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こなちゃんは、お姉ちゃんをからかう。 お姉ちゃんは、むきになる。 ゆきちゃんと私は笑ってて、お姉ちゃんも顔を真っ赤にして怒った顔してるけれど、本当は笑ってて。 でも、こなちゃんは、笑ってるけれど、時々泣いていた。 +境界線+ 笑ってるのに、泣いているかも、なんてヘンな言葉だよね。 ううん、こなちゃんがウソ笑いしてるって意味じゃないんだ。 こなちゃんが笑うときは、いつも本当に楽しくて笑ってる。 こなちゃんがウソついてないこと、友達だからわかるよ。 でもね、それでもね。 こなちゃんが笑ってるのに、泣いている気がする時があるんだ。 でもだからって、涙出してるわけじゃなくって………やっぱりヘンだね。 そんなことを思うようになったのはいつかな? まだ二年生のときかな? うん、そうだね。 雪が降ってたもん。 最後に雪が降った日。覚えてる。 でも最初に「あれ?」って思ったのは、それより少し前で。 いつだったかな? あれは…。 教室の中で、ストーブの匂いがしてて…。 多分、二年生の三学期の真ん中くらいの頃。 いつもの四人で、机を合わせてお昼ご飯を食べてたよね。 本当にいつも通りだったはずなのに、何が違うって思ったんだろう。 その時の話の内容は思い出せない。 けれどお姉ちゃんとゆきちゃんと私が笑ってて。 それにこなちゃんが遅れて笑った。 その時に「あれ?」って思ったんだ。 何が?って言われると難しいんだけれど…。 違和感っていうのかな? うまく言えないんだけれど、そんな感じ。 うまく言えないんだけれど……。 ゆきちゃんみたいに頭がよかったら、言葉にできたのかなあ。 そう思って、ゆきちゃんに相談してみたことがある。 「こなちゃんって何かヘンになっちゃってない?」 「ヘンですか?」 こなちゃんが“ヘン”になってから、何日かした後のこと。 放課後、こなちゃんが日直で教務室に日誌を出しに行った時に、こっそりゆきちゃんに聞いてみた。 でもゆきちゃんは困った顔して、「わかんない」っていう風に首を傾げた。 「特別、そうは感じてませんけれど……どういった風にヘンでしょうか?」 「うーん、私もわかんないんだけれど…」 わかんないことは、説明できないよね。 だから結局二人で首をかしげちゃった。 しばらくして、ゆきちゃんは思いついたようにお姉ちゃんの名前を口にした。 「かがみさんにも聞いてみるのは如何でしょうか? 泉さんととても仲良くしてらっしゃいますし」 「うーん、私もそう思って、お姉ちゃんにはもう聞いてみたの」 だけどお姉ちゃんったら、ほとんどこっちも見ないで「こなたがヘンなのはいつものことでしょ」だって。 そう言ったら、ゆきちゃんは笑った。 でも聞いたタイミングも悪かったかも。 その時お姉ちゃん、お弁当作りしてたから。 お料理をしている時のお姉ちゃんは、ちょっと怖い。 難しそうな顔をして、ウーンって唸りながら、フライパンを睨んでたりする。 でも、だけど、それは怒ってるわけじゃないんだよね。 お姉ちゃんは料理があんまり得意じゃないから、卵焼くのも一生懸命なだけなんだ。 それをゆきちゃんに伝えたら、ゆきちゃんはふんわり笑ってくれた。 ゆきちゃんの笑顔ってすごく好き。 だってこっちまでふわふわになるんだもん。 ………えっと何の話だっけ? そうそう、こなちゃんがヘンだっていう話。 ゆきちゃんと話した後は、やっぱり気のせいかなって、ずっと思ってたんだけれど。 でもやっぱり、気のせいじゃなかったんだよ。 二年生の終わりの、日曜日。 その年の最後の雪が降った日。 その週の木曜日に、こなちゃんが「期末テストも終わったし、パーッと遊びに行こうよ!」といつものように元気に言った。 「おー、いいわねー」 「いいですね」 「賛成賛成~」 それで私たち四人は、日曜日に一緒に遊びに出かけることになった。 じゃあ何をしようかって?って話になって。 「映画観にいかない?」と、お姉ちゃんが言い出した。 お姉ちゃんは本や映画を観るのが結構好きだ。 それからアニメや漫画も結構好きなんだけれど、それを言うと何故か怒る。 ゆきちゃんが「映画、いいですね。久しく見ていませんし」と言った。 それにこなちゃんが頷いた。 普段は四人の中で一番静かにしているけれど、実はゆきちゃんがウンって言うと、大体それに決まるんだよね。 こなちゃんがくるっと私の方に向き直って、「つかさも、いい? 映画で?」と確認してきた。 私は頷いた。 「うん、行こう行こう」 怖いのは厭だけれど、と心の中で付け足して。 次の日曜日、私たちは太宮駅に集まった。 待ち合わせ場所にはゆきちゃんは一番最初に来ていて、その次に私とお姉ちゃんが来て、最後にこなちゃんが来た。 いつものことだよね。 「遅い!」 遅刻してきたこなちゃんに、お姉ちゃんは腰に手を当てて、眉を逆ハの字にした。 