Top > 創作物投下スレまとめ 2 > 2-081 「St. Valentine's day -a little bitter-」

「St. Valentine's day -a little bitter-」


作者:本スレ 1-091様

81 :1-091:2013/02/15(金) 02:57:23

2/14ちょっと過ぎましたが、バレンタインネタが沸いてきたので、投下します。
以下注意事項。

本スレ1-091 から桜井(893)×古瀬(刑事)
※モブ姦未遂
※ほんのり拘束プレイあり
※微少の暴力・出血・傷痕表現あり
※エロあり
※中出し汁舐めあり

82 :St. Valentine's day -a little bitter-:2013/02/15(金) 03:00:02

「……くそっ……!」
苛立ちを隠そうともせず、何度目かもわからない舌打ちをして、乱暴に携帯電話を内ポケットへしまい込んだ。
こちらは私用のものだ。公用の方はデスクの引き出しに眠っている。公休日前はいつもそうしていた。
とは言え、私用に連絡が入った際、呼び出しに応じないわけにもいかないのだが。

コートを脇に抱えたまま、大股で歩き出した。雪こそ降っていないものの、頬に当たる2月の風は相当冷たい。
何をこうも苛ついているのか、ばかばかしくて呆れるほどお粗末な理由だと、自覚していた。
今夜会いたい相手と連絡が付かない、それだけだ。
午後8時、一般企業なら退社していてもおかしくない時間だが、生憎、相手は“一般人”ではない。
裏通りを歩くこと15分、意外なほどの近さに思わず失笑がこぼれる。
警察署と暴力団事務所、敵同士だと言うのに。

4階建雑居ビルの3階まで、階段を上った。
学生の頃は少しでも鍛えるためにエレベーターを使わないでいた。その習慣が今でも身についている。
息を乱すこともなく、目的の扉の前に立った。
そして、なんら躊躇うこともせずに扉を蹴破った。
「――ンだテメェ――!」
果たして、室内からはいきり立った怒号が飛び交う。
ざっと室内を見渡したが、目当ての人物はいない。
「……おい、広志どこ行った」
「――ンだとコラ――!!」
自分たちの頭を呼び捨てる無礼な客人に対して今にも掴みかかろうと激昂するのは、彼らの性質上無理もない。
しかし、それらを制止する声があった。
「今日は幹部会で――戻ってきませんよ、古瀬さん」
この中では一番の古株だ。名を、たしか斎藤といったか。
古瀬とも何度か会ったことがあり、面識がある。
彼の中でこの古瀬という男は、頭である桜井の古くからの友人で尚且つ性愛関係にある間柄という認識だ。
しかも桜井の方がかなり入れ込んでいるという事実。
それは、古瀬の職業以上に、逆らうことのできない理由になっている。

「……あの赤い頭、何者なんスか」
「……あ――刑事だ」
「サツ!?」
「安心しろ、お前らは俺の“管轄外”だ、何してようと興味ねえよ。
 だが暴行の現行犯なら話は別だ」
そう言うと、古瀬は自らの身体を、最奥の窓際に位置する木製デスクの上に打ち付けた。
最初は頭から。次に肩から。
電話機、筆記具、書類、灰皿、観葉植物、すべてが床の上に散らばった。
何かで切ったのか、血液がこめかみの辺りを伝い落滴していた。
「いッ……てえな、くそ……。無駄に贅沢な机使いやがって……。
 下らねえことで引っ張られたくねえだろ、早く広志呼べ」
「古瀬さん、勘弁してくださいよ……!」
「呼びたくねえなら俺が行くわ。どこにいんだ?今すぐ言え」
「勘弁してくださいよ、ほんと……。今呼びますから……!」
職業柄、血の気の多い輩や頭のいかれた輩の相手は慣れていた。
だが何度対面してもこの刑事にだけは慣れることができなかった。
もちろん一般人の目ではない。しかし刑事の目でもなければ極道の目でもない。薬物中毒者の目でもない。
きわめて正気な異常者、とでも言えばいいだろうか。
よくもまあこんな面倒な人間と付き合っているものだと、呆れるやら感心するやら。
斎藤は仕方なく、それでいて助けを求めるように上司にコールした。
一変して静まりかえった室内に呼び出し音だけが響いている。
「……どうした」
数秒の後、低く落ち着いた声を聞いて、斎藤はようやく解放感を覚えた。出てくれて助かった。
「寄越せ」
古瀬が斎藤の電話を取り上げる。
「広志、5分で戻って来い。遅れたらこいつら全員に掘らせる。
 何人いる――8人か、こんだけいりゃ満足できんだろ、さすがに」
「……今行く。待ってろ」
短くそれだけ告げて、通話は終わる。
革張りの椅子に深く腰掛け、持て余した足を机の上に置いた。
そのまま何をするでもなく左手の腕時計を眺めていた。
アナログ時計の秒針がきっちり5周したのを確認し、一番近くにいる男のネクタイを掴んで引き寄せた。
見たことのない顔だ。新入りなのだろう。
怒り・蔑み・怯えが綯い交ぜになった表情に、古瀬は胃の腑に甘く痺れが広がっていくのを感じた。
「5分――経ったよなあ?」

