【オーダーミッション】重病患者搬送護衛【No.039】CASE2「そう、アイツはトップスピードに乗ったまま、あの魔のカーヴで★になったんだ。★にな。ほら、空を見てごらん。あの★さ。忘れるんじゃない。決して無謀じゃなくて英断だったってことを、どうか覚えていて欲しい。でも、決して真似してはいけない。これだけは約束して欲しい。」
難易度:D 依頼主:村の医者 作戦領域:山道 敵戦力:野良の武装勢力 作戦目標:目的地への到達、患者の生存 緊急の依頼です。 私の担当していた患者が、この診療所では治療不可能と判明し、イル・シャロムの総合病院へと搬送せねばなりません。
ですが、最短ルートである山道のトンネルはならず者が根城にしている為、無事に通り抜けられるとは思えません。そこで傭兵の方々に用心棒を依頼します。 イル・シャロムに到達するまでの間だけで構いません。
道中では武装勢力との戦闘も避けられないでしょう。 そこで、彼らとの戦闘を想定した報酬額を提示します。
あの子を救う為に手段を選ぶ暇などありません。 力を貸して下さい。 |
暗く、狭く、汚い。
山道に続くトンネルは、そういう場所だった。AC程度の大きさが進むには問題はないが、その中で戦闘をするとなれば、非常に狭かった。
一機の中量二脚型ACが逆間接型MTにライフルとバトルライフルを撃ちながら接近していく。閉所故に回避行動はしづらいが、それでも、左右へとフェイントを織り交ぜながら、ステップを踏むように近づいていく。
逆間接型MTは後ろへと下がりながら、榴弾砲で応戦しているが、両者の距離がほとんど無くなったとき、体当たりのために前へと急発進した。防御型でもないMTの体当たりが、ACにどの程度の打撃を与えるかはともかくとして、虚を付く行動ではあったのだろう。しかし、ACの方が一足早く反応し、小さくジャンプしながら慣れた調子でブーストチャージを決める。脚部のシールドがMTの上部を潰し、MTは反動で仰向けにひっくり返った。足をもがき、姿勢を整えようとするも、ACがさらに銃撃を加えていくと、内部から爆発を起こして、それは静かになった。
ACの方は、確かめるように一別すると、ブースターを起動してさらに前へ、前へと、暗闇の中を進んでいく。
センサーが、新たな機影を捕らえた。
ACであると表示されていた。
♀
集落の入り口には、一台の真っ白に染められた車両が停まっている。車両には、赤色の十字マークが描かれている。本来がどういった意味なのか、村の人間は誰も知らないのだ。それでも、命を守ることを象徴する印に、否、印でしかないものだというのに、それすらも頼もしい。いや、今の自身は無力であり、そんなものにしかすがりつくしかないと言うべきか。
車両の後ろには看護師と患者がいる。看護師は逐一状況をモニタリングしている。その様子は懸命であり、職務を全うしているといえる。だが、できるのは励ますことと苦痛を和らげる程度の処置だけだ。
あの幼い患者を救うには設備と医薬品が必要だ。だが、それらはこのような小さな山村にはない。あるのは、第九領域最大の都市であるイル・シャロムの総合病院だけだ。幾つかの伝を頼って治療したいと依頼はしている。返ってきた答えは、まずは連れてくることとそっけなく事務的なものだった。だから、連れて行くだけで治療してもらえるかどうかまでは確約できていない。だが、それでも、この山村にいるだけでは、ただ死を待つだけとなる。
「はやく……」
奥歯をギュッと噛みしめる。自分の身体を抱くように腕を組んでいるが、人差し指は苛立ちげに腕をトントンと叩く。待っているのはミグラントだ。一刻も早くにイル・シャロムに行かなければならないのだが、行くまでにはならず者が根城にしているトンネルを通らなければならない。こんな車だけで行くのは不可能だ。村中に頭を下げて、なけなしの金をかき集めてOVAへと依頼し、すぐさまに受諾はされた。だが、未だにその受諾した傭兵はこない。常識的に考えれば、緊急依頼でもそう早く来ることはないのだが、焦りから苛立ちを抑えることが出来なかった。
否、苛立っているのは傭兵が来ないからではない、こうなるなら、何故もっと早くにイル・シャロムへと行かなかったのかという自身の判断の甘さに苛立っているのだ。例え、小さな山村だとしても、近隣とは交流があり、設備もそれなりには整っている、なによりも自分の腕に自信はある。だが、結果としてそれだけではただ待つことしか出来なくなっていた。