息を切らせたこなちゃんは私たちの目の前に立つと両手を合わせた。 「ごめん!」 こなちゃんの態度に私とお姉ちゃんは少しだけ驚いた。 こなちゃんが真正面から謝るのってちょっと珍しいんだよね。遅刻はいつものことだけれど。 でもお姉ちゃんは、すぐにきっちり訳を訊く姿勢になった。 「今日はどうしたのよ? またネトゲやってたとか言ったら、その頭のアホ毛抜くわよ」 「いやいや、今回はそんなんじゃないヨ」 手を伸ばしたお姉ちゃんから、クセ毛をガードしながらこなちゃんが言った。 「じゃあ何よ」 お姉ちゃんがさらに突っ込むと、こなちゃんは少し考えてからゴニョゴニョと言った。 「その……寝癖が直らなくてネ」 「ハア?」 私たちは首を傾げてしまった。 寝癖、って言うなら、いつも頭に立ってるそれもそうだよね? それは相変わらず直ってないんだけれど…。 ゆきちゃんが控えめな声で「泉さんはそういうの気にしてらっしゃらないかと思いましたけれど」と言った。 「うん、頭のはね、どうしても立っちゃうから、もう諦めてるんだけれど、耳の後ろの…」 とこなちゃんは後ろ頭のあたりを指した。 「この辺がなんか、今日はもーすごくって」 確かに言われて見ると、いつもよりそこがツンツンしてる。 私たちはこなちゃんの耳の後ろを覗き込んだ。 私とゆきちゃんが納得していると、お姉ちゃんは溜息を吐いた。 「立ってたって、いつもと大して変わらないじゃない」 「ヒドッ」 お姉ちゃんの言葉に、こなちゃんが大きく仰け反った。 あれれ? ケンカかな? フォローしなくっちゃ。 「えっと、お姉ちゃんは『こなちゃんはどんな髪型でも可愛いよ』って言いたいんだよね?」 「ハアッ!?」 私がそう言うと、今度はお姉ちゃんが仰け反った。 「何でそうなるのよ!」 お姉ちゃんが驚いたように言う。 あれれ? 何か間違えちゃったかな? でも反対にこなちゃんは上機嫌になったみたいで、顎を指で擦りながらお姉ちゃんに言う。 「ふむふむ、かがみん、ツンデレだったわけかね。も~素直に言ってくれればいいのに…」 「違うわっ!」 お姉ちゃんが叫ぶ。 ええっ? 違うの? 「お姉ちゃん、こなちゃんのこと、可愛くないの?」 「へっ?」 思わず私が言うと、お姉ちゃんは目を丸くした。 私は続けた。 「私はこなちゃん、すごく可愛いと思うよ。ねっ、ゆきちゃんもそう思うよね?」 「ええ、泉さんはとても可愛らしいです」 ゆきちゃんがふんわり頷くと、お姉ちゃんは口をぱくぱくさせた。 「ち、違…、そういう話じゃなくって」 また違うの? 「じゃあ、こなちゃん、可愛い?」 「え? あー、えー、あー……………………うん」 何故かお姉ちゃんは真っ赤になって、変な声を出して、最後にすごく小さな声で頷いた。 こなちゃんとゆきちゃん見ると、一緒になってくすくす笑ってる。 「ありがとー、かがみん。かがみんもとっても可愛いヨ!」 「う、うるさい! ほら、映画、始まっちゃうわよ!」 手を振るこなちゃんにプイッとそっぽを向いて、お姉ちゃんは歩き出した。 私たちも笑ってその後に続く。 ふと、こなちゃんが立ち止まっていたので、肩越しに振り返ってみた。 こなちゃんはお店のショーウインドウに写った自分の姿を見て、髪を直していた。 その頬は、ちょっとだけ赤くって。 その時に、またあの「あれ?」っていうのを感じたんだけれど。 お姉ちゃんが「置いてくぞー」って呼んだから、私もこなちゃんも駆け出した。 映画館の前に来ると、私たちは多数決で今やっている映画の中からみんなで観るものを選んだ。 そして二対一対一で、洋画のラブストーリーを観ることに決まった。 内訳は、ゆきちゃんと私がラブストーリーで、お姉ちゃんはサスペンス映画で、こなちゃんが特撮映画だった。 お姉ちゃんの第二希望はラブストーリーだったらしく、違うのに決まっても笑顔のまま「この映画、雑誌で結構評判いいのよね」と言った。 特撮映画のポスターを見ながら、こなちゃんだけが口を尖らせていたけれど。 お姉ちゃんが「協調性よ、協調性」と言って、こなちゃんの頭をぽんぽん叩いていた。 私たちは笑いながらチケットを買って、お菓子やジュースを両手いっぱいに抱えて映画館の中に入った。 映画はすごくよかった。 気の強いキャリアウーマンのヒロインと、ちょっとだらしがない小説家の男の人が主人公で。 その二人がだんだんと距離を縮めていく話だった。 最初ヒロインと主人公の仲が悪くって、ハラハラしながら観ていたんだけれど。 最後にはすっごく仲良しになって、すごい感動しちゃった。 冬のニューヨークが舞台で、映画の中では何度も雪が降っていた。 映画館を出ると、私たちは喫茶店に入って、さっそく今見た映画の感想を言い合った。 「いい映画でしたね」 「うんうんっ。ねっ、お姉ちゃん」 「まあねー。しかし女四人でラブストーリー観るのも、難だったかもしれないな」 「そんなこと言ってかがみん、最後うるんでたじゃん」 「なっ!?」 