オーダーミッションNo.013【音声サンプル収集】CASE1「偽りは偽りのために」
難易度:D 依頼主:イエローシャーク 作戦領域:地下鉄道 敵戦力:戦闘メカ 作戦目標:敵勢力の全滅、及び音声データの録音 よう、元気にしてるか? 俺だ。 今回の依頼はちょっと変わり種だぜ。 とあるミグラントの音声データを集めて欲しい。 訳あって用途は明かせねぇが、こいつが高く売れるらしいんだ。 お前さんにはそいつの僚機として出撃し、通信内容を録音して貰う。 作戦活動自体は敵さん連中の殲滅という至って簡単な内容だが、 なるべく多くの音声サンプルを集めるためには、どうにかして戦闘を長引かせなきゃならん。 しかも奴さんは大変気難しいと来たもんだ。 あからさまにサボったのを知れば、機嫌を損ねて黙り込んじまうかもしれん。 まぁ、そこは上手く工夫してくれや。 内容の割に報酬はそこそこお高くなっている。更に、音声を充実させてくれたら増額というおまけ付だ。 さて。どうかね、この条件。お前さんならきっと食いついてくれると思うんだが。 いい返事を待ってるよ。 |
ライフルから撃ち出された一発の銃声が地下の閉鎖空間に響き渡る。続いて撃ち出されたパルスガンが真っ暗な空間を照らし出す。
十数分続いていたミッションは、銃声と閃光によって幕が落とされる。けたたましく続いていた銃声は鳴り止み、爆発音は沈静化し、周囲は静寂と暗闇に包み込まれる。リコンが示すのは敵機が存在しないことであり、そのことを睨み付けるように何度も確認する。
『こちら、
ルスィエルです。残存機は残っていないようですが、警戒を怠らずに回収ポイントまで向かってください』
「了解」
暗闇に立ち尽くすようにしていたACの中に乗っている彼が答える。
すぐには動かず、虚空を睨み付ける。
こんな場所でこんなことをしている場合だろうか。残された時間は目に見えているというのに、こんな事が必要であるのか。自分である必要はないような良くある依頼であり、ランク相応の難易度であった。
再び自問する。
自分である必要があるのか。
自分でなければならない必要を求めて何が悪いのか。
それとも、これは経緯であり、必要な経緯であるのだろうか。
自身の終わりは見えているが、そこに至までに必要であった経緯だろうか。
だが、根本から言えば。
自身が何の必要があって生み出されたのか。
それを知るために、対峙しなくてはならない相手がいる。だが、その相手にとっては、自身と対峙することに何の必要があるのか。
「……」
何も言わずに、暗く何処までも続きそうな通路を引き返していった。
静寂と暗闇は、何も語らず。
○
『いいこと? 一気に叩くわ』
『どうなっているのよ! まったく、あちらには素敵なオトモダチが一杯居るようね』
『この程度? 最強だなんて自負して情けないアホね』
『キャーなんて叫ぶほど可愛い事はしないわよ』
『そう急ぐわけではないけど、遅すぎるわ。早く片付けて』
エトセトラ、エトセトラ、エトセトラ。
送られた通信記録の中から、ルスィエル・アインベスター嬢の音声だけを抜き出して再度聞き直す。聞き直しているのは
イエローシャークだった。カランと氷が動いた音に気がつき、思い出したようにウィスキーのロックを舐めるように口に付ける。少しだけ水っぽくなっており、グラスを一瞥してまた元の位置に戻す。
「なんともな……。まぁ、小娘と侮るほどではないが」
若くしてランクBの位置にいるが、所詮は機体性能に頼った半端物……と言うミグラント達がいるだろう。腕一本で上り詰めていないミグラントなど、少し手を変えていけば簡単に落とせるだろうと言う者もいるだろう。確かに、経験は確実に不足しているであろうし、金に物を言わせているようにも思える。
が、そういった戦力を整える事、如何にして戦い続けられる環境を保ち続けるかという事、そういった事も重要であるとも考えている。むしろ、戦い続けられる者はそういった者だ。いかにAC操縦の技術が優れていようと、戦う術がなければ何の役にも立たない。どちらかと言えば、その立ち回りが上手いミグラントこそ最も警戒すべき相手であろうか。
