「ねぇ!あんた大導寺翔っしょ!大導寺コンツェルンの社長の!」
「誰だそいつは。俺は神谷無了だ」

人気の無い森を一組の男女が歩いている。
長身で黒髪が特徴的な男はたった今名乗った通り神谷無了といい、赤髪のショートヘアーの女子高校生の名は五十嵐千里といった。胸はまあまあある。
先を行く無了を千里は後から追い、一方的に言葉を投げかけていた。

「そりゃ世間のニュースにそんな詳しい訳じゃねーけどさ、あの会社の顔ぐらい知ってるっての!
 あんた大導寺っしょ?ウチのパパだってあんたんとこで働いてんだから!」
「違う。名簿を見ろ。神谷無了の名は載ってる筈だ」
「んな事言って煙に巻こうとして…あれ、ホントに載ってる…」
「分かったか」
「…いーや、あんた嘘ついてる!面倒くさいからって偽名使って誤魔化そうとしてんでしょ!」

歩きながら名簿を確認する千里に振り向くこともなく無了は歩き続ける。
無了は声をかけられる事を特に鬱陶しいと思う事は無かったが、さりとて真剣に答えるという事もなく、関心自体を持っていないという状態であった。
しかし、千里は特にめげる事無く会話を続けようとする。

「ねえ、なんで私ら呼ばれたの?あのヒーロー達はここにいる奴らは皆悪!って言ってたけどさ」
「知らん」
「そりゃ私は自分がいい人間だなんて思っちゃいねぇよ?ヤニだって吹かした事あるし…。
 でもさ!いきなり訳わかんねぇとこに連れてこられて殺しあえーって意味分かんねぇよ!
 あいつらヒーローとか名乗ってるけどカスっしょカス!ウチのクソ姉貴と同レベルのカス!
 大導寺コンツェルンってデカい会社なんだからさ、当然じぇーじーえいちの事も詳しく知ってんでしょ?
 教えてってば!」
「俺が知ってるわけないだろう」
「いーや!あんた社長なんだからなんか知ってる筈!
 よく分かんねぇけどこーどな政治的判断?とか経営方針の転換?とかでさ!
 あんたも会社やってく上であいつらの恨みとか買ってたんじゃない?」
「俺は社長じゃない」

ぶっきらぼうに答えながらも、無了自身この殺し合いには頭を捻っていた。
あの竜騎士は贖罪の為だと言っていたが、一体全体何故こんな回りくどい事をするのだろうか。
本当にここに呼ばれた者達が悪だったとして、制裁を加えるのであれば招集した時点で全員殺せばよかった筈だ。
しかしそれをしなかった。そこには何か意味があるのだろうか?

「…本当に社長じゃないの?」
「だから何度もそう言っているだろう」
「…分かったよ、認めるよ。
 そんな無愛想じゃ社長なんて務まるわけないもんね!」
「分かればいい」

本人は知る由もないことだが、実は千里の推察はある意味正しかった。
神谷無了…それは確かに今の彼の名である。それは間違いない。
だがその名を彼に与えたのは親ではない。
創造神と呼ばれる上位存在が、ある人物とエネルギー生命体を合体して作られた存在。
それが神谷無了であり、その名は創造神から送られたものなのだ。

では、その"ある人物"とは誰なのか?
そう、大導寺翔だ。
ある事件をきっかけに命を落とした大導寺翔、彼が素材となって神谷無了は産まれた。
当然姿形は合体前の大導寺翔と同じものである。
神谷無了が大導寺翔でもあるという事は一概には否定出来る事ではない。
…だが、神谷無了には大導寺翔であった記憶はない。
また、大導寺翔本来の人格もない。
彼は神谷無了なのか?大導寺翔なのか?
その是非はともかく今はひとまず無了と千里の会話に戻ろう。

「つーかさ、あんたいくつよ?
 私より年上みたいだけどさ、社長じゃないにしてもその歳でその無愛想さはヤバいっしょ」

その言葉に無了は一瞬だけ考えたが、すぐに事もなげにこう言った。

「1だ」
「…は?」
「1歳だ」
「…あんた馬鹿にしてんの?」
「事実だ」
「はぁ、もういいわ」

無了は嘘は言っていない。
実際、創造神によって無了が産みだされたのは1年前であるのだから。
無論そんな事が千里に分かるはずもなく、彼女はただただ呆れるばかりであった。
そんな彼女の反応を気に留める事もなく無了は歩き続ける。

(量子コンピューターの出した結論か…"主"の意思は影響しているのか?)