ししし、と歯を鳴らすようにこなちゃんが笑った。 場所は違うけれど、私たちの間に流れる空気は、いつもの教室と同じだった。 違うのは私たちの前に湯気の立つ飲み物があること。 ゆきちゃんはホットのアールグレイで、お姉ちゃんはキャラメルマキアート。 こなちゃんと私はミルクティーだった。 ここの店のミルクティーはミルクがホイップされててふわふわしてて美味しいから、ひそかにお気に入りなんだよね。 「あんたとこなた、ここに来ると必ずミルクティー頼むわよね」 斜め前のお姉ちゃんが頬杖をつきながら言った。 ちなみに席はボックス席で、ゆきちゃんとお姉ちゃん、私とこなちゃんに分かれて座っている。 「うん、ここのミルクティー、美味しいんだよ。ねっ、こなちゃん」 こなちゃんはちょうどこくこくとミルクティーを飲んでいた。 手が小さいからカップを両手で持ってて、何だか小さい子猫がミルクを飲んでるみたいな感じ。 カップを降ろすと、ミルクのヒゲが出来ていて、私たちは思わず吹き出した。 「ふぉ? 何?」 「ほら、あんた、ヒゲついてるのよ」 言いながらペーパーナプキンを引っ張ってきて、机から身を乗り出して、こなちゃんの口の周りをごしごし吹いた。 「むーっ」 こなちゃんはされるがままになっている。 「お姉ちゃん、お母さんみたいだね」 そう言うと、お姉ちゃんは棒でも飲み込んだような顔をした。 「ちょっと『お母さん』はないでしょ。……年的に」 そうかな? なんだか『お母さん猫』みたいだなって思ったんだけれど。 ゆきちゃんがふんわりと言う。 「そうですね、かがみさんでしたら、やはり『お姉さん』の方がお似合いかと思います」 そしてお姉ちゃんの方を見てニッコリ笑った。 「かがみさんは本当の『お姉さん』ですしね」 ゆきちゃんに、お姉ちゃんは少しだけ表情を緩める。 そっか、お姉ちゃんは、『お姉ちゃん』だもんね。 そこに、こなちゃんがそれこそ猫みたいな口になってニマッと笑った。 「つまりかがみは、『お姉さま』と呼ばれることをご所望か?」 「は!?」 「むっふっふ。ならば私もやぶさかではない。言うよ言っちゃうよ? セイ!かがみお姉さまぁ!」 「お前はちょっと黙ってろ! ていうか『お姉さま』じゃねー!」 「あ、でもお姉ちゃんがこなちゃんのお姉ちゃんになるってことは、私とこなちゃんは姉妹になっちゃうね」 「手間のかかる妹はひとりで十分よ」 お姉ちゃんは頬杖をついて、キャラメルマキアートに口をつけた。 私たちは笑った。 そんな風に喫茶店でお話をしていたら、すぐに外は真っ暗になった。 ゆきちゃんはお家が遠いから、早めだったけれど解散することになった。 そして喫茶店を出て、駅前の広場に差し掛かったとき、雪が降り始めた。 私とゆきちゃんは「わあ」と声を上げた。 今日観た映画の盛り上がりどころでも雪が降っていたから、何だか嬉しかった。 空の上にいる誰かが私たちにプレゼントしてくれたのかもしれない。 空に誰かいるのか知らないけれど。でもお礼は言わないと駄目だよね ためしに、空に向かって「ありがとー」と言ってみた。 すると隣のこなちゃんが怪訝な顔をしながら、「つかさ、誰に話しかけてるの?」って聞いてきた。 笑って「空にいる人だよ」って応えたら、どうしてかこなちゃんは「……」って冷や汗を流して黙り込んじゃった。 どうしたかのかな? まあいいや。 小さい雪のかけらだったけれど、イルミネーションにきらきらして、とても綺麗だった。 「寒いと思ったら、雪かー」 お姉ちゃんがマフラーを巻きなおして、手に息をはあ、と当てた。 「電車遅れないうちに早く帰りましょ」 お姉ちゃんはいつも思うんだけれど、ちょっとリアリストだよね。 少しくらい雪に感動してもいいのに。空の人もがっかりだよ。 そんなことを思っていたら、こなちゃんが口を開いた。 「あの映画のヒロイン、かがみに似ていたよね」 「はあ?」 「リアリストで、気が強くて。雪のシーンでも『寒い寒い』ばっかり言ってたもんね」 言って、こなちゃんはまた猫みたいな口で笑った。 確かにそうかもしれない、と思って私とゆきちゃんも笑った。 お姉ちゃんは複雑そうな顔をしていた。 その間も雪がちらちらと、私たちの周りに降る。 「でも最終的には雪の中で一緒に踊ってたよ。それで『雪も綺麗ね』って言ってた」 喋ると吐く息が白い。 私が言うと、ゆきちゃんが「そうですね」と言った。 「小説家の方が手をとって、『一緒に踊ろう』と仰ったからですね」 ゆきちゃんの言葉を聞いて、こなちゃんがすっと笑った。 「じゃあ、かがみも手をとってあげれば、『雪も綺麗ね』って言うかな?」 「な、何バカなこと言ってるのよ」 矛先を向けられたお姉ちゃんは慌てたけれど、こなちゃんは私たち二人に向き直って言った。 「ね、つかさ、みゆきさんどう思う?」 「そうですね、仰るかも知れませんね」 「ちょ、ちょっとみゆき」 ゆきちゃんが悪戯っぽくお姉ちゃんに笑った。