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『何処までも晴れ渡る青空の下、われわれは失われた都を求めて砂漠をひたすらに走り続けた』
 S・G・ジョーンズ



砂漠を一直線に貫く鉄塔の列、大昔のハイウェイとそれに沿うように敷設されていた送電線の名残。
かつては一般車両が行き交い定期的に補修もされていたであろう文明の動脈、しかし紛争の度にアスファルトを耕してきたヤクザな戦闘兵器とその砲弾は、元より不毛の地だったこの地方をほぼ完全な砂漠に戻す事に成功していた。
そんな鉄塔の列を道標に、ゴツい4輪駆動車が1台ほど砂埃を巻き上げながら軽快に走っていく。
 どこかの軍隊からの払い下げのような、しかし丁寧に整備のいきとどいた砂漠仕様の軍用車両。
愛想の欠片も無いカーキ色の車体の側面には『TOKAGE INDSUTRIAL』の文字が書かれ、その車内では運転席のキサラギと助手席のジョブ・グッドマンの2人が、カーステレオから流れるハーモニカのソロ演奏に耳を傾けながら、昼食の手作りサンドイッチを奪い合っていた。

もしこの事に関して要点などという大層な代物があるとしたら、それは『キサラギはツナサンドが好きでありタマゴサンドも好きであるが、グッドマンはツナサンドは好きでもタマゴサンドは苦手だ』という点だろう。
グッドマンが言うには、あの茹でタマゴのボロボロとした黄身が非常に飲み込みにくいので嫌いだという事らしい。
よって、彼はセンターコンソールに広げられた大きなバスケットからツナサンドばかりをパクつく事になり、ツナサンドも食べたいキサラギは、グッドマンにツナサンドを制圧されてしまう前に纏めてそれを掴み取り、身もフタもなく口に運ぶという作戦に出た。
もちろんそれに対してグッドマンも負けじとツナサンドを掴み取り、気がつけば二人とも電話帳のような厚さのツナサンドで口の中をいっぱいにするという、だいの大人にしては少々上品さに欠ける有様となっていた。

片手にツナサンドの束を持ったまま、ハンドルを操作しつつ口の中で咀嚼していた分を呑み下してキサラギが不服を申し立てる。

「ちょっとグッドマンさんツナサンドばっかり食べないでくださいよ、タマゴあるじゃないですかタマゴ」

それに対してグッドマンはそっぽを向きつつ、ビールで口の中のツナサンドを流し込みさらに追加を確保しながら言い訳がましく言う。

「茹でタマゴは苦手なんだよ、タマゴサンドは全部お前にやるからもう少しツナくれツナ」
「またそんな事言って、好き嫌いしてると大きくなれませんよ?」
「これ以上大きくなっちまったらヘリの操縦席が窮屈になっちまう……じゃあこうしようぜ、向こうに着いたら何か奢ってやるからそれでどうだ?」

グッドマンは事あるごとに「奢ってやる」を口癖にしているが、今のところそれが果たされた事は無い。
諦め半分で仕方なく確保していたツナサンドをグッドマンに引渡し、キサラギはタマゴサンドを征服しにかかった。

「それにしても、お前さん相変わらずサングラス似合わねえなぁ……もちっとその前髪切ったら似合うんじゃないか?」

2人とも強烈な砂漠の光線から瞳を守る為にサングラスをかけていた。
グッドマンはヘリパイロットらしくなかなかサマになっているが、キサラギはこの手のアクセサリはとことん似合っていない。

「好きでサングラスしてるワケじゃありませんっ、あと前髪に関してはほっといてくださいっ」

キサラギはいつも目が隠れるくらいに野暮ったく前髪を伸ばす。それ以外は緩く結べるくらいに伸ばしたり、時には肩の高さに揃えて切ってみたりと変化があるが、何故か前髪だけはいつも目が隠れる長さだった。
そのせいか、彼女の瞳を見たことのある人間は誰も居ない。不思議とどんな時でもその瞳は髪に隠れているか、隠れていなくても立ち位置的に見えなかったりする、冗談のようだが本当の話だ。

「ウチの女性陣はどうしてこうも色気に欠けるかねぇ、外出する時くらいその格好もどうにかならんの?おじさん折角女の子とデートなんだからもう少し色気が欲しいんだけどよ」