無了は改めてこの殺し合いについて考えていた。
果たして自分は如何様に動くべきか?
創造神は何も単なる慈悲で大導寺翔を神谷無了として蘇らせたわけではない。
エネルギー生命体と合体した事で彼は二つの姿を得た。
一つはいうまでもなく神谷無了の姿。
そしてもう一つは…世界の守護者、「神装戦神ザイガーϜ」である。
彼はザイガーϜに変身し、「世界の敵」を狩ってきた。
それが創造神より彼に与えられた使命だからだ。
何故、そのような使命が与えられたのか。
その真意は分からないが、無了はそれを疑問に思った事は無かった。
ただ産まれた時から自然とそうであったとして受け入れている。

(仮に"主"の出した結論がこの殺し合いの開催なのだとしたら、「世界の敵」は俺達の方だ)

無了は「ラプラス」の演算そのものは大して信用してはいない。
だが、その演算結果に創造神が介入した可能性は0ではないと考えていた。
自分がそうであるように、JGHもまた世界の守護者であった。
ならば彼らJGHをシステムとして用意したのもまた創造神であるかもしれない。
だとすればこの殺し合いを用いて、「世界の敵」を纏めて排除しようと踏み切られてしまったという事なのだろう。
無了はそれならばそれでいいと考えていた。
自分が「世界の敵」だと言うのであれば、迷わずこの世から消える道を選択しよう。

(だが…不確かだ。奴らこそが「世界の敵」であるかもしれない)

そこで湧き上がるのは最初に挙げた疑問だ。
何故奴らは殺し合いなどという回りくどい手段をとった?

「あいつらマジ趣味悪いっての、なんなの殺し合いって。
 出来るわけないじゃん。そんなもん見て楽しいのかね?」

ふと、千里の言葉が耳に入ってきた。
そう、考えられるのは"娯楽"のためだ。
殺し合いを見て楽しむ。そして自分達もまた殺し合いに介入して楽しむ。
非常に不合理で理解したがたい考えだが、そう考えれば一応の辻褄はあう。

(問題はこの殺し合いの過程で与えられる、世界への影響だ)

最悪この殺し合いの参加者全員が死んでも、数十名が消えるだけで世界が破壊されるわけではないのであれば無了は動かない。
だが主催者からは娯楽目的の可能性といった悪意を感じる。
殺し合いを通して世界の破壊がなされるのかもしれない。
例えば、この殺し合いが全世界に中継されていて世界的大混乱が引き起こされる。
例えば、世界の根幹に関わる人物を優勝させる事で狂わせてから元の社会へと帰す。
だとすればJGHは…「世界の敵」だ。

「ねーねー、さっきからずっと思ってたんだけどさ。
 そもそもどこ行こうとしてんの?」
「図書館だ」
「なんで?本読みたいの?」
「電子機器がある可能性が高い。そこで主催者の情報が得られるかもしれない」

ともかく今はJGHが「世界の敵」であるか。
それを見極めるための情報が欲しい。
その為に無了は足を進めているのだ。

「にしてもさー、あの開催の時にいた鳥のお面付けてたヒーロー。
 あいつキモかったよねー。めっちゃどもっててさ。
 あれ絶対ドーテーだよドーテー。しかも女どころか男ともまともに話した事ねーってアレ。
 アンタ無愛想だから言うけどさ、あんな風になるんじゃないよ?」
「善処する」
「あの魔女っ娘も引くよねー!
 あれで多分私と同い年っしょ?いやー高校生であれはねぇって
 あんなんウチらの仲間どころかフツーのクラスでもハブっしょハブ」

それにしてもこの女子高生は何故こんなに自分に話しかけてくるのか。
ここまで声をかけられ続けると流石に無了も疑問に思った。
そこで初めて無了は歩みを止め、千里の方へと振り返りこう言った。

「お前、もしかして心細いのか?」

その言葉を聞いた途端、千里の口調は早くなった。

「ちっちっちっち、ちげーし!誰が心細くなんか!」

しかし、その言葉はすぐに弱くなる。

「心細くなんか…」

五十嵐千里。16歳。
彼女は布津有高校に通う女子高生であり、所謂不良娘である。
優秀な姉を持ったことがコンプレックスとなり、荒んでしまった。
だが、荒んだなら荒んだなりの自信というものは持っていたはずであった。
どんな奴が来ようがシメてやる。そんな暴力的な自信が。

…この場に呼ばれるまでは。

あの開催を告げる場で、彼女は不幸にも―彼女よりもっと不幸だった―ディメトロレッドの真後ろに立っていたのである。


―だから見てしまった。肉が弾け、酷く残酷に死んでいく人の姿を。誰よりも間近で。


―だから聞いてしまった。人間が上げた声とは思えない、聞くに堪えない断末魔を。誰よりもすぐそばで。


その時、彼女の中で何かが折れた。
悪ぶってた自分など、所詮小さな存在に過ぎなかった。
呆気なく人が死ぬ、勿論自分も例外ではない、狂った環境に投げ込まれたのだと嫌でも分からされてしまった。

「…付いてきたいなら好きにしろ」
「…」

だからせめて、一人にはなりたくなかった。

【C-4/森/一日目 深夜】
【神谷無了】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、不明支給品1〜3
[思考]
基本:JGHが「世界の敵」かどうかを見極める。敵であるなら倒す。
1:図書館に向かい主催者の情報を収集。
2:「世界の敵」が参加しているなら倒す。

【五十嵐千里】
[状態]:不安
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、不明支給品1〜3
[思考]
基本:死にたくない。
1:怖いので無了に付いていく。

003.勢い任せで掴んだ手が 投下順で読む 005.家族ノカタチ
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GAME START 五十嵐千里

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最終更新:2019年02月25日 22:39