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何気ないこと(2)」を以下のとおり復元します。
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***何気ないこと(2)かがみ視点
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 気がついたら、電車に揺られていた。途中でつかさにメールを打った様な記憶があるけど、私の頭の中は、昼休みのこなたの言葉で一杯だったからイマイチ実感が無い。

“かがみってつり目だし、凶暴だし、ツンデレだから、うさちゃんグループの中でも一人ぼっちだったりしてー“

 カタンカタン、電車が音を立てて揺れる。乗客が沢山いるのに、何故か孤独感に襲われる。そんな不安を今までは押しのけてやってきた。今日も、それは容易いはずだったのだ。こなたにあんなにはっきり心のうちを突かれるまでは。
 自分が凶暴・・・というより、物事をはっきり言ってしまうことも、つい怒鳴ってしまったりすることもよく知っている。
 そんな私に対して、陰口を叩く人間は今までだって沢山いた。こなたがいったことがそれに類似していることも原因だってのはわかってる。
 もちろん、こなたにしてみればいつもの軽い冗談だったことだって・・・そうだって信じてる。
 でも、どうしてだろう。少し気を緩めると、涙がこぼれそうになるのは。
 でも、どうしてだろう。少し気を緩めると、孤独と不安が溢れそうになるのは。
 峰岸や日下部が元気のない私に優しくしてくれたのに私はそっけない態度をとってしまった。私は自分で孤独になる引き金を引いているのではないか、そんな風に今は思う。
 黙って一人こうやって電車に揺られているのも、そんな心の裏側をこなたたちに悟られたくはないからかもしれない。
 私は強くあらねばならなかった。強くなければ、泣き虫のつかさを守っていけない。
 だから、私が私であるためには強さが必要だった。・・・それが偽りの強さでも、他人から見ればただの凶暴に見えたとしても。
 でも、それは私が私であるためで、本当につかさのためになったのだろうか。
 前にこなたが言っていた言葉がふっとうかんだ。
 怖いお姉ちゃんがガードしてるからじゃないの~?
 その通りなのかも知れない。本当は守る必要なんか無くて、弱い私自身をそのまま表に出してくばよかったのかもしれない。
 しかし、“If”もしも・・・そんな物はどこにも存在しない。
 車内アナウンスが私の降りる駅をつげ、私はそれに従って、電車をおりて帰路に着いた。

 家に帰ってすぐ、部屋に閉じこもった。つかさはまだ帰ってきてはいない。こなた達と少し寄り道でもしているのだろう。
 そこにいない私のことを彼女達はどう思っているのだろう。
 ポタンッ
 気がつけば顎を伝って大粒の涙が机の上に落ちた。どうして涙がでてくるんだろう。必死にぬぐって止めてみようと試みるのだけれど、まったくとまる気配はない。それどころか、ぬぐえばぬぐうほど涙は堰を切ったように溢れてくる。
 “かがみ、貴女は悲しいの?”
 鏡に映る、涙に埋もれた自分自身に心の中で声をかける。我ながら馬鹿なことをしていると思う。
 鏡という自分と同じ名前をした分身を移すソレに話しかけたところで答えなど返ってくるはずなどないというのに。
 つかさがいなくてよかった。こんなにボロボロ泣いている姿を見られなくてよかった。その部分では、ほっとしていたが零れる涙という雫は一向に止まる気配を見せない。
 ひっくっ、えぐ・・・子供のような嗚咽にしゃくりあげる声を必死に抑える様と躍起になったものの、だめだった。
 下から、ドアの閉まる音と、つかさの声が聞こえる。それに答える母の声。どうしよう、涙は止まらないのに。自分がどうしてこんなに泣いているのかもわからないのに。つかさに見られてしまう。私がこんなにも弱い部分を持っていることを。見られてしまう心の奥底を。
 私は、枕を顔に押し付けて、布団に潜り込む。嗚咽も布団の外に漏れるほどひどくは無かった。
「おねえちゃん、ただいまー」
つかさが部屋に入ってくる。布団に潜り込んでいるので姿は見えないけど、足音がこちらに迫っているのを知らせてくれる。
 私は競りあがってくる嗚咽やしゃくりあげる声を必死に息を止めて殺した。
「おねえちゃん、寝てるの?」
つかさはそう言ってから、しばらくベッドの傍に立っていたけれど、寝たものだと納得してくれたようで、静かに部屋を出て行った。
 私は、しばらく声を殺して、どうして自分自身がこんなにも涙をこぼしているのか、泣き続けているのか考えている間に深い眠りについた。

 恐らく、それは夢だった。

 そこで私は、うさぎだった。吊り目をした少し怖い顔をした、でも本当は守りたいちいさくて泣き虫な犬よりも、泣き虫だから目を真っ赤に染め上げたうさぎだった。
 うさぎなのに、うさぎの輪にはいれず、守りたいちいさな犬のグループにも入れない寂しくて冷たい場所にいるうさぎ。
 でも、そのうさぎは素直になれないせいで、どんどん寂しくて冷たい場所に自分を追いやってしまう。本当は誰よりも寂しくて甘えたいのに、甘え方も寂しくて冷たい場所からも抜け出る方法も知らなかった。
 うさぎはずっと一匹だった。守りたい犬を守ることだけしか考えなくなって、そして不安になる。ちいさな犬は、どう思っているのだろうか。
 ずっと一緒だったのに、気づけば心は遠い場所にあるのではないだろうかと、うさぎは、さらに寂しくて冷たい場所に身を起き始めた。
 悲しくて冷たい夢だった。

 目が覚めれば開けたままのカーテンから差し込む光が眩しくて、朝を告げていた。
 朝まで眠っていたはずなのに、私の目は壊れたように昨日の続きの涙を再び零し始めた。

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