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「前回の失敗の後、私は考えた。原因は何なのか、と……」

 給湯室が併設されているタイプの会議室にて、左遷に怯える中間管理職《公主嶺》は腕を組み湯気を立てる湯飲みを見つめながら誰に言うでも無しに呟いた。彼の言う失敗とは、先日行われた《バンガード》将兵が一堂に会した会議の事だ。ちなみにお題は【大佐ってロリコン?】である。
 根本から盛大に間違っている事を理解していない五十肩の疑いがある中間管理職は、大きなため息をつき眼鏡のブリッジを押し上げると両肘をテーブルに乗せて指を組んだ。集まった面々を見回して口を開く。

「人員の選定に問題があったのではないか。そう思うんだよォ」

 《大佐》のブロマイドを見ながら微笑んでいる《鎮月》中佐。その彼女を睨みながら蛇の様な擦過音を出している《リュゼ・ルナール》中佐。擦過音に怯えながらティッシュを口に入れようとしている《アルコフリバス・ナジエ》少佐。ニコニコとその様子を眺めている《D・クロケット》少佐。代わりにおじいちゃんを必死になって止めようと奮闘する《スウェイン・ユードルファ》大尉。そんないい男の揺れる尻をじっと目で追う《カルロウ・ノイマン》大尉。鼻息を荒げる彼を横目で見ながら盛大に貧乏ゆすりをしている《クロード・デュバル》大尉。その回数を首をがくがくと振ってカウントしている《アレフ・モーロック》大尉。

 指揮官としての権限を持つ“問題の無い”人員が給湯室が併設されているタイプの会議室に集合していた。
 もう一度言うが、この場にいるのは“問題の無い”指揮官たちだ。ないものはないのである。
 そしてこの会議室には給湯室が併設されているのだ。お茶飲み放題。お菓子もあるよ。

「やはり、部隊を指揮していない者は……尉官でも駄目だねェ。特殊部隊の連中は論外だよォ」

 朝起きたら抜けた頭髪が枕に結構な確立で張り付いている中間管理職はそこでふと気付いた。ユードルファの健闘も空しくティッシュをもっちゃもっちゃと頬張っているナジエ君は指揮官ではないという事に。政府時代はその功績から少将の階級にあった彼だが部隊を預かっていたわけではない。政権が交代し、軍の再編と共に少佐の地位にまで降格された現在も部隊を預かってはいない。副官と世話役――どちらも変態だ――を侍らせているだけだ。当たり前の事だが指揮なんてできない。

「今日もチンするレトルトですかいのぅ……」

 ぺーっ! と、ティッシュを吐き出したナジエは、ふがふが言いながら縁側で日向ぼっこをしているボケ――お歳を召されたおじいちゃんそのものな平和を象徴するマスコットの様に穏やかな表情で、穏やかではない表情の中間管理職へと顔を向けた。

「たまにはばぁさんの手料理が食べたいですのぅ……」
「……つまみ出したまえ」

 一昨日の朝方、夜勤明けの帰宅途中に不審者と間違われて職務質問を受けた中間管理職の号令一下、一人増えて四天王に――人数的な意味で――なった大尉達が動いた。

「シテンノ!」

 まず先手をきったのは不良指揮官デュバルだ。元快速機動部隊の一員に相応しい速さでヤクザキックが炸裂し、哀れなおじいちゃんが車椅子から蹴り落とされた。絶対に真似してはいけません。

「……なんて事を」

 それを見た鎮月が、生きている可能性を一切考慮せず、敵を仕留めるために列機を平然と射線に巻き込む行いを見た時のように眉をひそめた。キャラが被ったと、足技は自分の専売特許なのにと、そう言わんばかりに。実は彼女、人の見ていない時だと足で扉を閉めたりする事があるのだ。これは真似しても大丈夫です。

「ツテンノ!」

 続いてケセラセラなリベカ命のシスコン――もとい妹想いの指揮官モーロックが車椅子を窓に向けて投擲した。なお割れた窓ガラスの修復費用は彼の給料から天引き予定。そして事態はいよいよ最終段階に突入する。

「シテソノ!」

 良い指揮官ユードルファと、悪い――(PAMPAMPAM)


※暫くお待ちください。


「シ……シ……ッ!」


※お待たせいたしました。


「シ〒ンノオオオオオ!!!!!」

 一生ついて行きたい指揮官ノイマン両名が転がるナジエを抱えて窓から外――ちなみにこの給湯室が併設されている会議室は上層区で最も高いビルのほぼ最上階に存在する――に放り投げた。これが噂に聞こえしツープラトン・キャプテンホニャララである。バスターがいいかそれともシュートにするかで軍の上層部は二分されている罪な技だ。悲しみを背負ってそれ逝け超高性能おじいちゃん!