金、組織力、思考力。そういったものを含めての実力だろう。
改めて、考えるほどではない。自然と淘汰されて、その結果は現実に現れているだけだ。それが見えない者は大半が淘汰されている。世の中は、態々言葉にする必要がないほど自然と動いて、回っている。
イエローシャークは携帯端末を取り出し、連絡を入れる。相手はすぐに出た。相手は連絡を待っていたのだろう。
「やぁ」
『ああ』
気軽な挨拶に対して、無愛想な返事が返ってくる。底抜けに明るくハイテンションな返事を要求しているわけでもないが。
「これだけだな? 」
『それだけだ。あったものは全部送ってある。何か? 』
「いや、なんでも。もう少し、お嬢ちゃんとお喋りぐらいはしていても良かったな」
『必要はなかった。不必要があれば、間違いなく疑ってくるぐらいには機敏だよ。彼女はね』
イエローシャークとしても、それほど大量に音声を要求しているわけでもない。必要となった経緯を考えれば、彼自身が直接儲かるほどでもない。むしろ、彼への依頼者には随分とサービスしているほどだ。
どこか、なんとなく、紙一重程度ではあるが、不安を抱いているように聞こえた。依頼者に対してのものよりも、ミッションでの対応に問題がなかったかどうかを自問しているようだ。
「今は、もう済んだ事だ。気にする必要はない」
『そうか。……そんなものを何に使うんだ? 』
「説明する必要があるのか。”灰色”君」
すぐに返事は来ない。小さく、呼吸する音が聞こえてから。
『……いやなかったよ。”黄色”』
「では、報酬は振り込んでおくよ。大した額ではないが、小遣いとしては十分だろうね」
『たのむ』
向こうから、
グラウと名乗るミグラントからの通信は途絶えた。とあるミグラントによく似ているという情報を掴んでいるが、どういった理由があるのかは知らない。人は似ていることに意味を見いだし、関連性を考える。その延長線上のことだろうか。
「何に使うか。……偽物を作るためだが、そいつをどう使ってくれるだろうな。彼は」
音声が必要になった理由は、ルスィエルのように喋るシステムボイスを作るためだけだ。
とあるミグラントからの依頼だ。とは言っても、そのミグラントは、自身が依頼したのがイエローシャークであることなど露も知らぬ事であるが。何故そんな依頼を彼が行っているのか。
味方にしても仕方のないミグラントだ。敵にすらなり得ない。それほどまでの矮小なミグラントに手を貸す理由。
それは、それで、使い道があると見いだしたからだ。他者を煽ることを得意とし、ただ、それ以上は何も出来ない。その程度が、生きる場面が存在する。いずれは使えるかも知れない。いずれは使うかも知れない。札を一つだけ増やす程度のことだが、荒らし屋である彼にはそういった札のほうが価値がある。
「ま、片手間程度。手は抜くがね。”イエローシャーク”ほどの傑作にするつもりもないさ」
そう呟き、水っぽくなったグラスを半分ほど空けて、彼は仕事に取りかかる。
自身を真似た偽物。それは、自身を生かすため。
他者を真似た偽物。それは、他者を貶めるため。
本物でもある偽物。それは、何の理由があってのことか。
全てに必要があってのことであるが、理由は決して要らない。不必要だらけだからこそ、必要であることの大事さが際だつ。必要であることを見抜いて選び取れる。
「さて、どんな火種が見えるか」
彼にとっては、全てが仕事上必要であること。それ以上の意味はなく、だからこそ、世の中の火種が消えないように立ち回っていく。仕事を作り出していく。
世は乱れ、腐り、様々な者の陰謀と意志がぶつかりあっている。その中を生き抜いていくミグラントは、サバイバーとして優秀であり続けなければ淘汰されていく。
fin
最終更新:2013年11月18日 22:08