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永久(とわ) - (2008/11/14 (金) 12:08:21) の編集履歴(バックアップ)


桜が咲く季節。

散りゆく花びらが、私を包む。

私の側には、お父さんがいて。

私の隣には、

――お母さんも、いて。

お母さん。

あなたはこんなにも優しくて。

ずっとずっと、永久を信じた。


永久(とわ)


目が覚める。
今みたものが夢だったと、気づく。

まだ眠くて。
でも、起きてしまって。

微睡みの中の私は、

――泣いていた。

お母さん…。
私はあなたを、知らない。
写真で笑うあなたしか、知らない。

お母さん。何度呼んでも届かなくて。
手を伸ばしても、そこにはいなくて。

小さい頃の記憶は、ほとんどなくて。
私の心には、あなたの顔は浮かばない。
写真のあなたしか、浮かばない…。

お母さんと、たくさん話してみたいよ。
お母さんと、たくさん遊んでみたいよ。

ゲームでも、漫画でも、そんなものなくても。
お母さん…あなたと、過ごしてみたいよ…。

「…っく、ひっく…、ぉかあさ、ん…」

涙が溢れて。
声がこぼれて。

時々、夢を見てしまうんだ。
どうしようもなく、儚い夢を。
思い出かどうかもわからない夢。
ただの空想かもしれない夢。

私と、お母さんと、お父さん。
三人で笑う毎日を、過ごしたくて。

私の思い出に、すり替わって欲しくて。


今がつまらないなんてわけはない。
幸せなことに、変わりない。
お父さん、ゆーちゃん、ゆい姉さん。
家族と呼べる人たちがいる。

世の中には、家族がいない人だっている。
悲しみは比べるものじゃないけど、今がイヤだなんて言うのはバチがあたる。

でも…。

やっぱり、私は欲しかった。

――お母さんのいる、毎日が――


涙がまた、溢れそう。

たまになっちゃう、この気持ち。

らしくないなんて言わないで。

私だって、悲しいんだ…。

――永久に来ない、儚き夢。

でも私は家族がいて。
毎日があって。
それを彩る、人たちがいる。

それは、つかさ。みゆきさん。後輩たちや、先生。

そして――

「…かがみ…」

どうしようもなく愛しい名を、知らない間につぶやいていた。

どうしよう。

会いたい。

かがみに、会いたいよ。
会って、話したいよ。

携帯を手に取る。
今すぐにでも、電話をかけたい。

でも今は、まだ朝の四時過ぎ。
こんな時間じゃ、迷惑だよね…。

だけど、どうしても会いたい自分がいる。
寂しさを紛らわしたいからかもしれない。
ただ単に会いたいだけかもしれない。

…かがみ。会いたいよ…。


気がつくと、電話をかけていた。

トゥルルル…トゥルルル…

長く響く、電話の声。

起きてるはずない。
なにかけてんだろ、私…。

切ろう。こんなの、ただの迷惑電話だ。
かがみが可哀想だ。

電話の電源を押そうとした瞬間――

「……もしもし?…あ、あんた今何時だと思ってんのよ…?」

…つながった。

耳に響くあなたの言葉。

かがみ…!

告げる。

「……会い、たい…」

ただ、それだけしか言えなかった。

あとはもう、涙が邪魔してしまって。

電話越しのあなたは、一瞬驚いた声をして。

そして――

「今行くから」

それだけ言って、電話は切れた。

…え?ほ、本当に…?

私は慌てて、外を見る。
まだ暗い。
自転車で来れるだろうけれど。

かがみは、来てくれる…?

