ジークルーンとヴァンの会話

「帝国に戻る気は無いか?」

私とて軍人の端くれだ、目を見ればわかる。
彼は帝国を捨てたものの、心は未だに帝国に忠誠を誓っていると。

そんな彼が何故冒険者などという、明日をもしれぬ生き方に身を投じているのか…。
恐らくは貴族の“隠し子”という生まれに引け目を感じている。ただそれだけの事だろう。

王侯貴族の世界では正妻以外の女性と関係を持ち、子を成す事はさほど珍しい事ではない。
それに良い方に考えるのならば、万が一の際に血脈を繋ぐという事も期待できるのだ。

だが貴族社会以外においては、永遠の愛を誓った相手以外と関係を持つという事に批判があるのも事実。
そしてその冷たい民衆の目は当人のみならず隠し子にも行き、時には他の貴族からの攻撃材料となったりもする。

そのような生まれのヴァンが貴族社会や帝国を捨てるのも理解出来ないという訳ではない。
彼なりに、身内に火種を撒かない為に取った選択とも言えるのだ。

しかし率直に言ってしまえば、私は一軍人として彼が欲しいのだ。
何処の貴族の血を引いているかは判らぬが、その才能を捨て置く事は非常に惜しい。
だが、彼からの返事はある意味で私が予想していた通りのものだった。

「俺は今のままの放浪を続けるつもりだ、期待にそえなくてすまない」


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最終更新:2020年10月24日 18:21