C-2、公園のベンチに黒髪を背中まで伸ばし一纏めにし、黒いジャケットを着た少年が腰かけていた。
「メンドくせぇ~」
そう呟く大人びた風貌の少年、
田外零の心中は言葉とは裏腹に大きく荒れていた。
彼が所属するスーパー戦隊「古代戦隊アンシャンジャー」、その中心核となっていた戦士「赤き肉食獣」ディメトロレッド。
またの名を
杉本恭忠はあっけなく殺された。
零は恭忠ととても親しかったというわけではない。
向こうはフレンドリーに接してくるが、理想論者の彼とは反りが合わず反発する事もあった。
しかし、それでも仲間だったのだ。
共に絶滅帝国インケラードと戦ってきた仲間だったのだ。
如何にクールな二枚目といえど戦友を殺されて動じない訳がない。
「JGH…面倒な事に付き合わせやがって…」
アンシャンジャーは正義の組織だ、と零は自負しているつもりである。
それが同じく正義の組織たるJGHに悪だと判断され、あまつさえメンバーが1人殺されるなど理解しがたい事態であった。
とはいえ、現状は現状として受け入れるしかない。
そしてこの現状を引き起こしたJGHを許す気もない。
「黒き一角獣」エラスモブラックとして、ディメトロレッドの仇を取るためにもJGHと戦う。その決意が零にはあった。
「アンシャンオーブとブレスが手元にあるのは幸運だったな…それともそれも主催にとってはハンデにはならないって事か」
アンシャンジャーに変身する為に必要なアイテムは主催によって回収される事は無かったようだ。
その事を改めて確認した零は、ひとまずこの場を移動しようかと腰を上げた。
その時である。
「嫌ァァァァァァァッ!!!!助けてぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!」
向こうからすみれ色の髪の少女が死に物狂いといった表情で走ってきた。
只事ではない、という事は零にもすぐに分かった。
恐らく何者かに襲われたのだろうという事は推測出来たが、それでも確認の為に零は声をかける。
「どうした!?何があった!?」
「む、向こうに…怪物が…」
怯えた顔で少女は声を絞り出した。
それを聞き、零の表情は険しくなる。
アンシャンジャーがこの場に召集されている以上、可能性は存在していたがやはりインケラードのフォールビーストも召喚されていたのか。
「俺に任せな」
即座にアンシャンブレスへとアンシャンオーブを嵌め込み、アンシャンジャーへの変身を図る。
「チェンジ・アンシャ…」
その言葉を言い終わるより先に少女の腕は零の背中へと伸びた。
それが、エラスモブラック・田外零の最期であった。
◆
「恭忠…どうして…」
アンシャンジャー6人目の戦士、「白き恐鳥」ディアトリホワイトこと
杉本貴美もまた動揺していた。
見せしめとして殺された杉本恭忠は単にアンシャンジャーの仲間というだけではなく、彼女の血を分けた実弟である。
彼女もまた恭忠動揺にJGHのヒーロー達に憧れ、故にアンシャンジャーとなった身であった。
だからこそ現状を受け止めることが出来ないでいた。
が、彼女には悩む時間さえ与えられなかった。
「VOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!!!!!!!」
「!?フォールビースト!?」
唸り声を上げながら、サイを模ったような容貌の怪人が突っ込んできた。
何者か、と考えている暇はなかった。
明らかに怪人は自分に殺意を向けている。
となれば、取るべき行動は一つだ。
「チェンジ・アンシャン!」
スマートフォン型変身アイテム「アンシャンフォン」にアンシャンオーブをリードさせ、貴美はディアトリホワイトに変身した。
即座に怪人に対して戦闘態勢を取り、その手に武器を出現させる。
「ディアトリハンマー!」
ディアトリマのクチバシをモチーフにしたハンマーを構え、怪人目掛け振り下ろす。
怪人はそれに対抗するように、鼻先の角を突き出した。
ハンマーと角が激突し、力比べの形となる。
が、数刻後、弾き飛ばされたのはハンマーの方であった。
「ウ…強い!」
怪人は続けざまに打撃を放ってくる。
ディアトリホワイトも手足でガードし、応戦するもパワーの差は如何ともしがたい。
徐々に態勢は不利に傾きつつあった。
「クッ…!」
このままでは危うい、そう判断したディアトリホワイトは超高速移動で怪人から距離を取り、弾き飛ばされたディアトリハンマーを回収した。
「一気に決めるわ!」
ハンマーの頭へとエネルギーのチャージを開始する。
長期決戦は不利、ならば必殺の一撃にかけるしかない。
幾多のフォールビーストを屠ってきた必殺技ならばあの怪人も倒せる。貴美にはそういった自信があった。
「ディアトリブレ…!?」
必殺技を叩き込むべく駆けだそうとした瞬間、ディアトリホワイトは違和感を覚えた。
脚が動かないのだ。
視線を落とせば自分の脚は凍り付き、地面に固定されている事に気付いた。
脚先から氷の道は続いており、怪人の立つ足場へと到達していた。
冷気だ。
怪人の身体から発せられる冷気がこの氷の道を作り、ディアトリホワイトの脚を凍らせていたのだ。
(動きが読まれていた…?でも、どうして…!?)
