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「紅い花:下」


作者:本スレ1-549様

110 名前:「紅い花:中/下」1-549 ◆IQnIq2e6Hs 投稿日: 2012/05/20(日) 21:31:46

本スレ1-549です。
先日上げた、本スレ1-549の小説の続きを、wikiのアップローダーに
上げさせて頂きました。長くなったので、中と下があります。

※本編の上編は (創作物スレ 1-099)へ 中編は (創作物スレ 1-110-01)

やけに長ったるいくせに、BL成分極薄です。(特に下が)
女子がモリモリ出てますが、ノンケ達の日常ですので女子がいますご容赦ください;;
どうかよろしくお願いします。

真っ当にBLしてるのも別の組み合わせで上げたいと思いますorz

110 名前:「紅い花:下」1-549 ◆IQnIq2e6Hs 投稿日: 2012/05/20(日) 21:31:46

※前書き※
相変わらずぬるーいBLです。NLが結構入ってます。
女子がガンッガンモリモリ出てきます。
出まくってます。BLに女子なんか出んな!というお方向きでないです。
あらすじは、夏休み真っ盛りで、今度は街中を二人でぶらぶらします。
あと、連続殺人事件とかあって噂になってます。

一応キャラ説明です。
アルマ…ベルナルドの親友。おとなりさん。リコとも親交がある。
やんちゃな9歳女子。
メリル…近所の子供。アルマの友達。女子力高めのおませ。

1

「あら、久しぶりじゃないの!相変わらずハンサムねぇ。どうしましょ、
アタシまだすっぴんだわぁ恥ずかしい」
母さんが朝から、玄関の方ではしゃいでいる。声が、年甲斐もなく嬉しそう
だ。
「うちの息子がいっつも面倒見てもらってるみたいで、ありがと」
「いいえ。あの、今日ベルナルド君をお借りしてもいいですか」
「ええ、どーぞどーぞ。あの子どうせ暇でしょうから」
母さんは、スリッパをぱたぱた言わせ、玄関から台所まで戻ってきた。
「ベル、あんたまだ朝ごはん食べてるの?早くしなさい!」
「あーい…」
寝呆け眼をこすりつつ、俺はフォークで目玉焼きをつついていた。
「リコ君が待ってるわよ!ごめんなさいねぇあの子寝坊助で」
母は言いながら、また玄関に戻っていく。
俺はフォークを持つ手を止めた。リコが自分から俺を訪ねてくるのは、初め
てじゃないか。
パンに塗ろうと、マーマレードのビンに手を伸ばしたとき。肘でうっかりコ
ップを倒し、テーブルに置いてあった新聞にお茶をこぼした。俺は慌てて布
巾で拭いた。
母さんが読みかけたままの新聞は、この街で起きた殺人事件を報じていた。
被害者は年配の男性で…。別の日に起きた一連の殺人と同じく…。犯人は未
だ…。俺はまだ、難しい文章は読めなかったが、ニュースの内容は途切れ途
切れに理解できた。
パポー、パポーと、気の抜ける音と一緒に、時計から鳩が飛び出した。絵の
具が雑にはみ出た、不細工な顔の鳩だ。少し怖いって昔から思ってた。

2

市場の活気ある喧騒から遠ざかり、静かな住宅地の細道をゆく。家々に挟ま
れた青空に、煌めく夏の太陽が見えた。本日も晴天なり。
「リコ、今日は忙しくないの?夕方まで一緒に遊べる?」
「忙しくないよ。もう誰も文句を言わないしね」
「誰も?リコのお母さんは?」
「母さんはもうしばらく帰って来てないよ。きっと、男の人と出ていったん
じゃないかなあ」
「へー。…ええ、えー?」
リコは、ただ淡々と言った。今日の天気でも話すようにあっさりとしていた
ので、俺まで危うく流しそうになった。
俺は言葉を失う。大丈夫その内帰ってくるよ、なんて言うのは無責任に感じ
た。果たして帰って来るだろうか?あの冷たい人が。風に吹かれてカラカラ
と、紙くずが地面を転がっていく。
「別に、気にしなくていい。もう要らない人だから」
思いもよらぬ刺々しい口ぶりに驚いて、俺はリコの方を見た。が、リコは別
段変わった様子も無かった。ポニーテールに結った髪が、リコの歩みに合わ
せて揺れる。
目の前の石段に、鳥の糞が沢山落ちていたので、俺は立ち止まった。見上げ
れば、古い家屋のひさしに鳥が巣を作っていた。ヒナの口に餌を放り込むと、
親鳥は忙しく飛び去る。親の帰りを待つように、ヒナはせわしなく首を動か
す。
「ねぇ、リコ。今日川に行くの、やっぱりやめにしない?」
「え」
「川に行きたいって言ったのは、おれだけどさ。今日はナシにして、代わりに、
リコの行きたい所に行くの」
「…街の広場」
少し考えてから、リコはぽつりと言った。
「冬になると祭りをやってる、あの広場がいいな」
住宅地の隙間から、開けた大通りが見えた。花や棒切れを持った子供たちが、
楽しそうに駆け回っている。