空は暗雲が立ち込み始めてきた。先行きの不安が感じられる。
だが、そのとき、山肌に反響するように重低音が聞こえてくる。山道の先から、姿が見えてきた。
それは真っ白に塗装されたACであり、荒れた山道を通ってくる。ブースターから炎が吹き出し、時にはハイブースターにより大きく跳躍していく。そして、その機体は集落の入り口付近で立ち止まった。ブースターの噴出を切り、ゆっくりと歩いて彼らの車両のもとで立ち止ってしゃがみ込む。機体には彼らの車両と同じく、赤い十字のマークが見える。どういった訳かは知らないが、奇妙な偶然もあるものだと感心する。
しゃがみ込んだACのヘッドパーツが後退するようにスライドし、コックピットから何か荷物を持ったパイロットが降りてくる。こちらとしては、細かな打ち合わせは移動しながら済ませてしまいたいところだ、一々降りてくるような律儀さは不要である。
「急いでいます。すぐにでましょう」
「容態は? 」
そのミグラントは見たところ、30代といったところの男性だ。黒髪に黒目だが、肌はやけに白い。無表情を崩さずにいるところから、やや冷たい人物であるような印象を受ける。ミグラントと言うにはもう少し厳ついイメージがあるのだが、そのミグラントは一日中部屋の中で研究でもしていそうな雰囲気だ。だが、出身不明の雑多な職でもあるので、こういった人間もいるのだろう。
「今は落ち着いています。ですから、すぐに出ましょう」
「必要は無い」
車の運転席に乗り込もうとした女医を静かに止める。ミグラントは手に持った白衣をまとった。パイロットスーツの上に白衣という、なんともミスマッチな格好のできあがりだ。
「私は医師だ」
「……ミグラントでは? 」
「ミグラントでもあり、医師だ」
「……それはわかりました。私も医師です。ですが、ここには設備が」
「もってきた」
と鞄を掲げながら、ACのコックピットを親指で差ししめす。鞄とコックピットのスペースに置いてあると言うことだろう。
「……はい? 」
女医は眉をひそめる。自分は確か、イル・シャロムに行くためにミグラントを呼んだはずだ。だが、やってきたミグラントは白衣を着込んで自称医師と名乗っており、さらには機材があると宣う。
「診療所は何処だ? すぐに処置を始めたい」
「……ちょっとまってください。待ってください」
「何かね? 」
「あなたはミグラントですね」
「イエス」
「そして、医師でもある」
「イエス」
「さらに機材をもってきたと? 」
「イエス。先ほどから説明しているが、なにか問題でも? 」
女医は、口元を隠して考え込む。問題だらけである。いや、幸運であるのだが、上手くいきすぎているようにしか思えない。医師でもある人物がミグラントを行っているのは良しとしよう。居てはいけない道理はない。だが、そんな人物が緊急依頼をうけてやってくる。ここまでも、幸運で片付けられるだろう。だが、必要な機材まで持ってきたとなると、話がうますぎるとしか思えない。
人は不幸も幸運も許容できる範囲にリミットがあるという。つまりは、目の前の男の存在がリミットを超えていたということだ。興奮すればいいのか、落ち着けばいいのか、脳が混乱しているのだろうか。
「ともかく、急ぎなのだろう? 処置を」
「え、ええ。そうね」
そして、二人の医師と看護師と患者は診療所へと向かっていった。
♀
『確かそんなドラマでしたかね。このあたりの地形に見覚えがあると思っていたのですけど、そのドラマで見たみたいです。いや、気になってしょうがなかったんですよ。良かった、これで今夜はぐっすり眠れます』
「そうっすか」
上官の他愛ない世間話に、茶を濁すように返事を返した。
交戦はどうやら一休みとなったようである。バンガード支配領域からは少しだけ出ているエリア故に、他の勢力からの奇襲を考えれば、緊張感を保っておきたい。年下の上官の、やけに脳天気な態度に、少しだけ苛立ちを覚える。軍人になったのに、いつまでガキのままでいるのかと思うが、反面、時折に打算的な行動を目にすることもあり、大人ぶっているガキなのか、それとも彼が思っている以上に大人であり、ガキのような一面を見せているだけなのかはわからない。そして、ある一線を決して他人に越えさせないところもある。それが何なのかは、はっきりとわからないが、要は巧みに他人に間合いをとり続けているのだろう。
