それは、遠い、遠い昔の話。

冬を越すために母と共に洞窟で眠っていたはずだった私が目を覚ましたとき、
私は、檻の中にいた。

外から吹き付ける風と雪は、私が住んでいた山のそれと同じくらい冷たいが、
じわりと湿った、身に纏わりつくような不快さがあり、
それが、今自分が故郷から遠く離れた地にいるという事実を悟らせた。

檻の中には、私を含めて4頭の同族がいた。
私と、私の母。それと、面識のないオスとメスの若熊が1頭ずつ。
檻は私が知っていたどんな木よりも強く、
それが金属という物質であることを、私はそこで初めて知った。

檻の外では、私達を捕えたであろう、
数名の“人間”が、何やら興奮した様子で叫びあっていた。

『ふっざけんなよアイツら!!
 研究所の奴ら、ゴリラは買ったのに熊は買えねえってよ!
 何のためにわざわざ北海道から連れてきたと思ってるんだ!
 情報屋の奴も適当なこと言いやがって!』
『落ち着け。脳だけなら買ってくれると言ったろう』
『殺して首を落とすまでこっちにやらせんだろ。割に合わねえよ』

ぶつくさと何やら言いながら、彼らは気だるげに”銃”をそれぞれ手に取りはじめた。

『ところで大丈夫なのか? 足が着いたりしねえだろうな』
『安心しな。ここは蛇茨の土地だ。人を殺したってバレやしない所だ」

その時、彼らの殺気を感じ取ったのであろう母が、少しだけ私を見つめた後、
咆哮と共に檻に跳びつき、引きちぎるかの勢いでそれを力任せに曲げ始めた。
金属の格子がみしみしと音を立てて歪む。
恐慌を起こした人間たちは、慌てて銃を構え、

ぱん、ぱん、ぱん。

続けざまに銃が鳴る。母の身体に穴が空き、血が噴き出す。
それでも、母はその手を離さない。
母のふり絞った最後の力で、遂に、金属の格子がへし折れる。
私と2頭の若熊はそこから飛び出すと、一目散に目の前の森に向かって走り出し、木々の間に飛び込んだ。

『おい、他の熊が逃げた!』
『ほっとけ、いずれ死ぬさ。それより親の首を落とせ』

幸い、人間達は追ってこなかった。私は、母を思いながら、藪の中で一夜を明かした。

翌朝。
腹を空かせた私は導かれるようにその場に戻った。
当時の私はあまりに幼く、狩りの仕方も全く知らなかったし、
後にヤマオリの山と知るこの地には足を踏み入れたばかり。
どこに食べられるものが生えているかなど分かりはしなかった。


そこには、首を落とされた母の死体が横たわっていた。
その身には蛆が沸き、蠅がたかり、カラスが肉を啄んでいる。
私は、別れ際の母のあの瞳を思い起こした。
言葉は交わさなかったが、それに込められた願いは分かっている。

生きねば。

私は、カラスを追い立てて、蠅を振り払うと、
母の肉にかぶりつき、血を啜った。

生きねば。この野生の世界で。


我、人間が言う『独眼熊』は、この時に二度目の誕生を迎えたのであろう。
この山折の山で、天涯孤独の熊生(じんせい)が始まった。
孤独と言えば、己と一緒に逃げた2頭がどこかにいるはずだったが、
結局、その後二度と会うことはなかった。
後にあの「熊野風」と出会ったとき、
もしや、あの2頭の子供だろうかという考えがふと頭に浮かんだが、
奴がそんなこと知る筈もないし、こちらもわざわざ問う気も無かった。

野生という弱肉強食の世界の中で感傷に浸っている暇はなく、
今日を生きるにただ必死の暮らしを過ごす中で、
人間に対する恨みは、心中にわずかに残滓を抱くに留まった。
それでも人間との奇縁は途切れず、
六紋兵衛と『山暮らしのメス』が己に2度の敗北を刻みつけたが、
山を下り人間を殺戮するというような発想には至らない。

野生に生き、野生に死す。
それが己の定めた生き方であった。
そのはず、であった。


このVHは、独眼熊にとって、まさにエデンの知恵の実であった。
ウイルスが齎した知能は、アダムとイヴの如く、揺り籠であった神の楽園から欲望と悪徳の荒野に彼を導いた。
彼は、弱者を甚振る快感を覚え、銃の威力に酔いしれ、策を講じ、敵を陥れる悦楽を知った。
遂には、今なお野生に縋る『山暮らしのメス』を、その知を以て、嘲笑いながら殺した。

