ウルトラマンギンガの番外編

ウルトラマンギンガの最終回の約2か月後に、『新ウルトラマン列伝』枠内で放映された番外編です。



(健太のナレーション)

あの日、俺たちは
思いがけない事件を体験した。

これはヒカルも、そして
みんなも知らない冒険の物語──




残された仲間



降星町の夜の町外れ。マグマ星人が焚き火で暖を取っている。

マグマ「うぅ、寒ぅ~…… あぁ~ぁ、なんで俺だけ取り残されちまったんだろう?」

かつての回想。
マグマ星人がスパークドールズから元の姿へと甦る。

マグマ「甦らせていただいて、あざーす! 何でもやりますよ! 支配者様に仕える闇のエージェントとして、粉骨砕身がんばりま~す!」

バルキー星人が顔を出す。

バルキー「ヘーイ! ハウアーユー、ミスターマグマ? ユーの仕事は、ちょっと違うんだな~。ユーの仕事は、これだぁ!」

バルキー星人が、買物かごと財布を差し出す。

マグマ「チッ! 何なんだよ、買い出しなんて。そんなもんが、闇の勢力に必要なのかっつうの! それに、ちょっとしか金も入ってなかったし。クーッ、バルキーの野郎! 自分だけ楽しそうに暗躍しやがって!」

バルキー星人の復活、暗躍、最期の回想。

マグマ「確か、あいつが一番最初に甦ったんだよなぁ。負の感情を持ったに人間を、ダークライブさせてたんだ。いや~、楽しかったろうなぁ、暗躍。でも最期は── あ~ぁ。バルキーの野郎、ザマぁねぇぜ。あ~ぁ、あの一瞬は嬉しかったなぁ。『いよいよ次のエージェントは俺だ!』ってよぉ。でも、こいつが甦ったんだよなぁ……」

マグマ「次は、とうとう俺の番だ。しっかり、体作りしとかなきゃ……な!」

マグマ星人がベンチプレスに励んでいると、携帯電話が鳴る。

マグマ「ん、誰だ? よいしょっと。はいはい…… もしもし?」
イカルス「あ、もしもし。あのね、あの我輩、バルキー星人の後任の、イカルス星人です」
マグマ「はぁ? 後任は俺じゃ……?」
イカルス「イカカカ! ちょっとあんた、冗談言っちゃイカんよ。ところで、いイカんじに新鮮なイカ、買って来てくれなイカ?」
マグマ「ざけんな! 俺のほうが先輩……」
イカルス「頼むな」

劇場版『ウルトラマンギンガ 劇場スペシャル』に登場したイカルス星人の回想。

マグマ「こいつには、降星山でスパークドールズを回収するって目的があったんだよな。そのために、ギンガの仲間に化けたりもしてたっけ。集めたスパークドールズと合体してタイラントになったまでは良かったが、結構善戦してたんだけどなぁ。結局ティガとジャンナインに…… あ~ぁ。イカ、無駄になっちまったじゃねぇかよ」

焚き火でイカを焼いていると、そばで野良ネコが鳴いている。

マグマ「食うか? ……フン、いらねぇか。あ~ぁ、俺は何のために甦ったんだ? 最後にエージェントに指名されたのもよぉ……」

マグマ「よし、次こそ俺がエージェントだろ。そろそろ支配者様からの連絡が来るはず!」

またも体力作りに励むマグマ星人のもとへ、ナックル星人が顔を出す。

ナックル「連絡なんて、あるわけな~いじゃない!」
マグマ「な、何だ、お前は!?」
ナックル「次のエージェントの、ナックル星人よ。私、ファッションにはちょっとうるさいの。で、マグマちゃんに新しい扇子を買って来てほしいってわ~け」
マグマ「お、おい待て! 俺のほうが先輩だぞ!」
ナックル「い~い? 可愛いのじゃなきゃ、いや~よ。それじゃね~!」
マグマ「く、くそぉ~っ!」|

美鈴を利用したナックル星人グレイの回想。

マグマ「そうそう、ギンガの仲間を味方に引き込んで戦ったんだよな。あのオネェ野郎は。ウルトラ戦士を蹴散らして、あのまま勝っちまうかとも思ったんだが、若者2人の熱熱ラブラブパワーの前に── これでエージェントは、残らず敗退か…… はぁ~、どうすりゃいいんだ!? 俺、これから……」


後日の日中。
歩道橋の上の、健太と千草。

千草「健太、早く早く!」
健太「本当にこんなとこでいいの? 格好も制服だし」
千草「いいのいいの。自然体ってやつ。それより、かわいく撮ってよ。オーディション用なんだから」
健太「OK! はい!」

