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『こなかが1/2 :第1-A話「3月20~28日 柊かがみの9日間」』


3月20日、終業式もとうに終わった夕方、私はとても上機嫌だった。
それは別に明日から春休みだーなどといった開放感でも、成績表の数字が非常に高かったなどという理由ではない。
私が上機嫌の理由。それはこなたが私に接するときの態度だった。
友情などではない、なんともいえない気持ち。それをこなたから感じるようになった。
最初は私の気のせいかと思った。だけど、それでもよかった。
今までそんな気のせいすら感じることがなかったのだから。
嬉しかった。もしかしたら想いが通じるかもしれない。そう思うだけで心が躍った。

私はこなたの事が好きだった。もちろん友情としてではなく、恋愛感情として好きだった。
今でもこの感情に悩むこともあるけれど、それでもこなたの事が好きだった。
私の駄目なところ、弱いところも全部受け入れてくれるこなた。
そんなこなたに、私は強く惹かれてしまったのだ。
こなた風に言うなら、フラグでも立てられちゃったのよ、きっと。

だけど、私がどんなに想っていたとしても現実は厳しい。
こなたが同性である私に友情以上のものをもつはずが無い。ありえない。そんなことは分かりきった事だった。
ならこの想いは隠したままにして、親友としてずっと傍にいよう。
そしてこなたのことはずっと好きでいよう。友情ではなく、恋愛感情として。

最近ではそんな諦めの気持ちも持ちつつもあった。
けど、昨日でそれはありえなくなくなった。0%の可能性に、小さな小さな1が足された。
本当に本当に小さな数字。それでも構わなかった。だって可能性が出来たんだ。
それがどんなに素晴らしい事か!

――――春休みはきっと楽しくなる。

そうだ。きっとそうに違いない。もしかしたらこなたに告白なんかされるかもしれない。
それで両思いになって、デートなんかもしたりして。うわっ、そうしたらなに着ていこうかな?
学校が始まってもクラスが一緒になって、一緒に行事に参加したり、勉強したり……

馬鹿な妄想だと思う。だけど、そんな妄想すらこのときは楽しかった。


―――――――――――――― 

3月24日、私とこなた、それにつかさとみゆきの4人でお花見に出かけることになった。
発案者は私。昨日このあたりの桜が満開と言っていたので、是非見たくなったのだ。

用事があって一人出かけていた私は、少し早めに待ち合わせ場所にたどり着いた。
周りを見渡してみたが、当然のことながら、まだ誰も来ていなかった。

「それもそうよね、30分前だし。」

私は近くにあるベンチに腰を下ろした。
そして私は今日買ってきた赤本を開いた。

「おお、かがみ~。」

いざ読もうとしたとき、ありえない声がした。おかしい、この時間にこいつがいるはずないのに。

「遅刻魔のあんたがどういう風の吹き回し?」
「失礼だな、かがみは。私だって早く来ることぐらいあるよ。」

こなたはそう言って、私の横に腰を下ろした。
いつもより、少しだけ距離が近いような気がした。
もう少し近ければ肩がぶつかるんだけど。ちょっと残念だ。

「かがみ、なにそれ?」

こなたが赤本を指差した。

「ああ、赤本よ。志望校は決まってないから、有名な奴を適当に選んだんだけど。」
「赤本ってなに?」

こなたさん、それが今年の受験生の台詞ですか?

「そうね、簡単に言うと大学専用問題集ってかんじかしら?」
「ふ~ん。かがみはもうそんなのやってるんだ。」
「ちょっと買ってみただけよ。」

本当にちょっと買ってみただけだった。
私達がどんな試験を受けるのか、そして試験の問題がどんなに大変か、少しでいいから知っておきたかった。
その程度の気楽な理由だ。

「でもやってみるんでしょ?」
「うん、もったいないし。」

こういったことに絡んでくるなんて、こなたにしては珍しいことだった。
なにか思うところでもあったのだろうか?

「ねえ、かがみ。」
「なによ。」
「置いてかないでね。」

こなたが私の顔を覗きながらそういった。
こなたと私の距離はいつの間にか片腕がくっつくほどに近くなっていた。
服越しからこなたの体温がほのかに伝わってくる。
私を見つめるこなたの瞳はとても儚げで、それだけで心臓がドキドキした。
叶うのなら、抱きしめたい。そう思うほどだった。

「何心配してるか知らないけど、私がこなたをおいていくわけないでしょ。」

そんな私の気持ちがばれないように、いつも通りの口調で言った。

「うん、そうだね。」

こなたは私を見つめたまま小さくうなずた。

―――――これってもしかしていい雰囲気?