更に、あのワニを喰らって以来、己の中に巣くった『呪い』が劇薬となる。
その呪いの根源に、とある一人の娘の怒り、怨念が渦まいているのは分かる。
だが、その憎愛の強さは、社会を築き、歴史を紡ぎ、業を積み重ねるといった概念を知らぬ
独眼熊には全く図り知ることが出来ないものであった。
表面だけの知や感情しか知らぬ熊には、その感情の渦から逃れる術は無く、
独眼熊の自我は、底なし沼に落ちたが如く、少しずつ呪いに呑み込まれつつある。
ここしばらくは、今言葉を話しているのが自分なのかナニカなのか、その区別すらつかなくなっている。

しかも、ここに至って呪いは、爆発的に力を強め出していていた。
己に巣くうものの鏡写しである、もう一つの呪いが、何やら恐ろしい力を手にしたらしい。
己の自我が闇の中に取り込まれようとしている。
操り人形にはされたくない。
だが、どうすればいいのかまるで分らない。
己の“知能”が、呪いの強大さを正確に認識させ、独眼熊に絶望を与える。

自分では、呪いに勝てない。
何故なら、そういう存在だから。
“知能”は、それに抗う術を教えてくれない。
数百年に渡り積み重ねられた人間の業と怨念に、一介の熊畜生の手が、届くはずがないのだから――


ウイルスが活性化する。

独眼熊のストレスが脳神経に刺激を与え、それを感知したウイルスが反応を繰り返す。
その働きが神経細胞間に無秩序な信号を火花の様に散らさせ、脳細胞の情報処理にバグを引き起こしていく。

独眼熊が他の感染者を食らったことで取り込んだウイルスが、
その者の脳から読み取った情報を、脳細胞に転写していく。

ウイルスが活性化していく。


研究所地下3階、解析室前。
氷月海衣と独眼熊――または、その自我を浸食しつづけるナニカーー
2人の復讐者同士の戦場は、氷結地獄と化していた。

極寒の冬山が如く吹き荒れる吹雪が、
野生少女に擬態した独眼熊の両手両足を凍結させている。
この地獄を作り出したるは、氷の少女、氷月海衣。

氷月海衣は、このVHで幾つかの修羅場を潜り抜けたとはいえ、
それでも普通の女子高生に過ぎない。それは海衣自身も十分承知の上だ。

翻って、目の前の敵――独眼熊は、文字通りの怪物。
凍結させた扉をも易々と貫いた爪は、海衣の命など簡単に刈り取るだろう。
まともに戦って勝てる相手ではない。
となると、取るべき戦術は一つ。
異能で相手の動きを封じ、銃で撃つ。

その戦術は、客観的に見て成功しつつあるように見えた。
独眼熊の両手足は凍り付き、ところどころ皮膚が裂けている。
独眼熊は脱出を試みているが、四肢を縛る氷は、目の前の少女自身の意志を示すが如く、頑強に彼を離さない。
冷気はますます冷え、体温は下がり続ける、使えるエネルギーも当然減っていく。
出せる力は、今の全力が上限。今脱出できないなら、この後も不可能なのは当然の道理。

動きを封じることに成功した、と判断した海衣は、
傍らに置いていた短機関銃、H&K MP5を手に取った。
そのまま、田中花子から教わった通りに構え、照準を合わせる。
狙うは、頭――
引鉄を引こうとした、その時であった。

「待って」

知っている娘の声が、聞こえた。
野生少女の姿が消え、代わりに、”一色洋子”がそこにいた。

「――――洋子ちゃん!?」

油断をしているつもりは無かった。
だが、かつてこの病院で行動を共にし、そして、守れなかった少女と
全く同じ顔、同じ声で語りかけられたことで、一瞬、異能の力が緩む。

それが隙となった。
一色洋子(仮)の表情が悪辣に歪むと、
次の瞬間、四肢を凍結させていた氷が砕け散った。
氷の楔から解き放たれた独眼熊の身体が、砲弾のように少女に迫る。

(しまっ――――)
一色洋子(仮)の一撃が、氷月海衣に叩き込まれた。


聖剣と御守に導かれ、神楽春姫は戦場に向かう。
曲がり角の先から、尋常ではない冷気を感じる。
恐らく、氷月の娘がその異能で足止めをしているのであろう。
聖剣の光は、一歩一歩進むごとに強まっていく。

恐らく、この先に因縁の相手がいる。
聖剣が討つべしと指し示し、白兎の御守が祈りを託した者が。

動物実験室の扉を過ぎ、曲がり角に辿り着こうとしたその時、
突然、巨大な衝撃音が鳴り響いた。
その直後、吹き飛ばされてきた氷月海衣が、細菌室の扉に激突した。

「氷月の!!」
「うっ……」

春姫が海衣を助け起こす。
命に別状はなく、意識もあるが、口から血を流しており、恐らく、何本か骨折している。
海衣は、“一色洋子”の一撃を受ける直前、手の周りの空気を凍結させ、氷の盾を作り出していた。
それにより命を失うことは避けられたものの、それでも一撃でこれほどの重傷を負わされていた。