大輪の、赤い椿のようだと形容されたことのある、唇。
口紅をひかずとも官能的な色味を帯びて、やや肉厚気味なそれが男の耳元に吸い付く。
いやらしい水音をたてて、舌が耳朶を蹂躙する。
堪えかねたのか、男は息を荒げて古瀬を机の上に組み敷いた。
この興奮が憤りからくるものなのか情欲によるものなのか、判断がつきかねる様子で。
「……かわいいな、お前」
扇情的に笑みをかたどった唇が、骨ばった大きな掌で塞がれた。

――いいな、ゾクゾクする。そのまま犯せ――

押さえ付けられたまま、古瀬は掴んでいたままのネクタイから手を離し、そのまま位置を下げていくと男のベルトに手をかけた。
逃げていきそうになる腰を掴み、自分の身体の上へ引き込む。
脚を絡め、背中に腕を回す。その広さを確かめるようなゆっくりとした動きで、肩甲骨から腰までを撫で擦った。
布越しにではなく、直に触れて爪を立ててみたいと思った。
張りのあるしなやかな若い筋肉の感触に浸っていた腕が、不意に掴み上げられる。
そのまま両手をまとめて机の上に縫い止め、自分を見下ろす目の中に宿っていたのは、明らかに劣情だ。
「やっぱり、かわいいよお前。このままブチ込んで掻き回してくんねーかな」
腹にぶつかる硬い感触に、古瀬は満足し期待した。

『――遅れたらこいつら全員に掘らせる――』

そう言ったのは冗談でも挑発でもなく本気だった。
それは桜井も承知しているだろう。通常通り車を走らせていれば、15分程かかる距離。
それをどれだけの速度で走らせてきたのか――外で急ブレーキの音が響いた。
続いてドアを閉める音。
「どうした、早くしろよ。広志帰ってくるぞ?」
――ようやく?――もう?
矛盾する自分の気持ちに半ば呆れ、それを払拭するように、目の前の男に口付けた。
そしてネクタイを軽く解き、自分のシャツのボタンを外していく。
一番下のボタンが外れたその時。
「……頭――!お疲れ様です――!」
「……待ちきれなくてつまみ食いか、悪かったな」
大股で歩く桜井の横で、部下が皆、頭を下げる。
窓辺に近付くと、古瀬に圧し掛かっている男を引き剥がした。
「遅えよ」
「タクシー脅して120キロ出させたんだぞ?褒めてくれ」
「……ああ、事故んなかった運転手を褒めてやりてえな」
「俺が無事で嬉しいか?」
「おう。無駄な仕事が増えなくてよかったよ」
「……ったく、素直に『会いたかった』って言えねえのか?」

