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 スラム街の薄暗い路地裏で、少女らの苦悶と、慣れぬ快楽に喘ぐ声が木霊していた。
 ゴミの掃き溜めとばかりに至る所に多様なゴミが散らばり、汚れ腐った水がコンクリートの地面を覆い、
 刺激臭が水蒸気のようにねっとりと漂っている。
 なんの建物だったかも知れない、飾りっ気のない5階建てのビルに挟まれたそこでは、
 男たちが下卑た笑いを顔面に張り付け、獣のように快楽を貪っていた。
 やせっぽっちの浮浪者たちの中心にいる少女らは、髪の色こそ白と黒となっていた。
 だが、その容姿はほぼそっくりだった。彼女らは、双子だったのだ。
 甘い砂糖菓子に群がる蟻のように、無数の浮浪者が黒と白の少女を白く生臭い欲望で汚していた。
 その度、幼い体は白く穢され、萎えた男と昂った男が交代し、彼女らに試練を課した。
 だがそんな糞の掃き溜めの中に合っても、せめてとばかりに、
 黒の少女はは白の少女よりも前に進み出て、男らの欲望を一身に受けようとしていた。
 自らが陵辱されることで、白は黒よりも責められることはないという拙い考えがあったからだ。
 事実としてゴミにも等しい男らは、黒い少女が快楽に落ち始めているとその低俗な脳で結論付けて、下種な征服欲を満たしていた。

 そんな中、双子らと男らのもとに、見たことのない女性が現れた。
 ただ、双子と男らはすぐに、彼女がここにいる浮浪者らとは立場の異なる……シティの表で生きている人間だというのが分かった。
 穴一つ空いていない黒いジャケットに、首元と胸部のみを覆う白いタンクトップ、破れた箇所のない紺色のジーンズ。
 見た目は二十代前半ぐらいの、黒くて背中の中程まで伸びた髪の毛が特徴的な、綺麗なヒトだと、
 身体の中に男どもの薄汚い残滓を感じながら、双子は思った。
 双子の目には、自分らとは異なる次元に住む―――そう、女神か何かに見えたのだ。

「やーやー、なぁにしてるのかな?」

 けれど、その桜色の唇から発せられたのは、興味本位丸出しでやってきた猫のような言葉だった。
 彼女は白い汚濁で穢された双子と、双子をなおも玩具にしようとする男らを、交互に見ては面白げに笑っていた。
 双子を抱いて満足したばかりの浮浪者は、裕福そうな彼女に日頃の鬱憤を晴らそうとじりじりと迫りよっていく。
 あわよくば、彼女の魅力的な肉体の味を味わおうという魂胆も丸出しで、
 今にも発情した犬か何かのように滑稽な腰振りを始めるのではないかと思えた。
 下衆の一人がゲラゲラと品のない笑みを浮かべながら、彼女に、

「あんたも混ざるかぃ?」

 と訪ねた。
 その間も、彼女は双子を観察している。深い青の瞳は、楽しげな笑顔に反して、なんの感情も感ぜられない。
 双子は、興味本意で近づいてしまったがために、トラウマになるほど嫌な目に遭うだろう彼女を、諦めの目で見ていた。
 彼女も、自分達みたいに穢されるのだ。この世で無力なのは、たったそれだけでも罪なのだから……。

「そうだねぇ、混ざっちゃおうかな?」
「へへへっ、そんじゃ俺たちがスラムの流儀ってやつを教えてやるぜぇ」

 貧相な身体にはもう飽きたと言いたげに、浮浪者は双子から自分の分身を引き抜いて、彼女を取り囲んだ。
 それを全く焦った様子を見せずに、彼女はただ一点だけを見つめていた。その視線はいつからか、双子のみを見ていた。

「それいいかもねー」

 彼女の陽気な声が、冷気を伴って男たちの耳朶を震わせた。
 浮浪者を見る時は、まるで周囲にいる危険が、転がっている石ころのように映っているような、そんな様子だった。
 蹴ればたやすく蹴散らすことのできる、まったくもってとるに足らないモノとしか、
 認識されていないのだと、浮浪者はようやく気付いた。