常にカーキ色の軍用セーターとカーゴパンツ、脚絆を巻いたワークブーツで過ごすキサラギに対してもう少し色気をと思う物好きな人間は社内にも少なからず居るらしい。
しかし機能性優先の彼女がそんな事を気にするはずも無く、キャラバンが来るたびに飽きもせずに同じような服を買っては、年がら年中軍用サスペンダーとヒップバッグに大量のポーチ類を吊るして工具入れにするというギークな有様である。
そして、その事を指摘されるたびに彼女は毎回同じ答えを返す事にしていた。

「そのへんをわたしに求められても困りますよ、だいたいそういうのってバイトのおねーさんの担当なんじゃないですか?」

グッドマンは「うーむ」と唸り、顎に手を当てて蜥蜴重工のもう1人の女性職員の姿を頭に思い浮かべる。
軍服を思わせるスーツを華麗に着こなし、何をするにしても卒がない知的な才女、クールビューティーを絵に描いたような整った容姿、もちろんお洒落のイロハも心得ている………しかしその実体は容赦のカケラも無く毒舌を吐き出し、冷徹にACの作戦行動をオペレートするスマイル100AUの鉄の女。
そこまで思い出して彼は深い溜息を吐く。

「………いや、あれはちょっと愛嬌がなぁ……あの子とキサちゃんを足して2で割ったくらいがちょうどいいとおじさんは思うぜ?」
「おじさんは色々注文が多いんですねー、キサラギさんは付き合いきれませんよ。付き合いきれないので私にも飲み物取ってくれませんか?ノンアルコールで」
「ままならねぇなぁ」

ボヤきながら、グッドマンは足元に置かれた小型のクーラーボックスから炭酸飲料を取り出し彼女に手渡した。

ところで蜥蜴重工の2人が何故こんな砂漠をランチ付きで優雅にドライブしているかとうと、それはもちろん用事があるからであり、

その用事というのは他でも無い買い出しである。
間違ってもグッドマンが言ったようなデートなどではない。

付近に歩いていける街らしい街も無い砂漠地帯、そこに何故かぽつんと存在している蜥蜴重工では生活に必要な物資は一帯を巡るキャラバンが立ち寄った時に仕入れるのが普通である。
しかし、売り物は買い手が居れば減るのが道理。時にはお目当ての物資が品切れで手に入らない事もある。
大抵の場合「まあ無いなら仕方ない次回また頼むよ」で済ませるのだが、それが娯楽や嗜好品の類であった場合は話が別である。
周辺の街から孤立した場所にあるこの場所で、個々人が娯楽や嗜好品を切らしてしまうという事は何もない牢獄に放り込まれるのと同じであり、事態を放置しようものならそこに居る人間達は多大なストレスを抱え精神衛生上あまりよろしくない状態に追い込まれる事になる。
社内モラルの乱れほど経営者にとって恐ろしいものはない。
したがって、可及的速やかに社員全員の娯楽及び嗜好品を調達する買い出し部隊が編成される事になるのだが、その隊員選びには社長より以下のような条件が課されていた。

1『不足の事態が起きても自分の身は自分で守れる事(武装に関しての制限は無いが、拳銃などの小型携帯火器の範囲に留めるのが望ましい)』
2『緊急時の運搬手段の調達または手配、場合によっては運搬手段の修理が速やかに出来る事(無論交渉能力も含む)』
3『第9領域及びその周辺に存在する複数のミグラント、及びその他団体について一定以上の知識(大まかな文化や風習、言語も含む)を持っている事』
4『人間的にマトモで預かったお金を横領しない事(違反者は即解雇)』