古瀬を脇に抱え、引き摺るようにして隣の応接室へ運んだ。
扉を閉めると同時に、自立しようとも抵抗しようともせずただされるがままの身体を床へ放り投げる程度には、腹が立っているらしい。
「……広志、お前の――そーゆーところ、大好きだよ」
望んだ通りの暴力を与えてくれるところが。それを与えてくれた本人は決して望んではいないところが。
自分を見下ろす桜井の表情にわずかな苦みを見て取って、古瀬は思わずそう、口に出していた。
隠す気のない毒を孕ませて。
自分に湧く疼きは、物理的な身体の痛みのせいにして。
「――透――」
物理的にも精神的にも、歩み寄るのはいつも桜井の方から。
「あ――待て、コンタクト落とした」
重そうに身体を起こし、近付こうとする桜井を片手で制すと、床の上を這い出した。
「今、明かりつけるから」
入り口の方へ向かおうとする足元に、古瀬の手が絡んだ。
「――やっぱいいわ。明日ちゃんと探しとけよ?」
下衣の裾を掴んでいた手が、そのまま探りながら上へ移動する。
縋るような形で両手を桜井の腰に伸ばし、ベルトを外す。
そして、それを桜井へ差し出して、言った。
「縛る?」
一応は伺っているものの、拒否することを許さない語気を孕んでいた。
言われるままに桜井は自分のベルトを受け取ると、古瀬の両手を彼の頭上で固く縛った。
縛り上げられたままの体勢で、身体を桜井の腰へ預け、顔を股間へ埋めた。
歯を立てて器用にボタンを外し、ファスナーをおろす。
下着の上から舌を這わせ、舐め上げる。
まだ反応すらしていない桜井の性器は、それだけでも存在を示していた。
拘束されたままの両手は、桜井のシャツを握り締めている。
唇と舌先で、しばらくは布越しに愛撫を加えていたが、やがて中の性器が窮屈そうに形を変えると、
唾液と先走りで濡れそぼった下着を噛んで、ずり下ろした。
前歯が敏感な部分に触れたのか、ほんの僅か、桜井の身体が硬直した。
それでも怒張したまま勢い良く飛び出し、古瀬の頬を弾く。

ともすれば怯みそうになるほどの、大きさ。
それを気に留める様子もなく、夢中で頬張った。
根元からゆっくりと裏筋に舌を絡ませ、じゅぷじゅぷと恥ずかしげもなく、美味そうに舐め上げる。
水音と、時折洩れる喘ぐような二人の吐息だけが、室内に聞こえている。
「……お前さ、ウチの店の誰よりも上手いよ」
頭上から、皮肉めいた切なげな桜井の呟きが聞こえたが、それに構うことなく、喉の奥まで呑み込んだ。
体積を増した性器は、容赦なく古瀬の口腔内を犯している。溢れる唾液と先走りで口元が濡れ光る。
静かに身体の脇に垂らしていただけの桜井の腕が、不意に古瀬の前髪を掴み、顔を上げさせると、覆われていた右目が現れた。
眼球ごとぐちゃぐちゃに引き攣れた、咬み痕。視力はほとんど無くなっているが、涙を流す機能は損われてはいないらしい。
今も桜井の性器を喉奥深くに納めているための、生理的な涙が滲んでいた。
「――透」
射精が近いことを、その声音と動作、含んだ性器の脈動で察し、鈴口の先端を一層強く吸った。
「――ちょ、透、出る……!」
そう告げる桜井へ、古瀬は一度頷くだけで、吐き出そうとしない。
性器を咥え込んだまま、吐き出された精液を嚥下する。
そのすべてを飲み干すことなど、当然かなうはずもなく、口の端から垂れ流された。
「……ひッでー顔――」
桜井が苦笑する。
ようやく口から性器を吐き出し、首を横に振って桜井の手から逃れると、肩口で口元を拭った。
「早えな」
口を大きく開いたり引き結んだりと、顎の調子を確かめながら、一言告げた。
「あんまり保たすとお前のお口が疲れるだけだろ?」
「お気遣いどーも。――で?お前は、いつまで突っ立ったままなんだ?
 チンポ出しっ放しで、間抜けだと思わね?」
口淫の最中、握られっ放しだったシャツはすっかり皺になっていた。その裾が下へ引っ張られる。
それを合図にして、古瀬は桜井に背を向けそのまま突っ伏した。