春姫は海衣が飛ばされてきた先に目を向けた。
廊下には海衣の持ち物が散乱し、その先には、氷結地獄の残滓である白い霧が立ち込めている。
その中から、3mはあろうかという巨大な羆が、ぬっと姿を現した。


「あっ……」
地下三階、感染実験室前。
スヴィア・リーデンベルグを背負いながら春姫を追う日野珠の歩みが突然止まった。
先ほど彼女に発現した、運命を指し示す黄金瞳。それが映す光景、それは。
「日野くん、どうしたんだ……?」
「このままじゃ、いけない。春ちゃん、氷月さん……!」

その時突然、彼女らの後方で、開閉音と共に上階に続く扉が開いた。
ぱたぱたと間の抜けた足音と共に入ってきたのは。
「ひゃっ、ひゃっ、ひゃぁぁぁぁ~~~~~!!!」
「与田さん!?」

田中花子と共に上に向かったはずの、与田四郎だった。

「上に、鬼がっ 化け物がいますっ
 僕は逃げますっ! すみませぇぇぇ~~~~んっ!」

与田はそう言いながら、珠とスヴィアを追い抜き、緊急脱出口に向かうべく廊下を駆けていく。
「与田さん! 駄目ですっ! そっちは!!」
珠の叫びも耳に入らず、与田四郎は、逃げたいという一心で、ひたすらに走る。

己の行く先に何が待ち受けているのかも露知らず。


宿業は巡り、ここに結ばれる。
神楽春姫と独眼熊、いや、その中に巣くう厄災・■■■は、互いの視線をぶつけ合っていた。
羆の瞳は漆黒であった。無感情の黒ではない。
■■■の愛憎、怒り、恨み、絶望…… 無数の感情が渦を巻き、混じり合ったことによって産まれた、完全なる黒。
一方の神楽春姫は、その瞳と、隻眼の羆の巨体を目の前にしても微動だにせず。
しばらくの睨みあいの後に、独眼熊が口を開いた。

「…………神楽春姫、か」
「先にそちらから名乗れ、と言いたいところだが、この場は許そう。
 イヌヤマの記憶とはまるで姿が違うな。思うに、その畜生は傀儡、か」

春姫はふっと息を付くと、

「悪神に堕ちたか――――― 隠山祈」
「――――あはっ」

独眼熊の言葉が、先ほどの濁声から、鈴のような少女のそれに変わる。

「悪神、悪神か…… あはははははははははははははっ!!!」

独眼熊、いや、隠山祈が、狂ったように笑う。

「よくもそう言えたものだな神楽春姫。
 隠山祈の名を知っているならば、朝廷と、神楽春陽の所業も知っておろう!
 それを棚に置き、言もあろうに、悪神と蔑むか!!」
「そなたの恨み、分かるとは言わぬ。
 我が祖先、神楽春陽の真意。そなたを見捨てたのか、救いの手が届かなかったのか、それは妾も知らぬ。
 そなたが神楽を断罪するというのなら、妾は逃げも隠れもせぬ。いつでも受けて立とう。
 だが、そなたが山折の民全てに牙を剥き、鏖殺を望むというのなら、妾は女王としてそなたを止めねばならぬ!」
「はっ! やはりお前も春陽と同じだ! 公の名の下に、人の想いを塵のように踏み躙る!
 せめて春陽の代わりに、地獄にて永劫の苦しみを受けよ!!」

真名を取り戻し、真の厄災と化した熊の巨体が春姫に迫る。

「聖剣っ!!」

春姫の叫びと共に、待ちに待ったとばかりに宝聖剣ランファルトがかつてない輝きを放つ。
既に魔王は亡びた。だが、その力は異界の予言の通りに呪いに取り込まれ、真なる厄災・隠山祈を誕生させた。
聖剣。その存在理由は、魔王や邪神を討つことそれ自体では決してない。
人を守り、世界の理を守る。それこそが本質である。

「グッ、グゥゥ……」

厄災が呻き、動きが止まる。魔王すら超越した厄災を唯一滅する力、それがこの聖剣である。
厄災の前身である怪異『巣くうもの』に恐怖を覚えさせたのも当然であろう。
討つべき敵と対峙し、その真の力を解放した聖剣は
魔を払う輝きをさらに増し、厄災の力を確実に削ぎ取っていく。

己と相反する光の力に照らされた中で、厄災に動く術は無い。
それと見た春姫は、聖剣に力を集中させる。
時間を掛けるつもりはない。このまま一気に仕留める。
聖剣が、彼女の意を受けたように輝きが刀身に集中し、光の刃と化した。

