オーダーミッションNo.021
【砲台陣地陽動侵攻】
――彼は如何にして貯蓄を失ったか
(投稿者:怨是)
ロベルツォ・ロッソは真っ赤なジャケットを羽織り、胸ポケットに名刺入れがある事を確認する。今回の雇い主とは、これが初の共闘となる。打ち合わせ――作戦会議の事をロッソはそう呼んでいる――の際にはしっかりと良い印象を与えねば。今後の関係にも影響する。
「お呼びとあったら行かなきゃな。特に、腕の立つ奴ぁよ」
後は、連絡を待つだけだ。先方は大層気難しい性格らしく、あちらから連絡を寄越してからでなければ、来て欲しくないのだという。死と隣り合わせである以上、仕方の無い事ではあるが。ロッソは手の平大の端末を広げ、タッチペンを取り出しながら眼前の黒電話を眺める。
巨大なアンテナを介して、数多の通信が飛び交うこの第9領域に於いて、黒電話というのは遙か昔の遺物以外の何物でもないが、そのクラシックなデザインと構造の単純さ故の剛性に惹かれて置いている者も多い。
ベルが鳴る。受話器を取る。それだけで通信が成り立つ。後は、名乗るだけだ。
「もしもし、こちらロベルツォ・ロッソの事務所だ。ご用件をどうぞ」
《俺だ。依頼の件だが》
「あんたが
ジュリアスさんだな? この度はロベルツォ・ロッソ傭兵支援事務所のご指名、感謝するぜ。早速だが本題に移ろう」
《先方から提示された事前情報より、敵が多くなるかもしれん。不測の事態に備えてあと二人雇うが、問題ないか?》
「いやいや、ちょっと待ってくれよ」
あと二人? ジュリアスはSランク傭兵であり、かつては政府軍のトップエースにも数えられた大ベテランの筈だ。その情報に間違いが無ければ、あと二人も雇う必要性は何処にあるのか。敵が多くなった所で、多少の負担が増えるだけだろうに。
「四機編成になったら、俺の取り分はどうなるんだ? 減らされると、赤字になっちまうぜ。こっちは修理費が嵩むんだ」
もしも取り分を減らされたらまずい事になる。最低でも三割は確保しておかねば、今回の依頼とて、幾ら報酬額が高めに用意されていたとしても修理費で稼ぎの大半が吹き飛んでしまうだろう。赤字になる事だけは、どうか御免被りたい。やや早めだが、切り札となる殺し文句を使うとしよう。
「最悪、俺は降りる事になる。出来ればあんたとは、これからも良好な関係でありたいんだがね」
《――出来ればあんたとは、これからも良好な関係でありたいんだがね》
「ふむ……」
――下衆が。
ジュリアスは胸中にて、通話先の男、ロベルツォを断じた。良好な関係などと嘯いてはいるが、結局の所は目先の利益しか頭に無い風である。急場を要する事態に限って、そういう最中に手を組む相手は皆、碌でもない手合いばかりだった。マイクを顔から離して嘆息する。
「今、この状況で戦力が減るのは痛い。俺を含めた四人で均等分配とするのは、どうだ」
《均等分配ねぇ……それは収支抜きで単純に報酬額をって事か? それとも、それぞれの支出を差し引きした収入額をって事か?》
「そうだな。少し、考えさせてくれ」
《解った。そこは任せる。じゃあ決まったら教えてくれ。一旦切るぜ》
「あぁ。決まり次第掛け直す」
通信を終了し、ジュリアスは頭を抱える。
「……拙い事になった」
その場しのぎの為に提案してはみたものの、弱った。
前者の支出差引抜きの報酬を分配する方式なら、ロッソは確実に来てくれるだろう。依頼の内容を見るに、ACが駐留している可能性は高い。相手がバンガードの施設となれば、尚更だ。多くのミグラントがACの出現、撃破に応じて報酬額を増額する事を暗黙の了解としている以上、前者の均等分配方式であれば彼の修理費を遙かに上回る金額の報酬が得られる事になる。
