『思うに、君達は気狂いなのではないかと』

 戦闘の真っ只中でそんな通信を受けたのは、聊かならず意外だった。通信の相手は知れていた。眼前の支援型のガードメカだ。他の戦力は既にあらかた片付いている。少し離れた場所で他の隊員が戦っているが、少なくとも今この場には他に敵はいない。

「いきなり、何?」
『素朴な疑問だよ。餞別代わりにでも、答えてはくれないか?』

 ガードメカは既に壊れかけで、幾つもの関節から火花を散らしている。放っておいても爆散するかもしれない。そういう意味では、確かに会話そのものが選別になるのだろう。が。

「そんなことを尋ねられても、どう答えればいいのかわからない」
『そうか。では表現を変えよう。君が跨るその化物についてだ』
「化物?」

 跨るなどと言われてつい目線を下にやったが、そこには厚手のパイロットスーツでかさを増したそれなりに細身(だと思いたい)女の肢体ぐらいしかなかった。軽く頭を振り回してみても、正面モニタに各種操縦桿、半分は用途の分からないスイッチ類や作戦時の注意を纏めた(正確には纏めて貰った)張り紙が幾つかと、あからさまに後付けの小さな籠に入った兵糧というか常備食というか、そういったものしか見当たらない。
 化物という言い回しに共感できるものを何一つ見つけられず、思ったままの言葉を返す。

「ただのACじゃないか」
『違うな。それは怪物だよ』
「怪物?」

 益々の違和感を抱き、眉根を寄せる。相手は構わずに続けた。

『そう。君の駆るそれはアーマードコアなどという汎用な言葉で括るべきものではない。それは怪物だよ。この世界の全てを喰らい尽くす為に地の底から蘇った破滅の使者だ』
「お前、詩人か何かか?」
『いいや。だが恐ろしいものは、幾ら誇大な表現をしようとも足りないのさ。人攫いを天狗と呼び、天災を神の怒りと称し、疫病は怨霊の仕業とされた。そして今、怪物がこの世を蹂躙している。アーマードコアか。そんなものは頭のいい連中が恐怖を紛らわせる為に発明した固有名詞に過ぎない。それが只の兵器であり、人間の制御下に置かれた存在なのだと言い聞かせたいだけの言葉遊びだ』
「担ぎすぎじゃないか。ACなんて、そこら中に溢れている。それは、そうだな。まだ他のメカのほうが全然多いけど」
『そう、溢れている。不思議な話じゃないか。僕らは自分達の力ではACを作り出すことは出来ない。だというのに、この溢れ様はなんだ。僕らが必死に拵えたガードメカ達は、たった何機かのACがその猛威を振るっただけで御覧の有様だ』

 示されて、つられる形で辺りを見回す。オートキャノンの弾幕とロケット弾頭の火力に薙ぎ倒された残骸が、あちらこちらに転がっていた。皆一様に燻り、火を吹いている。視界以外のエリアもまた、似たような状況なのだろう。

『僕は思うんだ。地の底から発掘されるその暴力的な機動兵器。それが尽きることは無いんじゃあないかと。僕達は自分の力でACを超える兵器を作れない。僕らは地の底から湧き上がる脅威に立ち向かえない。恐ろしい怪物に助けを請わなければ』

 と、支援型が砲を構えた。反射的にトリガーを絞りかけるが、それは戦闘の為の動作ではなかったようだ。そもそもが支援型の構えたスナイパーライフルは、既に砲身が無い。
 それが人間でいう指を指す動きがしたかったのだというのは、続けて飛んできた通信を聞いて漸く理解した。

『その怪物は、ただの人間を容易に粉砕者へと仕立て上げる。では、最初の質問に戻ろう。君は狂っているのか? 何故そんなものを使える。朱に交われば赤くなるというのに、何故そうまで強大な力を望む? 本気で怪物を手懐けられるとでも?』
「何故って」

 言葉が遣えたわけではない。そもそもACに乗ることに、そんな大層な御託を思い浮かべたこともない。
 ただ、答える台詞があるとすれば。

「飴を貰ったからだ」
『飴を?』
「そうだ。悪いか」
『いいや、興味深い。ただ、それを尋ねる時間が無いのが口惜しいね』

 相手の言葉で不意に気付かされる。こんな場所で話し込んでいた。いや、殆ど一方的な語りを聞かされていたようなものだったが、時間は過ぎている。確実に。

「あわ、いけないな。そろそろ怒られてしまう。お喋りはオシマイだ」
『そうか。残念だ』

 支援型は一応、砲の収納動作を行い、逃げるような素振りを見せた。手遅れなのは、分かっていただろうが。
 そして攻撃にブーストチャージを選んだことにもまた、大きな理由は無かったが。

『また体当たりとは。どうせなら、生身の君に飛び込まれたいものだ』

 最後にそう残して吹き飛んだ支援型が爆散して、そのエリアの制圧は完了した。通信を入れると、他の隊員も丁度同じ頃に一通り制圧を完了したらしい。それはただ、それだけの話である。

 すぐ後で制圧を完了したなら即座に通信を入れろとか、車両型が一人で突出するなとか、敵が見当たらないからといってぼうっとするなとしこたま怒られたのも、また別の話。


投稿:めぎつね
読み切りなのか連載なのかよくわかんない
最終更新:2012年05月09日 03:53