『ここで、今夜は寝かさないぜって言ったら格好良くありません? アルフ君。せっかくのチャンスだったのに』
「俺に、一体、何を期待しているんですかね? 」
『ふふふ。なんでしょうかね? でも、チャンスを逃すと出世できませんよ』
「そのあたりは、もう、結構早い段階であきらめてます。俺、除隊しかけたんですから」
彼は、ため息をつきながらも、トンネルを進んでいた。先ほどまで、何機かのMTと車両を破壊し、ACと交戦になるかと思ったが、そのACはショットガンを放ちながら、トンネル内でスモークを発生させてトンネルの奥へと消えていった。この閉所空間で下手に接近することもままならずに、逃がしてしまった。暗闇の上に、さらに煙となれば追いかけるのは至難の業だ。
トンネルの中では、警戒用センサーのアラームが鳴り響いて、さらに奥から重低音が反響してくる。トンネル内に照明設備はあるが、電力が来ていないのか、それとも設備自体が壊れているのか真っ暗だが、重低音と共にほのかな光が移動してくる。一機のACが立ち止まる。ACは、バンガード標準機のストライカーとパーツ構成に共通点はあるが、バンガードカラーではなく、鈍い鉛色である。そのACは立ち止まり、足下を一瞥していく。何かに使っただろう小さな機材と木箱が転がり、ドラム缶からは熱反応が見て取れる。先ほどまで、ドラム缶の中で火を起こし、暖房にでもしていたのだろうか。
「誰もいねーな。物家の殻です。中尉、こちらに残勢力の確認できません。やっぱり、全部すたこらトンズラしたみたいです。多分、隠された横道なんて無いと思いますけど」
『了解です。僕も入り口に向かってますから、そのまま進んで合流しましょう。トラップだけは気をつけてくださいねアルフ君』
「へい、了解ッス」
アルフレッド・バーンズが年下の上官である
イョルン・アンダーセンからの指令を受け、愛機のデュアリスのブースターを吹かす。愛機であり自分にあったチェーンをしているが、あくまでも軍の所有物だ。幾ら愛着を持って、何枚かの写真をコックピットに飾り、緊急物資の中に、こっそりとポケットウィスキーの一本程度を忍ばせていたとしても、軍の所有物である。
軍属なのだから、当然である。傭兵のように個人で所有するのも、なにか一種の憧れめいたものを感じることもあるが、大抵の傭兵の機体は一先ずは動くようにだけして、あとは腕と勘と運で戦っていくらしい。自分自身は、それなりに腕は立つと思うし、勘にも頼れる程度には長く戦場にいるつもりだが。
「運はいいほうじゃねぇよな」
ぼやくように呟き、ブースターのスピードを少しゆるめて、リコンを射出する。入り口近くなので、念のために警戒を強める。
『何かいいました? 』
「あ、いや、なんでもねぇっス」
うっかり通信のスイッチが入ったままであったことを確認し、ため息代わりに深呼吸をする。前にいた部隊で、あまりにも糞野郎な上官をぶん殴ろうとして除隊処分になりかけた。今思えば、後悔はないが、馬鹿なことをしたと思う。
そんな自分を拾ってくれたのもイョルン中尉だ。が、その後は年下の上官にこき使われる日々である。女性のオペレーター達が、女王様と下僕とコソコソ噂していると聞いてからは、さらにげんなりすることが多い。恐らく、自分の幸運は、除隊を逃れた事で大きく消費されているのではないかと思う。その後の境遇を考えると合点がいくほどに。
そんな運で、果たしてミグラントとしてやっていける気がしない。正真正銘の愛機を持ったとしても、毎日のようにつまらない廃品回収する日々が思い描かれ、矢張り、どう転んでも、自分は今の境遇がベターなのだろうと思える。
「合流っと」
警戒しながらトンネルを抜けると、別に雪国というわけではない。抜けたところで、大きく曲がったカーヴになっており、やや荒れたアスファルトが続く。荒れた山肌が片側に続き、もう片側は川が流れる渓谷になっている。山肌にに木々はまばらに生えているがどれも細く、雑草ばかりで覆われている。トンネルを抜けた先に、イョルン中尉の搭乗するエスメラルダだった。左腕部に真新しい弾痕があるが、装甲だけを傷つけただけで、内部機構にまでは問題ないと聞いている。