最後の1つは人の金を預かる者として最低限のモラルであるが、残りの3つを全て満たせる者というのは意外に少ない。
特に3が問題である。非常に面倒な条件だが、トラブルを避ける為にはどうしても必要な事なので仕方ない。
大きなマーケットのある街では流れ者も多く、場合によっては別の場所を拠点としているミグラントと接する機会もある。
そういった人々と問題を起こさずに上手くやるにはそれなりの知識と経験が必要になるし、そういう事に気をつけていないと思いもよらないトラブルに遭遇するハメになる。
ちょっとしたイザコザが元で気の荒いミグラントから目を付けられ、ホテルのベッドで眠いていたら次の日には窓の外に吊るされ天に昇っていたなどという話はあまり珍しくない。
そういったトラブルを避ける為にも買い出し部隊の人選は、草食系で触らぬ神に祟無し的な事なかれ主義の社長の手で慎重に行われ、そして大抵の場合その役目は社内でもそれなりに人当たりが良く、トラブルを避けて通る術を心得ているキサラギとジョブ・グッドマンの2人に落ち着く事が多かった。
もちろんその2人以外にも適した人材は数人居るが、概ねそういった人材にはもっと重要な業務が任されているので手が開いていない。
そんなわけで社長命令により買い出し部隊に抜擢された2人は、日が昇る頃に蜥蜴重工を発ち、車で片道10時間ほどの場所にある大きなマーケットのある街へ向かっている途中であった。


「そういやキサちゃん運転交代しなくていい?もうだいぶ走ったしそろそろ俺の番じゃねえか?」

 長距離を移動する場合、まずキサラギが先に運転して途中でグッドマンが交代するというのが2人の最初の取り決めだった。
しかしグッドマンは毎回昼食になると気軽にアルコールを摂取するので、そのうち行きはキサラギが運転し帰りはグッドマンが運転するというパターンに落ち着いていた。

「アルコールが入ってる人にハンドルを任せるのはちょっとどうかなーと思うんですよね、帰りの運転全部任せますんで行きはこのままでいいですよ」

 特に気にするでもなくそう返す。彼女は乗り物を動かすのは嫌いではないし、彼とのこういうやりとりも嫌いではなかった。
互いにマイペースだが必要な時は率先して協力するし、必要以上には互いに踏み込む事も無い。
適度な距離を取ってふざけ合い、時には文句を言ったりしながらじゃれ合うのはなかなかに心地よいものだ。

そんな事を考えつつも、ふと思い出したようにキサラギは手に持っていたタマゴサンドを口に放り込みながらレッグホルスターをまさぐる。
手探りでストラップを外し、そこに収まっていた拳銃を引き抜きセンターコンソールを挟んで座るグッドマンにそれを差し出した。
「ん?」とそれに気付いた彼が拳銃を受け取りしげしげと眺める、刻印もメーカーロゴも無いのっぺらぼうのオートマチックピストル、特徴と言えば深い青味がかったブルースチール仕上げのフレームと、スライドの先端に開けられた穴から覗く左右6列のガスポート。

「何だこりゃ、もしかしてV12のコピーか?」

さらに彼女はもぐもぐとサンドイッチを咀嚼しながら、腰のポーチからも空のマガジンを3本ほど取り出してグッドマンに渡す。
最後に口の中のサンドイッチを飲み込みながらダッシュボードを指さした。

「暇な時に鋼材削って作ったV12っぽい何かですよ、そんな事より弾つめてもらえませんか?ダッシュボードのなかに45口径が1ケース入ってるんで」
「何でまたガバなんて古いもんを……てっか、女の腕なら9パラのほうが扱いやすいんじゃねえの?」
「よくあるダブルカラムは私の手にはちょっと太いんですよね、それにシングルカラムで9パラとか私は遠慮します」

ダッシュボードの中に入っていた50発入りサイズの長方形の箱を引っ張りだし中身を確認する、安っぽい紙箱の中には彼女お手製の45口径のシルバーチップがギッシリと詰まっていた。
カーステレオから流れる演奏に調子を合わせるように、パチリパチリとマガジンに弾を込めながらグッドマンが言う。

「だからって態々ガスポート開けてまで砂漠でこんなん使うかねぇ、キサちゃんもけっこう過激だよなこういうのに関しては」
「口径がですか?それとも弾がですか?」
「両方だよ、もしかしてキサちゃんって実はサディストだったりする?」
「ずいぶん昔の話ですけど大柄な暴漢さんに襲われて、その時9パラのホローポイントじゃ倒れてくれなかったんですよその人。それにほらソレだと何処に行っても部品扱ってるんで」

「あ~、なるほど」と納得したグッドマンが弾を詰め込んだ拳銃とマガジンを彼女に返し、自分の拳銃を引きぬいてマガジンの中身を確認する。
ちなみに彼は9ミリのホローポイントをマガジンにギッシリと詰め込んでいた、こちらも刻印の無いのっぺらぼうの拳銃だった。
どうやらこの厳しいご時世において、古き良き時代の特許やら権利やらという言葉はメーカー共々人々の記憶から忘れ去られて久しい。

