G-5、みなと入口の駅構内にて金髪の少年が椅子に座って頭を抱えている。
 少年の名前は、ジョン・セラミック
 ジョンは思い悩んでいた。一体どうすればいいのかと。
 無論、どんな理由があれど殺し合いがいいとは思えない。
 だが、殺し合いの開幕で告げられたJHGのこの言葉が忘れられない。

『悪は駆逐せねばならない、罪は償われなくてはならない。諸君らの悪逆には罰が必要だ』

 悪。ジョンは自身がそう扱われても否定が出来ない。
 何故か。

 かつてジョンは突然、球体割りの異能に目覚めた。
 その力を使いヒーローの真似事をしていたが、能力が暴走し多くの罪なき野次馬を殺した。
 さらには地球すら割りかけた。結果として未然に防がれたものの、彼は地球を滅ぼしかけたのだ。
 その時止めたヒーローの言葉に傷つき、ヒーローを恨んでいるものの半分くらいは逆恨みだと自覚はしている。
 言われるだけの事をしたとは思っているのだ。

 ならばいっそ誰かに殺されるのか。そんなことはしたくない。

『故に、我らが与える。贖罪の時を。これまで犯してきた罪。これから犯す罪。それら全てを償うのだ』

 あの時、JHGはこうも言っていた。
 贖罪。犯した罪に対する対価。それを払うことが出来る。
 これからは知らないが、これまで犯した罪を打ち消せる。

 ……だから殺すのか?
 人殺しの罪を償うために、更に人を殺すのか?
 もし仮に殺して、償えたとしても

「僕は、どうすればいい?」

 大量殺人、地球を滅ぼしかけた事。それらが償えたとして彼はどうすればいいのか分からない。
 大手を振って生きていける気がしない。もう一度ヒーローごっこなんてしたくもない。

「なんだ、僕は結局どうしようもないのか」

 したいことなど何も無い。あったとしても出来やしない。
 いっそ自殺でもしてしまおうか、それほどに追い込まれたタイミングで

「第一村人発見!」

 少女がこっちを見て何かを叫んでいた。
 ジョンが声のした方向を見ると、メイド服と紫髪ツインテールが特徴的な美少女がそこには居た。
 彼は一瞬だけさっきの気持ちすら忘れて見惚れる。

「なんかいかにもクソナードって感じでちょっとマイナスな気がしないでもないですが、考えてみればそれ位の方が私の都合によろしいですね!
 だってナードは童貞で、童貞はとりあえず美少女メイドが大好きって相場が決まってますし!
 それもただの美少女じゃありませんし? 私の存在を知ってしまえば風俗で性行為するより私で自慰行為することを選んでしまう程の超絶美少女ですからねえ!!
 これもう存在がフェミニスト団体に喧嘩激安大特価セールですことね! 私ってマジ傾国の美少女! いやもう傾世界の美少女!!
 世界はもう私という唯一財産を共有し合う共産主義に目覚めるほかありませんね!!」

 そして少女の長台詞で、ジョンは一瞬だけとはいえ見惚れたことを激しく後悔した。
 長台詞の内容がジョンを軽く罵った挙句、徹底して自分を持ち上げ続けるのだから。
 一方、少女は自分を見続けるジョンに何を思ったのかこう話しかけた。

「なんですかクソナードさん、私に見惚れているのですか? いやまあ仕方ありませんよね、私ですし!
 別に好きなだけ見てもらって構いませんよ、私ってば見ての通りメイドですから!
 なんだったら見抜きでもします? 5分くらい待ってますからその間トイレでも行って来たらどうですか?」
「君は、えっと……。何?」

 少女の台詞を無視してジョンは質問する。
 この圧倒的な長台詞である種異様な存在感を示しているが、彼はまだ少女の名前すら知らないのだ。
 少女もそれに気づいたのか、軽く手を叩きながら質問に答えた。

「おっと、これは失礼を。
 では名乗りましょう。括目して聞きなさい! ドライアイ以外は瞬き厳禁です!!」
「……ドライアイなら瞬きしてもいいんだ?」
「聞き手のことまで考える私って気遣いの天使!
 見た目、能力、さらには性格まで恵まれているんですから私って本当完璧美少女ですね!! クソナードさんもそう思いますよね?
 ……おっとっと、自己紹介を忘れるとは。可愛すぎるのも問題ですね」

 そこで少女は咳払いをしてから自己紹介を始めた。

「私は大導寺コンツェルンにより制作されたメイドロボ!
 AIを搭載し、人間と変わらない思考、会話が可能。さらには戦闘機能を付け高機動、高火力、そしてその他機能を高水準で揃ったアンドイド!!
 見た目、知性、能力全てに恵まれたメイドロボとして量産され、売り出されるはずでしたが、なぜか販売が中止となり私1体だけになってしまったガイノイド!!!
 そんな現在主募集中の私の名は、カオス!!」
「メ、メイドロボ……!?」

 カオスがメイドロボという事に驚くジョン。
 正直言われてもロボットだとは微塵も思えない。それ位カオスは人間に近い外見をしているのだ。
 しかし彼女は彼が驚いた理由を凄まじい方向に解釈した。

「驚きはもっともです。不気味の谷を飛び越えてこんな、美の化身と言っても支障が無いレベルの美少女を人間は作れるのか?
 いやむしろ作りだしたこと自体が神に対する冒涜ではないのか? そう思ってしまうのも無理はありません。
 ですが私はここにいる! 外見、性格、能力を兼ね揃えた究極美少女メイドロボとして、ここに確かに存在している!!」
「あ、うん……」
「なんですかさっきから生返事ばかりして?
 ……成程、分かりました。確かにナードであるあなたは、私みたいな可愛い女の子と話す機会なんてありませんよね?
 でも大丈夫です! 私の主様になればそんなコンプレックスは全て消し飛びます!!」
「ちょっと待って、主様ってなに!?」

