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ボールから出したポケモンを見てたっぷり十秒は息を止めていたと思う。
それを自覚して慌てて大げさに深呼吸してしまった。
そして――


「綺麗だなぁ……」


ため息と共に出てきたのはそんな言葉だった。


● ● ●


普通のじゅくがえりの女の子だった私に転機が訪れたのは秋風の心地よかったある日のこと。
家族で訪れたミナモシティで私はコンテストを見に行ったのだ。
当時トレーナーとして未熟だった私に効果の高い回復アイテムなんか必要なかったし、技マシンなんてもってのほか。
だからデパートに寄ったところで高嶺の花を見て指を咥えているよりかはコンテストを見に行きたいと思うのはある意味当然だった。
そして、そこで見たのが一人の少年。
率直に言って、驚愕だった。
何せ、彼は初出場でありながら一日で五部門全てを制覇したのだから。
確かに毎日コンテストは開催されているが、そう簡単に優勝できるものではない。
ましてやミナモシティのコンテストはマスターランク。
マスターランクともなれば出場するポケモンは全て一流だし、最高のモデルとして画家が題材にするというのもよく聞く話だ。
──中には絵を描いてもらうために何度もコンテストに出場する人もいて、それにより一層優勝の難易度が上がっているんだとか。
過去にも全部門制覇した人はいるにはいたが、初出場で、とはいかなかったし彼ほど若くもなかった。
ゆえに、私は彼に惹かれた──のではない。
ただ単純に、美しかったのだ。

かっこよさ部門を制覇したグラエナより。
かわいさ部門を制覇したエネコロロより。
たくましさ部門を制覇したラグラージより。
かしこさ部門を制覇したポワルンより。


うつくしさ部門を制覇した──ミロカロスが。


○ ○ ○


それからの私はどこか地に足がつかない気分だったと思う。
元々勉強は得意ではなかったし、日に日に増加するコーディネーターになりたいという思いと反比例するかのように成績は下がっていった。
勉強に身が入らないのだから当然だ。
でも、中途半端だったその思いを両親に打ち明けるわけにもいかず悶々としながら日々を送っていた。
そして、成績不振の理由がそんなところにあるとは露知らずだった両親が景気づけに、と連れていってくれたのがバトルフロンティア。
プレオープンということもあってバトルドームしか観戦できなかったけれど、効果は覿面だった。


だって、コンテスト会場で見たあの少年がいたのだから。

そこで私は再び魅せられた。
彼と、彼のミロカロスの強さに。


結局その少年は準決勝止まりだったが、私の心に火をつけるには十分だった。
彼のようにバトルもコンテストも両方こなせるようなトレーナーになりたい。
そしてミロカロスでうつくしさコンテストを制覇する──それが私の目標になった。
トレーナーズスクールでは私の豹変ぶりに変な噂が囁かれたらしいが、さておき。
努力に比例するかのように成績もぐんぐん伸びて、これなら親に私の夢を打ち明けてもいいかもしれないと思った矢先だった。
――私がパロロワ団に拉致されたのは。

● ● ●


突如放り込まれたこの非常事態にとっさに対応できたかと言えば嘘になる。
恐怖のあまり一時は彼らの言う通りに殺し合いに乗ることも考えたが、憧れだったミロカロスを目前にしてそんな考えは吹っ飛んでしまった。
殺し合いに乗るということは、このポケモンたちを凶器にするということと同義であり、それはこの美しいポケモンを汚すということであり。
それに気づいてしまった以上、私から殺し合いに乗るという選択肢は失われてしまった。

「……?」

ボールから出して指示も出さずに惚けていた私のことを疑問に思ったのだろう、ミロカロスが顔を私に近づけてきた。
反射的に撫でてあげたら気持ちよさそうな鳴き声を響かせる。
殺し合いの、それも道具として扱われているはずなのにミロカロスからはそんな悲しみは微塵も感じられない。

「おかしいよ……こんなの間違ってる」

思わずそんな言葉が漏れてしまった。

「フワァァァァ……?」
「あ……ごめんね、誤解させるようなこと言っちゃって。あなたのことじゃないよ」

私の呟きに反応して首をかしげるミロカロスの姿も美しかった。
ただでさえこんなに美しいのに更にあおいバンダナを巻いたらどうなってしまうのだろう。
そこまで考えて、いけないいけない、と頬をはたいて自分に檄を飛ばす。
一々仕草に見惚れているようでは、もしも危ないトレーナーやポケモンに遭遇したときに遅れをとってしまう。
でも私は死にたくなどないし、かといってたとえ正当防衛だとしても相手を殺したくはない。
となると、取れる手段は一つ。
この場からの脱出だ。
しかし、ここが砂浜でミロカロスがなみのりを覚えていても、脱出できるとは到底思えない。
命が首輪に握られている以上、それを外さないことには始まらないのだ。

「……じゃあ、やることは決まった、かな」

握りしめていたあおいバンダナをバッグに戻し、代わりにボールを取り出してもう一匹のポケモン、グライオンを外に出す。
こっちはかっこよさ部門に似合いそうだなあ、なんて思ってしまった。
これから為そうとすることは私一人では決してできないこと。
他のトレーナーの協力はもちろんだが、まずはポケモンたちに力を貸してもらわなければならない。

「あのね、ミロカロス、グライオン。私はこんな殺し合いなんて間違ってると思うの。
 本当ならあなたたちの『おや』……パロロワ団が捕まってくれればいいけど、私たちだけでできると思えないし国際警察の助けがくる保証もない。
 だから、せめて首輪を外して脱出はしたいの。そのために他のトレーナーと協力したいけど、みんながいい人とは限らないから……
 もし、そのときが来たら止めるために力を貸してくれる? 別に相手のポケモンを倒すとか、そこまではしなくていいから眠らせる、だけ、とか……」

ポケモンたちからの視線に耐えきれず最後は小声になってしまった。
伝わってくれただろうか、と一瞬思ってしまったが、杞憂だったようだ。
まっすぐな眼差しに反対の意思はこもっていない。
二匹とも私に協力してくれるようだ。

「あ……っ!」

それに気づいて、途端に嬉しくなって、二匹の頭を撫でる。
感情の昂ぶりからか、やや乱雑だったかもしれないけれど、二匹とも嫌そなそぶりも見せることなく受け入れてくれた。
決意を新たにし、そういえば最も肝心なことをやっていなかったことを今更ながらに思い出してミロカロスとグライオンに言う。

「私はレン。よろしくね、ミロカロス、グライオン!」

【C-5/海岸/一日目/日中】

【じゅくがえりのレン 生存確認】
[ステータス]:良好、嬉しくて少し興奮
[バッグ]:基本支給品一式、あおいバンダナ、ランダム支給品×1
[行動方針]:対主催脱出優先派
1:首輪を外すため、仲間を集める
2:危ないトレーナーに会っても殺人はしたくないので足止めなどをして逃げる

▽手持ちポケモン
◆【ミロカロス/Lv50】
とくせい:かちき
もちもの:なし
能力値:???
《もっているわざ》
まもる
さいみんじゅつ
あやしいひかり
こごえるかぜ

◆【グライオン/Lv50】
とくせい:ポイズンヒール
もちもの:どくどくだま
能力値:???
《もっているわざ》
みがわり
ステルスロック
いやなおと
かげぶんしん

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最終更新:2014年11月20日 23:10