光だ。
そう、それの目に映ったのは光の塊だった。恐ろしいほどに眩く、気が狂うほどに激しい。一つではない無数の光。それが明滅する度に違う場所で新たな輝きが生まれ、爆ぜ、消える。
それは光なのだ。美しくも怖ろしく、求めれば概して人間の網膜を焼き、そのまま煉獄へと叩き落される。狂気であり、狂暴であり、そしてやはり狂っている。異常な存在であった。それは。
AC。
『糞、バンガードの連中め! こんなチンケな組織まで潰したいか!』
声は近場にいた支援型からのものだったが、そちらを向いた頃には構えた狙撃銃がへし折られていた。直後に飛来した誘導弾をまともに受けて爆散する。襲撃に来たACは二機か、三機か。それすらも判然としない。この時点である意味積んでいる。
「恐ろしいな」
通信は絶え間ない。だが時間と共に一つ、また一つと声が消えていく。大半は猛り狂う怒号であり、それが悲鳴へと摩り替わり途絶える。全て失われた時が、つまりは最後なのだろう。視界の片隅に、黒煙を撒き散らしながら落下する偵察型の姿が映った。制御を失い回転しながら高度を下げ、やがて廃屋に体当たりし粉々になる。絶叫が一つ消えた。いや、二つだろうか。その中には知った声もあった筈なのだが、今となっては判らなくなっていた。
「ああ、とても恐ろしい」
防衛型の機体は前線には進めない。そんな移動能力は持ち合わせていない。重要拠点を守る盾でしかないそれは、劣勢であるならば前線が押し寄せてくるのを座して待つしかないのだ。
恐ろしいものが迫り来るというのに、ただ構えるしかない。
逃げる術すら持たず、ただ立ち尽くすしか出来ない。怪物がにじり寄る恐怖に怯え、鋼鉄の肩を震わせながら餌になるまでの残り僅かな時を咀嚼するのみだ。
そのような悪夢が、人間に耐えられる筈もない。要するに、それは発狂したのだ。
「実に恐ろしい力だ!」
目に入ったのは車両型のACだった。尤も戦車と酷似している部分などというのは無限軌道の足回りのみでしかなく、その上体に敷き詰められた圧倒的な殲滅力は戦車の比ではない。現に絶え間なく続くオートキャノンの弾幕に友軍の戦車は成す術も無く屠られ、火を吹いたところへ更に飴霰と弾丸を注がれ粉微塵にされている。
「怪物めが。何故こんな荒み切った現実にまでしゃしゃり出て来たか。ここは人間の住むべき世界だろう!」
それは機体を前へと進ませた。歩みは遅い。辿り着く前に灰と化すだろう。それでも進ませた。道の先にはACが。その圧倒的な暴力で友軍を打ち砕きながら、悠然と歩を進ませている。全く歯が立たない。実に無惨なものだ。
紙屑のような装甲の偵察型。戦車にも劣る鈍重な歩速の防衛型。一度銃を構えれば、それを長時間かけて仕舞うまで全く動きの取れない支援型。一芸を求めればデメリットばかりが目に付く数多のガードメカ。それは余程の幸運に恵まれた状況を生み出さない限り、ACには全く以って敵いもしない。
だがそんな力で十分だった。圧倒的な暴力など生まれるべきではなかった。そんなものを呼び覚ますべきではなかった。
「恐ろしき悪魔め。そのような暴君は地の底に封じたままでいるべきだった! 人の記憶から忘れ去られるべきだった! 夢として、嘘として、未知として消えていった筈なのに、何故隙間から這い出てきた!」
気がつけば。ACは眼前まで迫っていた。己も無事ではない。だが動く程度には無事だった。盾の御蔭か、或いは運が味方したか、それとも悪霊の加護か。どれかは判らないし、どれでも構わなかった。怪物はそこにいる。人間の絵姿を借りた、人間とは全く似ても似つかぬ悪夢。狂気の象徴が。古き破壊者の贈り物が。夢の亡骸が。
「狂王めが――」
『やかましいぞ、オジさん』
視界が跳ねた。
頭が吹き飛んだのだとだと理解するまでに、一秒は要したか。くるくると回る視界の中、首の下もまたひしゃげ、罅割れ、軋みをあげながら圧解していく。ACの体当たりは、その携えた焔の火力同様に苛烈だった。盾は容易く壊れ、限界に達した胴体の爆発を至近距離で浴びながら堪えた様子もない。
「喧しい、か。だが困ったことに、俺の耳には俺以上に喧しい声がこびり付いて離れん。その怨嗟がやがて意味を成す。人を喰らう怪物。そんなもののいない世界の為にだ」
その言葉は最早、誰も聞いていなかったろう。知ってはいたし期待もしていなかった。だから彼はそのまま、ある筈のない瞼を閉じた。
ガードメカの頭部は、少ししてACの無限軌道に踏み潰された。
更に暫くして、バンガードの拠点の制圧も完了した。
それはただ、それだけの話。
投稿:めぎつね
最終更新:2012年05月07日 03:21