3

街の広場にやってきていた。
広場の真ん中には、とても大きな一本の木が植えてある。何かの記念樹らし
かった。春には華々しくピンク色の花に覆われ、冬には美しく飾り立てられ
て夜の灯に煌く。今は青々と、沢山の葉を繁らせている。今見ると普通の高
さだが、子供の頃は、とても大きな木だと思っていた。
「アルマは元気か」
「元気だよ!もう風邪治ってぴんぴんしてる」
アルマは早朝からどこかに遊びに行ったらしく、さっき訪ねて行っても会え
なかった。また、山に虫でも取りに行ったんだろうか。
「アルマはいい子だからな。仲良くするんだぞ」
「わかってるよ。そんな異動前の先生みたいなこと言われなくても」
「異動って、お前難しい言葉知ってるなぁ」
この日のリコは、見た目は元気なのだけれど、やっぱり悲しそうにしている
気がした。お母さん出てっちゃったのに、何とも思ってない訳がない。
「ベルナルド、私」
リコが何か言い掛けたとき。よそ見しながら歩いていた俺は、誰かにぶつか
り、転んだ。地面に思い切り顔面を打ち、半べそをかきながら起き上がった。
「よぉ、ベル」
目の前に、アルマがいた。俺は彼女にぶつかったらしい。
健康そのものを体現したような褐色の肌は、夏の日に焼けてさらに黒くなっ
ている。ハサミでざっくりと切ったギザギザの髪も黒い。少年のように活発
だったから、サンダルは履きつぶしてボロボロだ。けど、この日は白いワン
ピースが可愛かった。頭には、赤い花冠を被っている。よく見れば顔立ちも
端正な美少女だ。ちょっと目つきが悪いけど。
「あら、ベルナルド。泣き虫の」
アルマの友達のメリルも一緒だった。この日は朝から、女子二人で遊びに行
っていたらしい。
「べっ、べつに泣いてないもん!……ふぇ…」
「わかった。とりあえず鼻を拭け」
ぐずる俺にハンカチを手渡し、リコは屈託の無い笑みで挨拶する。
「おはよう、アルマ。今日は友達と一緒か」
「おう、リコ。…おはよう」
アルマは少し、眼を逸らしながらしどろもどろになっている。照れてるな。
一方、リコと初対面と思われるメリルは、惚れ惚れとした表情で吐息を漏ら
す。
「王子様……絵本から出てきたみたいな…」
メリルはそのまま何かブツブツ言っている。人一倍面食いだしな。きっと、
リコと一緒に天使とか花畑とか見えてるんだろう。とりあえず放っておこう。
「あーぶつかって悪かったな。大の男がビービー泣いてんじゃねぇよ」
「らって痛かったもん…」
俺はまだ鼻をすすっていた。アルマは呆れたように肩をすくめる。俺の腕を
掴み、強引に手を開かせるとそこに何かを握らせた。
「ほれ、お前にやる。こないだの礼だ」
アルマが俺にくれたのは、全少年の憧れ、立派なツノの甲虫だった。堂々た
る風格、黒光りするボディ。ショーウィンドウの向こうのどんなオモチャよ
り、かっこよく見えた。が、惚けていた俺の手から甲虫は羽をはためかせ、
空に逃げていった。広場の木の幹、かなり高い位置に止まった。
「あーあ、苦労して捕ったのに。あんな高いところ無理ね。こんなにすぐ逃
げられるなんて」
「無理じゃねーよ。あたしが登って捕るよ」
そう言うアルマは丈の短い、白いワンピースを着ていた。薄い生地は木に引
っかかれば簡単に破れそうだし、何より下から丸見えになりそうでマズい。
当人は頓着しないかもしれないが。
「いや、私がとってくる。登るまでに逃げないといいけどな」
リコは言うや、木の出っ張りに手をかけて、身軽にひょいひょいと登ってい
く。あっという間に、簡単に虫を捕まえた。そのまま樹上の太い枝に腰掛け
