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青空の日はキミを想うの。






「…おーい、かしゆかちゃーん?」


青空を見ていた。ただぽけっと流れ行く雲を見ていたら何もかも忘れられる気がしていた。階段状にずらりと並んだ机と椅子の1つにかしゆかは座っていた。今は昼休み。談笑をする数人のグループ以外、教室には誰もおらず大きな窓から見える青空と雲を、ずっと頬杖をつきながら見ていると時間を忘れてしまいそうになるほど穏やかな時間だった。
かしゆかを現実に引き戻したバカっぽい喋りの彼女は、ゼミが一緒でそれ以外接点も何もないし特に仲がいいわけでもないが、何かとかしゆかに懐いてくる。


「どうしたの? 最近元気ないよね?」


ドサクサに紛れて彼女はかしゆかの隣の席へと腰掛けた。そうして何もかも忘れられるしあわせなひと時から現実に引き戻す。かしゆかは、眉間に皺を寄せた。彼女に見られてはいけまいと、すぐにいつも“かしゆかちゃん”に戻した。心配そうにかしゆかの顔を覗き込む彼女の顔が何だか嘘っぽくて笑えてくる。


「…別に、そんなことないよ。」
「えー、嘘だあ、彼氏と何かあったんでしょ。」


彼氏じゃないし、彼女だし。
喉まで出かかった言葉を飲み込んだ。そうやって、ゆかのこと探ろうとしてんの?かしゆかは、嘘っぽい笑顔で何もないよ、と付け加えた。


「ならいいけどさあー。そういや最近かしゆかちゃん、大本さんといるとこ見ないね。」
「えっ…?」


かしゆかは、この女の鋭さに驚いた。そしてこの女が怖くなった。彼女は続ける、派手なラメやラインストーンのついた似合わない爪をした指先を絡めて。


「だって、つい最近までいつも一緒にいたじゃん? あたし、めっちゃ仲いいんだなあーって思ってたんだよ。大本さんかわいーし、かしゆかちゃんもかわいーし、絵になるなあ、って。」
「……のっちの何をしっとん。」
「え?」
「ゆかとのっちの、何をしっとんよ。」


気がつけばかしゆかは立ち上がって彼女を見下ろしていた。異変に気付いた数人のグループが声を潜めて何か言っているのが耳に入った。ハッとして彼女を見れば、彼女は怯えた小動物のような目でかしゆかを見ていた。なに、その目。被害者はゆかなの! 頭に血が上った。机についた手が震えているのがわかった。なんて情けないのだろう。


「…大本さんと喧嘩、したの…?」


彼女は恐る恐る尋ねた。かしゆかは笑った。バカらしくて、自分自身も目の前にいる彼女も、いつまでも無駄にのっちを想う自分がバカらしくて鼻をつくような笑いを洩らした。


「別れた。」
「え?」


そしてにこりと微笑んで。


「ゆかとのっち、今、忙しいけえなかなか一緒に遊べないだけ。」
「そう、なんだ…。」


彼女はひどく怯えていた。けれどかしゆかがいつもの無邪気な笑顔を見せると安堵したかのように肩を落として呟いた。かしゆかは席に座り、出しっぱなしにしていた筆箱や教科書をバッグに仕舞い込んだ。


「ごめんね。ゆか、仕事だから。」


そう言って席を立って手を振れば、彼女はゆらゆらと無気力に手を振り返し引きつった笑顔でかしゆかを見送った。


青空だった。かしゆかは廊下から覗く空を見上げた。シャッターチャンスだなあ、なんて思いながら足早に廊下を歩いた。こんな日は、


(のっちに、会いたいな。)







最終更新:2009年11月01日 03:15