だから私も乗った。 「そうだね、言うかもよー」 「あんたたちね――」 しかしお姉ちゃんが何かを言う前に、こなちゃんが、手をとって、引っ張った。 「えっ、ちょっと、こなた!」 こなちゃんは「『お嬢さん、お手を拝借』」なんて映画を真似ながら、お姉ちゃんを広場の真ん中に連れて来る。 そして、そのまま両手を引いて、くるっと、と廻った。 お姉ちゃんの長い髪と、こなちゃんの長い髪が、それに合わせて、ふわりと翻って。 ドレスの裾みたいに見えて、私はちょっと見とれてしまった。 こなちゃんが軽くステップを踏んで止まる。 たたらを踏んでいるお姉ちゃんを軽く支えながら、こなちゃんは歯を見せて笑った。 「どう? 『雪も綺麗』?」 「言わねーよ!!」 お姉ちゃんはこなちゃんの手を、ぶんっと振り払った。 こなちゃんは私たちの方を向いて、手品の種明かしでもするみたいに両手を見せた。 「かがみの方がツンデレだった。手ごわいヨ!」 それを見て、私とゆきちゃんも笑った。 こなちゃんも、アハハ、って声を上げて笑った。 お姉ちゃんも怒った顔を作っているけれど、本当は笑ってて。 道の真ん中で笑う女の子が四人。 通りすがりの人たちが不思議そうに見ているけれど気にならない。 だって、女の子が四人いたら、笑わないわけがないんだ。 「そろそろ帰ろう」 そう言ったのは、誰だっただろう。 駅に向かって歩き出して、しばらくして。 後ろを歩いていたこなちゃんが、すっと立ち止まった気配がした。 ゆきちゃんとお姉ちゃんが先に行っちゃうよ、っていうことが言いたくて、私はこなちゃんの方を振り返った。 そこで見てしまった。 本当に、何が違ったの?って聞かれるとうまく答えられない。 本当に、なんとなくだったんだ。 あのお昼の時。 少し遅れて笑ったこなちゃんが、なんとなく何か、“ヘン”なように感じて。 うまく言葉に出来ないんだけれど、『感じた』んだ。 だけれども、それはゆきちゃんもお姉ちゃんも感じてないみたいだったから。 ずっと気のせいかなって思ってたんだけれど。 でも『それ』を見た時、それは気のせいじゃなかった、って分かった。 こなちゃんは自分の手を、さっきお姉ちゃんの手を引いた手を、見下ろしていた。 その顔は嬉しそうなのに、悲しそうにも見えて。 どうしたの、って私が口を開く前に。 こなちゃんはその手をぎゅっと握り締めると、口元に当てた。 冬だと言うのに、その顔はとても赤くて。 雪の中で。 まるで何かに祈るみたいに。 その表情を見ていたら、何だか胸がぎゅうっとなった。 見たらいけないものを見ちゃった気がした。 私がぱっ目を逸らすと、青い風が横をびゅんと通り過ぎた。 何かと思って目を開けると、こなちゃんが私を走って追い越して、お姉ちゃんに飛びついていた。 そこにいたのはもういつもの楽しそうな笑顔のこなちゃんだった。 こなちゃんがちょっと“ヘン”になったこと。 それが絶対だと思ったのは、この日のこと。 それから、偶に、私は笑ってるこなちゃんが泣いてるかも、って思うようになった。 ううん、こなちゃんがウソ笑いしてるって意味じゃないんだ。 こなちゃんが笑うときは、いつも本当に楽しくて笑ってる。 こなちゃんがウソついてないこと、友達だから、わかるよ。 でもね、それでも。 こなちゃんが笑ってるのに、時々切ないって言うか、悲しそうに見えるこことがあるんだ。 でもだからって、涙出してるわけじゃなくって………やっぱりヘンだね。 こなちゃんに聞いてみようか、って思ったこともある。 でもその日の……あの表情を思い出すとどうしても聞けなくなった。 聞いちゃいけない気がして。 触ったらいけない気がして。 あれからもう半年くらい経って、季節はもう夏になって。 相変わらず、こなちゃんは、お姉ちゃんをからかって。 お姉ちゃんは、むきになって。 ゆきちゃんと私は笑ってて、お姉ちゃんも顔を真っ赤にして怒った顔してるけれど、本当は笑ってて。 こなちゃんも、笑ってる。 だけれど、時々、その笑顔の中に、雪の中で祈るみたいにしていた表情を思い出して。 私はこなちゃんが泣いているんじゃないかという気になる。 でも私は、今でもそれが、一体何なのかわからない。 **コメントフォーム #comment(below,size=50,nsize=20,vsize=3) - 切ないけれど優しさが感じられる作品ですね。 &br()感動しました。GJです。 &br() -- 20-760 (2008-07-01 07:47:39)
