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据え膳食わぬはオトメの恥 - (2008/01/24 (木) 17:00:49) の1つ前との変更点

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「ただいまー」  買い物から帰ってきたつかさが玄関を開けると、そこには家族の物とは違う、 見慣れない──けれども、どこかで見た覚えのあるような──靴が一足あった。 「誰か来ているのかな?」  自分の部屋に戻ろうとすると、居間にいた上の姉から声がかかる。 「おかえり、つかさ。こなたちゃん、来てるよ」 「あ、こなちゃんかー」  どおりで、見た覚えがあるはずだ。 「たぶんかがみの部屋にいるからー」 「うん、ありがとー」  階段を上って、二人のところに行こう、としたところで、つかさはちょっとしたイタズラを思いついた。 (そおっと部屋に近づいて、いきなりドアを開けたら、二人ともビックリするかなぁ)  二人の驚いた顔を想像すると、それはとても楽しそうに思えた。  普通に歩くとギシギシと鳴る古い階段を、音をさせないように静かに進んでいく。  抜き足、差し足、忍び足。抜き足、差し足、忍び足。  いつもの倍以上の時間をかけて、階段を上りきると、つかさはかがみの部屋の入り口に近づいていく。  そっとドアノブに手を伸ばしたとき、部屋の中から声が聞こえた。 『あっ』  こなたの声だった。  ただ驚いたような声とは違う様子だった。少し鼻にかかった、切なげで、 そして、甘さを含んだ──吐息。 『ご、ごめん、痛かった?』  続いて聞こえてくる、双子の姉──かがみの声。 『うん、ちょっと……』 『悪い。わたし、こういうの初めてだから……』 『いいよ、続けて……』  部屋の中からの声がとぎれる。つかさが耳をそばだてると、『あぁ……』という、こなたの 抑えきれずに漏れだした声がかすかに聞こえた。 『どう? こなた?』 『うん、きもちイイよ、かがみん。もっと……奥まで入れて』 (ど、どんだけ~)  さすがにこの空気の中に入っていくことはできず、つかさは来たときと同じように足音を殺して自分の部屋に戻った。 「まったく……」  かがみは、こなたを見下ろしてため息を吐いた。  こなたは、正座したかがみの太ももの上に頭を乗せて、横になっていた。いわゆる 膝枕、という奴だ。 「高校生にもなって、自分で耳かきできないってのは、どうよ?」 「いや~、だって、自分で見えないのに、入れるのって怖くない? もし、勢いあまって 大事な膜を破っちゃったらどうしよう、って」 「いちいち変な言い方するな。鼓膜と言え、鼓膜と。だいたい、今まではどうしてたのよ?」 「ん? おとうさんにやってもらってるけど?」  かがみは、こなたの父親がこなたに膝枕をして、耳かきをしているシーンを想像してみた。  ……仲睦まじいはずのシーンなのだが、妙にムカツクのは何故だろう。 「あんたね……高校生にもなって、それは無いんじゃない?」  再び、盛大なため息とともにかがみが呟く。 「でもね、膝枕って安心できるんだよ、ほんと。あったかくて、柔らかくって。それが 好きな人のならなおさら」 「えっ、ちょっと……」  かがみの顔がみるみるうちに赤く染まっていく。 「ほ、ほら、もう耳掃除終わったんだから。どきなさいよ」  こなたは、そんなかがみの言葉には耳を貸さず、かがみの膝の上で体をひねって 真上を向いた。真下から見上げるかがみの顔が、こなたには新鮮に感じられた。 「ん~、もうちょっと、このまま~」   「ったく、しょうがないわね……」  かがみは三たびため息を吐くと、そう言いながらこなたの髪に指を差し入れて ゆっくりと梳き始めた。  指の間を、こなたの長い髪がすり抜けていく感触が心地よい。こなたの髪の毛は太くて 硬くて、お世辞にもサラサラヘアーとは言いがたいのだけど、それがかえって 心地よさとなってかがみの指と手のひらを刺激していた。  こなたも、満足げな様子で目を閉じて微笑んでいる。 「つかさが、うらやましいな」  小さな声で、こなたが呟いた。 「なんで?」 「だって、かがみんにいっつもこうしてもらってるんでしょ?」 「ば、ばかっ。そんなことしてないわよ。そりゃ、小さい頃はお互いに髪を梳かしてたりしてたけど……」 「だからさ、そういうのが……でも、ま、いっか。今はかがみんがこうしてくれてるんだし」  こなたが口を閉じると、再び、部屋に静寂が戻る。聞こえてくるのは、指の間を髪の毛が 通り抜けるかすかな音と、お互いの呼吸だけ。ほんの小さな出来事で壊れてしまいそうな時間。    こんな時間がずっと続けばいいのに──。  しばらくして、こなたが再び口を開いた。 「なんか、眠くなってきちゃったな……」 「ま~た、どうせ夜中じゅう、ネトゲでもしてたんでしょ。……いいわよ、寝ちゃっても」 「ん~、でも、このまま寝ちゃうと、かがみんに変なことされそうだしな~」 「変なことって、何よ?」  自分が信用されていないことにちょっと傷つきながらも、かがみは続きを促した。 「キスとか」 「するかっ!」  かがみは、こなたの肩の下に両手を入れると、そのままこなたの上体を起こした。 「はい、もう終わり。そろそろ外も暗くなってきたし。帰らなくちゃヤバイんじゃないの?」 「そか、もうそんな時間か……そうだね」  こなたは立ち上がると、持ってきたカバンを手にとって、かがみの部屋のドアを開けた。 「駅まで送っていこうか?」  かがみの提案を、こなたは首を横に振って辞退した。そして一言だけ呟くと、ドアを閉めて 静かに階段を下りていった。 「かがみの、ヘタレ」 - fin - **コメントフォーム #comment(below,size=50,nsize=20,vsize=3)

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