て、足をぶらぶらとさせている。無邪気な笑顔でこちらに手を振った。
相変わらず嘆息していたメリルが、アルマの横っ腹を肘で小突く。
「ちょっとアルマ、あんないい男と知り合いだったなんてずるいじゃないの。
私によこしなさいよっ」
「おっ、おめーには絶対やんねー!」
「あら。彼、あんたのだったんだ?ふぅん」
「ちっげーよ、バカ!」
顔を真っ赤に染めたアルマはつかつかと木まで歩み寄り、自分が被っていた
花冠を、乱暴な動作でリコの方に投げた。円盤投げのごとき勢いのそれを、
リコは虫を捕まえている手で器用にキャッチした。
「お前にやる!被れ!」
眼を瞬かせて、しばしきょとんとしていたリコだったが、嬉しそうに頬を緩
ませてアルマがくれた花冠を頭に載せた。それを被って木の上にいると、何
か木の精みたいだ。
「ありがとうアルマ、すごく嬉しいよ」
「こないだの、えと、こないだの風邪薬の礼だかんな!似合ってるぞバカ!」
アルマはくるりと背を向けて、疾風の如く駆け去っていった。スカートがめ
くれあがるのも構わず、上り階段を一段飛ばしで一気に駆け登っていく。乱
暴だけど、ものすごく照れ屋なのだ。昔から。リコは木の上で、アルマの後
姿を見送っている。
木の下に二人、俺の隣に立っていたメリルは、アルマを追わない。のんびり
とした口調で俺に語りかけてきた。
「あの花ね、贈り物にはピッタリの花なのよ?好きな人へのね」
理由、知ってた?と言うメリルに、俺は首を横に振った。
「何百年も前の昔よ。この地方を治めてた領主様がね、あるとき姫様に贈り
物をすることになったの。領主様は、この地方にしか咲かない、あの赤い花
を選んだわ。その辺に咲くっちっちゃな花だけど、とても綺麗じゃない?こ
れぞ、姫様への贈り物にふさわしいと思ったのよ。で、領主様は遠い遠い都
まで、姫様に花を届けに行きました。姫様は、その贈り物にとてもとても感
激なさって、赤い小さな花に、自分の名前をつけました」
「ロマンチックよね、お姫様の名前がついた、赤い花の贈り物」
わかるかしら?とメリルが言う。俺は何となくわかったような分からないよ
うな、ちょっと女の子の夢はさっぱりだけど、いい話だと思った。
「その領主様のお家、まだこの街にあるらしいんだけど、今、人住んでるの
かしら?」
ああ、その領主様って。ということは、リコはこの話知ってるんだろうか。
と、俺の後ろに、木の上から何か降ってきた。俺もメリルも、びびって変な
声を発しながら振り返った。
「ただいま、捕って来た」
言いつつ、リコは驚ている俺らを見て笑っている。どうやら、びっくりさせ
ようと思って、木の上から俺の背後に飛び降りたようだ。毎回毎回、本当に
いたずら好きだった。こういう所は俺よりも子供っぽいと思う。しかしよく
ケガをしないもんだ。花冠も落ちることなく、ちゃんと頭の上に載っている。
大した運動神経だ。憮然とする俺をよそに、メリルは大笑いしていた。
「とってきてやったんだから、これくらい許せよ」
リコは俺に甲虫を手渡した。虫は、まだ元気良く足を動かしている。
「今度はしっかり持ってろよ」
「うん!」
「木の上の王子様。リコ君だったかしら?」
リコを呼んだメリルは、真面目な顔になっている。
「アルマはね、その冠をあなたにあげる為に作ってたのよ。花も探しに行っ
てね。だから、大事にしてね」
メリルはリコにそう言い、ウィンクした。俺にも手を振ってから、
「アルマ、ちょっと置いて行くんじゃないわよ!」
階段の上に向けて叫び、メリルは歩いていく。アルマはあのままどこまで走
って行ったんだろう。