が、そうすると他に雇う二人――
タオヤメ、
クック・ロビン。二人とも面識は無く、戦法も判然としない――がどんな反応をするだろうか。後方から支援する機体ばかりが得をし、前線の機体は修理費が嵩む為に、結果として報酬額の分配基準が不平等となる。もし二人が不満の声を上げるとしたら、そのチームワークは云う迄も無く、脆弱なものとなろう。ならば公正を期すべく、後者にすべきか。
「儘ならぬものだな」
しかし、後者の差引収入額での分配にした場合はロッソがごねるかもしれない。残る二人が至近距離での戦闘を強いられたら、間違いなく損害額が増えてしまう。間違いなくACとの戦闘になる以上、全員が無事で居られる保証は何処にも無い。
「俺の分を三人に回すか?」
最悪、弾薬費と修理費の分だけ頂戴し、残りを三人に分配する事も出来なくはない。が、それをやるには貯蓄が足りない。ジュリアスとて大富豪の生まれではないのだ。自身の切迫した経済状況も鑑みて、己を犠牲に今回の作戦を成し遂げるのは得策では無かろう。戦術レベルでのみ考えればそれで成功するが、戦略レベルでは完全に愚策だ。加齢によって活動範囲も限界が出て来るだろうし、今後も激化が予想される状況で緩やかに貯金し続けていると、いずれは支出額が多くなり、借金をするハメにもなるかもしれない。最終的に何も出来なくなる。
「流石に、無理だな。今回だけそうする、というのでは同業者が納得しないだろう」
――待てよ。
脳裏にひらめくアイデアを、ジュリアスは即座に腕に書き記した。この時代、紙はべらぼうに高い。一枚の紙よりも、携帯端末の方が安上がりだ。そんな中で紙に書くためのペンを携帯しているのは、己の二の腕がメモ用紙代わりになるからだった。
「これで行くべきだ」
端末から宛先を選び、再度、ロッソにコールする。
「待たせたな」
《意外と早いねぇ》
「これでも随分と考えさせられた。お前と他の二人組で、別々に目標を設定する。お前は友軍のACを作戦終了時刻まで守り切れ。一機に付き、一定額の報酬を渡す。損傷の度合いが軽ければ増額もしよう。お前が奮戦し、皆の損害を抑える事が出来れば、それだけ収入は増えるという算段だ。支援は得意だろう?」
《確かに支援は得意だけどよ。そりゃ、あくまでツーマンセルでの話だ。三人も支援するってなると、ちょっと話が違ってくるぜ》
「いずれにせよ、命あっての物種だ。これ以上の妥協は出来ん」
《ご尤もだが……で? 残る二人は?》
「敵戦力の撃破に応じて報酬を渡す。俺は、お前を含めた三人に報酬を渡した後、その残りを頂戴する。これでどうだ」
ACが居たとして、これの撃破は必ずしも必須目標ではない。作戦内容はあくまで陽動だ。敵ACを撃破しなかった場合でも、この計算なら不満は出まい。
《まぁ、妥当じゃないか? 後はあんたや他の二人の働き次第だ。期待してるぜ、トップエースさんよ》
これで、何とかなった。
「あぁ。では、指定した時刻にまた会おう」
《了解》
今度こそ通信を終了し、ジュリアスは胸を撫で下ろした。
「ふぅ……」
これだけの人数であれば、ほぼ確実に遂行可能だ。たとえ百戦錬磨と讃えられようとも、数で攻め込まれれば脆いものだ。常に確実性を意識せねば、いずれは死ぬ。
フェルナンドは夕日をモニター越しに一瞥し、それから先刻の通信内容を反芻した。
――陽動、か。
政府がイル・シャロムを統治していた時代、かの砲台陣地はレジスタンスを迎え撃つ為に存在していた。当時、砲口を向けられるのは、クーデター軍とて同じだった。それが今はかつてのクーデター軍だったバンガードの物となり、雑多なミグラント達へと向ける事となる。攻め込む者から攻め込まれる者へ。強引な政権交代が生み出した、時代の皮肉だろうと人は云う。