こなちゃんは、お姉ちゃんをからかう。 お姉ちゃんは、むきになる。 ゆきちゃんと私は笑ってて、お姉ちゃんも顔を真っ赤にして怒った顔してるけれど、本当は笑ってて。 でも、こなちゃんは、笑ってるけれど、時々泣いていた。 +境界線+ 笑ってるのに、泣いているかも、なんてヘンな言葉だよね。 ううん、こなちゃんがウソ笑いしてるって意味じゃないんだ。 こなちゃんが笑うときは、いつも本当に楽しくて笑ってる。 こなちゃんがウソついてないこと、友達だからわかるよ。 でもね、それでもね。 こなちゃんが笑ってるのに、泣いている気がする時があるんだ。 でもだからって、涙出してるわけじゃなくって………やっぱりヘンだね。 そんなことを思うようになったのはいつかな? まだ二年生のときかな? うん、そうだね。 雪が降ってたもん。 最後に雪が降った日。覚えてる。 でも最初に「あれ?」って思ったのは、それより少し前で。 いつだったかな? あれは…。 教室の中で、ストーブの匂いがしてて…。 多分、二年生の三学期の真ん中くらいの頃。 いつもの四人で、机を合わせてお昼ご飯を食べてたよね。 本当にいつも通りだったはずなのに、何が違うって思ったんだろう。 その時の話の内容は思い出せない。 けれどお姉ちゃんとゆきちゃんと私が笑ってて。 それにこなちゃんが遅れて笑った。 その時に「あれ?」って思ったんだ。 何が?って言われると難しいんだけれど…。 違和感っていうのかな? うまく言えないんだけれど、そんな感じ。 うまく言えないんだけれど……。 ゆきちゃんみたいに頭がよかったら、言葉にできたのかなあ。 そう思って、ゆきちゃんに相談してみたことがある。 「こなちゃんって何かヘンになっちゃってない?」 「ヘンですか?」 こなちゃんが“ヘン”になってから、何日かした後のこと。 放課後、こなちゃんが日直で教務室に日誌を出しに行った時に、こっそりゆきちゃんに聞いてみた。 でもゆきちゃんは困った顔して、「わかんない」っていう風に首を傾げた。 「特別、そうは感じてませんけれど……どういった風にヘンでしょうか?」 「うーん、私もわかんないんだけれど…」 わかんないことは、説明できないよね。 だから結局二人で首をかしげちゃった。 しばらくして、ゆきちゃんは思いついたようにお姉ちゃんの名前を口にした。 「かがみさんにも聞いてみるのは如何でしょうか? 泉さんととても仲良くしてらっしゃいますし」 「うーん、私もそう思って、お姉ちゃんにはもう聞いてみたの」 だけどお姉ちゃんったら、ほとんどこっちも見ないで「こなたがヘンなのはいつものことでしょ」だって。 そう言ったら、ゆきちゃんは笑った。 でも聞いたタイミングも悪かったかも。 その時お姉ちゃん、お弁当作りしてたから。 お料理をしている時のお姉ちゃんは、ちょっと怖い。 難しそうな顔をして、ウーンって唸りながら、フライパンを睨んでたりする。 でも、だけど、それは怒ってるわけじゃないんだよね。 お姉ちゃんは料理があんまり得意じゃないから、卵焼くのも一生懸命なだけなんだ。 それをゆきちゃんに伝えたら、ゆきちゃんはふんわり笑ってくれた。 ゆきちゃんの笑顔ってすごく好き。 だってこっちまでふわふわになるんだもん。 ………えっと何の話だっけ? そうそう、こなちゃんがヘンだっていう話。 ゆきちゃんと話した後は、やっぱり気のせいかなって、ずっと思ってたんだけれど。 でもやっぱり、気のせいじゃなかったんだよ。 二年生の終わりの、日曜日。 その年の最後の雪が降った日。 その週の木曜日に、こなちゃんが「期末テストも終わったし、パーッと遊びに行こうよ!」といつものように元気に言った。 「おー、いいわねー」 「いいですね」 「賛成賛成~」 それで私たち四人は、日曜日に一緒に遊びに出かけることになった。 じゃあ何をしようかって?って話になって。 「映画観にいかない?」と、お姉ちゃんが言い出した。 お姉ちゃんは本や映画を観るのが結構好きだ。 それからアニメや漫画も結構好きなんだけれど、それを言うと何故か怒る。 ゆきちゃんが「映画、いいですね。久しく見ていませんし」と言った。 それにこなちゃんが頷いた。 普段は四人の中で一番静かにしているけれど、実はゆきちゃんがウンって言うと、大体それに決まるんだよね。 こなちゃんがくるっと私の方に向き直って、「つかさも、いい? 映画で?」と確認してきた。 私は頷いた。 「うん、行こう行こう」 怖いのは厭だけれど、と心の中で付け足して。 次の日曜日、私たちは太宮駅に集まった。 待ち合わせ場所にはゆきちゃんは一番最初に来ていて、その次に私とお姉ちゃんが来て、最後にこなちゃんが来た。 いつものことだよね。 「遅い!」 遅刻してきたこなちゃんに、お姉ちゃんは腰に手を当てて、眉を逆ハの字にした。 息を切らせたこなちゃんは私たちの目の前に立つと両手を合わせた。 「ごめん!」 こなちゃんの態度に私とお姉ちゃんは少しだけ驚いた。 こなちゃんが真正面から謝るのってちょっと珍しいんだよね。遅刻はいつものことだけれど。 でもお姉ちゃんは、すぐにきっちり訳を訊く姿勢になった。 「今日はどうしたのよ? またネトゲやってたとか言ったら、その頭のアホ毛抜くわよ」 「いやいや、今回はそんなんじゃないヨ」 手を伸ばしたお姉ちゃんから、クセ毛をガードしながらこなちゃんが言った。 