ先生、あざ──っす!! イヤッホゥ──ッ!!」
ギンガが2人のスパークドールズを携え、宇宙の彼方へと飛び去ってゆく。
(美鈴のナレーション)
あの日、私たちは 思いがけない事件を体験した。 あれが夢だったのかどうなのか、 私にも健太にもわからない。
でも、私たちは まだまだやれるって気になれた。
これは、ヒカルくんも、そして みんなも知らなかった冒険の物語──
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最終更新:2019年08月03日 20:02