それでも戦略的価値は非常に高く、この場の皆はおろかバンガードに所属する殆どの者がそんな妄言じみた野次に耳を貸す事など無かったが、わざわざ侵攻が困難なあの場所で陽動を行なうという事は、襲撃者達はかなり切羽詰まった考えの持ち主であろう。全く、次から次へと面倒を増やしてくれる。
「補給の暇は無いか」
と同時に、立ち止まってヘリの到着を待つ時間も無い。バンガード本部からこの場所で回収するという旨の連絡はあったものの、フェルナンドは指定された地点よりも更に砲台陣地寄りの場所での回収を望むと返答した。多少揉めたが、最終的に折れてくれたのは有り難い。とはいえ啖呵を切ったからには約束通り、フェルナンドは自分が指定した場所へと行かねばならない。
「総員、合流地点へ向かえ。砲台陣地の援護へと回るぞ」
合図と共に、四機のACは推進器から炎を噴出させ、走った。地面に揺らめきを残し、バンガード特有の色――マゼンタ色に染められた二機の中量二脚が先行する。その後ろを、青い炎の塗装が施されたフェルナンドの重量二脚、それからタンク型が続いた。フェルナンドは並走する友軍機への通信を続ける。
「
カウ・エフ曹長。貴様が頼りだ。上手くやれるな?」
《こちらドムキャット。猫に平穏のあらん事を》
右腕と右側ハンガーのみに武器を搭載した中量二脚型からの返答は、奇妙奇天烈だった。カウ・エフ曹長は大の猫好きでも知られる、射撃の名手だ。が、時としてそれが暴走し、会話が成り立たない事もままある。
「……これだからな。サカモト伍長はどうだ」
《腹減った! キューエンブッシを要求する》
タンク型からの返答だ。可憐な女性の声に似合わぬ厚かましい言動は、フェルナンドをいよいよ閉口させた。敵は既に戦闘領域に居るというのに、何を悠長な。
「馬鹿にしおって……アシモフ軍曹! 貴様はまともな返答をしてくれるよな?」
《こちらストライカー14、どうにかやれそうです》
唯一、まともな会話が望めそうなアシモフ軍曹ですら、これだ。楽観的にも程がある。
「“やられそうです”の間違いではないだろうな?」
《まさか。相手はどうせ、空き巣だと思って油断している手合いでしょう》
「そう上手く行くものか。結果を示さねば貴様も左遷してやるからな……」
《ご心配には及びません。やれますよ、我々は!》
――馬鹿が。碌に戦果を挙げてもいない癖に、何がお前に自信を与えたというのか。心せよ。我等は四機とはいえど、手負いである。たとえ砲台が残っていたとして、友軍が残っていたとして、相手が十全のまま攻め込んできたのなら、生きて還れる保証は何処にも無いのだ。
マイクの入力を切り、フェルナンドはモニタ越しの虚空を見つめた。
「……相手はどうせ陽動の為に掻き集めた囮だ。だがそれを潰し、敵軍本隊を壊滅せしめる程に習熟していなければ、無意味であろうに」
不安ばかりが胸を埋め尽くす。
「出来るのか? 我々は……」
夕闇が、周囲の煙と炎をより赤く彩っていた。ロッソはコックピットの中で煙草を吹かし、戦況が一段落した事を確認する。砲台と鈍重な防御型MTだけだった為、ロッソの出番は殆ど無かった。せいぜい砲台の目を引きつける為にセントリーガンの子機を二、三機撒いた程度だ。
「おかしいな。何で誰も出て来ないんだ?」
《経過を見守るぞ。まだ全てが終わった訳じゃない》
降伏する兵士の姿が見えない。何かがおかしい。ACが駐留していたという話だが、何処へ行ってしまったのか。ジュリアスもこの光景に違和感を覚えているのか、手放しに喜んでいる様子は無かった。
《いやぁ、楽勝だったな! 結局は砲台だけじゃねぇか! 拍子抜けだ!》