「あ、けどやっぱり止めておくわ」

 チャキリ、という金属の音が、やけに大きく響いた。
 彼女は自分の腰の後ろに手を回したかと思うと、片手で鈍い銀色に輝く金属の塊を構えた。
 それが一般的な自動拳銃という効率的な殺人機械だと気づいた時には、蝿叩きで蝿を叩き潰すかのように、引き金を弾いた後だった。
 自動拳銃から発射された9㎜ホローポイント弾は、彼女に一番近い位置にいた男の額に小さな穴を開けた後、
 後頭部の頭蓋骨と脳みそを吹き飛ばしながら、斜め後ろに居た別の男の左目に突き刺さった。
 黒い少女はニコニコとした笑顔のまま、罪悪感のかけらもなく男の顔面を吹き飛ばした彼女が、オソロシイモノに思えた。
 パシャリ、と液体の一部が双子に降りかかった。
 いつも浴びる白くてドロドロの、嫌な臭いを放つものではない―――それより生々しくて、鮮烈な赤と、白と、ピンク色だった。
 周囲の浮浪者は事態を飲み込むや否や、蜘蛛の子を散らしたかのようになりふり構わず逃げ去っていった。
 拳銃という獰猛な獣に食い殺されないように。
 手に獣を持った彼女は、絶命した男などそこにはいないかのように、ただ一点を見つめて声を発した。

「だって、こっちのほうが美味しそうだもの」

 その視線の先には、相変わらず双子のみがいた。だけど、ほかの浮浪者らは逃げ出す間も双子は逃げなかった。
 正確には逃げれなかったのだ。
 ろくな食事や睡眠も得れず、その上浮浪者らの陵辱を日々受けてた二人は、逃げ出せるだけの余力すらなかったのだ。
 黒い少女が消耗と恐怖とで震える体を精一杯動かし、同じく動けないでいる白い少女の体に覆いかぶさるようにして彼女から
 遠ざけるだけで精一杯だった。
 その様子を彼女は観察して、ニシシと違う笑身を浮かべながら、拳銃をしまった。

「逸物だけ固くして筋肉つけてないのねぇ、きっと。私なんか組み倒しちゃえばいいのに」

 浮浪者だった有機物を一瞥してから、彼女は双子の下に歩み寄った。白は彼女を見上げながら、得体の知れなさに身震いしながらも、

「……私達をどうするの?」
「ん? 可愛がったげるわよ、この私がね。あ、そうそう、初潮はまだかしら?」

 可愛がる、という言葉に双子は萎縮した。あのオトコ共みたいに、私達を体液で穢すのだろうか?
 白い少女をかばいながらも、黒い少女は精一杯の声で言葉を放った。

「させ、ない」

 自分でも思ってたほど、声は大きくなかった。
 黒い少女としては大声で彼女を威嚇するつもりだったのだが、日々の消耗がここで出てしまったようだった。

「あー……お姉さん哀しいなぁ。ほら、お洋服とかシャワーとか、シーツとかふかふか枕とかあるのよ? ね?」
「それでまた売り払うの? それとも、私達の体でお金儲けするのが目的?」

 彼女が微笑を浮かべながら双子へと手を伸ばすのを、白は言葉の手のひらで払う。双子は彼女を信用できなかったのだ。
 オトナは狡い生き物だ。かつて自分らの都合に合わなくなった双子を切り捨てたように、言葉巧みに利用しつくして最後は切り捨てるのだろう。
 そして無力な少女らを売り物にして、自分の趣味趣向の限りに弄んだ末にゴミ溜めへ捨てて忘れ去る。
 少女らがそのゴミ溜めでどんな目に遭うかなど知らずに。
 獣とかした男たちに衣服を剥ぎ取られ、何度も何度も穢される記憶が双子の脳裏を過ぎり、さらに彼女への不信が募っていった。
 白い少女の冷たい言葉に、初めて彼女は慌てて、そんなことはないよと否定した。