「脱がしてー」
前方へ投げ出した腕に顔を埋めながら、子供のようにねだる。
膝の上に桜井の体重を感じると、床に手を付いて上半身を持ち上げ、そのまま肩越しに桜井を見上げる。
「はーやーくー」
剥ぎ取られることを求めて腰を揺らす。
「こら、あんまり悶えるな」
あやすような、慰撫するような、柔らかな手つきで古瀬の腰を撫で擦る。
そのまま右手を腹の下へ潜らせ、ベルトを外すと、下衣をずり下ろし臀部を剥き出しにした。
下着はもともと付けていない。学生の頃からそうだった。
古瀬にそう習慣付けさせたのは、他でもなく桜井自身に由来するものなのだが、今では後悔しかしていない。
脱がすたびに口の中に苦味が広がる。
「濡らすもんなんか――無えからな」
「いらねーよ」
少し小ぶりだが形のよい尻を押し広げ、谷間に沈んでいる肛門に両の親指を差し込む。
すっかり雄蕊を受け入れることに慣れきったそこは、すんなりと呑み込んでみせた。
「ン、――」
中で指が蠢くたび、鼻にかかった甘い声が洩れる。
「……そんな前振り、いらねーから――」
ずっと桜井の方を見上げていた顔を下げる。額を床に擦り付け、熱を増した声で求めた。
「早く、突っ込んで」
言われるまま、名残惜しげに指を引き抜くと、もう一度首をもたげた性器を押し当て、そのまま強引に捩じ込む。
「ん――ッ、あ…、ッあ、ん、――ッ」
腹の奥深くまで侵入され、容赦なく内臓を揺さぶられる。
下腹部から突き上げてくる、浮遊感と吐き気。その後じわじわと押し寄せる快感。
「――も、っと、広志、もっと……」
声を出すことを恥じ入って厭うほどの、貞淑さは持ち合わせていない。
絶頂が近付くほどに高く擦れる声を、あられもなく室内に響かせた。
強く穿たれるたび身体が前後に揺れる。
先ほど机に打ち付けた際の怪我だろうか、毛足の長い絨毯に摩擦され、左側頭部にピリとした刺激が走る。
これが苦痛なのか快感なのか、わからない。あるいは、その両方なのか。
もどかしく、不自由な両手を引き寄せ、傷跡に爪を立てた。
こんなことを考えている余裕などなくなるくらいに、歯止めなく乱して欲しかった。

下部で繋がったまま身体をぴったりと合わせ、余裕の無くなった桜井の吐息が、古瀬の首筋をくすぐった。
アルコールの甘い匂いに、少しだけ眩暈がする。
汗で張り付いた少し長めの襟足を唇で寄せ、現れたうなじに舌を這わせ歯を立てる。
桜井の身体の下で、一回り華奢な古瀬の身体が僅かに跳ねた。
中がきゅっと締められ、桜井の性器を刺激した。
呼吸とともに、腰の動きも激しくなる。抜いては突き上げるたび、肉のぶつかる音が聞こえている。
結合箇所が強烈に熱を生み、二人の身体を追い込んでいった。
「――透――」
何度も何度も名を呼んでは、腰を回す。
それに呼応するように、古瀬の小さく強張った肩が小刻みに震えている。
桜井は右手を古瀬の下腹部へ潜らせ、萎えたままの性器を握った。
勃起機能障害なのはわかってはいるが、揉みしだいてやると、痛みに刺激されるのか古瀬の背中が快感に波打つ。
「――っふ……ん、ンぁっ……、っ――」
蕩けそうな、甘い声が上がり、引き攣った爪先が床をなぞる。
直腸の内部で、桜井の性器が大きく爆ぜた。
溢れる精液を奥深くまで流し込むように、腸壁に擦り付けるように、腰を深く突き入れる。

――まるで、マーキングだな――

自分のものには決してならないと、わかりきっているのに。
そんな自分が滑稽に思えて、桜井の口から思わず失笑が漏れてしまう。
その気配を感じてか、古瀬は顔を上げ、桜井を見遣る。
「――あまりに早漏で自嘲してんのか?」
「誰のせいだよ」
「名器ですみませんね」
少し疲れた声で不貞腐れる古瀬を、桜井は愛おしいと思った。

行為の際、古瀬は失神するまで責められることを望む。
桜井は殊更自分に対してはその要望が強いように感じていた。
望むままに苛烈な交接をしても構わないのだが、何度も指摘されたように、今日は自分の身体が保たなかった。
ここへ戻ってくるまでに大量に摂取したアルコールのせいだとは思うが。
意識は冴えているのに、身体はどうやら思い通りにはならないようだ。
満足させてやれなかったことを悔やむ気持ちも無いわけではないが、不満気な顔を見るのも嫌いではなかった。
頬を撫でてやりたいとも思ったが、そんな扱いを古瀬が望む訳もなく、ますます機嫌を損ねさせるだけだと知っている。
伸びかけた右手を押しとどめ、その代わりに未だ繋がったままの場所を撫でる。
そこから性器を引き抜くと、中に出された精液が溢れ、桜井と古瀬の間に糸を引いていた。
それを指で拭い、更には中のものを穿り出し、古瀬の口元に運ぶ。赤い舌が丁寧に舐めとっていく。
指に付いた精液が無くなると、少し物足りなさそうに、桜井の指をしゃぶった。
「あんまり舐めるな。ふやける」
子供みたいに甘えるような仕種をもっと見ていたいところもあるが、名残惜しげに絡み付いてくる舌と唇から抜き取った。
そして自身の衣服を整え、床の上に胡坐を組んで座る。その膝を枕にして、古瀬が横になる。
「透、悪い。そこの灰皿取ってくれ」
「ん――」
いささかだるそうに返事をし、古瀬はちょうど足元にあるテーブルの上に足を上げ、乗っていた灰皿を蹴り落とした。
溜まっていた灰を散らしながら、重く転がる。
苦笑しながら、桜井は自分の方へ転がってきた灰皿を拾った。
「……悪かったよ。――それ、付けっ放しだったな」
拘束されたままの古瀬の両手を差し出すように促し、ベルトを外す。その時に触れた指先の冷たさに、ぞっとした。
暗がりでよく見えないが、手首にはおそらく索痕が痣になり残っているのだろう。
開放され血が通い始めた掌に、体温が戻るのを確かめるまで手を離せなかった。
が、労わるようなその手つきを嫌ってか、古瀬の手が逃げていく。
未練がましく宙を掴んでいるわけにもいかず、桜井は右手を上着の内ポケットに差し入れ、煙草とライターを取り出した。
一本だけを咥え、火を点ける。
曲線的で芸術品のようなライターが着火する様を、古瀬はやや眠たげな目で見ていた。