クック・ロビンが突拍子も無い様相で歓喜の声を上げている。お調子者はこれだから困る。
《まったく傭兵ってのはぼろい商売だぜ! 弾バラ撒くだけで丸儲――》
青白いレーザーがクック・ロビンのAC『レッド・チェスト』の脚部を掠めた。直撃こそ免れたが、当たり所が悪かった。関節部分が少しだけ融解している。
《AC?! どうなってんだ! 情報と違うじゃねぇか!》
狼狽するロビンを余所に、恐らくレーザー発射の犯人であろう青いACが突っ込んでくるのが見えた。更に、視界にはヘリがACを投下している所までもが映る。これより訪れる苦難を早いうちに知る事が出来たのは、果たして幸いと云えるのだろうか。
《忠義も信念も持たぬ俗物共め……貴様等に踏ませる大地などあるものか》
青いACは開放回線を介して、宣戦布告を行なってきた。低く震える声音が、ただならぬ憎悪を感じさせる。
《やはり来たか……遅かれ早かれ来るとは思っていたが》
それでも動じないジュリアス。流石は百戦錬磨の老兵か。
《ロビンは屋上から砲撃を。タオヤメは先行し、奴らの目を引けるか?》
《大丈夫だろうな。ちゃんと援護してくれよ?》
《はいはい、お安い御用です》
こちら側の弾薬は心許ない。MTとはいえ結構な数を相手取っていたし、ロビンに至っては調子に乗って威嚇射撃じみた真似までしていた。あれがきちんと屋上から砲撃してくれるか、ロッソは心配でならなかった。タオヤメは……まぁ大丈夫だろう。飄々とした性格はどうにも肌に合わないが、ああ見えて仕事はきちんとこなしてくれる。砲台の大半は、彼女が切り刻んでいた。
《ロッソ。俺と共に敵部隊左翼を叩くぞ》
「あいよ」
折しも、左翼側は中量級が一機だけだ。ジュリアスの腕前ならどうにでもなるだろう。ただ、懸念事項はあった。敵は此方を向いてこそいないものの、屋上へ上ろうとするロビンの機体を狙い続けていた。片腕にしか武器を持たない特殊な構成故か、横への機動力が高い。その上、両腕で一挺の火器を支えている為に命中精度も高い。この似非狙撃型め。
――ああ、早速か。
関節をやられたロビンのACは、ビルを蹴って昇るのも一苦労らしい。もたついている所をそのACに狙い撃ちされていた。
《畜生、墜ちる! あいつら容赦ねぇな! 早くしてくれ、登り切る前に死ぬ! 痛ぇ、クソッ!》
だが徒に喰らっているだけのロビンも大概だ。建物の裏側に回って遣り過ごすなり何なりしろ。
「こんな時に云うのも何だが、同じ“赤”を名乗って欲しくねぇなコイツ」
《私語は慎め。集中しろ》
「あいよ……」
ロッソは似非狙撃型の射線上に一度割り込んで照準を攪乱し、周囲にセントリーガンを射出する。パルスガンタイプの子機が青白い光の粒を吐き出し、似非狙撃型の装甲を焼く。ロッソはコックピット内にて独り、悦に浸った。以前からこのマゼンタ色が気に食わなかったのだ。たまには自分の手で、どぎつい痛手を被らせてやるのも悪くはない。
《タオヤメ、切り込めるか? まずはタンク型からだ》
ジュリアスは似非狙撃型から離れ、続いて次の二機……タンク型と中量二脚型へと狙いを変えていた。二機を挟んだ向かい側にはタオヤメが居る。挟撃するつもりか。
《えぇ。それにしても退屈な相手ですね。どれもこれも、傷物ばかり》
「つまり、補給もしないまま来たって事か」
《そうなります》
道理で、どいつもこいつも狙いが嫌に慎重な訳だ。充分に補給が行き届いた状態のACは、大体が早期決着を計るべく、多少の損傷など顧みずに突っ込んでくる事が多い。特にバンガードのACは、恐らく組織の方針から修理費も弾薬費も免除されるからなのか、攻撃に迷いがあまり見られない傾向があった。