「じゃあ何よ」 お姉ちゃんがさらに突っ込むと、こなちゃんは少し考えてからゴニョゴニョと言った。 「その……寝癖が直らなくてネ」 「ハア?」 私たちは首を傾げてしまった。 寝癖、って言うなら、いつも頭に立ってるそれもそうだよね? それは相変わらず直ってないんだけれど…。 ゆきちゃんが控えめな声で「泉さんはそういうの気にしてらっしゃらないかと思いましたけれど」と言った。 「うん、頭のはね、どうしても立っちゃうから、もう諦めてるんだけれど、耳の後ろの…」 とこなちゃんは後ろ頭のあたりを指した。 「この辺がなんか、今日はもーすごくって」 確かに言われて見ると、いつもよりそこがツンツンしてる。 私たちはこなちゃんの耳の後ろを覗き込んだ。 私とゆきちゃんが納得していると、お姉ちゃんは溜息を吐いた。 「立ってたって、いつもと大して変わらないじゃない」 「ヒドッ」 お姉ちゃんの言葉に、こなちゃんが大きく仰け反った。 あれれ? ケンカかな? フォローしなくっちゃ。 「えっと、お姉ちゃんは『こなちゃんはどんな髪型でも可愛いよ』って言いたいんだよね?」 「ハアッ!?」 私がそう言うと、今度はお姉ちゃんが仰け反った。 「何でそうなるのよ!」 お姉ちゃんが驚いたように言う。 あれれ? 何か間違えちゃったかな? でも反対にこなちゃんは上機嫌になったみたいで、顎を指で擦りながらお姉ちゃんに言う。 「ふむふむ、かがみん、ツンデレだったわけかね。も~素直に言ってくれればいいのに…」 「違うわっ!」 お姉ちゃんが叫ぶ。 ええっ? 違うの? 「お姉ちゃん、こなちゃんのこと、可愛くないの?」 「へっ?」 思わず私が言うと、お姉ちゃんは目を丸くした。 私は続けた。 「私はこなちゃん、すごく可愛いと思うよ。ねっ、ゆきちゃんもそう思うよね?」 「ええ、泉さんはとても可愛らしいです」 ゆきちゃんがふんわり頷くと、お姉ちゃんは口をぱくぱくさせた。 「ち、違…、そういう話じゃなくって」 また違うの? 「じゃあ、こなちゃん、可愛い?」 「え? あー、えー、あー……………………うん」 何故かお姉ちゃんは真っ赤になって、変な声を出して、最後にすごく小さな声で頷いた。 こなちゃんとゆきちゃん見ると、一緒になってくすくす笑ってる。 「ありがとー、かがみん。かがみんもとっても可愛いヨ!」 「う、うるさい! ほら、映画、始まっちゃうわよ!」 手を振るこなちゃんにプイッとそっぽを向いて、お姉ちゃんは歩き出した。 私たちも笑ってその後に続く。 ふと、こなちゃんが立ち止まっていたので、肩越しに振り返ってみた。 こなちゃんはお店のショーウインドウに写った自分の姿を見て、髪を直していた。 その頬は、ちょっとだけ赤くって。 その時に、またあの「あれ?」っていうのを感じたんだけれど。 お姉ちゃんが「置いてくぞー」って呼んだから、私もこなちゃんも駆け出した。 映画館の前に来ると、私たちは多数決で今やっている映画の中からみんなで観るものを選んだ。 そして二対一対一で、洋画のラブストーリーを観ることに決まった。 内訳は、ゆきちゃんと私がラブストーリーで、お姉ちゃんはサスペンス映画で、こなちゃんが特撮映画だった。 お姉ちゃんの第二希望はラブストーリーだったらしく、違うのに決まっても笑顔のまま「この映画、雑誌で結構評判いいのよね」と言った。 特撮映画のポスターを見ながら、こなちゃんだけが口を尖らせていたけれど。 お姉ちゃんが「協調性よ、協調性」と言って、こなちゃんの頭をぽんぽん叩いていた。 私たちは笑いながらチケットを買って、お菓子やジュースを両手いっぱいに抱えて映画館の中に入った。 映画はすごくよかった。 気の強いキャリアウーマンのヒロインと、ちょっとだらしがない小説家の男の人が主人公で。 その二人がだんだんと距離を縮めていく話だった。 最初ヒロインと主人公の仲が悪くって、ハラハラしながら観ていたんだけれど。 最後にはすっごく仲良しになって、すごい感動しちゃった。 冬のニューヨークが舞台で、映画の中では何度も雪が降っていた。 映画館を出ると、私たちは喫茶店に入って、さっそく今見た映画の感想を言い合った。 「いい映画でしたね」 「うんうんっ。ねっ、お姉ちゃん」 「まあねー。しかし女四人でラブストーリー観るのも、難だったかもしれないな」 「そんなこと言ってかがみん、最後うるんでたじゃん」 「なっ!?」 ししし、と歯を鳴らすようにこなちゃんが笑った。 場所は違うけれど、私たちの間に流れる空気は、いつもの教室と同じだった。 違うのは私たちの前に湯気の立つ飲み物があること。 ゆきちゃんはホットのアールグレイで、お姉ちゃんはキャラメルマキアート。 こなちゃんと私はミルクティーだった。 ここの店のミルクティーはミルクがホイップされててふわふわしてて美味しいから、ひそかにお気に入りなんだよね。 