「今日はえらく冷えますのぅ……」

 重力に従い落下していくナジエの最後の瞬間を見届けるつもりが全く無い《バンガード》カルテット略してバカルテットは、互いにオツカレオツカレキョウカレー? と一仕事の労をねぎらいあっていた。その背中に乾いた音が投げかけられる。瞳孔の開いている女――クロケットが楽しげに拍手をしていた。

「<Bravo!(素ン晴らすィー!)>」

 クロケットの賛辞にデュバルの瞳が剣呑な輝きを有した。ヤンキーがフランス語使ってんじゃねぇ! と言った感じに。本来は今は無き亡国――後退速度がいやに早い――の形容詞だが、とある島国に伝わったのはボンソワーな国経由だから気にしても無駄だ。

「あぁ、いけませんね。革命で王制が斃れた野蛮な国の言葉を使ってしまうとは。あるいは、戦闘中にパスタ茹でるとか……。さて、高らかに星条旗を掲げるのです! <Excellent!(とっても素ン晴らすィー!)>」

 デュバルの額に青筋が浮いた。こっちの支援が無けりゃ蹂躙確定だったヤンキーが調子扱いてんじゃねぇぞと言った具合に。とばっちりで足を踏まれたユードルファはいい迷惑に違いない。ヘッドロックを食らったモーロックは凄くいい迷惑かもしれない。何もされなかったノイマンは寂しそうに指をくわえていた。

「コミュニストに死を! 自由を求めるその心こそが人の力ですよ! 勲章を胸に付けて差し上げましょう! 親御様に貴方の勇姿を御報告! 神聖なるアーリントンの地に眠ると宜しい! だから死になさい! <Join, or Die! Join, or Die!(統一か、死か! 統一か、死か!)>――死んで自由と平和の礎となるのDEATH! 市民よ! 今こそ銃を手に取り立ち上がる時! 自由を! 独立を! 血を! 栄光――」
「さっきから煩っせぇよ」

《イル・シャロム》の喧騒を見下ろしながら窓際で何やら演説を始めたクロケットの背中にデュバルが蹴りをいれた。正確にはクロケットの受動的ダイナミック・スーサイドのお手伝い――つまり蹴って外に落とした。《バンガード》において少佐の地位にあるものは《政府》時代からの伝統に則り、今日もマルマルされる運命にあるのだ。ヘッドショットでナイスキルされた《ジャガンナータ》中隊長、《エイブラハム・ロンバート》少佐のように。

「<Adieu!(二度と戻って来んな永遠にサヨナラだ死んじまえ)>」

 声は沈黙し、静寂が戻ってきた。だがその犠牲は大きなものだった。
 開始僅か数分足らずで二人減ったので、体勢を立て直すために先程からお茶ばっかり飲んでいる中間管理職は会議の一時中断を宣言した。トイレに行きたかったのだ。



「全く。場違いなのが紛れ込んでいたようだねェ」

 トイレ休憩からの帰還後、懲りずに再びお茶を飲んでいる以前尿路結石を患った事のある中間管理職は会議の再開を宣言した。会議の進行を乱す汚物を消去した室内は吹き荒ぶ風がガラスの割れた窓から盛大に侵入してきており、まるで真冬の早朝の様な独特の雰囲気が支配していた。早い話が無茶苦茶寒いのだ。だから彼はそれに気付かなかった。会議室の片隅で密かに進行していた異常事態を。