今回は無補給での連戦という特殊なケースだからだろう。だが、一体何の為に? 潤沢な物資を蓄える彼らであれば、補給してから来る事だって出来た筈だ。それすらも待たずに来る理由は何だ。
タオヤメのACがレーザーブレードを振りかぶった所を、標準的な装備の中量二脚に踏み台にされていた。そのまま中量級はビルの合間へと逃げ込む。タオヤメのACが体勢を立て直そうとしている隙に、タンク型が武器を構えていた。搦め手の引き出しが多いという自信の下に生まれる余裕が、彼らに補給しないまま連戦するという選択をさせたのだろうか。いや、まさか。
「ターゲットガンは必要か? 奥様」
市街地戦闘に長けている彼らであれば、物陰に隠れる事も多かろう。ちょっとした親切心から、ロッソは提案したつもりだった。
《無くて結構。近付くなら結果は同じですものねぇ》
タオヤメはどうにもプライドが高いらしく、その提案は突っぱねられた。余裕綽々といった風だが、それでも言葉の端々から些かの苛立ちが感じられる。そっとしてやるのもまた、支援の一つなのだろうか。
「あ、そう。セントリーガンの射線には被らないでくれよ」
ジュリアスが今まさにタンク型へと突撃したその刹那、コックピット内のスピーカーが絞り出した様な叫びを吐き出した。
《うわぁあ! も、もう駄目だ! 離脱するぜ俺は!》
バンガードの連中に狙いを外させる事は、出来なかった。ロビンのACは、ばらばらとビスの外れた装甲を散らしながら、地平線の彼方へと飛び去って行く。被弾により赤熱した装甲とグライドブーストによって噴射された光が、既に暗くなった周囲を僅かながら照らしていた。
《雑魚だなアイツ……おい、抜けるってさ。どうするよ? 俺達もずらかるか?》
ロッソの提案は、呑めない。
「此処で逃げても、本隊に回られるだけだ。それだけは何としてでも避けねばならん」
《相手側も、こっちが陽動だって知ってて戦ってるのか?》
「でなければ、手負いの部隊を寄越す筈もあるまい」
察するに、彼らもまた、陽動として送られたのだろう。敵部隊の目を引きつけていると、レジスタンス側に錯覚させる為に。
《待てよ。じゃあ尚更、こいつらは放って置いて、レジスタンスに合流しなきゃ拙いんじゃねぇか?》
「……間に合うと思うか?」
《無理、かな》
距離が遠すぎる。よしんば追撃を振り切って合流した所で、余計な面倒を連れて来るだけだ。
「俺達に出来る事は、此処で奴らを食い止める事だけだ」
爆発音がビルの向こう側から響く。
《人型を一機、屠りました》
見れば、バンガードの中量二脚が膝を突き、火を噴いている。一挺持ちではなく、ストライカーのコードで呼ばれる方の二脚だ。
「よし、これで数は互角の筈だ。そのまま押し切るぞ」
《あい了解》
《はぁい》
「……」
とは云ったものの、青いACといい、バンガード側の実力は未知数だ。どれも政府軍時代に相手取った事が無い。詳細なデータなど手元にある筈も無く、その勝敗は見えなかった。
《貴様が、ジュリアスだな》
不意に敵ACに話しかけられ、ジュリアスは三機の内の誰がその主なのか、思案を巡らせた。
「だとしたら何だ」
《かつては政府側に立ち、クーデター軍であった我々に立ちはだかったと聞いている。……私には、貴様が我々を妬んでいる様に思えてならんのだ。答えろ、ジュリアス。貴様の目的は何だ。一体何が貴様を駆り立てる?》
「さぁな、俺の勝手だ。教えてやらん」
《何処までも強情な奴だ。まぁ良い。目的は果たした》
……彼の発言からは、何か得体の知れぬ感情が読み取れた。なる程、確かに目的はしっかり果たしてしまったらしい。予定時刻はとうに経過している筈なのに、回収のヘリからも連絡が無い。