チャンスだと思った。今なら私の想いを口にしてもいいのではないか?
というか、これ以上のチャンスなんて今まで一度もなかったじゃない。

そうだ、言え、言うのよ!!

「こなた、私、あんたのことが……」
「あら、泉さんとかがみさん。お早いですね。」

ああ、もしかしてタイムリミット?

「やふ~、みゆきさん!2年ぶりくらい?!」

先ほどの空気は何処へやら。
ベンチから立ち上がり、みゆきの方へ向かうこなた。

「もっと遅く来てくれればよかったのに。」

ああ、今はみゆきのこの性格が憎いわ……

「それでも……」

私が感じていたこなたからの気持ち。やっぱり私が感じている通りなんじゃないかしら。
だとしたら、うれしいなんてもんじゃない。

想いが伝わる可能性。それに大きく大きく増加させた。ざっと20%くらい。
うん、0%の頃に比べると大きな進歩だ。

そんなことを考えながら、私はみゆきとこなたの方へ向かった。
こなたに触れていた片腕からは、まだこなたの温もりを感じた。

―――――――――――――― 

その夜、私は久しぶりに読書にいそしんでいた。
難しい本だったので敬遠していたのだが、今日はやけに内容が分かった。
やっぱり、気分によって理解度が違うのかな?

「おねえちゃん、お父さんとお母さんが呼んでるよ。」

ノックの音とつかさの声が聞こえた。

「んー。ありがと、つかさ。」

はて、わざわざ呼び出されるとは、何かしでかしたかな?
顎に手を当てて考えてみる。
学業・・・通知表は比較的良かったはず。
生活態度・・・今日の帰りはちょっと遅かったけど、連絡入れていたので問題なし。
金銭関連・・・おこずかいは必要以上にもらってはいない。
進路・・・もうすでに学部は説明済み。
考えられる節が見当たらなかった。せいぜい進路くらいかな。

「まあ、とりあえず行くか。」

階段を下りて居間に行くと、テーブルの前でお父さんとお母さんが座っていた。

「ああ、かがみ。とりあえず座りなさい。」
「はい。」

言われたとおり、私はお父さん達の前に座った。

「驚かないで聞いて欲しい。」

驚かないでって、それこれから驚く事を言うって言ってるようなものじゃない。

「なによ、お父さん。かしこまっちゃって。」
「うん、実はね。かがみは許婚がいるんだよ。」

私の周りの空気が………凍った。

「えっ?なに?よく聞こえなかった。」

気のせいだから。今聞こえた事は私の聞き間違いだから。
だって、このご時勢に『許婚』だ。一体何時の時代よ!時代錯誤にもほどがある。

「うん、だからかがみには許婚がいるんだよ。それで、4日後に会うことになったんだ。」

ああ、人間本当に驚くと声も出せなくなるんだ。
驚きと、そしてショックで体が震える。

「あ、相手は誰?」
「かがみが絶対喜ぶ人よ。」

そういったのはお母さん。その笑顔から、どうやら本当に私が喜ぶと思っているらしい。

「だから、その喜ぶ人って誰なのよ!」
「ごめんね、かがみ。言えないのよ。」
「言えないって……」

そんな馬鹿な話があるだろうか?仮にも将来の結構相手なのに

「それじゃあ、なんで今日まで教えてくれなかったの!?こういうのってずっと前から決まってたんでしょ!」
「すまないね、かがみ。この理由も、先方との約束で言えないんだ。」
「じゃあ、なんで私なのよ!いのり姉さんやまつり姉さん、それにつかさだっているじゃない!!」
「それも言えないのよ。」
「また先方の理由?!その先方って一体誰よ?!」
「すまないが、それも言えないんだ。」

この後、一時間以上話し続けたが、終始こんな感じだった。
私に知らされた事、それは『私に許婚がいると言う事』、『3月28日にその人に会いに行くという事』。
この二つだけだった。

そして最後に、お父さんはもう一度言った。

「かがみには許婚がいるんだよ。」

納得なんかできるはずがなかった。

―――――許婚がいる

その事実だけが私に深く深く突き刺さった。

―――――――――――――― 

部屋に戻った私が最初にしたことは、ベットに倒れこんで、そして声を殺して泣くことだった。

さっきまでは怒りの感情の方が強かった。勝手に許婚なんてものを結ばされた怒り。
でも怒りながらも私は思っていたのだろう。どんなに怒っても、嫌がってもこの決定からは逃げられないんだって。