「そういや俺もそんな事あったなぁ、時々居るんだよなそういうタフなヤツ……9パラのほうが45口径より初速早いワケだから同じホローポイントなら有利だと思うんだけどなぁ」
「人体の神秘ってやつなんじゃないですか?まあ撃てて当たって倒れてくれれば何でもいいんですけどね、あとこの辺りって9パラよりも45口径が手に入りやすいんですよね何故か」

食事を終えて満腹になったグッドマンが、拳銃をホルスターに戻しシートを倒して横になりながら答えた。

「それに関してはこの前キャラバンのオヤジが言ってたっけかなぁ、サプレッサーと相性がいいんで愛用してる連中が多いんだとよ」
「なるほど、道理でネジ山を切ったカスタムバレルをキャラバンの方がよく注文されると思っていたらそういう理由でしたか。物騒で怖いですねぇ」

足元のクーラーボックスに足を乗せて本格的にくつろぎ始めたグッドマンを気にするでもなく、時折ハンドルを切りながら極端な起伏だけを迂回して車を走らせ続ける。

「またまたキサちゃんそんな事言っちゃって、どうせ気付いてるのに素知らぬフリして作ってたんじゃないの?おじさんそういうのにはちょっと鋭いぜ?」
「いやですねーおじさんは詮索好きで、そういう事を知らないで作ってるから買うほうも警戒しないでもらえるじゃないですか。知ってたら怖くて作れませんよホントホント」

トボケた様子でどちらともなく「あはははは」と笑い出し、ひとしきり笑ったあと2人とも黙りこむ。
カーステレオから流れる曲がハーモニカからピアノのセッションへと変わった辺りで、何か別の話題をとシートでゴロゴロしているグッドマンが口を開いた。

「そういやこの車の冷房ヤケに良く効くな、俺が前乗った時はエアコンぶっ壊れてたけど修理した?」
「間に合わせですけどね、ちょうどいい冷媒が無かったんで配管弄って手近にあったガスで代用してるんで異臭がしたら教えてくださいねすぐ止めてガス抜きますから」
「グッジョブと言いたいところだが聞かなきゃ良かったぜ、やっぱ怖いんで俺寝る」
「はいはい、街が見えたら起こしますからその時はきちんと起きてくださいねっ」



つづかない

○意味不明かもしれない単語の補足
V12:スプリングフィールド社が販売するガバメントモデルのオートマチック拳銃、ググるとフェイス・オフの黄金拳銃が出てくるが間違いではない。
ACVの世界にあるのかな?無いかもしれないな、でも実例があるほうが見た目分かり易いしいいや。

ガバ:コルト社の45口径オートマチック拳銃M1911の事、パテント切れと共に世界中のメーカーが自社モデルを出しまくった人気者。ACVの世界にあるのかな?無いかもしれないな、でも45口径拳銃の代表選手みたいなものだしいいや。

ダブルカラム:マガジンの装弾方式、弾がいっぱい入るが太ましい。

シングルカラム:マガジンの装弾方式、スリムだが弾はたくさん入らない。

45口径:正確には.45ACP弾、マン・ストッピングパワーに優れると言われるが実はけっこう怪しい。倒れた敵だけが良い敵だ。

9パラ:9x19mmパラベラム弾の事、扱いやすくて流通量も多い優秀な子。しかしここぞという時にパワー不足を指摘されたりする、結局のところケースバイケース。

ホローポイント:先端の凹んだ変形しやすい弾丸、各種口径に概ね存在する。柔らかい標的にめっぽう強い。肉も抉って骨もへし折る、ついでに貫通しにくいので流れ弾を出しにくい。

シルバーチップ:アルミやニッケルで被甲されたホローポイント弾、変形率高めなうえ軽いので初速も上がる。完全被覆なので鉛のクズがバレルに付着しにくい、大口径向き。

サプレッサーと相性がいい:初速が9パラより低く音速を超えない45ACPのほうが静音性が高くなるという意味、サプレッサーを使うんだスネーク。

ネジ山を切ったカスタムバレル:サプレッサーを装備する為のネジ山、SOCOM-Mk.23の先端あたりが分かりやすい。





投稿者:こくよくちょー

最終更新:2013年10月25日 15:59