だが、青いACのパイロットの、その声音は決して達成感を含んだものとは云えなかった。胸中の感情が喉に引っ掛かった様な、そんな響きが感じられた。
《総員、撤退せよ。この砲台陣地は放棄する! 繰り返す、この砲台陣地は放棄する!》
敵AC達は攻撃を止め、一斉に転回した。
《貴様を殺せなかったのは心残りだが……いずれ、雌雄を決する事になるだろうよ》
その引き際はあまりにも鮮やかだ。流石、クーデター側だったとはいえ元政府軍か。統制が取れた動き、全く異なる脚部であるにも拘わらず隊列を微塵も崩さぬ精微さは、並大抵のパイロットには成し得ない。
「ふん」
《あの野郎、気障な事抜かしてやがるが、結局は月並みな捨て台詞じゃねぇか》
「云ってやるな。それより、依頼主が気掛かりだ。無事だろうか」
《だな。くたばってなきゃいいんだが……じゃないと赤字だぜ、赤字》
「畜生。大赤字もいい所だ」
嫌な予感というものは、いつも望まぬ時に限って的中する。依頼主の部隊は壊滅寸前にまで追い込まれ、陽動は失敗――つまり契約内容の不履行として支払いが発生しなくなった。よしんば成功扱いになったとしても、多分あのレジスタンス勢力は立て直すための資金など残って居らず、二度とまともに活動する事など出来ないだろうが。
「振り出しに戻らなきゃ、だな」
大破寸前まで追い込まれた機体の修理費に、貯蓄の殆どを費やした。今後、それを取り返せるだけの金額が稼げる依頼は滅多に来ないだろう。地道に稼ぐしか無い。ただ一つ、不幸中の幸いは、ジュリアスとの関係を持てた事か。あの男は、出来る。次回の依頼で是非ともご一緒し、御利益を賜るとしよう。
不意に、黒電話のベルが鳴る。
「もしもし、こちらロベルツォ・ロッソの事務所だ。ご用件をどうぞ」
また忙しくなりそうだ。さて、次の依頼は……
戦後報告一覧
| Mercenaries |
| PILOT NAME |
UNIT |
PROFILE |
| Julius |
AC(2Legs-H) |
砲台陣地陽動侵攻に参加。四機の敵ACと戦闘となるも、 癖の強い僚機達を上手く扱い、敵を撤退に追い込む。 |
| Roberzo Rosso |
AC(4Legs) |
ジュリアスの僚機として出撃。依頼の失敗に加え、高級な機体だった為に莫大な修理費で貯蓄を失う。 それから先も暫くは地道に依頼を受け続けるも、奮闘虚しく幾つかのパーツを売却している。 |
| Cock Robin |
AC(R Joint-L) |
敵ACの攻撃により機体中破。戦闘の途中で撤退する。 |
| Taoyame |
AC(2Legs-L) |
NO RECORD |
| Vanguard |
| PILOT NAME |
UNIT |
PROFILE |
| Fernando Baraja |
AC(2Legs-H) |
砲台陣地防衛作戦に参加。 僚機同様、侵攻部隊排除作戦からの連戦であった為か、充分な戦果を挙げられなかった。 |
| Cow Eff |
AC(2Legs-M) |
傭兵クック・ロビンを撤退に追い込む事に成功。 その後は別働隊に合流し、着実に撃墜数を稼ぐ。 |
| Rewe Sakamoto |
AC(Tank) |
砲台陣地防衛作戦終了後、フェルナンドの部隊を離れるや空腹を理由に離脱。 レジスタンス側に投降を促し、見事に数千名の捕虜をバンガード側に寝返らせた。 |
| Willy Asimov |
AC(2Legs-M) |
砲台陣地防衛作戦にて戦死。 レーザーブレードによってコックピットごと切り裂かれた事が原因と見られている。 |
最終更新:2013年11月18日 04:16