「上官に対する誠意っつーもんが足りてねーんじゃねぇっすか?」

 君が言えた台詞では無いねェと、声には出さず呟いた烏龍茶大好きな中間管理職は、また問題が起きたのだろうかとうんざりしながら声の方へと視線を向けて含んでいたお茶を噴出した。ブロマイドを見つめながら息を荒げている鎮月と彼女の耳をふんふん言いながら嗅いでいるルナールは、会議室に架かった虹の橋をほぼ同時に首を回して見た後、すぐさま直前の作業へと戻った。

「おら、ちったぁ根性見せろや兄ちゃん。私が熱くねーっつったら、はいそうです熱くありませんって、そう言うんがスジってもんじゃーありませんかね? あぁん?」

 “ヤ”どころか“マ”のつく本職も吃驚のドスを利かせた声を出したデュバルは、四つんばいになったノイマンの背を椅子にしながらモーロックの手首を掴んでいた。口髭の萎れたモーロックはユーティリティライター(チャッカメェ~ン【使いきりタイプ】)を、上に向けさせられた掌に近付けられている。これぞまさにモーロック家に代々伝わるハンドアシュトレイの構えだ。掌中に生み出された業火に子をくべるのだ。

「何をしているのかねチミ達ィ」
「礼儀を知らん若ぇ新入りに対する躾って奴をね。それに、ほれ、大尉が少佐の命令聞かずに突出するのは問題でしょうや。待てっつったのに。お座りも言ったのに。まるで聞く耳を持ちやしねーんすよ。許せねぇ、看過出来ねぇ、我慢ならねぇ。誰が主人であり飼い主であるのか全く理解しやがらねー。だからケジメつけさせねぇと。それが軍ってもんです。上から順に、将官、佐官、尉官、それから十把一絡げの下士官が続いて使い捨ての兵卒だ。犬にも解りやすい縦社会。素晴らしいじゃねぇっすか。だってのに、この駄犬は飼い主の命令無視しやがった。上がシロっつったらクロでもシロになるのが縦社会なんです。それが秩序ってやつっす。物事の決まり。従うべき本質。それを無視したモーロック大尉には然るべき罰が必要ですぜ。言って解らねーんなら、身体に覚えさせねぇと。これは愛っす。主人から飼い犬への愛情。断じて虐待なんかじゃねーっす。心を鬼にして燃やしちまうんです。人間ってなぁ、廃墟からも立ち上がっちまうんすよ。しぶといんですぜ。だから根絶やしになんかならねぇ。全人類が銃もってドンパチしても滅亡の心配なんかいらねーんですだから戦争しようぜ総力戦しようぜ何もかも吹きっ飛ばしちまいましょうぜ私が楽しい私によしもっと戦争もっと虐殺もっと蹂躙共倒れ最高さあ早くチンタラしてんじゃねぇぞさっさと死ね戦争死んじまえ脳天に風穴開けられちまえ砲弾で全身バラバラに戦争戦争なっちまえ機体の破片で内臓グチャグチャにされちまえ中途半端に生き残ってマワされちまえ一人だけ生き残って精神病んじまえ戦争性別に関係なく死ね年齢に関係なく死ね地位に関係なく死ね誰でもいいから戦争で死ね死ぬ為に戦争起こせその為の軍隊だ組織だ火種なんざいらねぇこっちから吹っかけちまえばいいそうすりゃ戦争戦争面倒な事チマチマやらずにすむ銃持てる年齢のガキを戦争戦争一方的に撃ち殺す必要が無くなる派手に消耗戦争戦争戦争戦争戦争戦争戦争戦争戦争戦争戦争戦争戦争戦争戦争戦争戦争戦争戦争戦争戦争戦争戦争戦争戦争戦争戦争戦争戦争戦争戦争戦争戦争戦争戦争戦争戦争戦争戦争戦争戦争戦争戦争戦争戦争戦争戦争戦争戦争戦争――」

 椅子にされてなんだか嬉しそうなノイマンの上でユードルファに肩を揉まれながらモーロックの頬をチャッカマンのノズルでぺちぺちと叩いているデュバルの言い分は全く要領を得ない。ブツブツと呪詛のように言葉を紡ぐ派遣将校は完全に精神を病んでいた。
 さてどうしたものかと、ストレスとはかなり縁のある中間管理職は思案した。まずは間違った事実を訂正する必要があるだろう。