春姫はふと白兎の御守を目にやった。
イヌヤマが託した、「あねさま」の救いを願う祈り。
それを無碍にするつもりはないが、まず大人しくさせねば話にならぬ。

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!!」

春姫の一振りと共に光がほとばしり、厄災を飲み込んだ。


神楽春姫の後方に横たわる氷月海衣は、何とか息を整えながら、春姫と厄災の対峙を見守っていた。
春姫の援護をしたいところだが、今の自分ではどうにもならない。
無理をすれば何歩か歩けるか、といったところだろう。とても戦う余力はない。
幸い、明らかに春姫が押している。
春姫がたった今産み出した光の刃、その力はとても自分などに図り知ることは出来ないが、
それが放つ神々しい光は目の前の厄災を滅するに十分な力がある、そう信じさせる何かがあった。



だが。



「…………?」

ふと、彼女は気付いた。聖剣の光に照らされ呻く羆の後ろに、何か影のようなものがあることを。
それは、海衣が決して見誤るものではなく。

「えっ……」

直後、聖剣から光が放たれ、厄災は為す術なく呑み込まれていく。
光の中に消えゆく厄災は、心なしか、笑っているように見えた。

「いけないっ…!」

厄災の目論見。それを察した海衣は傷身に鞭打って立ち上がった。


屋内を照らしていた光が消える。
放たれた聖剣の光は、支部長室とエレベーターの間の壁を跡形も無く消滅させ、
その先の土砂を100mや200mでは済まないほど抉り取っていた。
方向が少しずれていればエレべーターを、もしくは支部長室を消滅させていただろう。

仕留めたか。
そう確認した春姫が息を付こうとした、その瞬間。

『キィィィィィィィン!!!』
聖剣が甲高く鳴り響いた。それが示すは周囲の警戒。そして。
厄災は滅していないという事実。
「っ!?」

慌てて周囲を見渡して気付く。天井に何者かが潜んでいる。
羆ではない。その姿は、幼き少女―― “一色洋子(仮)”
一色洋子の身体に身を変じた厄災は、天井を蹴ると、弾丸のように春姫に迫った。


神楽春姫との邂逅の直前。
冷気が産み出した霧の中で、隠山祈は、異能『クマクマパニック』を用い、
独眼熊の分身体を作り出していた。
そして、己は“一色洋子(仮)”の姿に変じ、その陰に潜んでいた。
厄災にとって唯一の脅威は聖剣ランファルト。
その力をこの狭い室内で躱しきることは難しい。

そこで、厄災は策を練った。
分身体を矢面に立たせ、囮兼盾として使う。
その上で聖剣の力に為す術なしかの如く振る舞わせ、
とどめとなる一撃を誘発させる。
そして、聖剣の力を使い果たさせた、その隙を突く――


神楽春姫はまんまとその策に嵌っていた。
完全に不意を突かれた春姫に、迫る厄災から身を守る術は無い。
だが。

「神楽さぁぁんっ!!!」
「氷月の!?」

唯一その策に気付いた氷月海衣が、氷の盾を掲げ、2人の間に滑り込んだ。

「へえ? でも無駄だよ」

厄災は構わず拳を振るった。
氷の盾は、ガラスのように砕け散る。
勢いはまるで治まることなく、少女の細腕とは思えぬ剛力が、海衣と春姫を殴り飛ばす。

2人は、そのまま宙を舞い、細菌保管室の壁に叩きつけられた。

「む……」

寸でのところで海衣に庇われた春姫は、何とか意識を保っていたが、

「氷月…… の……」

重傷を推して己を庇い、厄災の拳をまともに受けた海衣の眼は虚ろで、意識があるかも分からない。
かろうじてひゅうひゅうと息はしているものの、明らかに致命傷を受けていた。


「あは、あはははははははは! 痛かった!?」


一色洋子(仮)の姿を借りた隠山祈は、
哄笑しながら海衣の持ち物が散らばる廊下を歩み、2人に近付いていく。

廊下の真ん中に、トイザらスの玩具袋が落ちている。
九条和雄が一色洋子に渡すよう、斉藤拓臣に託し、その後氷月海衣に渡った、兄から妹へのささやかなお土産。
厄災は、それを、ゴミのように踏み砕いた。

「くっ!」

春姫はもう一度聖剣を構えようとするが、

「残念。それとまともにやり合う気はもうないの」

そう言うと、厄災は、すっと振りかぶった。
手にしているのは、海衣が先ほどまで手にしていた短機関銃MP5。

「じゃあね」

その呟きと共に、MP5を春姫に向けて思い切り投げつけた。
重量3kgを超える短機関銃が、回転しながら時速150kmを優に超えるスピードで春姫に迫る。

「――――――っ!?」

ぱぁん。

軽い破裂音と共に、春姫の被る黄色ヘルメットが真っ二つに割れ、彼女の額から鮮血が飛び散る。
その一撃で、神楽春姫の意識は刈り取られた。


厄災は、気絶した春姫を見下ろしていた。
神楽の末裔と厄災の戦いは、己の完勝に終わった。
ここで春姫を殺し、己の因縁にケリを着けることもできるが。

「……いや、ダメ。こんなものでは終わらせない。
 それに、まだ『あの子』が来てない。
 本当の意味で全てを終わらせるのは、『あの子』が来てからだ」

厄災はそう呟く。

「だから、神楽春姫さん。この場は生かしておいてはあげる。
 でも、そうだな。手と足を落とすくらいなら、『あの子』も許してくれるかな。
 そうだよね。万が一にも逃げられたり、聖剣が使われたりしたら嫌だし。
 …………ん?」