「違う違う! あなたたちが幸せそうな顔してるのを見て、可愛い可愛いしながら愛でるのが目的よ。
 絶対可愛いもの、あなたたち二人。男なんかにあげるのはもったいないくらい!」

 彼女は告げた。双子を幸せにしたいのだと。
 あなたたち二人は、獣の玩具にするにはもったいないのだと。

「……本当?」

 と、白い少女は小さな声で言った。彼女はすぐに答えた。

「お姉ちゃん嘘つかないよ。なんだったら、二人のお顔を舐めて綺麗にして上げても良いくらい」
「どうする? シャル」

 白い少女は黒い少女に尋ねる。

「私は、……信じていいと思う。リート」

 正直、肌に張り付いた白くて汚いモノを舐めとるという言葉の真偽は兎に角―――彼女の言葉は一考に値した。
 双子は信じるに値する何かも感じ取っていた。同時に―――いざとなったら、ということも。
 最悪の場合、双子は彼女を油断させてその富を奪おうとも考えていたのだ。今までそうしてきたように。
 双子にとっては、自らの肉体を武器にすることは最早忌諱すべきことではなかったのだ。
 その間、彼女は「んー? んんー……?」とヤジロベーのように左右に首を傾げながら、落ち着き無く待っていた。

「私はジークリート」

 白い少女が言う。

「私はシャルロッテ」

 黒い少女が言う。

「「おねーさんのお名前は?」」

 双子特有の同じ声色で、申し合わせたように交互に自己紹介の言葉を紡ぐ。彼女は心底嬉しげに、そして自慢げに返した。

「ユーリアよ。ユーリア・カエサリア。これでも軍人さんやってるのよー。ふふふっ、すごいでしょう?」
「ふふ、すごいねおねーさん」
「うん……」

 軍人! その言葉に双子は、信じられないモノを見る目で見た。
 双子にとっての軍人は、ロボットのように屈強で堅物のイメージがあったからだ。

「さあてと、まずは近場のモーテルでも行きましょっか。シャワーで洗いっこしましょうね。
 で、二人が眠ってる間に私がお洋服仕立ててくるから!」

 おもちゃを買ってもらった子供のように喜んで、躊躇いも無く二人の手を取った。
 浮浪者と同じ生活をしてて、物理的に汚い私たちの手を握ってきたことに、双子は胸の奥がじわりと熱くなるのを感じる。
 双子のやせ細った手とは違う、柔らかくて暖かい手だった。目の辺りもじんわりと熱を持ち始めているのが、双子には分かった。

「あっ……うん」

 白い少女は彼女の提案に賛成する。

「……あったかい」

 黒い少女は彼女のあたたかさに触れて、ふっと緊張を解く。
 そこでふと、彼女―――ユーリア・カエサリアは、ジークリートとシャルロッテへと軽い口調で訪ねた。

「あ、それでなんだけど、二人ともなーんにもしてないのに、あそこから血が出たことってある? 初潮って言うんだけど」
「あの……それって………」

 黒い少女はもごもごと語尾を濁す。

「うーん。あったあった。あの時すごかったね」

 白い少女は少しだけ悩んだ後、ユーリアと同じように、軽い口調でそう返す。

「リート! もぅ……あ、あります」

 黒い少女が頬を赤らめながら白い少女の名前を呼び、とても小さな声でユーリアに言葉を返す。
 すっかり白い少女―――ジークリートは打ち解けた様子だった。
 黒い少女ことシャルロッテもまた、いつのまにかユーリアに対して警戒心が薄れてたことに、今更気付いた。
 同時に、彼女は自分に嘘をつかないのだということにも。
 本音を衣ひとつ被せずに告げていくストレートなスタンスは、双子の心象に快く映ったのだ。
 二人の手を引くユーリアはその返答を聞いて「うーん」と少しだけ唸って、

「そっかぁ、初潮しちゃってるのかぁ……。あ、大丈夫大丈夫、なにがあっても二人は私が養ってあげるから!」

 と言い切る。
 その言葉にきっと嘘や偽りはない。そんな予感が双子によぎった。
 だけど一方で不安にもなっていた。このご時世、全くの他人を二人も養えるのだろうか、と
 その善意に戸惑いの色をみせ、けど信じる気になったのか、ユーリアに寄り添っていくジークリート。