「いやァ……君、大分前に降格処分受けたよねェ? 今は大尉だろう?」
「うるっせぇぇぇ! 降格なんざされちゃいねー! こちとら元エリート枠の出世組なんですよ! 叩き上げと一緒にしてんじゃねぇ! クーデターが起きなけりゃ、今頃はきっとおそらくたぶんかくじつに中佐になってたんだそのはずだそうだそうにちがいねぇ! 40前には大佐ですぜスピード出世スゴイ! そしたら戦争し放題飼い犬が増えるよやったね楽しい毎日! ウォー・イズ・ライフ! ひゃっほおおおい!」

 当たり障りの無い答えを返した積もりだったが、火に油を注いでしまった。悲痛な自棄気味の叫びに、ブロマイドを舐めあげようとしていた鎮月と、彼女の耳を齧ろうとしていたルナールも動きを止めた。モーロックは火刑に処せられる代わりに腕を締め上げられている。

「勝つ為に必死で戦ったが、勝てなかった! ワケのわかんねぇ超過兵装のせいで本隊は全滅、デルタも大損害だ! おまけに私は二度も蹴られて偉い目に合う始末……。なのに目を醒ましてみりゃあ《政府》が無くなってた! おまけに今まで同僚だった連中に裏切りものだなんだと影口を叩かれる! あいつらはなんだ! 敗残兵狩りでスコア伸ばした、本当の鉄火場もご存知ねぇくせに!」

 ギリギリと腕を締め上げられて泣きそうになっているモーロックを助けようと、ユードルファが奮闘している。椅子にされているノイマンはなんだか嬉しそうだ。

「政府軍じゃあ特殊部隊の一つを任せてもらえた。給料も良かった。30前に少佐だってんでちったぁ羨望の目でも見られた。癖はあるけど忠実な部下もいた……それが《バンガード》じゃ派遣将校だ昼行灯だなんだと、階級が下のやつらにアレコレ言われる始末――何人かKIAにしましたけど――極めつけは降格だ! 冗談じゃねぇ、あの階級は私が血を流して手に入れた戦果だってんだクソが!」

 自分を救助しようとしているユードルファを見るモーロックの瞳にはちょっと妖しい感じの光が宿っていた。椅子にされているノイマンの瞳には歓喜の色が見える。

「だから、だから……《政府》は消滅してねぇ! なにが《バンガード》だクソがぁぁぁ! ドンパチ出来なけりゃ、ウチらみてーなボンクラはお飯食い上げになっちまうんですよ! なにが再統一だ! なにが世に平穏のあらん事をだ! 平和なんざクソ喰らえ! 泥沼の地獄作り上げましょうぜ! 消・耗・戦! 消・耗・戦! 戦争はまだ終わっちゃいねぇ! 戦争はまだ続いてんだよおおお!!!」

 錯乱した挙句、色々ぶっちゃけてしまったデュバルに太ももを踵で蹴られたノイマンは頬を上気させている。一方、ユードルファの健闘も再び空しく握力だけで手首の関節を砕かれたモーロックは、「ねぇ、今変な音がしたよ! ねぇ! ぼくの手首はどうなっちゃってるの!? 話変わるけどこのお髭どう? ダンディ?」と言いたげな顔をしている。

「むゥ……どうしたものかねェ?」

 ほとほと困り果てた顔の不測の事態には結構弱い中間管理職は、唯一自分を保っているユードルファに向かって首を傾げる。バカルテット唯一の良心であるユードルファの答えはとても簡潔であった。

「ニコチン切れ」

 ニコチンが切れると精神が崩壊するらしい。デュバルの大半はニコチンで出来ています。

「畜生……私がなにしたってんだ……煙草が吸いてぇっす……わけのわけんねぇもん戦争に持ち込みやがって……もう限界ですぜ……兵隊から戦場を取るんじゃねぇよ……ここで吸っちまっても構いませんかね? あとセクハラしたい。戦争できねぇならシヅキ中佐のおケツさすさすしたい。においかぎたい。くんかくんかしたい。できればおっぱいももませてください。さきっちょだけ、さきっちょすうだけでいいっすからっ! せめてどっちかさせてくれってんだクソがああああああああああ!!!!!」
「給湯室へ行ったらどうかね……――それからシヅキ君、服を脱ごうとしなくてもいいよォ。ルナール君も、自分の名前が出なかったからといって歯軋りはやめようねェ――いやだから君まで対抗して脱ごうとしてどうするのかなァ」