4

この日は、本当にめいいっぱい遊んだ。くたくたになるまで遊んだ。本当に
楽しくて、日が落ちるのが早かった。リコはいつも通りに終始明るかった。
結局、アルマがくれた甲虫は、かわいそうなので林に逃がしてやった。一日
見れて満足もしたから十分だ。リコの頭には、花冠が変わらず載っていた。
空が赤く染まる夕方。俺は遊び疲れて眠くなって、その辺に座り込んではう
とうとと寝てしまうぐらいだったので、それを見かねたリコがおんぶしてく
れた。今思えばリコがおんぶするのに七歳児は大きかっただろう。ごめんな
さい。ともかく俺は、リコの背に揺られながら、ゆっくりと家路を行った。
前方、主婦らしい女性が、道の向こうまでよく通る声で喋っている。話し相
手は肉屋のカミさんだ。夕食の具材でも買いに来たところだろう。肉屋の店
先には、首の無い鳥と、大きな豚の頭がぶらさがっていた。ハエが飛び回っ
ているのは季節柄仕方が無い。
「聞きました?おかみさん」
「ええ聞いてるよ!あの家の人、少し前から行方不明なんだって」
「どうしたんでしょうねぇ」
「近所の子供に、剣を教えてた先生なのよ。うちの子も、学校の友達もね、
何人か習っててねぇ」
俺はなんとなく、顔を上げてリコを見た。
「ねぇリコ、人が行方不明だって」
「そう。心配だね」
最近は事件が多いからね、と、リコは続けた。
「そういえば今朝ね、新聞よんだらね、この街で、殺人事件がつづけて起き
てるって。まだ犯人が捕まってないんだってさ」
「そっか。じゃあ、その人殺しが近くにいたりするかもな」
物騒な冗談を言うリコは、苦い表情をしていた。
気付けば俺たちは、互いが初めて会った路地を通っていた。数年前と変わら
ず、路地は人気が無い。赤い夕日にぼんやりと照らされた路地は、何か出そ
うな雰囲気ではあったが、リコが一緒なら、ちっとも怖くなかった。
「人殺しが出たって、おれは全然こわくないもん。リコがいるから大丈夫」
「それは」
「でも、また誰か死んじゃうのかなぁ。人を殺すなんて駄目だよ」
「噂で聞いたんだけど、殺された人は皆、滅多刺しにされたんだとさ。でも
金品は取られてない」
「えっと、誰かに恨まれてたってこと?」
「おそらく。衛兵の連中も勿論そう思ってる」
「でも、殺された人がさ、もしも悪いことやってたとしてもだよ。命までと
るなんて、間違ってるよ」
リコは、俺を子供だからとナメたりはしなかった。よって、しばしば俺に対
して難しい質問をした。
「ベルナルド、人の命はみんな同じだけの価値があると思うか」
「もちろんそうだよ、みんな大切だよ」
迷わずに俺は答えた。これは俺がずっと信じていることだった。俺の父さん
は町医者で、母さんは看護師だった。人の命を助けようと懸命な二人を見て、
俺は育った。
「おれ、大きくなったら医者になるの。みんな大事な命だから、みんな平等
に助けるよ」
「そう。立派な目標だ。お前ならきっと、いいお医者さんになれる。お前は
その信念を大事にしたらいい」
リコは穏やかな目で遠くを見ていた。彼はそれ以上何も言わず、夕暮れの道
に靴音だけが静かに響く。俺はリコの背で、そのままぐっすりと寝てしまっ
た。

目覚めたときはもう翌朝になっていて、俺は知らないうちに家に帰っていた。
母さんによれば、リコが家まで届けてくれたらしい。
ズボンのポケットに何か入っている感触があり、探ってみると、丁寧に折ら
れた紙が出てきた。手紙だった。宛名は俺と、アルマになっていた。

 #1

今日は楽しかったなぁ。もうお別れになっちゃった。
今夜、目的を達成したら、この街を出るんだ。そしたらどこへ行こう。一度、
帝都を見てみたいな。
そうそう、荷物は何が要るだろう。まずお金に、地図に。ああ、アルマに貰
った宝物も持っていかなきゃ。