「あんたとこなた、ここに来ると必ずミルクティー頼むわよね」 斜め前のお姉ちゃんが頬杖をつきながら言った。 ちなみに席はボックス席で、ゆきちゃんとお姉ちゃん、私とこなちゃんに分かれて座っている。 「うん、ここのミルクティー、美味しいんだよ。ねっ、こなちゃん」 こなちゃんはちょうどこくこくとミルクティーを飲んでいた。 手が小さいからカップを両手で持ってて、何だか小さい子猫がミルクを飲んでるみたいな感じ。 カップを降ろすと、ミルクのヒゲが出来ていて、私たちは思わず吹き出した。 「ふぉ? 何?」 「ほら、あんた、ヒゲついてるのよ」 言いながらペーパーナプキンを引っ張ってきて、机から身を乗り出して、こなちゃんの口の周りをごしごし吹いた。 「むーっ」 こなちゃんはされるがままになっている。 「お姉ちゃん、お母さんみたいだね」 そう言うと、お姉ちゃんは棒でも飲み込んだような顔をした。 「ちょっと『お母さん』はないでしょ。……年的に」 そうかな? なんだか『お母さん猫』みたいだなって思ったんだけれど。 ゆきちゃんがふんわりと言う。 「そうですね、かがみさんでしたら、やはり『お姉さん』の方がお似合いかと思います」 そしてお姉ちゃんの方を見てニッコリ笑った。 「かがみさんは本当の『お姉さん』ですしね」 ゆきちゃんに、お姉ちゃんは少しだけ表情を緩める。 そっか、お姉ちゃんは、『お姉ちゃん』だもんね。 そこに、こなちゃんがそれこそ猫みたいな口になってニマッと笑った。 「つまりかがみは、『お姉さま』と呼ばれることをご所望か?」 「は!?」 「むっふっふ。ならば私もやぶさかではない。言うよ言っちゃうよ? セイ!かがみお姉さまぁ!」 「お前はちょっと黙ってろ! ていうか『お姉さま』じゃねー!」 「あ、でもお姉ちゃんがこなちゃんのお姉ちゃんになるってことは、私とこなちゃんは姉妹になっちゃうね」 「手間のかかる妹はひとりで十分よ」 お姉ちゃんは頬杖をついて、キャラメルマキアートに口をつけた。 私たちは笑った。 そんな風に喫茶店でお話をしていたら、すぐに外は真っ暗になった。 ゆきちゃんはお家が遠いから、早めだったけれど解散することになった。 そして喫茶店を出て、駅前の広場に差し掛かったとき、雪が降り始めた。 私とゆきちゃんは「わあ」と声を上げた。 今日観た映画の盛り上がりどころでも雪が降っていたから、何だか嬉しかった。 空の上にいる誰かが私たちにプレゼントしてくれたのかもしれない。 空に誰かいるのか知らないけれど。でもお礼は言わないと駄目だよね ためしに、空に向かって「ありがとー」と言ってみた。 すると隣のこなちゃんが怪訝な顔をしながら、「つかさ、誰に話しかけてるの?」って聞いてきた。 笑って「空にいる人だよ」って応えたら、どうしてかこなちゃんは「……」って冷や汗を流して黙り込んじゃった。 どうしたかのかな? まあいいや。 小さい雪のかけらだったけれど、イルミネーションにきらきらして、とても綺麗だった。 「寒いと思ったら、雪かー」 お姉ちゃんがマフラーを巻きなおして、手に息をはあ、と当てた。 「電車遅れないうちに早く帰りましょ」 お姉ちゃんはいつも思うんだけれど、ちょっとリアリストだよね。 少しくらい雪に感動してもいいのに。空の人もがっかりだよ。 そんなことを思っていたら、こなちゃんが口を開いた。 「あの映画のヒロイン、かがみに似ていたよね」 「はあ?」 「リアリストで、気が強くて。雪のシーンでも『寒い寒い』ばっかり言ってたもんね」 言って、こなちゃんはまた猫みたいな口で笑った。 確かにそうかもしれない、と思って私とゆきちゃんも笑った。 お姉ちゃんは複雑そうな顔をしていた。 その間も雪がちらちらと、私たちの周りに降る。 「でも最終的には雪の中で一緒に踊ってたよ。それで『雪も綺麗ね』って言ってた」 喋ると吐く息が白い。 私が言うと、ゆきちゃんが「そうですね」と言った。 「小説家の方が手をとって、『一緒に踊ろう』と仰ったからですね」 ゆきちゃんの言葉を聞いて、こなちゃんがすっと笑った。 「じゃあ、かがみも手をとってあげれば、『雪も綺麗ね』って言うかな?」 「な、何バカなこと言ってるのよ」 矛先を向けられたお姉ちゃんは慌てたけれど、こなちゃんは私たち二人に向き直って言った。 「ね、つかさ、みゆきさんどう思う?」 「そうですね、仰るかも知れませんね」 「ちょ、ちょっとみゆき」 ゆきちゃんが悪戯っぽくお姉ちゃんに笑った。だから私も乗った。 「そうだね、言うかもよー」 「あんたたちね――」 しかしお姉ちゃんが何かを言う前に、こなちゃんが、手をとって、引っ張った。 「えっ、ちょっと、こなた!」 こなちゃんは「『お嬢さん、お手を拝借』」なんて映画を真似ながら、お姉ちゃんを広場の真ん中に連れて来る。 そして、そのまま両手を引いて、くるっと、と廻った。 お姉ちゃんの長い髪と、こなちゃんの長い髪が、それに合わせて、ふわりと翻って。 