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『ふぁん☆すた』 第ニ話 - (2008/04/08 (火) 00:34:52) のソース

結論からいうと、私は都内に引っ越してからちょうど一週間後、東京郊外においてバスの転落事故に巻き込まれたらしい。 
 そして私は奇跡的に無傷だったが、目を一週間近く覚まさなかったらしい。 
 「らしい」というのはこれが私の記憶から分かったことではなく、医者から告げられて分かったことだからだ。 
 記憶がないことについては内的要因が外的要因かはっきりとは分からないとのことだ。 
この事実(と言っても記憶のない私にとってはにわかに信じがたい)は私が目覚めてから二日後に聞かされた。 
 私が目覚めて、記憶が無いことはすぐに分かったはずなのに、どうして真実を伝えるのに二日も要したのか、 
という私の質問に対して、医者は 
「真実を告げられたあなたが完全に記憶を取り戻した場合、あなたがパニック状態になることを危ぶんだのです。 
申し訳ありませんでした。」 
と答えた。 

――だからあの時あんなに医者や看護婦が私を取り囲んでいたのか。 

そう考えると恐ろしい。 
みんなが私を取り押さえるためにスタンバイしていたのだ。 

幸か不幸か、私の記憶は戻らなかった。そして未だに目の前にある真実と現実が夢ではないかと疑ってしまう。 

……でもこんな現実なら悪くない。 


『ふぁん☆すた』  第2話 


「すぴ~…」 

青い髪の少女―名前は泉こなたというらしい―が私の隣のベッドで眠りこけていた。 

「お~い、起きろー。朝だぞ~。」 

「すぴ~…」 

「まったく、患者じゃないくせにベッドで寝るなよ…」 

そう。こいつは患者ではない。 
私は無傷ではあるが記憶の件で大事をとって入院中だ。 
そしてこいつは患者ではないくせに毎日病院(というか私の病室)に来る。 
もちろん理由を訊いたことはある。 


―― 「あんた、なんで毎日ここに来てんのよ?」 

その問いに対してこなたは何故か一瞬固まったあと、 
今ではすっかりおなじみになったあのニヤリとした 
(初めて知ったのだが、幸せなイラつきというものがある。それはこいつのこの顔を見たときに感じるものだ) 
笑みを浮かべて言った。 

「かがみが私に会いたがってるからに決まってるじゃん♪」 

私はこの手の冗談(本気であれば嬉しいのだが…)に慣れていない。 
だいたい私は元来いじる側の人間であり、いじられることなどなかった。 
そんなわけで非常に恥ずかしくなった(図星だからなおたちが悪い)私は 

「な、そんなわけないじゃないのよ!だいたいなんで私があんたなんかに!」 

とおそらく真っ赤に染まった顔で言い返した。 

「まあまあ、私もかがみんに会いたいしさ。」 

「!!…べ、別にあんたなんか来なくても…!てかそのかがみんてのやめろ!」 

「え~、かがみんてかわいいじゃん~。いいでしょ~。」 

「くっつくな!わ、わかったから!」 ―― 


とまあこんなやりとりをしていたらいつの間にか当初の疑問を忘れてしまっていた。 
そりゃ意中の人にあんなことを言われたら…誰だってこうなるだろう。 
それ以降はこの質問をしたときの固まったこなたの表情が気になって理由を聞き出せないでいた。 

名前は泉こなた。 
年齢は18歳。 
家族構成は不明。 
病院に来る理由は不明。 
好きなものはチョココロネと鶏肉とアニメとゲームと漫画。 
こいつが想いを寄せている人は不明。いるかどうかも分からない。 
こいつに想いを寄せている人は柊かがみ。 

これが私の中のこなたのプロフィールだ。 

「すか~…」 

にしてもなかなか起きない。 
というかさっきよりもさらに気持ち良さそうに寝ている。 
…なんだかこっちまで眠くなってきた。 

――そうだ。こいつのお腹を枕にして寝てやろう。 

そう思って私は床に膝をついて上体をベッドの上に横たえた。 
頭はもちろんこなたのお腹に… 

――ああ、フワフワで気持ちいいな…。 

随分久しぶりのこの感覚。私は今おそらくこなたに甘えているのだろう。 
誰かに甘えるなんて何年ぶりだろう…。 

こなたのお腹は、太陽の匂いがした。 
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「…えちゃん。お姉ちゃん。こんなところで寝てたら風邪ひくよ?」 

体をゆすられて目をさます。そこにはつかさの姿があった。 

「あれ?こなたは?」 

気づけば私専用(になったら嬉しい)枕が消えていた。 
私のものかこなたのものか分からないベッドの温かさだけが残っていた。 

「こなた、って誰?」 

つかさが言う。そう言えばまだつかさはこなたに会ったことがないのだ。 

「ああ、なんでもないのよ。こっちの話。ところで今日はどうしたの?」 

つかさにこなたのことを説明するのは大変に骨が折れそうなのでやめた。 
そもそも名前と年齢と好きなものくらいしか知らないやつのことをうまく説明できる自信がなかった。 

「もちろんお見舞いだよ~。」 

そうだった。入院患者を尋ねる理由があるとしたらお見舞いくらいだ。 
でもあいつは? 

「どう?お姉ちゃん。何か思い出した?」 

「ううん。さっぱりだわ。まあでも思い出せなくても困ることはないだろうし。 
…それに事故のことなんて思い出しても…ね?」 

「う、うん。そうだよね…。思い出さないほうがいいのかも…」 

「そうよ。もしもそれがものすごく…ううん。 
まあ大丈夫よ。思い出しても大したことないわよ。」 

もしも記憶がとてもおぞましいものだったら、私は耐えられるのだろうか。 
その恐怖に。 

そのとき、不意に視界かゼロになった。同時に温かさが私を包み込む。 

「かがみ、私は何もしてあげられないかもしれない。 
けどね?かがみが迷惑じゃないなら、一緒にいてあげることはできるから。 
私がかがみを強くしてあげるから…。」 

こなたは泣いていた。私も泣いた。 
私はこなたを抱きしめた。こなたももっと強く私を抱きしめた。 
私とこなたは泣いて泣いて、そして泣き疲れて、二人、寝た。 
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 起きてみると、すでに陽は暮れかけていた。 
私の腕の中には私の愛しい人がいる。 
こいつは私のことをどう思っているのだろうか。 
分からない。 
だが、一緒にいてくれる。そう言ってくれた。 
それだけでよかった。 

現実は思っていたより辛かった。 
しかし、確かに辛いが、こいつがいる。 
こいつが私を支えてくれる。 
今は、こいつ、私の腕の中のこの泉こなたこそが私にとって一番鮮明な現実だ。 
…こんな現実なら、悪くない。 


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- >その恐怖に。  &br()> &br()>そのとき、不意に視界かゼロになった。同時に温かさが私を包み込む。  &br() &br() &br()恐怖に〜そのとき、間の文章がごっそり抜けてるような気がするんですが……?  -- 名無しさん  (2008-04-08 00:34:52)
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