我聞浩二は今の状況に苛立っていた。
自分の意思とは無関係にこんな場所に連れてこられて殺し合いを強要される。それはまあいいとしよう。
浩二は血肉を削るような闘争を求めている。
故に殺し合いそのものには抵抗はない。
しかし、その殺し合いの主催者が自分が最大の敵として見据えているJGHであったなら話は別だ。
JGH…そこはかつて浩二が所属していた組織である。
浩二はJGHのヒーローとして悪と戦い、内なる闘争欲を満たしていった。
だが気付いてしまった。己の闘争欲を最も満たす事の出来る巨大な相手は他ならぬJGHであるという事に。
何人ものヒーローを有するJGHは強い。ならばそれを潰した時の達成感は如何程のものか。
だから浩二はJGHを裏切った。そしてヒーロー殺しのヴィランとなったのだ。
(ま…思ってた以上に奴らは強かったって事かな…)
だが、そのJGHによって自分は呆気なく殺し合いの場に召喚された。何故、いつ、どうやって連れてこられたのかすら皆目見当もつかない。
何の抵抗も叶わず生殺与奪権も握られてしまっている。
これはもう完全に敗北したと言ってもいいだろう。
この否定しようもない事実。それが原因で浩二は苛立っていた。
(いつまでもグチグチ言ってたって始まらねえか)
気持ちを切り替えよう。
ともかく自分はまだ生きている。
一ラウンド目は敗北を認めざるを得ないが、これから巻き返せばいい。
自分を生かしておいた事を後悔させてやるのだ。
そう浩二は決意を新たにした。
打倒JGH、その目標は変わらない。
その為の第一歩として浩二はまずは支給品を確認することにした。
「チッ、なんだこりゃ」
デイパックの中身を見た浩二は落胆した。
所謂「ハズレ支給品」だったようだ。
無造作にそのデイパックを放り、次の支給品も確認すべきか浩二は思案する。
もっとも、支給品になど頼らなくても自分は負けないという自信はあるのだが、何しろJGHに一度負けたばかりだ。
慎重になり過ぎるということはないだろう。
「デスバズラー!」
と、次のデイパックを開けようとした時、声が響いた。
声のする方に目を向ければ、眼鏡をかけた白い着物に袴姿の青年がいた。
「田外の付き人か…」
その青年を浩二は知っていた。
JGHのオカルトヒーロー田外甲ニのサイドキック、
里中二十一である。
浩二はJGHに属していたが故にそこにいるヒーローや関係者について概ね把握している。
二十一もその一人だ。
彼は明らかに浩二に対して敵意を向けていた。
「なんだ、お前さんてっきり主催の側にいるのかと思ってたら参加者にされてたのか、気の毒に」
「黙れ!」
「サイドキックだからヒーローにはカウントされてなかったって事か。どうだ、師匠のいる組織が開いた殺し合いに呼ばれた感想は?」
「…確かにJGHの判断を絶対としていいのかどうかは分からない。だがこの場にはお前のような"悪"がいたのもまた事実!ならば僕はJGHを信じる!この殺し合いは貴様らを滅ぼす為の聖戦だ!」
「お前もまた"悪"の一人と断じられているのにか?」
「悪を滅ぼすのに善である必要はない!僕自身がどうであるかは貴様らのような"悪"を消してから決めさせてもらう!」
「成る程な、まあ俺達にはこんな問答自体不要なものだ。決めるなら腕で決めようぜ」
その言葉を合図に浩二の姿が変わる。
全身をブラックカラーの硬い強化服に包んだ戦士へと。
その名は銃戦士バズラー…否、それは昔の名だ。
今の彼の名は「デスバズラー」、テロ組織「デストラッシュ」のリーダーである。
そのヴィランの腰部には長銃身の大口径の拳銃が備え付けられている。
これこそが何人ものヒーローを屠ってきた最悪の銃、「バズショット」なのだ。
「覚悟しろデスバズラー!」
変身した浩二に対し、二十一は臆することもなく突進を敢行する。
彼には最大速度マッハ50の超高速移動能力がある。
まさに二十一のスピードは電光石火。
この速度であれば弾よりも速い。
如何に最悪の銃が相手でも当たらなければどうという事はない。
バズショット恐るるに足らず。
そしてマッハの速度のパンチであればデスバズラーにもダメージは通ると二十一は踏んでいた。
「ハズレでもなかったな」
しかしデスバズラーは構わずバズショットをを腰から抜き、素早く発砲した。
二十一の能力はデスバズラーも把握している。
ならば何故撃ったのか?まぐれ当たりに期待したのか?
そうではない。彼が撃った弾は二発ある。
内一発は二十一へ目掛け飛んでいく。これは避けられるだろう。それは重々承知している。
もう一発は二十一ではなく、先程放ったデイパックへと飛んで行った。当然、弾丸はデイパックを突き破り、中身が溢れ出す。
その溢れ出した中身は…ビー玉だった。
「うわっ…!」
自分目掛け飛んでくる弾の回避に専念していた二十一は、足元に転がるビー玉に気がつかなかった。
何個ものビー玉を意図せず踏みつけてしまった二十一は態勢を崩し…転んだ。
「僕と…したことが…!」
ただ転んだというだけではない。
弾丸すら躱せるスピードで走って転んだのだ。
受ける反動はただ痛いの一語で済むようなものではない。致命的だ。
二十一は立ち上がる事が出来なかった。
「じゃあな」
駄目押しにデスバズラーは倒れた二十一の頭部目掛けバズショットを撃ち込んだ。
弾は二十一の頭蓋を貫通し、脳漿が辺りに飛び散る。
里中二十一の生命活動が停止させられたのは、誰が見ても明らかであった。
(早速『首輪』のサンプルが手に入ったのは幸先いいが、俺一人じゃどうにも出来ねえ)
デスバズラーから元の姿に戻った浩二は二十一の遺体の前で考えを巡らせる。
兎に角、JGHに生殺与奪権を握られている今の状態はマズい。
叩き潰そうにもなにも、反抗すればスイッチ一つでボン、では話にもならない。
打倒JGHの為にはまず制限をかける『首輪』を解除する事が何よりも先決だ。
しかし、浩二にはそれを可能とするだけの知識を有してはいない。
(…アテはなくもない)
『首輪』を解除できる知識を持った人物。
それを探す事が浩二の行動指針となった。
幸い、それを可能と出来るやもしれない人物を浩二は知っている。
その人物がこの場にいるかが問題だが…。
(いるにせよいまいにせよ、可能性に今はかけるしかないか…)
浩二は歩き始めた。JGHを討ち滅ぼす為に。
正義が狂ったとか、量子コンピューターのバグの可能性とか、そんなものはどうでもいい事だ。
JGHを倒す。それが変わることのない浩二の夢だ。
【里中二十一 死亡】
【F-5/平野/一日目 深夜】
【我聞浩二】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、不明支給品1~2、ビー玉、里中二十一の『首輪』
[思考]
基本:JGHを倒す。
1:『首輪』を解除出来る人物を探す。
2:邪魔になる相手は殺す。
3:デストラッシュのメンバーはいるのだろうか…?
最終更新:2019年01月30日 11:47