「ユーリアさん……本当にいいの?」

 胸の内にある不安が怖くなって、シャルロッテが言う。

「いいのって、なにが?」

 なにか問題でもあったのだろうかと、きょとんとした顔のユーリア。

「どこともしれないスラムの子だよ?」

 姉の言葉を引き継いで、ジークリート。

「どこともしれないスラムの子だから、勝手に連れ帰っても怒られないでしょ?」

 それが世界の常識なのだと信じてしまいそうになるほど、ユーリアの言葉は平静そのものだった。

「ユーリアさんは、変わってますね」

 そうやって双子の常識を、尽く破壊していくユーリアの言動や行為の数々。
 シャルロッテはその感触が心地いいと感じている自分に気がつきながらも、ユーリアに対してそう呟く。

「ああ、それよく言われる。なんだかクレイジーだって。あ、それで聞いておきたいことがあるんだけど、
 さっきやせっぽっちにマワされてたじゃない?」
「……うん」

 あくまで明るく、それが特に大したことじゃないかのような口調で輪姦されていたじゃない、
 と言ったユーリアに、シャルロッテの小さな声が響く。
 ユーリアに聞こえていたのか分からなかったシャルロッテは少しだけ不安だった。
 でもユーリアはどんな小さな声でも聞き逃さない人らしかった。

「あれは論外で気持ちよさそうじゃなかったんだけど、私が二人を気持ち良くして、
 私も気持ち良くなりたいなーって、思ってるんだけどー……良いかな?」
「え、それは……」

 くるっと振り向きながら満面の笑みで言われて、シャルロッテは言葉に詰まる。
 女同士で気持ち良くなると言ったら………というところで、シャルロッテの妄想が加速する。
 ぽぉーっと赤くなっていくシャルロッテの横で早速馴染んだ様子でユーリアに笑顔を返しながら、ジークリートは楽しそうに、

「すけべー」

 とユーリアに向って言った。
 ユーリアはそれに対してちょっとだけ真面目な顔をした後、不満そうに唇を尖らせる。

「すけべー、じゃないの。エロスなの。気持ち良くって何が悪いのよー。男のアレがなくたって女は気持ち良くなれるんだからねぇ」
「あはっ……ユーちゃん?」

 無邪気な笑顔を浮かべながら、リートがユーリアの手を両手できゅっと握りしめる。

「なーにー、リートちゃん?」
「ユーちゃんは、私達を捨てない?」
「可愛い子猫を捨てる人はいないじゃない」

 それが当然よ、という口調で言いながらユーリアはかっこよく決めようとウィンクをしてみた。
 ―――が、突然思いついたセリフをそのまま口にしてしまったのですべておしゃかになる。

「ああ、でも可愛いから食べちゃうかもね?」

 もちろん性的な意味で、である。
 きゃっきゃと笑いながら「食べられちゃぅー」とリートが叫ぶ。
 その高い声にはっとしたシャルロッテは、ようやく妄想から脱して、あたふたしながらユーリアに言わないといけないことを言った。

「あ……あの。ユーリって、呼んでいい?」
「好きに呼んでいいわよー。その代り、私はあなたたちをにゃんにゃんしちゃうからねー」
「にゃ、にゃんにゃん……」

 またもやシャルロッテの妄想が加速する。
 まだ幼いと言うのににゃんにゃんの意味を知っていることに、ユーリアは驚きもしなかった。

「あは、もうシャルってばむっつりスケベー」
「ぅぅぅ……オープンスケベに言われたくない」
「むっつりスケベーなシャルちゃんの喘ぎ声を想像しただけで、ユーリアお姉ちゃんはもうたまらないけどねぇ」
「あー、ユーちゃんのえろえろー♪」
「ユ、ユーリまで……」