古瀬も煙草は嗜む方だが、ライターに拘りは持たない。火さえ付けばマッチでも100円ライターでもなんでもよかった。
ただ、桜井の持つライターを見ているのは好きだった。
それほど高価な物ではないのだが、古瀬が気に入っている様子を見て取って、桜井も長いこと愛用している。
不意に、古瀬の顔を見つめていた桜井が首を傾げ、左のこめかみに手を伸ばしてきた。血が乾いてこびり付いている。
「どした、ここ。怪我でもしたのか?」
撫でる桜井の手を振り払い、古瀬は自分の袖口で拭い取った。
「なんでもねーよ。
 なあ、俺にもちょうだい」
両手を伸ばし桜井の頬を引き寄せ、火の点いた煙草ごと、口元に噛み付いた。
口腔内に熱を持ったままの灰がこぼれ、鈍い痺れが広がった。
咽てしまうまで煙を呑み込みたかったが、急に古瀬が眉をひそめ、唇を離す。
そして、桜井の持っていた灰皿に、火の消えてしまった煙草を吐き出した。
「――酒臭い」
上体を起こし、桜井の胸に顔を埋める。
そのまま嘔吐するのかと思い、桜井は古瀬の背中を擦ってやったが、どうやらそこまで気分が悪いわけではないらしい。
呼吸を整える程度で終わった。布越しに感じる古瀬の息が熱い。
「……広志……チョコ食いたい、チョコレート。中に何も入ってないやつ。甘いの」
「わかった。コンビニ行ってくるから、ちょっと待ってろ」
そっと古瀬の身体を抱き、床に置いた。その形のまま身動きもせず、静かに横になっている。
眠いのかもしれないと、桜井は思った。帰ってくる頃には眠っているのだろう、と。
暗いままの応接室を出ると、明かるさに一瞬だけ目が眩んだ。
残っていたのは斎藤一人だけだった。斎藤が帰らせたのだろう。
「頭……あの人残してどこ行くんですか……!」
桜井が一人で出てきたことを訝しんで、斎藤が近寄る。
「コンビニ行ってくるだけだ」
「そんなの俺行きますよ……!」
「俺が行きたいんだよ、行かせろ。
 疲れきった体でしがみついてきて、『チョコ食わせて』って言うんだぜ?……かわいいだろ」
「……はぁ――。頭、幹部会の方は――」
「ちょうど、抜け出す理由が欲しかったところだ。
 透、寝てると思うから。安心しろ」

両手に白い袋を大量にぶら下げ、桜井が事務所に戻ってきたのは15分後のことだった。
そう急ぐ必要はないと思っていたのだが、自然と足が速まった。
「――斎藤、悪い、そこ開けてくれ」
「また、ずいぶんと買い込みましたね……」
「お前にもひとつやるよ」
そんな他愛のないことを話しながら、応接室のドアが開けられた。
床に荷物を置き、室内の照明を点灯させる。
「斎藤、悪いが、もう少し残っててくれ」
「はい」
その返事を聞いて、桜井は静かに扉を閉めた。
室内では、古瀬の身体が出る前と変わらない姿勢のまま、横たわっていた。規則正しく肩が上下している。
その横に腰を落とし、ビニール袋の中から包装された箱を取り出した。
世間ではバレンタインデーということで、きれいにラッピングされたチョコレートが店頭を飾っていた。
無造作にリボンや包装紙を破り、箱の中から小さなトリュフを一粒摘み、口に放る。
「……甘え……」
甘さに辟易し、それをかき消すように煙草を吸った。
吸い終わると、古瀬の右足に絡まったままの下衣を整え、再び自分の胡坐を枕にして古瀬を寝かせた。
深く寝入っているのだろう、目覚める気配はない。
静かにシャツのボタンを掛けながら、大きくため息をついた。
古瀬の右肩から左腿にかけて、袈裟懸けに斬られたかのような傷跡がある。
この傷跡を、なるべく視界に入れないようにしていた。
かつて、自分が付けさせた傷だった。それも古瀬自身の手で。