星々は雲に覆われ、湿気を含んだ生ぬるい風が通りを吹く。
男は夜道にひとりきりだった。
酒場を出た男は、すっかりアルコールが回って、上機嫌になっていた。それ
に、普段から新聞も読まない男であった。要するに、最近物騒だから気を付
けようといった警戒心が、男には微塵も無かった。
「おじさま!」
男の見知った少年が、酒場の明かりが照らす、通りの向こうからやってきた。
靴音もはっきりと、少年は石畳を駆けてくる。
「おじさま、あの、…私の母を見てませんか?」
「見てねぇよ。何だぁ、どうした?」
「そうですか…。母が、もう何日も、家に帰って来ないんです。もしかした
らご存知かと思って…」
必死さの滲む声で、少年は言った。目に見えて落胆した様子で、力なく肩を
落とす。
「生憎、俺は何も知らねぇな」
他に何人も、ここの所見かけない知り合いがあったが、このいい加減な男は
気に留めていなかった。今は目の前の少年が、男の欲望を掻き立てた。母を
探して駆けずり回っていたのか、リコは息を切らせ、瞳は涙に潤んでいる。
「…可哀想になぁ、お前は親に捨てられたんだよ。どうだ、また働いてくれ
れば、お前さんに小遣いをくれてやるぜ、生活困ってんだろ?なぁ?」
男はリコのシャツをめくり上げて手を滑り込ませる。いやらしい手つきで、
リコの胸をまさぐった。
「おじさま、いけません…。せめて、あちらの暗いほうで」
震える声は熱を帯び、自分から誘うかのようだった。
目立たぬ路地へと移り、男はリコの服を脱がせ始める。何が起きても、もう
誰の目に咎められることも無いだろう。
「ああそうだ、俺の知り合いを紹介してやろうか?見世物商売をしててなぁ
ソイツ、お前さんの体ならさぞかし高く払ってくれるぜ。なにせ、こんな」
ズボンと下着をずり下ろし、男の手が、リコの中に指を滑り込ませる。リコ
は艶めいた呻きを上げながら男の首に腕を絡ませる。
瞬間、男の首が胴体から切断される。皮一枚を残す、実に鮮やかな手前だっ
た。血が、勢いよく噴き出す。
自分に崩れてきた男の死骸を、ナイフを手にしたリコは払いのけた。氷のよ
うな無表情で、汚らしい死骸を見つめている。
最後の一人。これでもう、私の秘密を知っている奴は片付いた。
私の体は男じゃない。しかも女ですらない。おまけに、殺しても死なない化
け物ときた。
先ほど挿れられた指の感触が、まだ張り付いて消えない。こみ上げる吐き気
をこらえた。リコは乱れた衣服を直し、しばし無言のまま立っていたが、そ
の場にしゃがみこむと、男を滅多刺しにし始めた。髪を振り乱し一心不乱に、
肉に刃を突き立てる。ベルナルドが見たこともない、禍々しい笑みに口元を
歪ませ。
「嬉しいなぁ…嬉しいなぁ……。全員やったよ…。私、すごいんだよ……。
褒めてよ…」
闇に黒々と散る血飛沫の中、透明な雫がぽたぽたと落ちた。
「私、間違ってないよ…ベル…」
この男の命に、一体何の価値があるっていうんだ?殺して何が悪い?こいつ
が私に何をしたか、お前は知らないくせに!お前はいいよ、幸せだから!
お前だけじゃない、アルマも!みんなみんなみんなみんな!
いや、違う、勝手なことを言うんじゃない。彼らに当たるのは違う、ワガマ
マだ。私のことを気にかけてくれたよ?友達じゃないか?そう、友達。でも、
これ以上一緒にいたら、私は嫉妬で彼らを憎む。
ねぇベルナルド。私が嘘ついてるって知ったら、お前は私を軽蔑する?それ
とも、ずっと友達だって言ってくれる?

 #2

ちらりと顔を出した満月が、再び雲の後ろに消える。風は強く、みるまに雨
が降り出した。暗い暗い夜。
轟々と鳴る空に寝付けず、窓から外を眺めていたアルマは、豪雨の中、傘も
ささず歩く少年を見た。
少年の頭に何か、冠のようなものが載っていた気がしたが、一瞬眼を離せば
少年の姿はない。

【 赤い花(終) 】



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最終更新:2012年09月04日 15:55