 このままでは取り返しの付かない事態になりかねないと、喫煙者ではあるが重度ではない中間管理職は給湯室での喫煙を許可した。しつこいようだが、この会議室は給湯室が併設されているタイプの会議室である。当然、給湯室には換気扇も存在する。納得して頂きたい。前回は給湯室が併設されて無いタイプの会議室だった為、室内に濃霧注意報が発令されていたのだ。フランスでは禁止されるものでさえすべて許可される為、フランス人であるデュバルは基本的にフリーダムだ。未成年がいようが灰皿が無かろうが関係ない。

「そういやデュバル君、ここに入る時に煙草を没収されてなかったかい?」
「アバー」

 止めを刺されたデュバルがノイマンチェアから崩れ落ちるようして床に転がった。あまつさえぴくぴくと小刻みに痙攣を繰り返している。自分の煙草を分け与えるべきか、基本的にケチな中間管理職は悩んだ。

「るーるるるるー」
「!」

 焦点の合わない死んだ魚の如き瞳をしているデュバルの口から発せられた用途不明の音声に、鎮月の耳を一心不乱に舐めていたルナールが反応した。瞳孔の収縮した17歳さんは首をもたげて派遣将校を凝視していたが、やがて鎮月の耳を舐める作業に戻った。

「仕方ないねェ。私のを分けてあげようじゃないか。感謝したまえよォ」

 恩着せがましくそう言った、給料だけは結構貰っている中間管理職は懐から煙草の箱を取り出してデュバルへと放り投げた。

「グルル……」

 宙を舞う箱を口でキャッチしたデュバルは、背を丸めて自分を取り囲む同僚を威嚇した。正常な判断能力を失った派遣将校は、ただの犬に成り下がっていた。だから背後の回りこんだ椅子――もといノイマンに気付かず羽交い絞めにされてしまった。

「――やれ」

 閻魔部隊では些細なミスも許されない。ノイマンの言葉に、モーロックが洗練された優雅な動作でデュバルの口から煙草の箱を抜き取り、喉笛を噛み千切らんとガチンガチン鳴らされる歯の猛攻をかわしながらスタイリッシュな動きで中の一本を銜えさせた。極々普通にユードルファが火をつける。

「……さて、これで大丈夫だろう? 給湯室へ行きたまえ」
「うーい」

 やっとこさ正常な判断能力を取り戻した派遣将校は、何故かモーロックの足首を掴んで給湯室へと向かい始めた。ビタンと、地面に背中を打ちつけ慌てたモーロックは再び椅子になったノイマンの足首を掴む。顔面を床に打ち付けたノイマンは「処刑する」と呟いてユードルファの足首を掴んだ。

「いや、ちょ……」

 何も掴む物が無かったユードルファは抗議の声を上げたが、抵抗空しくそのまま引きずられていく。
 バカルテットの面々が完全に会議室から消え去った事で、そろそろ胃の辺りに痛みを覚え始めた中間管理職は大きなため息をついた。前回よりも酷いのではないか。そう、本気で思う。

「ハァー、ハァー……大佐……」
「殺ャー」

 眼鏡を外して目頭を指で揉んでいた、眼鏡をとると意外に高評価される中間管理職の耳に何やら妙な音というか声というか、そういった類のものが飛び込んできた。

「何事かねェ――」

 眼鏡をつけて視力の上昇した、眼鏡をつけるとあまりいい評価をされない中間管理職の視界に映ったもの、それは――手に持ったブロマイドを口に入れようと試みる鎮月と、無防備な獲物の首に手を伸ばしかけているルナールの姿だ。見なかった事にしてお茶を啜る。

「お茶が美味しいなァ!」

 もう一口含んで、玉露もいいねェと目を細めた。彼は泣きそうだった。


投稿者:カロン
VD未対応 カロン 小説
最終更新:2012年09月21日 23:18