せっかく可能性が出来たのに……


今日のこなたのことを思い出した。


ようやくこなたと想いが通じるかもしれないのに……


そう思うと、悔しくて悲しくて涙が止まらなかった。

そして散々泣いた後、ふと携帯電話が目に映った。

―――――そうだ、こなたに電話……

私は携帯電話を手に取り、こなたの電話番号を選択し、そして…

「馬鹿……できるわけないじゃない……」

そこで私の行為は止まった。

こなたに電話して、一体何を話せばいいのか。
『私に許婚がいた』って素直に言うのか。
……言えるはずがなかった。いつかはばれる。
でもそれでも、今は言いたくなかった。

私は携帯電話を閉じると、適当に投げ捨てた。するとまた涙が止め処なく溢れてきた。

「こなた!こなたぁ~!!」

こなたの名前を言いながら、見得も外聞なく私は泣き続けた。
泣いて泣いて泣きつくして、そしてそのまま眠ってしまった。



それから昨日までのことは良く覚えていない。
私のことだから、きっと勉強をしたり、本でも読んでいたのだろう。
つかさが何か言っていたような気がしたけど、そんなことはどうでもよかった。
ああ、でもこなたに毎日電話をかけたのは覚えてる。結局一度も電話に出てくれなかったけど。


―――――――――――――― 

そして今日3月28日、こうして件の許婚に会いに来ていた。
場所はちょっと有名な料亭で、テレビのお見合いのシーンとかに出てきそうだった。
その店の廊下を、私達はゆっくり歩いていく。いつもと服装が違うせいか妙に歩きづらかった。
私の服装は着物だった。着物なんて着るのは成人式の時かななんて思っていたのに。
髪型もいつものツインテールではなく、そのまま髪を下ろしただけだった。
ああ、もうそんなことどうでもいいや。

「ああ、この部屋だね。」

お父さんは突き当たりの部屋を指差した。
部屋の前まで来ると、お母さんが襖を少し開いた。中の様子を確認しているようだった。

「どうやらもういるみたい。先に入ってお話でもしてて。お母さん達は先方と話をしてくるからね。」
「それじゃあ、頼んだよ。」

お母さん達はそう言うと、襖を閉めて奥の方へと歩いていった。きっと奥にもうひとつ部屋があるんだろう。
そうして、廊下に私だけが一人取り残された。
私は目の前の襖を見つめた。この奥に私の許婚がいる。
そう思うと気が滅入った。
こういう時って普通ドキドキするんじゃないかしら?…なんて醒めた考えがよぎった。
入ろう。何時までもここにいても、どうなるわけでもない。
私は思い切って襖を開いた。

部屋の中は思ったよりも狭かった。
ししおどしでも外にあるのだろう。コーン...という音が時折聞こえてくる。
そんな旅館のような床の間付作りの和室に、比較的大きなテーブルが真ん中を陣取っていた。

その床の間の側、着物を着た人が一人、顔を下に向けて小さく座っていた。
そして震えて……いや、声を殺して泣いているようだった。
この人も、本当は嫌なんだな。ちょっとだけ、この人に親近感が沸いた。

でも……

―――――この人が許婚なんだ。

そう思うと、途端に相手の事はどうでもよくなった。
ああ、何もなかったら、この人と結婚するんだ。それで子供を産んで、年をとって……
そんなの嫌だった。
目を背けたくなった。私の方が泣きたくなった。
諦めたはずなのに、どうしてもこなたの顔が頭に浮かぶ。

助けてよ……こなた……

今から急いで逃げ帰ろうか?
それでこなたに会うんだ。こなたなら事情を話せば分かってくれる。助けてくれる。私を受け入れてくれる。
そうよ、こなただったら!

そこまで思って、ようやく私は我に帰った。
できるわけがないじゃない。逃げ帰ったって『許婚がいる』っていう事実は残るんだ。
それにお父さん達にだって迷惑がかかる。
そんなこと、とっくにわかってたはずなのに……

「諦めろ、かがみ。」

目を瞑って、心の中でそう呟いた。そうだ、もうどうしようもないことなんだ。
世の中には自分の意思ではどうしようもなことがあって……
それが私にとってはこれだった。ただそれだけのことじゃない。
こなたのことだって、結局結ばれない運命だったんだ。今までだって、全然気が付いてくれなかったし…

諦観の気持ちが広がったからか、もうどうでもよくなったからか、少しだけ楽な気分になった。
私は瞑った目を開き、そしてゆっくりと床の間の向かい側の席に座った。
そしてゆっくりと、目の前の人物を見渡した。