厄災は、曲がり角の右奥、階段のある方向から、こちらに向かって何者かが駆けてくるのに気付いた。
見るからにひょろい、眼鏡を掛けた臆病そうな男。
何かに追い立てられるかのように怯え、後ろばかりちらちら振り返りながら。
自分の走る先にナニがいるのか、分かろうともせず。

「与田さん止まってぇぇぇぇーーーっ!!!」

見ると、その男から少し離れたところに2人の少女がおり、
男を制止しようと叫んでいた。
だが、それも遅すぎる。

厄災は、走る与田四郎の前にすっと立った。

「ふえ……?」

与田がそれに気づいたときはもう遅かった。
幼き少女が自分の前に立ち塞がると、彼女はその口をあんぐりと開けた。
その中に在るのは、地獄の底に至るかのような黒き深淵。
彼は、吸い込まれるかのようにその中に落ちていく。
彼の視界の全ては闇に包まれる。

彼女の口が閉じられる。与田四郎の頭の半分は、噛み千切られていた。
上顎から上が無くなった彼の身体は、そのまま数歩、よたよたと進んだのちに崩れ落ち、そのまま動かなくなった。

【与田 四郎 死亡】


「与田さん……」

スヴィアと、彼女を背負った珠は、与田の死を呆然と見つめるしかなかった。
与田を殺した少女、恐らく、その見た目とは全く違う、正真正銘の怪物――
それが、2人の前に立ち塞がっている。
少女の後ろには、春姫と海衣が倒れている。
春姫は気を失っているだけのようだが、海衣は、いつ死んでもおかしくはない状態だと見ただけで分かった。

厄災は、与田が掛けていた眼鏡をプッと吐き出すと、彼の頭蓋骨を噛み砕き、脳を食らいながら、
新たな乱入者―― いや、もはや新たな被害者と言ってもよいであろう、2人の少女をしげしげと見つめていたが、
突然、その眼を輝かせた。

「あはっ、この異能……」

与田の脳の分析が終わり、異能の習得が完了する。
与田の異能、『真実の研究者(ベリティ・サイエンティスト)』
細菌・ウイルスの調査・解析を行う能力である。
それを、ものは試しと目の前の少女、日野珠に向けた、その時。

「あっは……」

彼女の異能と、その正体を知った厄災は。

「くくくくくくあははははははははははははははははははははははははは!!!!
 ひゃはははははははははははははははははははははははははははははははは
 はははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!!」

狂ったように哄笑し始めた。


「何だっていうんだ……?」

その真意が読み取れずスヴィアは呟く。珠は、何かを察したように沈黙している。

ようやく笑いを止めた厄災は、不気味な笑みを浮かべながら、
「キミ達は幸運だね。全員殺すつもりだったけど、
 私の言うことを聞いてくれるなら、あなた達2人だけは見逃してあげてもいい」

「どういう、意味……?」
「自分でも、何となく分かっているんじゃない? 『女王様』」
訝しむ珠に対し、厄災はこともなげに、そう答えた。


(やっぱり、そういうことだったのか……)
スヴィアが先ほど珠から感じとった予感。それは当たっていたのだ。
日野珠の脳内に巣くったウイルスは、彼女のストレスを受けて
その成長限界を超え、女王として覚醒していた。

「女王…… 日野君を見逃してもいいって、どういうことだ……?
 このVHを終息させたくない理由でも、あるのか……?」

そのスヴィアの問いに対し、厄災は、ふう、と溜息を付くと、その姿を変えた。
巫女服を着た、長い黒髪をした少女、隠山祈本来の姿に。
珠は彼女を見て、知己である犬山姉妹を思い起こした。

隠山祈は、黙って巫女服の袖を捲り上げた。
露わになった二の腕には、おびただしい数の膿疱の痕…… 瘢痕があった。
腕だけでない。足、胸、背中…… 彼女の全身は、無数の瘢痕に覆われていた。

「それは…… 天然痘、か……?」
「2人とも、この村の名の由来は知ってる?」
スヴィアの問いを無視し、隠山祈は己の話を続ける。

「この村はね、流り病に罹った人を集める為に使われたの。
 だから、外の連中、朝廷の連中は、ここを『病の檻』とか、『厄の檻』とか、そう呼んでたのよ。
 『隠山の里』って立派な名前があったのに」
「……君は、天然痘の罹患者だったのか? だから、自分をここに閉じ込め、死に至らしめた人間を憎んだ……?」
「それだけだったら、こうはならなかった」