千草が笑顔でポーズを決め、健太がカメラのシャッターをきる。

健太「はい~! もう一丁! はい、いい感じいい感じ!」
千草「でも、良かった。こんな風に写真撮ってもらえるようになって」
健太「えっ?」
千草「大変だったじゃん、ついこの間までさ」
健太「確かに……」
千草「今思えば、信じられないことの連続」
健太「そうだったよなぁ…… 色々あったけどさ、俺、あの事件がなかったら、カメラマンになるの、あきらめてたかも」
千草「私も、アイドルになりたいって、今は胸張って言える」
健太「そっか。毎日レッスン、頑張ってるもんな。あ、そう言えば美鈴は? 最近見ないけど」
千草「和菓子のコンクールが近いんだって。学校終わった後、毎日試作してるみたい」
健太「へぇ~」
千草「ヒカルくんだって」
健太「今は、ロンドンか! 世界中回るんだって、飛び出して行ったきりだっけ」
千草「みんな忙しくて、なかなか逢えなくて…… しょうがないけど、ちょっと寂しいよね」
健太「そう?」
千草「えっ?」
健太「俺は、これでいいと思うよ。『負けてらんねぇ』って、刺激になる」
千草「健太…… 変わったね。私も見習わなきゃ!」

マグマ星人が、眼下の歩道を歩いている。

健太「え、えぇっ!?」
千草「どうしたの? ……あ~っ!? あ、あれ、宇宙人だよね?」
健太「あぁ……」
千草「なんで!?」
健太「わ、わかんねぇよ!」
千草「どうしよう!?」
健太「とにかく、後をつけてみようぜ」
千草「うん」


マグマ星人が、人々の行きかう町中をトボトボと歩く。
健太と千草は、その後をつける。

千草「駄目。友也くん、電話出ない」
健太「そう言えば、言ってたな。何か研究してるとか」
千草「美鈴にもかけてみようか?」
健太「いや、邪魔すんのもアレだし、もう少し俺たちで様子見よう」
千草「……そうね」

マグマ「新しい服でも欲しいな…… あ~ぁ、そんなこともできやしねぇや。腹減ったなぁ……」

千草「ねぇ、なんで街の人たちは宇宙人を気に留めないの?」
健太「さぁ…… もしかしたら、普通の人間に見えてるのかも」

マグマ「古本屋か…… 本でも読むか」
店員「いらっしゃいませ」

千草「ねぇ、なんで私たちには宇宙人に見えるの?」
健太「なんでだろう? 宇宙人に対する免疫的な?」
千草「何それ?」

健太の言う通り、町の人々には、マグマ星人が地球人の姿に見えている。

マグマ「50円? これ全部で50円?」
店員「いや、1冊50円です」
マグマ「高いよ~」

健太「なんか、ずっと見てきたけど」
千草「ちょっと、冴えない感じね」
健太「あぁ…… あ、ほら、行くぞ!」


マグマ星人が、公園のベンチで雑誌を読む。
健太と千草は相変らず、様子を窺っている。

マグマ「おっ、掘り出し物! こりゃいいな、ほい、キープっと」

千草「それで、どうするの? ここから」
健太「どうするって?」
千草「健太、男の子なんだから、ちょっとガツンといっときなさいよ」
健太「うわ、汚ねぇ! こんなときばっかり」
千草「いいから、早く!」
健太「うわ、押すなって!」

千草が健太を、マグマ星人の方へ突き飛ばす。

マグマ「な、何だ、お前は!?」
健太「い、いやぁ~、ハハハ! いい天気ですねぇ~」
千草「ここで何やってるんだ、宇宙人!」
健太「バ、馬鹿!」
マグマ「な、なぜ俺が宇宙人だということを!? ……って、お前は支配者様の邪魔をしてた──」
健太「やっぱりあいつらの仲間か! くっそぉ!」
マグマ「元はと言えば、お前らがいけないんだ! お前らがいなければ、俺はこんな惨めな思いをしなくても済んだんだ!」

マグマ星人が、雑誌を投げ捨て、健太に矛先を向ける。

千草「な、何これ? バイト情報誌?」
健太「ちょ、ちょっと待とうか、ちょっと待とうか!」
千草「ちょ、ちょっと、こっち来ないでよぉ!」
マグマ「後輩に見下される男の気概を思い知れぇ!」
健太「それは俺たちのせいじゃないだろ!?」
マグマ「逃がすかぁ! 待て待てぇ!」