 次第に追い詰められていくシャルロッテであったが、彼女はこういう展開が嫌ではない。
 こうして困惑しながら顔を赤らめている間も、自分がなにをされてしまうのかと妄想して、背筋をぞくぞくと震わせている。
 実を言うと、オープンスケベなジークリートより、シャルロッテのほうが変態さんなのである。

「ねえねえリート。二人でシャルちゃん弄り回して可愛がろうよっ」

 それを見抜いていたのか偶然なのか、ユーリアは突然そんなことを言い出した。
 ぞくぞくぞくっ、とシャルロッテはじわりと快楽に侵食されながら、自分はどんなことをされてしまうのだろうかと思いを巡らせている。
 獣に貪られるのは気持ち良くなくても、こうして心を開いているジークリートや、
 ジークリートが心を開いたユーリアが相手なら、彼女は真性のマゾになるのだった。

「あは、それいいかも。二人でシャルを苛めちゃおうよっ」
「はぅ……うー、はやく、行こう?」

 早く話題を変えるつもりで、シャルロッテはユーリアにお願いした。
 これ以上刺激されると自分の性癖が見抜かれてしまうと思ったのか、言葉攻めをされて我慢の限界だったのかは分からない。
 真面目で常識的なシャルロッテが顔を赤らめながら熱の篭った目をして上目遣いにお願いしてきて、
 この世に屈服しない人間などいない。ユーリアは近場のモーテルを素早く見つけると、そっちの方へと歩いて行った。

「よーし、それじゃあモーテルの部屋借りるよー」

 と言うと、いきなりモーテルの扉を開けて、ユーリアは「どこでも良いから部屋一つ!」と早口で捲し立てるように言う。

「え、あ、は、はい。どこでも良いんですね? では、階段を上がって一番奥の部屋で―――」
「あっりがとー!」

 困惑気味の中年の男性店主が恐る恐る鍵を差し出すと、ユーリアはそれをふんだくって
 双子を手で引きながら指定された部屋まで歩いて行った。
 鍵を貰って指定された部屋に入り込むや否やユーリアが「ついたぞー!」と声をあげると同時に、ドアの鍵を閉めて、
 素早く双子の纏っていたボロを脱がせると、ベッドまで行かず、すぐにシャワールームへつながっているドアを押し開ける。

「わぁ~、シャワーだ~」
「今まで雨水だったからね」

 目をきらきら輝かせながらぴょんぴょんと跳ねるジークリートに、
 雨に比べたら比較的綺麗な水で身体を洗えるということに表情を緩めるシャルロッテ。
 そんな二人をにこにこしながら観察していたユーリアは、ふと何かに気がついたようで、ばっと片手をあげながら双子に背を向け、

「お姉さんが綺麗綺麗してあげたいけど、私は二人のお洋服買ってこなくちゃ!」

 と言いながら立ち去って行ってしまった。
 それはもう今にもスキップし出しそうなくらい上機嫌で。




 小奇麗な──と、少なくとも双子はそう感じた──モーテルに躊躇なく二人を連れてきたユーリアは、
 早速部屋を借りては双子をシャワールームへと連れていった。
 殆ど衣服の役割をしていないボロ布1枚を身に着け、下着すら付けてなかった二人をユーリアはだらしない笑みを浮かべながら丸裸にすると、
 可愛い服を買ってくるわねーと言い残して去っていった。
 まだ部屋の間取りも何もわからない状態でシャワールームに取り残された二人は、しばらくポカンとしていたが、
 肌にこびり付くべたべたした白い体液の感触を思い出して、すぐにシャワーのノブを捻る

「……ユーちゃんって変わってるね」

 風呂場の床にペタリと座り込みながら、ジークリートは呟いて、シャルロッテと向かい合う。
 二人は同じように目線を合わせていた。傍から見ればそれは鏡合わせのようで、髪色だけが違っているように見える。
 ジークリートがユーリアのことを呟いている時、シャルロッテは自分の手のひらにシャワーの湯を浴びせていて、温度調節をしていた。
 そしてちょうどいい湯加減になったということをを確かめると、自らの対の少女にそっとシャワーをかける。