「――くっ!?」「ああっ!?」
隠山祈の身体から、黒い気のようなものが噴き出し、珠とスヴィアを包み込んだ。
それは、隠山祈の本質である、呪い。
怪異として貶められながらも積み重ねてきた、隠山祈の憎しみと憎悪。
それが珠とスヴィアの意志と感情を飲み込み、破壊してゆく。

「おっと、このままじゃ殺しちゃう」
隠山祈が指を鳴らすと、呪いは霧となって消えた。
珠とスヴィアは床に腕を付き、息を荒げていた。
魂が闇の中に持っていかれる感覚。あと5秒も続いていたら狂死していただろう。

「もう分かっただろうけど、私は人間じゃない。
 私は呪い。厄災だよ。隠山祈という名の、厄災。
 はっきり言って、VHなんか、もう私には関係ない。
 女王感染者が死んでVHが終わろうが、私のやることに変わりはない。
 異能は便利だし、無くなるのは嫌だけど、
 それが無くたってこの国なんか滅ぼせる。私にはその力がある」

それは大言壮語でもなんでもない。
目の前の厄災はそれを為せる存在であると、珠とスヴィアは直感で悟る。

「それで、だよ。女王の君に、一つだけチャンスを上げる」
「……何を、すればいいの?」
訝しむ珠に、隠山祈は、残忍な笑みを浮かべながら答える。

「簡単なことだよ。
 私の力で、貴女ををこの村から出してあげる。
 そのあと、東京でも大阪でもいい。
 どこか、人の多いところで、何日かぶらついてきてほしい。
 たったそれだけでいいの」
「なっ……」

それを聞いたスヴィアは、厄災の言わんとしていることを悟った。
「お前は、このウイルスでパンデミックを起こせと、そう言っているのか!!」
スヴィアは思わず声を荒げた。

HE-028ウイルスの最大の特徴の一つ、それはその異常な感染力である。
本来の用途であるZ計画の最終目的・全人類へのウイルス感染の為に付加されたそれは、
今回のVHに於いてデータ通りに作用し、一人の例外も無く山折村住民全員をウイルスに感染させた。

では、これ程の感染力のあるウイルスを、現代社会の大都会の真ん中で放ったらどうなるか?
行き交う無数の歩行者、自動車、電車、バス、飛行機。
ありとあらゆる人間の活動の波に乗り、感染者は鼠算式に増大していく。
これほどの大量の人間を隔離などできるはずもない。
そうこうしている間に48時間が経過し、女王以外の感染者にHE-028-Cが定着、Cウイルスのみでの単独繁殖が可能となる。
そうなれば、もう後は止める術は無い。
感染の波は瞬く間に全国に広がり、9割を超える人間がゾンビと化し、都市機能は完全に崩壊するだろう。

絶句する2人に、隠山祈は誘惑を続ける。
「悩む必要は無くない?
 分かるでしょ? あなた達は、朝廷に、この国に切り捨てられたんだよ。
 私たちと同じように」

厄災の言わんとしていることは明白だ。
今回の事態を受け、日本政府は特殊部隊を差し向け、実質的に山折村の住民全員を殺害せよとの命令を下した。
田中花子やスヴィアらも危惧しているように、
例え女王感染者である珠自身が今すぐ自殺し、VHを終息させたとしても、
特殊部隊の活動は山折村を滅ぼすまで続くだろう。
国家の為、世界を救う為、より多くの人々を守る為、といった題目で。


「ただ殺されるなんか、認められないでしょ。
 朝廷が貴女達を切り捨てるなら、貴女達にもそれを切り捨てる権利がある。
 女王である貴女なら、それを朝廷の奴等に示すことができる」
「…………」
珠は押し黙っている。その黄金瞳が潤む。

隠山祈にとって、この申し入れは、本当に只の思い付きに過ぎない。
朝廷という存在に復讐を行うするにあたり、
自分たちが産み出した流行病によって朝廷を滅亡させる。
流行病の罹患者の復讐により、施政者の面々も病を発し、己の所業を悔いながら死ぬ。
そういう手もあるか、と考えただけである。

「……どうしたの、答えてよ。あまり時間を使いたくないの」
いい加減焦れてきたのか、隠山祈が回答を迫る。
繰り返すが、隠山祈にとって、これは然程意味のある問いかけではない。
女王が答えを出さないなら、別に固執する必要もない。
当初の予定通り、己の力でやればいいだけの話だ。
「まさかとは思うけど、下らない時間稼ぎでもしてるなら……」
「……ぃ……」
珠の、ぎりぎりと食いしばる歯の間から、言葉が漏れた。
「ん?」
「うるさいっ!! わたしはっっ……」