マグマ星人が健太と千草を、ひたすら追い回す。

千草「はぁ、はぁ…… もう、しつこい!」
健太「何なんだよ、お前!」
マグマ「俺を、本気で怒らせやがったな!?」

マグマ星人が、怪獣ゼットンのスパークドールズを取り出す。

千草「あっ、怪獣の人形! どうして!?」
マグマ「こっそりくすねておいた隠し玉だ! こいつで町ごと吹っ飛ばしてやるぜ!」
健太「や、やめろ!」
マグマ「やめませ~ん!」

健太が思わず飛びかかるが、マグマ星人がたやすく蹴り飛ばす。

千草「健太!?」
マグマ「どうせ、お前も俺と同じだろ? そばに力を持つ者がいなけりゃ、自分じゃ何もできやしないんだぁ!」
千草「違う…… 健太は違うよ!」
マグマ「あぁ?」
千草「健太は、ヒカルくんたちがいなくたって頑張ってる。あんたなんかと一緒にしないで!」
健太「ち、千草……」
マグマ「黙れ! そうだ、いいことを思いついたぞ」

マグマ星人がスパークドールズを、千草に突きつける。

千草「あ…… あ…… あ!?」
マグマ「お前がゼットンにダークライブし、この町を破壊するのだ」

千草が、闇の波動に包まれる。
悪の心で怪獣と一体化するアイテム、ダークダミースパークが浮かび上がる。

千草「あ…… あ……!」
健太「駄目だ、千草……!」
マグマ「誰もが主役になれると思ったか? 甘いんだよ。万年パシリの俺が言うんだ、間違いない!」
千草「……」
マグマ「そうだ、おとなしく諦めれば、苦しまずに楽になれるんだよ」
健太「そんなの……」
マグマ「あぁ?」
健太「そんなの、あんたが、勝手に諦めてるだけだろ!?」
マグマ「何だと?」
健太「負けるな、千草! 千草はアイドルになるんだろ!?」
千草「健……太……?」
健太「千草…… アイドルになったら、俺がカメラマンになって、何枚でも写真撮ってやる! みんなも絶対、千草を応援する。だから…… だから、こんなところで諦めちゃ駄目だぁ!」
千草「健太……! ああぁぁ──っっ!!」

絶叫と共にダークダミースパークが砕け散り、闇の波動が掻き消える。

千草「健太……!」
マグマ「くっそぉ! つまらん! イライラさせやがって、どうせ結末は変らないんだよぉ!」

『ダークライブ! ゼットン!』

マグマ星人自らがゼットンと一体化し、巨大怪獣となって地に降り立つ。

健太「くっそぉ!」
マグマ「見てろよ」

ゼットンが空中に瞬間移動し、攻撃の照準を定める。

マグマ「へへっ、そうだよ。俺の運気が右肩下がりなのは、あの町のせいなんだぁ! もっと早くにこうするべきだったぜ」
健太「降星町が……!?」
千草「嫌だよ…… 絶対に嫌!」
健太「やっぱり、俺たちじゃ駄目なのか!?」

光と共に、ヒカルの変身アイテム・ギンガスパークの分身であるギンガライトスパークが、健太と千草の手に現れる。
健太のもとにはウルトラマンティガ、千草のもとにはウルトラマンのスパークドールズが現れる。