私は急いで、外へ出た。

寒かったから、上着を着て。
もう、すっかり冬なんだね…。

私はいまだに、春を夢見るよ。



かがみの家への道を、私は走っていた。

ただただ、かがみに会いたくて。
一刻も早く、会いたいよ…。

道の遠く先を見る。
自転車がこっちを向かって走ってくる。

それは、長い髪をなびかせる少女だった。

それは――

かがみだった。

すぐに縮まる、私との距離。

自転車を降りて、私に駆け寄るかがみ…。

「…、こなた…」

髪も縛ってなくて。
上着を着てるけど、中はパジャマ。

すぐに、かがみは来てくれた。

私はかがみに抱き付いた。


「…、かがみ…!」

口からこぼれ落ちる、言葉。

「…よしよし…」

頭を撫でるかがみ。

「…うわぁぁぁん…!」

私は、大泣きしてしまった。

涙が、止まらなかった。

悲しくて。
ただ、悲しくて。

行方を知らない感情が、心から溢れ出した。



今、私とかがみは私のうちにいる。
そーっと、そーっと、部屋へ入った。

ベッドに腰掛ける私たち。

今は五時すぎ。
まだ夜明けには早い時間。

私はかがみに話した。

夢を見たこと。
お母さんの、夢だったこと。
起きたら、悲しくて泣いていたこと。
かがみを思ったら、会いたくてたまらなかったこと…。

全部、話した。
黙って聞くかがみ。

一通り話した私に、かがみの口が開く。

「…こなた。私は、…ずっと、そばにいるからね…」

優しい優しい、あなたの言葉は。
私の心を、また溶かす。

「…、かがみぃ…、っ、ひっく…」

また泣きそうになる。
泣いてばかり。

そんな私に、かがみの顔が近づく。

唇と唇が、ぶつかった。


少しして、離れる。

今、気づく。

私、キスされたんだ…。

「…、かがみ…?」

顔が熱くなるのがわかった。

「こなた、泣きすぎよ。落ち着いて、ね?」

そう言うかがみは、顔が紅い。

無性に恥ずかしくなる。

でも、…かがみと触れたら落ち着いた。


私は、かがみに尋ねる。

「…ずっとずっと、側にいる…?」

するとかがみは、私の手をとって。

「…側にいるよ。…永久に…」

――“永久”。

その言葉は、私の中で木霊する。
…また、泣きそうになる。

でも、今度は嬉しくて。
心の底から、喜びが溢れてくるのがわかった。

「…かがみ…あ、ありがとう…っ、グスッ…」

「また泣く~。泣き虫だっけ、あんたは?」

違うよ。私は泣き虫なんかじゃない。

ただ…“永久”と言われて、嬉しかっただけなんだよ。

「こんな私も、たまにはありでしょ……?」

告げた私。

するとかがみは。

「…当たり前、よ」

そう言って。

また、唇と唇が近づいてゆく…。

私とかがみは、二度目のキスをかわした。



「あんたのせいで寝不足だわ…」

「だからごめんって…」

朝がやってくる直前。
いつも通りに戻った私と話すかがみ。


「…本当に、ごめんね…」

迷惑かけちゃったもんね…。
朝っぱらから、呼び出すなんて。

「…ありがと、ね」

…? 突然お礼をいうかがみ。

「…なんで?」

「いや、ほら…た、頼ってくれて…ありがとうってことよ…。あんた、いつも全部一人で背負い込もうとするんだから。悲しさとか。だから、ね…」

かがみ…。

ありがとう。

本当に、嬉しいよ。

何かを頼れる存在。
いると思うと心が、安らぐ…。

夜が明ける。
窓から空を眺めると…

「うわぁ…」

…空が燃えていた。
朱く朱く、染め上がる。

夜明けの紅い空に、私はそこにいるような気がした。

――お母さん、が。



お母さん。

私は、今を生きています。

時々、無性に寂しくなるけど。

私の隣には、頼れる人がいます。
ちょっぴり不器用だけど、とびきり優しくて。

私の隣に、大好きな人がいます。

私は、あなたをあまり知らないけれど。
多分、悲しさはまたやってくるだろうけれど。

もう、きっと泣きません。
隣で優しさをくれる、人がいるから。
私を落ち着かせてくれる、かがみがいるから。

だから、きっと大丈夫。

それはきっと、――永久だから――。

fin


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コメント:
  • やっぱりかがみは優しいね。 -- 名無しさん (2008-11-14 12:08:21)
  • お母さんが恋しくて泣いちゃうこなたと、電話して早朝にもかかわらずすぐに来てくれるかがみの優しさに感動した( ノД`)
    最後のこなたの独白もいいね。なんともじんわりと温かいSSです。 -- 名無しさん (2008-11-13 17:12:04)
  • うーん、綺麗だね。
    シンプルでありながら心に染みる作品。GJ! -- 名無しさん (2008-11-07 14:42:34)
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