珠は、泣いていた。その黄金瞳から、ぽろぽろと、銀色の涙が零れていた。
涙を流し、喉を震わせながら、だがはっきりと珠は吠えた。

「私はっ! ハッピーエンドを、掴むんだっっっ!!」



とち狂ったか。
隠山祈は、珠のその姿を見て呆れかえった。
せっかくチャンスを与えてあげたのに。その場の感情に溺れて。
所詮、偶然女王ウイルスに感染したに過ぎない、ただの小娘だったか。
それに、ハッピーエンドとは笑わせる。そんなものが願うだけで手に入るなら、私は――

「…………?」

自分のうなじに、冷たい風が吹きつけた。
隠山祈の思考が中断する。
誰かがいる。誰かが、まるで幽鬼のように、自分の後ろに立っている。
既に死に体であるはずの氷の少女―― 氷月海衣が、そこにいた。


海衣は、虚ろな意識の中で、一色洋子の姿を借りた厄災が、
九条和雄から一色洋子に渡されるはずだったお土産を踏み砕くのを見ていた。
この厄災とかいう相手は、一色洋子の姿を汚し、彼女とその兄の想いまでも踏み躙った。
許せない。許せるはずがない。
多分もう自分は死ぬだろう。でも、この最後の命の残り火を、せめてあの厄災にぶつけたい。
その想いだけを胸に、一歩、また一歩と進む。
珠ちゃんはさっきこう叫んだ。ハッピーエンドを掴んでみせる、と。
そのハッピーエンドには、自分の生存も含まれているんだろうけど。
でも、それには応えられないね。ごめんなさい。
でも、せめて、この命が、ハッピーエンドを望む珠ちゃんの助けになるのなら。
ほんの少しだけでも、他の誰かの幸せにつながるというのなら。

氷月海衣の手が、厄災まで、あと一歩まで迫った。


健気だね。でも、無駄なこと。
隠山祈が氷の少女を見て思ったのは、ただそれだけだった。
実際、多少は驚かせてもらったが、はっきり言ってそれまでだ。
少女は既に死の間際。腕の一振りで終わるだろう。
こんな処理は瞬で終わる。その後は、愚かにも自分を謀ろうとした女王ともう一人を抹殺する。
それで全て終わる話だ。
厄災は嘲笑いながら、振り向きざま、蚊でも振り払うように氷の少女の命を刈り取り――


「!!??」

厄災がその目を見張った。
一色洋子が、氷月海衣を守るかのように、両手を広げて立ち塞がっていた。
それは彼女の残留思念か。今の己の肉体に残る、彼女に寄生していたウイルスが産み出した認知機能のバグか。
いずれにせよ、その逡巡が、隠山祈の動きを止め、
氷月海衣が隠山祈を背後から羽交い締めにする時間を作り出した。

(嶽草君、茜ちゃん、洋子ちゃん、私に力を貸して!!)

氷の少女が友に祈る。己の命の最後の息吹を、その一片まで燃やし尽くすために。

「うわああああああああああああああーーーーーーっ!!」

絶叫とともに、少女の身体が氷に包まれ始めた。
その冷気は、朝顔茜が斃れた時に発現させた終わる世界と同等、いや、それ以上。
極低温の領域に達した冷気は空気さえも凍結させ、氷の牢獄を作り出す。

「先生っ」
「っ!」
珠とスヴィアは、それを横目に走り出した。
彼女の覚悟は伝わった。後はそれを決して無駄にはしない。
自分たちにできるのはそれだけだ。


氷月海衣が命と引き換えに作り出したそれは、いわば現世に発現した絶対零度の八寒地獄。
その極寒凍結は、肉体のみならず魂までも凍てつかせるだろう
いかな厄災といえども、この地獄からは……


「残念」


絶望の声が響いた。
厄災・隠山祈は、纏っていたクマカイの皮を脱ぎ捨てると、
完全に氷漬けにされるその直前に、氷の地獄から離脱していた。

己の力で姿を自在に変えてはいたものの、
厄災・隠山祈の現在の肉体は、あくまで独眼熊のものである。
そして、その独眼熊の肉体は、他ならぬクマカイの異能『弱肉強食』により
野生少女の皮を纏っていた。

氷月海衣の異能「花鳥氷月」。
それは、『自然界に存在するもの』の温度を局所的に下げる異能であり、
人工物や、すでに死した生物に対しては無効である。
つまり、既に死亡しているクマカイという少女の皮には
彼女の異能は機能しない。
すなわち、クマカイの皮は、冷気から厄災本体を守る、いわばバリアとして機能していた。
最初の海衣との交戦で見せた四肢凍結からの離脱も、手品を明かせば同じ原理であった。