「そうだね。……熱くない?」
「ううん、平気」

 石鹸で体を洗うのは何時振りなのだろうか、とシャルロッテは霞の掛かった記憶を掘り起こそうとしたが、
 石鹸の記憶と同時にこれまでの陵辱と屈辱の日々すら思い出しそうになったので、やめた。
 お互いの体を隅々まで洗いあうことにした二人は、時にはその華奢で滑らかな身体で抱き合ったりしながら石鹸の泡を擦りつけ合い、
 ケダモノに穢された部位をすべて洗い清めていく。
 ごしごし、ごしごしと、しばらく身体を洗いあう音だけがシャワールームに響いていた。
 身体を洗い終わると、シャルロッテがシャワーを取って、泡を落とそうとお湯を出す。

「ねぇ、シャル」

 シャワーから流れ出すお湯の音と一緒に、リートの小さな声がする。

「何? リート」

 シャルロッテはリートに微笑みかけながら、衣服のように身体を覆う泡をシャワーで洗い流していく。

「私達、どうなるのかな」
「分からない、けど……」

 シャワーからのお湯の流れが、泡を乗せて排水口へと流れていく。それらと一緒に過去の憂いが流れていくかのようだった。
 自然と双子に笑みが浮かぶ。これからの生活に対する根拠のない期待からか、それとも別の要因かは本人らも知り得ない。
 ただ一言、シャルロッテはリートの真っ白な髪と肌と、そして清純さを取り戻した妹の姿を見て、そっと呟いた。

「きっと、悪くならない」


 シャワールームから水気をきって出てきた二人は、裸のままベッドの上に寝転がった。
 幼い少女が二人、裸身のまま白いシーツの敷かれたベッドの上に寝転がっている風景は、可愛らしくもあったし、
 なによりどこかエロティックでもある。
 二人は柔らかで清潔なシーツの香りを吸い込みながら、その肌触りが心地よくて、気持ちよさげな声を上げた。
 シュルッという布擦れの音が耳に新鮮に響いては、お互いを向き合った。
 久方のシャワーで初々しい肌を取り戻した二人は、生き返った気分に満ちている。
 髪はまだ洗ってはいないけれど、ユーリアが本当に二人を養ってくれる気でいるのなら、そのうち綺麗にすることができるだろう。

「シャル、石鹸の匂いがするよぉ~」

 姉のシャルロットにぎゅっと抱き着きながらジークリートが言う。
 その楽しそうな声に心が満たされていたシャルロッテは、ジークリートの手が自分の身体を弄ぼうとしていることに気付かなかった。
 小振りな、けれど一種の美しさを感じさせる膨らみをジークリートの細い手が優しく揉みあげると、
 シャルロッテは切なそうな熱の篭った声をあげて、ジークリートを見る。ジークリートは楽しそうな顔をしていた。

「リー、ト……?」
「んふふ……シャルを苛めて良いのは私だけだったのにね」

 サディスティックな笑みを浮かべながら、リートはゆっくりとシャルロッテに馬乗りになって、その柔らかな身体に手を伸ばしていき―――。



 しばらくすると、両手に買い物袋を引っさげたユーリアが勢い良く部屋に戻ってきた。
 その両手には二つづつ、とある有名な洋服店の袋が握られていて、ユーリアの顔はまるで楽園を見つけたかのように晴れやかな笑顔で飾れれている。
 ノックもせずにドアを開けてそのままベッドの前まで小走りしたユーリアは、両手の袋を掲げながら嬉しそうな声で言った。