――お前らに犯られてから、死のうと思った――

高校を卒業すると同時に、古瀬をレイプした。正確には、しようとした。
未遂で終わった。ただ、その直後、実際に強姦されたのだ。古瀬の父親を殺害した、何者かによって。
ただ、古瀬の記憶はとても混乱していて、自分を犯したのは桜井たちだと信じていた。
桜井も敢えてそれを否定することはしなかった。
彼の部屋で暴行し、抵抗され、家を追い出され、戻った時には目を覆いたくなるほどの惨状が広がっていた。
古瀬があらゆるものを失った、その切欠を作ったのは、紛れもなく自分だという自覚があったからだ。
それ故に、傷跡を見るのは苦しい。

彼が行為の際に後背位を好むのは、桜井にとっても好都合だった。自然と、見なくても済む。
もう一度深く息を吐いて、古瀬の左手を握った。
「自業自得だって、わかっちゃいるが……」
握っていた指が、ピク、と動くのを感じた。
古瀬の顔を見遣ると、まだ眠そうな目を数度ゆっくりと瞬きさせて、桜井を見ている。
起こしてしまったらしい。
「どした?」
思いのほか、優しく甘い声音が出てしまい、内心失笑する。
こんな声など、求められていない。
「……何ひとりで喋ってんだ?――お前こそどうした」
「起こして悪かったな。もう少し寝てろ」
指先で、古瀬の頬を撫で上げる。猫のように、目を細め桜井を見上げる。
微睡んでいる古瀬は幾分、丸くなる。桜井はこの一時が好きだった。
「――ぁ……いや、帰るわ。邪魔したな」
そう言って、上体を起こす。
が、立ち上がるまではいかず、桜井に凭れ掛かった。
「斎藤に送らせる。
 ああ、そうだ、チョコ買ってきたから。それも持ってけ」
桜井がコンビニ袋の山を顎で示した。
「――半分でいい」

斎藤が車を回し、その中に古瀬とコート、コンビニ袋4袋を詰め込んだのは30分前。
古瀬の自宅の鍵は、予め桜井が斎藤に手渡しした。
「この辺に捨てといてくれていいから……」
ゴミ置き場の前や玄関の前で、古瀬は斎藤の背中からそう告げた。
「……ちゃんと部屋まで運ぶように言われてますから」
ベッドの上に古瀬の身体を下ろすと、軽くなったのは肩だけではなかった。
「――やってく?」
去ろうとした斎藤の裾を、古瀬の指が掴む。
「……自分、男と寝る趣味無いっすから」
「あ――そう」
そのまま指は外され、布団の上に落ちた。
「――鍵、外から掛けておきますから」

翌朝、携帯電話がメールの着信を告げ、古瀬は目を覚ました。
『電話出られなくてすまん。レンズ見つかりましたが、破れてる。お前の壊したドアとイーブンということで(´人`*)』
「…………」
なんとも言えない苛つきを覚え、そのまま削除し、再び枕に顔を埋めた。

【END】

以上で、バレンタインデー2013桜井×古瀬編終了です。
意外と長くなってしまいましたが、最後までおつきあいくださった方々ありがとうございます。
広志の使ってるライターは「ロンソン バンジョー 黒ハイプレート」でggrば出てくるやつです。
そして最後のメール文書いてる時に、○○ならこんな文面だろうなーというのを妄想してちょっと楽しくなりましたww
古瀬は件名だけで会話、本文なし。

イザヤ×ヨシュア(設定スレ2-002) -very sweet-版、牧×繊(本スレ1-866) -mellow-版、
アスカ×ロイコ(本スレ2-283) -painful-版
も、かけたらいいな、来年の2/14までに……!と思っております。


タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2013年03月03日 12:00