彼らの作戦の経緯は、こうだ。アルフレッド・バーンズが片方のトンネルから進入し、イョルン・アンダーセンが反対側の入り口付近で待ち伏せをしていた。スナイパーライフル、レーザーライフル、ASミサイルのメインウェポンが十分に生かせるポジションをとっていた。アルフレッド・バーンズが交戦を始めると、武装勢力は応戦しながらも逃げ出し始め、イョルンがいる側へと出てきた。イョルンも何機ものホバー車両と逆間接型MTを撃破したのだが、突如としてトンネルから煙幕が吹き出し、何かが煙をまといながら猛スピードで出てきた。はっきりと見えなかったが、確か、右肩に黄色でスマイルマークが描かれ、コアには赤い★があり、ヘッドパーツは骸骨とも、マスクでも被っているかのようなデザインがされた四脚型ACだったそうだ。
そのACはあろうことか、トンネルを抜けて、スピードを緩めることもなく、そのまままっすぐに川へと飛び出して、そのまま大きな水しぶきを上げていった。浮かんでくる様子もなく、かといって、こちらもうかつに飛び込むわけにもいかず、そのままトンネル前で待機となった。とても無事で済むとは思えないが、あのACパイロットはどうなったのだろうか。あのまま下流へと流れていったのだろうか。
アルフレッドは、幾分か前にそれを聞いて耳を疑った。疑ったが、その前に、何故トンネルという二方向から攻め込まれたら逃げ場のない場所を根城にしていたのか、それのほうがさらに疑問だ。接近戦に強いとはいえ、タンクでもこられたらたまったものでは無かったはずだ。最も、タンクがあの閉所空間でキャノンを撃てば、トンネルごと崩壊してもおかしくないが。
とはいえ、今はこれ以上どうしようもないだろう。戻って、報告書を書いて終わりだ。逃げたACは、データーベースに載っているかもしれないので、確認だけしておけばいいだろう。少しだけ休暇をもらって、また出撃して、年下の上官にこき使われて、安月給を嘆き、安酒で慰めるだけだ。ただ、要らぬ噂だけはどうにかならないものだろうか。そもそも、独立機動部隊自体がそれぞれの部隊で動くために、まとまりがないのに、何故一般部隊の人間が噂しているのかも謎に……、ここで、彼はあることを確信する。今はもう居ないが、かつて独立機動部隊に所属していた大馬鹿野郎の顔がちらつく。
あれではないだろうか、あれが噂をあることないことを広めていたのではないかと、それを思い起こしている彼に、上官からの声が届いた。
『遅いですよアルフ君』
「すみません。待ちましたか? 」
『いいえ全然、僕も今来たところです♪』
何故かイョルンからの通信の声は、軽やかで十代特有の雰囲気が全面に醸し出されている。健全な若い男女が小綺麗な噴水の前で待ち合わせしているような時にする風の台詞である。間違っても、ここは小綺麗な噴水の前ではなく、何十年と前に作られて、まともな整備もされていない山道であり、出くわしたのは若い男女ではなく、若い♂と♂である。
「……なんですかそれ? 」
『彼氏を待って、待っているときすらも楽しくて幸せな気持ちでしょうか』
「ほんとやめてください中尉! 前に、オペレータの娘と少し雑談しているときに、でも、あなたには中尉がいるからとか変な誤解されたんですよ! 」
その後必死に誤解を解いて、わかったと言われたが、私は同性愛者だからって偏見はないからねと続き、何一つ伝わっていなかったことに愕然としている。傍目のイメージが、自身の持つ説明力の範疇を超えているほどまでとは思っていなかったし、さらに言えば、何故か既成事実が積み上がっているらしい。
『あはは。困りましたね』
「絶対に、困ってないですよね!? 楽しんでますよね!? つーか、噂を広めたのあの馬鹿野郎じゃないかって疑い出しましたけどね! 」
『臭わせるような事を言って、彼は臭わせるような噂を彼方此方にしてましたね』
「知っていたんですか!? つーか、あんたが犯人か!? 」
『アルフ君。上官に向かって、あんたってどういうことですかね? 』
「いや、その、すみません」
『あははは。気にしませんよ。僕とアルフ君の仲じゃないですか』
「いえ、ですから、疑われるような仲じゃないでしょうが! 」
脳天気そうな笑い声に、アルフレッドはムキになりながら叫ぶ。独立機動部隊の中には男女の隊員でチームを組んでいるものもいる。あるチームでは、身体も言動にも一切無駄のない一種のロボットのように思える正義感の強い男性隊員と、それ以上に無駄をそぎ落とし過ぎて出来損ないのロボットのような女性隊員がいるが、両者共にあまりの色気のない言動から噂一つとして立っていない。男女のチームで噂が無いのに、何故、男同士のチームで要らぬ噂が立てられるのか、あまりにも理不尽である。