「さあて、と……」

本来の肉体・独眼熊の姿に戻った厄災が、ゆっくりと振り返った。
そこに残るのは、氷中に閉ざされたクマカイの皮と、哀れな氷の少女。
厄災は、残忍な笑みを浮かべながら拳を振り上げる。

氷月海衣の肉体と魂は、氷と共に砕け散った。

【氷月 海衣 死亡】


「それじゃ、あの女王の子ともう一人はどこ行ったのかな、と……?」
氷月海衣を殺した厄災が周囲を見渡す。
普通に考えれば、彼女らが打ったのは逃亡の一手だろう。
すなわち、B2階への階段か、もしくは支部長室の非常脱出口か、考えにくいが、エレベーターか。

「…………え?」

彼女らの移動の痕跡はほどなく見つかった。
だが、それは己の推測のどれでもなく。

「動物実験室……?」

廊下南側、動物実験室の扉が開いており、床には2人の足跡が残っていた。
隠山祈は考える。見たところ、入り口は一つで、他の部屋に繋がっているわけでもなさそうだ。
足跡も、この短時間で偽装などできるはずもない。まさか、秘密の脱出口でもあるのだろうか?

何にせよ、悪足掻きだろう。
そう結論を付け、動物実験室に足を踏み入れると、
探すまでもなく珠とスヴィアの姿があった。

「来たぞ、日野君!」
「はい!!」

日野珠は、一抱えほどある大きさの何かを手にしていた。
だが、厄災には何の力も感じられない。
これが彼女の切り札だというのか。

「これを見なさい、厄災っ!!」

そう叫び、珠は手にした『それ』を掲げた。


「…………?」

それは、標本だった。
ホルマリン液につけられた、何の変哲もない、何かの動物の骨と脳。
それが何かであるかまでは、厄災には分からない。
かなり大きい動物のものであることは想像がつくが。

「で…… それがどうしたの?」

だが、厄災には何の影響も見られない。
例えば神社や寺に何百年も祭られた、霊験あらたかな霊獣の骨ならば、
あるいは己に何らかの影響を起こす可能性もあるが。

「何を考えているか分からないけど、まあいっか。
 あなた達はどうせここでっ―――!?」

ドクン!!!

その時。
異変が起こった。
隠山祈が憑りついている、独眼熊の心臓が撥ねた。

ドクン!!! ドクン!!! ドクン!!!

心臓が、呼吸を止めるかの勢いで撥ねる。
隠山祈が、堪らず心臓を抑えるが、異変は止まらない。
全身の筋肉が痙攣を起こし始めた。
独眼熊の肉体が、己の意に反逆していく。己の制御を外れていく。

「な、なに…… 何をした!? 何をしたの、女王ッ!!!」
厄災が初めて、明確な動揺を見せた。


女王として覚醒した日野珠が発現させた、右眼の黄金瞳。
それは珠の異能の進化形であり、運命を可視化する能力がある。
だが、それはあくまでも運命を『視る』だけ。
時間や距離といった、運命を制約する要素を飛び超えることはできない。
決して有り得ない奇跡を手にすることは、その力を以てしてもできないのだ。

だから、珠は選ばなければならなかった。
ハッピーエンドという選択が無い中で、自分は何を選ぶかを。
何を切り捨て、何を守るのかを。

隠山祈と対峙したとき、珠達全員が生きて帰れるという選択肢は最早存在しなかった。
覚悟をくれたのは、海衣だ。
死に体に鞭打ちながら立ち上がり、厄災に向かっていった彼女は、
ほんの一瞬だけ自分に目を向けた。
言葉は交わさなかったが、自分が何を選ぼうとそれを信じると、彼女はその瞳で語っていた。
そして、珠は、海衣を捨て石にすることを決断した。
彼女の捨て身が失敗するのも織り込み済みだった。
死という結末に向かう無数の運命の中で、ただ一つ、未来につながる選択肢を、彼女がくれたのだった。

海衣が時間を稼いでくれたとはいえ、
そのまま普通に逃げては容易く追いつかれ、殺されるのは目に見えていた。
だが、黄金瞳が、たった一つだけ可能性を示してくれていた。
それがこの動物実験室。
ここに置かれていた、ヒグマの脳と頭蓋骨の標本。
これが、厄災の闇に眠る『彼』の意識を揺り動かし、
ほんのわずかな可能性の糸を紡いだ。


まどろむ意識の中で、独眼熊は母の姿を見た。
それは頭蓋骨と脳だけだったが、母の気配を独眼熊の本能が直感的に感じ取っていた。
死んだように動きを停止していた、独眼熊の脳神経が発火した。
脳細胞の急激な再起動を受け、ウイルスが活動を再開する。

ウイルスが活性化していく。

ウイルスが活性化していく。

ウイルスが活性化していく。

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最終更新:2024年03月03日 19:44