―――――――――――――― 

髪の色は蒼色、そして頭の天辺には癖毛があった。
座っている背格好からして、その人は本当に小さくて、中学生……いや、下手すれば小学生にも見えた。
まるでこなたのようだった。
よりにもよって、なんでこなたにそっくりなの?私は少しだけ苛立った。
そんな気持ちを抑えながら、なおも見渡し続ける。

気が付かなかったが、髪もどうやら長いみたいで、後ろでそれを束ねていた。
着ている着物は華やかで、どこからどうもても男の人の物とは思えなかった。

……いや、何で気が付かなかったんだろう?帯があからさまに太い。
この着物は女物、つまり目の前にいる人は女性だ。

あれ、このタイミングで部屋を間違えた?!
で、でもお父さんもこの部屋だって言ってたし……

ああ、付き添いの人?
いや、お母さんは一人で待ってるって言ってた。
いくらなんでも自分の娘の許婚を見間違えはしないだろう。
考えれば、考えるほど分からなかった。
そしてようやく、『目の前の人に事情を聞く』という当たり前のことに気が付いた。

「あっ、あの!」

私はその人に今日始めて声をかけた。
すると、今までずっと下を向いていた人がゆっくりを顔を上げた。

まず飛び込んできたのは、涙を溜めた深緑の瞳だった。
擦ったせいだろう。周りが赤くなっていた。
そして次に左目にある泣きぼくろ。そして幼い顔。

目の前の人、それはまるでこなたの様だった。


―――――うん、これは幻だ。


私はそう思い目を強くこすった。それでも幻はそのままだった。

私は再び目を瞑った。
そして深呼吸を1回...2回...3回。

よし、これで見間違いなど無いはずだ。幻なんか見えないはずだ。
だって、こなたがいるなんてありえない。今日私は許婚に会いに来たんだ。
許婚ってことは、互いの両親が認めていて、将来結婚するってことなんだから。
だからどんなに望んでも、こなたがいるなんてことはありえないんだ。

そう思いながら、私はゆっくりと目を開いた。
目の前には変わらず、こなたの姿があった。どうやら幻じゃないみたいだ。
私はもう一度、目の前の人物を確認するように見つめた。
束ねてはあるけれど、長くそして綺麗な蒼色の髪、頭の癖毛、深緑の瞳、左目の泣きぼくろ。
見れば見るほど、こなただった。

ああもしかして、こなた似の人とか……

「かがみ?」
「―――――?!」

こなたの声が聞こえた。私の好きな人の声だ。私に幸せをくれる声だ。
そっくりさんなんかじゃなかった。
目の前にいる人、それは間違いなく泉こなた本人だった。

「こ、こなた?!なんでこんなところにいるの?!」

私は思わずこなたのほうに身を乗り出した。

「かがみこそ、なんでいるのさ?!」

驚いたのはどうやらこなたも同じようだった。口を大きく開けて、眠そうな目を大きく見開いている。
こなたのこんな表情を見たのは初めてたった。

えっ?えっ?
何これ、ドッキリ?それともこなたのいつもの冗談?
お父さんとお母さんをまで巻き込んで、とうとうこんな事までしてしまったの?
いくらなんでも、これは冗談じゃすまないぞ。
いや、でもこなたも驚いてたし………
あれ?

頭が回らなかった。この状況に思考がついてこない。
それはきっとこなたも同じなのだろう。顔を見つめたまま、視線を逸らそうとはしなかった。

急にスーッと襖の開く音が聞こえた。
私達は同時に襖の方に振り向いた。
そこにはお父さんとお母さん、そしてこなたのお父さんが笑いながら立っていた。

「な?こなた。絶対喜ぶって言ったろ?」

そういったのはこなたのお父さん。
その声は本当に嬉しそうで、まるで悪戯に成功した男の子のようだった。

本当に……どういうこと?

この余りにもありえない状況に、私とこなたは何も言う事が出来なかった。
お父さん達は笑っているだけで何も言わなかった。

コーン...

コーン...

ししおどしの乾いた音だけが部屋中に響きわたった。 


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- おぉぉおぉ… &br()またあなたは私の毎日に楽しみを &br()与えてくださるのですね。 &br() &br()つづき待ってます。  -- 無垢無垢  (2009-01-08 19:32:58)
- 前半の乙女妄想かがみかわいいなw &br()続きに期待しつつGJ!  -- 名無しさん  (2009-01-07 22:04:45)

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