 今までの妄言は聞き流せても、流石に自分に関わることにはツッコミを入れるジョン。
 そんなジョンにカオスは説明を始めた。

「私は見ての通りメイドです。メイドとは主に尽くす者です。
 しかし私、実は主が存在しないのです! 大導寺コンツェルンが私を売り出さないせいで!!」
「いや、そりゃ君を売ろうとは思わないだろうけど」
「私が可愛すぎるせいで手放せなくなったと!? なら仕方ありませんね」

 その性格のせいで売れないんだよ、とジョンは強く思う。
 なにをどうすればこんな性格のメイドロボを売ろうと思うのか、ジョンは激しく疑問だった。実際はバグの結果なのだが、彼にそれを知るすべはない。
 一方、そんなジョンの内心をカオスは考慮などしない。

「私の主になるとお得ですよ!
 まず私が傍に居て、誠心誠意尽くします。もし主様に危機が迫っても、戦艦一隻分の戦闘力を誇る私がお守りします。
 そしてなんと、私にどんな命令も出来ます。服を脱げと言われたら脱ぎますし、敵を殺せと言われたら幾人でも殺します。
 あ、性行為は申し訳ありませんが出来ません。私全年齢対象の商品ですので機能が搭載されていないのです。
 でもここまで聞いたら私の主になる以外ありえませんよね? どういたしますか?」
「え、いやその……」

 カオスの言葉にジョンは狼狽える。
 当たり前だ。いきなり戦艦一隻分の戦闘力を持った存在を自分の意思で好きにできると言われて、狼狽えない人間が居るのだろうか。
 もしいたら、それは余程の強者かある種のサイコパスだ。
 そしてジョンはどちらでもない。

「主とか、いきなり言われても……」
「いい加減にして下さいカス野郎。男の仕事は9割が決断ですよ。
 あなたは私の主になるかならないか、それを決めればいいだけなのにそれすら出来ないのですか?」

 あまりにも無情なカオスの言動。
 その言葉に、ジョンは今までの態度をかなぐり捨てて激情をさらけだす。

「うるさいっ! お前に僕の何が分かるんだ!?
 沢山の人を僕は殺したんだ! この地球を滅ぼしかけたんだ!
 そんな僕にこれ以上力なんかいらないんだ! それに僕はこの殺し合いを終えたって行くあてなんかない!
 だからお前の主になんかならない! なった所でどうせ何もならない!」
「馬鹿馬鹿しい」

 しかし、ジョンの激情すら凍りつきそうな冷たい声がカオスの口から飛び出す。
 その今までとはあまりにも異なる声色に、彼は思わず怯んでしまった。

「沢山の人を殺した? 地球を滅ぼしかけた?
 たかだかその程度が私に何の影響を及ぼすと?」
「そ、その程度って……」
「いいですか? このスーパーウルトラハイパーミラクルロマンチックな美少女メイドロボがあなたに仕えるとなれば、勝利は確定されたも同じ。
 あなたの過去にどれ程の罪があろうと、あなたの未来にどれほどの障害があろうと、私が全て消し飛ばすからです。
 私はメイドです。メイドである以上主の望みを叶え、主の命に従います。だからどうにもならないなんて道はありえません。私が切り開くからです」
「なんだよ……、なんなんだよ君は……」

 カオスの言葉でジョンの心はぐちゃぐちゃだ。
 言動が最早アナーキー、無政府状態と化した彼女の言葉に常人の理屈は通用しない。
 だからだろうか。本来なら絶対言わないであろうこんなことを言ってしまったのは。

「じゃあやってみせてよ」
「はい?」
「主にでもなんでもなるから、僕の人生を切り開いて見せろよ!!」
「かしこまりました。ではまずあなたのお名前を教えてください」
「……ジョン・セラミック」
「了解いたしました。では次に遺伝子情報の採取をさせて頂きます」
「え?」

 その瞬間、ジョンはいきなりカオスにキスをされる。
 それも、唇同士のディープキスだ。
 突然の事にジョンの混乱は止まらない、加速する。
 その後、たっぷり10秒程キスをしたところでカオスは離れた。

「遺伝子情報を採取を確認。これより、ジョン・セラミックをあなたが死亡するまで主様と認定します。
 あとナノマシンを主様の体内に埋め込みましたので、死亡した場合すぐに知覚できます」
「な、なんでいきなりキス……?」
「……最近の童貞はこういうのがお好きと情報を得ましたので。
 ファーストキスが私という超絶美少女で良かったですね主様は。この宇宙で1,2を争う幸せ者ですよ!
 まあそんなことはどうでもよろしいのです。さあ主様」

 そこでカオスは言葉を一瞬区切り、こう告げた。

「あなたの人生を切り開くために、私は何をすればよろしいですか?」

 カオスの言葉に、ジョンは答える為必死に考え始めるのだった。

【G-5/駅/一日目 深夜】
【ジョン・セラミック】
[状態]心が荒れている
[装備]なし
[道具]支給品一式、不明支給品1〜3
[思考]
基本:カオスの力で僕の人生を切り開く
1:僕は何を指示すればいい……?

【カオス】
[状態]通常、ジョンを主と認定
[装備]内蔵装備のみ
[道具]支給品一式、不明支給品1〜3
[思考]
基本:主様(ジョン)に従う
1:現在指示待ち
[備考]
※ジョンを主と認定しました。これはジョンが死亡するまで固定となります。
主が死亡した場合、新たな主を探します。

002.黒い弾丸 投下順で読む 004.CODE NAME「Ϝ」
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最終更新:2019年01月30日 11:41