怪人から発せられる冷気はより強められた。
脚先から膝、腰、腹とディアトリホワイトの身体は凍っていき、遂には全身が凍り付いた氷像と化した。
「エラスモ…ドリル…ブレイク…!」
怪人がくぐもった声を挙げると、鼻先の角がドリルのように回転し始めた。
そして怪人はディアトリホワイト目掛け突進する。
氷像と化したディアトリホワイトにこれを回避する手段は無かった。
そして怪人の角は氷像を貫き…ディアトリホワイトの、杉本貴美の身体は粉々に砕け散った。
後には氷の破片が飛び散り、元は人間の身体であったことを示すかのように赤い断面が覗かせられるだけであった。
ダメージで変身は解除され、ディアトリホワイトではなく杉本貴美の遺骸と化したようだ。
「まずは一人…」
物陰からその一部始終を見届けていた人物がいた。
すみれ色のショートカットの髪の少女…そう、田外零に助けを求めに来た少女、
蓬つかさである。
「よくやったわ、えっと…エラスモブラックさん。今は怪人だからエラスモビーストって呼んだ方がいいのかな」
つかさは怪人へと近寄り、親しげに話す。
エラスモビーストと呼ばれた怪人はつかさに危害を加えようとする様子はなく、それどころか頭を垂れた。
これは一体どういう事なのであろうか?
それはこの怪人、エラスモビーストはまさしくつかさによって産み出されたからだ。
エラスモブラックと呼ばれた事から分かる通り、この怪人の正体は田外零である。
蓬つかさは怪物に襲われてなどいなかった。
彼女は演技によって田外零を騙し、隙を付いて支給品である「フュージョンシード」を植え付けていた。
これによって田外零はアンシャンオーブと融合して怪人エラスモビーストと化し、彼女の命令で動くマシーンへとなり下がってしまったというわけだ。
「ふみくん…私が悪だなんて、嘘だよね…」
つかさは恋慕の情を向ける少年の名を呟く。
主催の側に付いたヒーロー陽光戦士サンフェニックス…
出向井文弥の名を。
彼女は文弥の力になろうとしてきた。
特訓メニューを考えたり、必殺技の名前を一緒に考えたり…とにかく彼と共にあろうとしてきた。
だからこそ、その過程で危機に晒される事もあった。
悪の怪人、ヴィラン、侵略者、そういった者によって命の危機を迎えた経験がある。
それを何とか掻い潜り生き延びてきたわけだが、今はその経験が役に立った。
怪物に襲われたという彼女の狂言は、アンシャンジャーである零でさえも騙せるものへと昇華されたというわけである。
「私は死なないよ。行こう、エラスモビースト」
杉本貴美の遺骸の傍に転がっていたアンシャンフォンとアンシャンオーブを拾い上げながらつかさはそう言った。
つかさはサンフェニックスの友である自分は特別なのだと頭の片隅で考えていた。
だから、死んではならない。
例え他人を陥れてでも。
【杉本貴美 死亡】
【C-2/公園/一日目 深夜】
【蓬つかさ】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、不明支給品1~2、アンシャンフォン、アンシャンオーブ(ディアトリホワイト)
[思考]
基本:生き残る。
1:次なる参加者を探す。
【田外零】
[状態]:健康、ビースト化
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、不明支給品1~3
[思考]
基本:つかさに従う。
1:次なる参加者を探す。
【フュージョンシード】
蓬つかさに支給。
悪の組織「ドゥンケルハイト」が開発した怪人製造用のアイテムであり、無機物と有機物を融合させて一体の怪人を作り出す。
産まれた怪人はこれを植え付けた者の命令で動く操り人形となる。
今回は田外零とアンシャンオーブが融合させられ、エラスモビーストを産み出す結果となった。
最終更新:2019年02月23日 20:28