健太「はっ!? 俺たちが…… やるんだ!」
千草「うん!」

『ウルトライブ! ウルトラマン!』
『ウルトライブ! ウルトラマンティガ!』

マグマ「この町を消し飛ばして、人生再スタートだ!」
健太「させるかぁ!」

健太と千草が、それぞれウルトラマンティガとウルトラマンに一体化し、空へ飛び立つ。
ゼットン目がけて飛び上がったウルトラマンたちが、ゼットンを抱え、さらに急上昇。

マグマ「貴様らぁ!?」
千草「私たちにだって、やれる!」

ウルトラマンたち2人は成層圏を突き破り、月面へと降り立つ。

マグマ「く、くっそお!」
千草「ここまで来れば!」
健太「降星町に手出しできないだろう!」
マグマ「こしゃくなぁ!」

ウルトラマン2人とゼットンの戦いが始まる。
パンチ、キック、光線技の応酬。
戦いの末に、ウルトラマンがマグマ星人を、後ろから羽交い絞めにする。

千草「今よ、健太!」
健太「OK、千草!」
マグマ「離せ、離せぇ!」

ティガが、必殺のゼペリオン光線の構えに入る。

マグマ「おのれぇ、こうなったら!」

ウルトラマンの背後から、攻撃が炸裂する。

千草「うぅっ!」
健太「千草!?」

攻撃の主は、マグマ星人。
ゼットンから分離して自ら巨大化している。

マグマ「ハハハ、甘いな!」
健太「お前も、巨大化できるのか!?」
マグマ「それよりも、ほら、後ろ」
健太「えっ!?」

健太が油断した隙に、ゼットンがティガに攻撃を加える。

健太「うわぁっ!」
千草「健太ぁ!?」
マグマ「お前もだよ、甘ちゃん!」

ウルトラマンにも攻撃が炸裂する。
さらに、ウルトラマンたちのカラータイマーが点滅を始める。

千草「力が……」
健太「抜けていく……」
マグマ「どうやら、ここまでのようだな。フン、ここなら町に手が出せないだと?」

ゼットンが月の上空に瞬間移動し、地球目がけて照準を定める。

健太「まさか!?」
マグマ「超遠距離砲だぁ! やれ、ゼットン!」
健太「何っ!? くそぉ!!」
千草「駄目ぇっ!!」

ゼットンの火球が放たれる寸前、ウルトラマンたちが飛び上がって自ら火球を受け、月面に叩きつけられる。

マグマ「貴様らぁっ! くッ!」
千草「あの町には、美鈴や友也くんもいるの!」
健太「それに、いつかはヒカルも帰って来る! そのときに町が無くなってたんじゃ、友達として合せる顔がないじゃないか!」
健太たち「降星町に、手出しはさせない!!」

言い切る健太たちだが、依然としてカラータイマーは点滅し続け、ウルトラマンたちはガックリと膝をつく。

マグマ「フフフ。そんなにピコピコ鳴っちまって、もう力なんて残ってねぇんだろ? 現実を知れ…… ガキどもめぇ! うりゃああぁっっ!!」

マグマ星人がウルトラマン2人を目がけて、サーベルを振り下ろす。
あわやというとき── 一筋の光の剣が、マグマ星人の剣撃を受け止める。

何とそこには、地球を去ったはずのウルトラマンギンガの雄姿。

マグマ「何ぃ……っ!?」
健太「ギンガが、来てくれた!?」
千草「嘘…… そんなことって!?」
マグマ「くそぉ! こんなはずじゃあ!?」

ギンガは健太と千草に静かに頷くと、マグマ星人とゼットンに立ち向かう。
ギンガのパワーは、1対2のハンデをものともせず、どんどんマグマ星人たちを追いつめてゆく。

千草「すごいすごい! すごぉい!」
健太「やっぱりギンガは最強だ!」

ギンガの全身のクリスタルが青く輝く。

マグマ「ちょっと待って! やめてやめて!」
健太たち「行っけぇ──っ!!」

必殺光線、ギンガクロスシュートが炸裂──!

マグマ「おいゼットン、頼むぞ! ゼットン!」

ゼットンがバリアを張り、光線を食い止める。

マグマ「そうだ、そうだ!」

ギンガが力を込める。
光線がバリヤーを突き破る。

マグマ「うっそぉ~っ!?」

マグマ星人とゼットンが2人まとめて吹っ飛ばされ、大爆発──!
だが── ウルトラマンたちのカラータイマーの点滅が激しくなる。

千草「えっ、何何!?」
健太「そういえばウルトラマンって、ライブできる時間に制限があったんじゃ!?」
千草「え~っ、どうしよう!? こんなところで、ライブが解けたら……」
健太「俺たち死んじまう~っ!」

ギンガがそれに気づき、ウルトラマンたち目がけて駆け出し、手を伸ばす。
手が2人に触れる寸前、カラータイマーの光が消える──


健太・千草「うわっ!?」

夜の降星町の公園に倒れていた健太と千草が、気づく。

健太「……って、あれ?」
千草「ここは?」
健太「そ、そうだ、宇宙人は!?」
千草「怪獣は!?」

目の前には、平和な降星町の夜景が広がっているばかり。

千草「えっ…… 夢、だったの?」
健太「でも、2人で同じ夢見るって、変じゃね?」
千草「じゃあ……?」


地球の遥か上空。
ウルトラマンギンガが、日本列島を見下ろしている。
彼の元には、スパークドールズに戻ったマグマ星人とゼットン。

マグマ「俺…… 人形に戻ってる!? もしかして、取り残された俺たちを迎えに来てくれたのか、ギンガ!? やったぁ! これで仲間と合流できる! あざーす! ギンガ先生、あざ──っす!! イヤッホゥ──ッ!!」

ギンガが2人のスパークドールズを携え、宇宙の彼方へと飛び去ってゆく。



(美鈴のナレーション)

あの日、私たちは
思いがけない事件を体験した。
あれが夢だったのかどうなのか、
私にも健太にもわからない。

でも、私たちは
まだまだやれるって気になれた。

これは、ヒカルくんも、そして
みんなも知らなかった冒険の物語──



(終)

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最終更新:2019年08月03日 20:02