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ふっと目を開ける。揺り籠の中は匂いひとつしない場所だった。それでも何か不安に感じるのはおそらく微かに残る自分の人間として感じる違和感のせいかもしれない。

「ウフフ、調子はどうかしら……?」
「検査で異常は見られませんでした。問題はないかと」
「そう。なら蓋を開けてあげなさい。いつまでもあんな所に閉じ込めておくなんて可哀想……」
「はい、わかりました主任」

揺り籠の蓋が開き、その身体をゆっくりと起こす。
見つめる先にはいつも見る顔が映っている。ゆっくりと揺り籠から出ると、隣の01と番号の刻まれた揺り籠に向かう。
揺り籠には触れずに、揺り籠の窓から覗くアリスの顔を見る。安らかな寝顔だった。初めての時はこうして見る事を止められた事があった気がする。
今は信用されているのか、このように寝顔を覗くことは許されている。ふと、こういう時どういう顔をすればいいのか自分は良く覚えていない。
何かとてもいい方法があったはずだが、やり方がよく分からない。アリスのようにやればよかった気がする事だけは覚えているのだけど。

ふと周りの揺り籠に目を向ける。
今あるのは03、07、08と刻まれた揺り籠だけが動いている。新しく用意された揺り籠もあった。新しくまた入ってくるようだ。
そして欠落した動いていない揺り籠が意味する事を私は知っている。アリスは新しい友達が出来ると思ったのに、と言っていた。
昔の私ならどんな反応をしていただろう。アリスと同じ反応をしたのだろうか。それとも―――。











「………」
「んぁ……ぁ、おはよう、テレス姉さん」
「………」

揺り籠から目覚めるとテレス姉さんがじぃっと見ていた。
頭をこくりと縦に振って、“おはよう”と返してくれた。

大きく背伸びをする。揺り籠の中は快適だった。姉さんと一緒に眠れないのは少し不安だけど、研究員の人達はこれでもマシになった方と言っていた気がする。
昔は一つの揺り籠で寝ていたのだけど、我慢する。それに隣の揺り籠に姉さんがいてくれるなら、不安は少なくなった。
でも姉さんは心配になって、こうして私が起きるまで待っててくれる。とっても嬉しい。

「ふぅー。それじゃあ軽く散歩しようか、姉さん」
「………」

“わかった”と返事をする姉さんに部屋から出ようとする時、一瞬だけ04と05と06の揺り籠を見た。出てこないお友達。
手が震えていたのかもしれない、姉さんが手を強く握って、“だいじょうぶ?”と言ってくれた。
「大丈夫だよ」って姉さんに返して、揺り籠の部屋から出る。
研究員のお姉さん達がいうには今日は晴れているらしい。外で姉さんとお昼寝するのもいいかもしれない、と思った。











「アリス、テレス共に異常なし。良好ですね」
「そうねェ。アリスちゃんも以前よりはマシになったものね」

最初期の頃のアリスはテレスに完全に離れられない状態だったが、今は多少距離を離して行動する事も出来るようになった。
それでも短時間が限界であるため、完全に切り離して活動させる事は不可能だが。

そして部屋から出ていくアリスとテレスをグレイス・ケイル主任研究員が見送ると、彼女は閉じられたままの04、05、06の揺り籠を見る。

「04は完全に精神が崩壊しています……復旧は不可能かと。05は新技術に適合しなかったようです。06はデバイスとの適合が上手くいきませんでしたね」
「そう……では07と08の調整を進めるわヨ。あまり失敗が続くと、私達お払い箱ヨ」
「わかっています……が、検体に少女を使うのはやはり無理なのでは? アリス・テレス・ニンバスの適応が高かっただけでは……」
「そんなことはないわ。事実07と08は良好なのだから……04・05・06は丁重に保管しておきなさい。ふさわしい子たちにまたこの番号を与えるまでは、ネ」
「わかりました……」
「ふふ、新しい娘には何て名前をつけようかしらねぇ……」

研究員の提案は却下された。同性愛、少女愛嗜好の持ち主であってもやはりグレイスは研究者だった。
グレイスにとって、彼女らを強化人間にする事は娘をより優秀に、より高みへと至らせようという思いから来るものなのかもしれない。
その結果が失敗に終わっても、彼女らの犠牲は新たな娘らに引き継がれると、そう考えているのだ。
正気の考えではあるまい、と研究員は思った。それは娘の死すら許容しようというモノだ。
研究員が娘だったものを保管する前に、調整室に入ったグレイスが04・05・06の揺り籠を開き、永遠に眠ったままの娘達の頬に口づけをした。
彼女なりの別れの挨拶らしい。検体として扱いながら、愛をもって接する彼女の歪んだ性を研究員は直視できなかった。






投稿者:ナグツァート
最終更新:2012年05月10日 02:30