「ふふ、お待たせ~……と」

 そこでユーリアは言葉を途中で止め、暫し双子の裸に見とれた。
 白いシーツの上で裸身を晒している二人の少女は、獣どもの体液を流れ落として生まれ変わった天使の様だった。
 絹のような肌にまだ幼さを残す膨らみと腰回りのラインは、同性であるユーリアを強くひきつける。
 ごくり、と唾を飲みこんだユーリアは、浮浪者たちが慰み物にしていたのも無理はないと思い、少しだけ自分が女であることを後悔した。
 自分が男だったら、欲望のままに二人とも自分の色に染め、それだけでは飽き足らず、
 きっと毎日のようにその身体を突き上げただろう、と。
 一方でシャルロッテは多少の恥ずかしさを感じつつも、安堵をしていた。
 咄嗟にジークリートの悪戯の手を引っ込めていたからよかったものの、これが気づかず目撃していたのならもっと恥ずかしかったに違いない。
 ただ発言から推測するにバイセクシャルの嫌いがありそうなユーリアのことだから、
 もしかしたらその時点で美味しくいただけれていたかもしれない。
 最もジークリート本人はお楽しみの時間を邪魔されて少々ご立腹であるらしく、ぷくーっと可愛らしく頬を膨らませている。

「ふ、二人ともいいかしら?」

 と早速とばかりにユーリアは買い物袋から下着を取り出した。
 シンプルなデザインから、レースやフリル、リボンがあしらっているお洒落なものまで多種多様に揃っている。
 色は二人に合わせて黒と白が一つずつあったが、それ以外にもピンクや紺色といった色もあった。
 二人は様々な下着を手にとってはお互いにこれはどうかと相談し合う。
 これはどうかなとリートが言うと、それは大人っぽすぎるよとシャルロッテが返している。
 その光景を穏やかな表情を浮かべて眺めるのは、ユーリアだ。穏やかと言うよりは、だらしないほどにへらーとしている。
 この間にもユーリアの脳内では、衣服や他の必要なアイテム──靴下類は無論、
 小さな小物やリボンといったものまで──を一通り取り出しては、それらを少女たちに身に着けさせて、
 はつらつとした笑顔を浮かべながらきゃっきゃと笑い声をあげる可憐な少女らの姿を妄想してみたりしているのだ。

「ねぇ、これなんてどうかな?」

 リートがやや控えめにレースで装飾されたショーツを手に取って、シャルロッテに見せる。

「ん、似合うんじゃないかな……これは?」

 と言いながらシャルロッテが取り出したのは、レースとリボンで彩られたショーツで、
 リボンが黒く、それがワンポイントのアクセントになっていた。

「あ、これいいっ♪」

 楽しげに自らを着飾る喜びを堪能する二人の様子は、妄想に耽るユーリアの心の内にも暖かくてくすぐったい感情を喚起させるに十分だ。
 まるでじゃれている子猫を見る飼い主のように、その可愛さのあまりもだえ苦しみだしそうなユーリアであるが、
 彼女の脳内は双子が思う存分に着飾って二人でダンスを踊っている。妄想が加速し過ぎているらしい。
 そしてあれやこれやと言い合いながら、ジックリと時間をかけて二人がチョイスしたのは、
 ある程度その服を買った本人がこれを選んでくれたらいいな程度に期待していた衣服をメインにしたものだった。
 シャルロッテはその黒く長い髪に合わせた、黒をメインとした、白のフリルのあしらわれたワンピース。
 ジークリートはその対となっている白のショートヘアに合わせた、白に黒いフリルのついたワンピース。
 ワンピースはスカートの裾に内側がら、フリルが出ているタイプでキュートさを表現している。
 服装が色違いなだけで同じデザインの為、二人がそれぞれが並んで立っている様子は鏡合わせのようだった。
 イメージ通り、いやそれ以上の愛らしい姿に、嬉し過ぎてジャンプステップハイジャンプした後にベッドの上で子供のように
 跳ねまわりたくなったユーリアは、感極まって満面の笑顔を浮かべながら、

「二人とも超可愛いよぉ!!」

 と叫んでいた。
 突然の大声に驚きながらもむず痒い感覚に頬を赤く染めながら、双子はゆっくりとユーリアの顔を見て告げた。

「「ありがとう」」

 私達を助けてくれて。
 あの暗くて薄暗いセカイから掬い上げてくれて。
 二人が心から浮かべた笑顔は、とても……とても綺麗なものだった。







投稿者:店長 代筆:エルス(敬称略)
小説 店長 狛犬エルス 読み切り
最終更新:2012年07月10日 02:56