廃墟と化した旧政府軍の物資集積所から、いくつかの黒煙が上がっていた。
アスファルトは経年劣化で罅割れ、金属と言う金属は赤錆びて砂と埃に塗れた集積所に屍骸を晒すのは、ACだ。
細い4本の足のようなものを見る限り、4脚型の軽量級だろう。奇襲やゲリラ戦を得意とするタイプらしく、装甲はそれほど厚くないようだった。
しかし、用途と足の本数意外に分かることと言えばそれだけだ。腰より上は完膚なきまでに破壊され、蜂の巣になり、真っ黒に焼け焦げていた。
それを見て分かるのは、前述した通り、4脚型の軽量級と言うことと、その機体の戦法、そしてパイロットは間違いなく死んでいるだろうと言うことだけだ。
集積所にはまだ幾つか屍骸が転がっていたが、それらもまた似たようなものだ。皆平等に死んでいる。生者など存在しない、屍者の帝国だ。
病的な黒々とした色合いをした空の下、屍者の帝国に1機白いACが佇んでいた。
ACは鳥のような2本の足で直立し、大きく角ばった肩をしていた。胴体は細く尖っていて、頭はセンサーモジュールを前に突き出した異型だった。
ヒト型とはもはや言えないような異形は、ふと動けるということを思い出したように、屍者の帝国を一瞥した。
『―――作戦終了。冷却システム起動。外装一部開放。帰還用航空機を要請』
異形の帝王は幼い少女の声でそう言うと、両肩から誘導弾発射器を生やした。軽く熱せられた鉄の色をしたそれは、大気を焼いた音をたてて陽炎を発し始めた。
機体内部のラジエーターが悲鳴のような音を立てながら熱を放出し、使用済み冷却水が汗の様に機外へ流れ出した。高温の水蒸気が放熱孔から吹き出し、至近にあった死体の肌を爛れさせる。
白い蒸気はACの後方に噴出した。しばらくすると、それもただの水蒸気となって目に見えなくなった。
『機内温度、安全基準にまで下降。冷却システム正常に作動中』
怒気を溜めこんだ腹が覚めてくると、帝王は1機、もはや屍者とも言えない肉塊どもを見渡すように身を捻り、辺りを見回し始めた。
焼けた白い装甲が触れた空気を歪めるせいで、その姿はどこか朧げで、鳥脚の化け物が陽炎と湯気を発しながら獲物を探している姿にも見えた。
一歩進むごとにアスファルトが割れ、地面が震える。帝王は足元の肉塊を踏み潰しながら、何かを探しているようだった。
『―――目標発見。回収します』
やがて帝王が見つけ出したのは、至極一般的な軍用トラックだった。車高が高く、角ばっていて、荷台には幌が被さっていた。
帝王は左手に持っていたEN切れのレーザーライフルを棄て、幌を掴み、思いきりそれを引き千切った。
トラックの荷台にあったのは、1人の少女だ。黄金色の長い髪と、その白い四肢を荷台に広げて、事切れたかのように横たわっていた。
しばし、異形の帝王はその少女をじっと見つめた。徐々に排熱の温度が下がり、機体温度が正常値にまで下がったため、ジェネレーターの駆動音が収まる。
少女の薄い胸は微かに上下し、桜色の小さな唇からは吐息が漏れていた。生地の薄い患者服のようなものを着ているからか、その華奢な身体の線がはっきりとしている。
『帰りましょう、シスター』
帝王は左手でそっと少女を掴むと、幼い少女の声で、しかし、機械音声染みた冷たさを秘めた声で言った。
『―――人形になれば、何も感じなくなりますから』
黒々とした空に、銀色の巨体を震わせながら輸送ヘリがやってきたのは、4分ほど後になってからだった。
《Daughter-Four Mission complete》
《.....everything is ready》
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最終更新:2013年11月23日 15:28