ドレスの裾みたいに見えて、私はちょっと見とれてしまった。 こなちゃんが軽くステップを踏んで止まる。 たたらを踏んでいるお姉ちゃんを軽く支えながら、こなちゃんは歯を見せて笑った。 「どう? 『雪も綺麗』?」 「言わねーよ!!」 お姉ちゃんはこなちゃんの手を、ぶんっと振り払った。 こなちゃんは私たちの方を向いて、手品の種明かしでもするみたいに両手を見せた。 「かがみの方がツンデレだった。手ごわいヨ!」 それを見て、私とゆきちゃんも笑った。 こなちゃんも、アハハ、って声を上げて笑った。 お姉ちゃんも怒った顔を作っているけれど、本当は笑ってて。 道の真ん中で笑う女の子が四人。 通りすがりの人たちが不思議そうに見ているけれど気にならない。 だって、女の子が四人いたら、笑わないわけがないんだ。 「そろそろ帰ろう」 そう言ったのは、誰だっただろう。 駅に向かって歩き出して、しばらくして。 後ろを歩いていたこなちゃんが、すっと立ち止まった気配がした。 ゆきちゃんとお姉ちゃんが先に行っちゃうよ、っていうことが言いたくて、私はこなちゃんの方を振り返った。 そこで見てしまった。 本当に、何が違ったの?って聞かれるとうまく答えられない。 本当に、なんとなくだったんだ。 あのお昼の時。 少し遅れて笑ったこなちゃんが、なんとなく何か、“ヘン”なように感じて。 うまく言葉に出来ないんだけれど、『感じた』んだ。 だけれども、それはゆきちゃんもお姉ちゃんも感じてないみたいだったから。 ずっと気のせいかなって思ってたんだけれど。 でも『それ』を見た時、それは気のせいじゃなかった、って分かった。 こなちゃんは自分の手を、さっきお姉ちゃんの手を引いた手を、見下ろしていた。 その顔は嬉しそうなのに、悲しそうにも見えて。 どうしたの、って私が口を開く前に。 こなちゃんはその手をぎゅっと握り締めると、口元に当てた。 冬だと言うのに、その顔はとても赤くて。 雪の中で。 まるで何かに祈るみたいに。 その表情を見ていたら、何だか胸がぎゅうっとなった。 見たらいけないものを見ちゃった気がした。 私がぱっ目を逸らすと、青い風が横をびゅんと通り過ぎた。 何かと思って目を開けると、こなちゃんが私を走って追い越して、お姉ちゃんに飛びついていた。 そこにいたのはもういつもの楽しそうな笑顔のこなちゃんだった。 こなちゃんがちょっと“ヘン”になったこと。 それが絶対だと思ったのは、この日のこと。 それから、偶に、私は笑ってるこなちゃんが泣いてるかも、って思うようになった。 ううん、こなちゃんがウソ笑いしてるって意味じゃないんだ。 こなちゃんが笑うときは、いつも本当に楽しくて笑ってる。 こなちゃんがウソついてないこと、友達だから、わかるよ。 でもね、それでも。 こなちゃんが笑ってるのに、時々切ないって言うか、悲しそうに見えるこことがあるんだ。 でもだからって、涙出してるわけじゃなくって………やっぱりヘンだね。 こなちゃんに聞いてみようか、って思ったこともある。 でもその日の……あの表情を思い出すとどうしても聞けなくなった。 聞いちゃいけない気がして。 触ったらいけない気がして。 あれからもう半年くらい経って、季節はもう夏になって。 相変わらず、こなちゃんは、お姉ちゃんをからかって。 お姉ちゃんは、むきになって。 ゆきちゃんと私は笑ってて、お姉ちゃんも顔を真っ赤にして怒った顔してるけれど、本当は笑ってて。 こなちゃんも、笑ってる。 だけれど、時々、その笑顔の中に、雪の中で祈るみたいにしていた表情を思い出して。 私はこなちゃんが泣いているんじゃないかという気になる。 でも私は、今でもそれが、一体何なのかわからない。 -[[輝く欠片>http://www13.atwiki.jp/oyatu1/pages/704.html]]へ続く **コメントフォーム #comment(below,size=50,nsize=20,vsize=3) - (≧∀≦)b -- 名無しさん (2023-05-03 23:24:43) - Gj -- 名無しさん (2014-08-26 02:10:09) - つかさ視点もまた良い -- 名無しさん (2010-11-16 22:25:52) - この雰囲気最高です。 &br()みゆき視点でかがみのこと書いて欲しいと思いました。 -- 名無しさん (2008-07-03 04:24:57) - GJ! -- 名無しさん (2008-07-03 00:26:47) - スゴイです。 &br() -- 名無しさん (2008-07-02 23:19:14) - 切ないけれど優しさが感じられる作品ですね。 &br()感動しました。GJです。 &br() -- 20-760 (2008-07-01 07:47:39)

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