『それはともかく、戻って報告しましょう。山道は侵攻ルートとして問題なしでしょう。偵察ミッション成功です。殲滅ミッションだったら、始末書でしたかね』
「……そうっすね。ったく、こんな仕事にAC部隊を使わなくても」
『ACと知っただけで逃げ出す程度のようでしたが、武装勢力がいたのですから仕方ありません』
「……そうっすね」
アルフレッドは、いじけたように返事する。
何故、こう、自分には鮮やかな色気話が何も転がってこないのだろうかと。
矢張り、幸運かどうかも判別できない事象に無駄に運が削られているのではないかと。
♀
「本当に、行くんですか? 夜が明けてからでも」
「用事がありますので。出ます、ええ」
女医からの質問に、スミルノフがコックピットから伸びるワイヤーを掴みながら頷いた。
「あの様子なら問題はないでしょう」
「それはそうですけど。あの、本当に、報酬も」
「報酬は戦闘を想定したはずのものですからね。受け取るわけにはいきません」
「ですけど」
「契約は契約です。契約を守らなければ、こちらもミグラントとして信頼されませんから。では」
ワイヤーが引っ張られ、コックピットへと登っていく。
「なんで、こんなによくしてくれるんですか!? 」
女医は思わず両手をメガホン代わりにして頭上のスミルノフに問いかける。
「私は、トラブルに巻き込まれやすく、流れやすく、気がつけばミグラントをしています。理由を説明すると長くなるのですが、要約すると全ては愛のためです」
女医の頭に『?』がポンと浮かぶ。それは説明のつもりだろうか? ?が浮かんだまま、浮かんだまま山道を進んでいく真っ白なACを見送った。
全く、何の説明にもなっていないので、やはり村長の言うとおり、ミグラントはどこかおかしく、最低でも頭のネジが一本は飛んでいるらしい。平均は二、三本は飛んでいるらしい。もっと酷いと、ネジどころか、ネジ穴が見あたらないという。
最悪の状況を救ってくれたミグラントには感謝するが、ときめきはない。女医は非常に現実派なのである。もし例え、来たのが彼ではなく、ACどころかトレーラーがやってきて、イル・シャロムまで送り届けてくれたとしても、
「ま、いっか。今日は良い日なんだ」
そうやって、今までの全ての緊張感と疲労を吹き飛ばすように両手で大きく伸びをする。
小さな山村で起きた小さな奇跡。
ただ、それだけのことだ。
♀
「ドラマは、こんな終わり方でした」
「そうっすか」
「ちなみに、患者は猫というオチでした。いやぁ、女の子が患者みたいな感じだったんですけど、本当は飼い主でして」
「どういうことで? 」
「猫好きの監督が担当した回だったみたいですよ。
カウ・エフ曹長が好きな監督みたいです」
「それは、監督が好きなんじゃなくて、猫が好きなんですよ」
「そうかもしれないにゃん」
「……」
「どうしたにゃん? 」
「やめろ。やめてくれ。やめてください。やめて頂けないですか。色々とやめてください。俺の心臓が死ぬ前にやめてください! 」
第一独立機動部隊の二人の帰路での出来事。
戦後報告一覧
Vanguard |
PILOT NAME |
CALL SIGN |
UNIT |
PROFILE |
イョルン・アンダーセン |
- |
AC(Revese joint-H) |
第一独立機動部隊の隊長。イル・シャロムに戻るまで語尾がにゃんになった。偵察任務を遂行中、武装勢力と遭遇戦。殲滅には至らず。 |
アルフレッド・バーンズ |
- |
AC(2Legs-M) |
第一独立機動部隊所属。イル・シャロムに戻るまで、上官の悪ふざけにつきあわされる。偵察任務を遂行中、武装勢力と遭遇戦。殲滅には至らず。 |
Varyag Gangs |
PILOT NAME |
CALL SIGN |
UNIT |
PROFILE |
ヴァリャーグ |
- |
AC(4Legs) |
ヴァリャーグ一味の頭領。輸送部隊狙いでトンネルで待ち伏せをしていたが、バンガードのAC部隊との遭遇し、撤退した。なお、自身が使った煙幕による視界不良で、トンネルを抜けたところでうっかり川に飛び込む羽目になった。後日、ゼラノ近郊で目撃報告有。 |
fin.
最終更新:2014年01月03日 02:06