最新のつりざお、所謂すごいつりざおが手元にないと妙に落ち着かないのが釣り人である彼――サエグサの性分だった。
下はコイキングから上はハクリューまで、いろいろなポケモンを釣り続けて数十年が経ったであろうか。
釣ったポケモンを捕まえて育てて戦ってボックスに預けて、ポケモントレーナーとして誠心誠意努力をした自分は釣り人の中では一番強いつもりだと自負はしている。
まあそれには裏があり、自分以外の釣り人は不思議なことに釣ったポケモンしか使わないらしく、当然ではあるがタイプは水タイプに偏るわけで。
つまり自分が弱点属性である電気タイプと草タイプを持っていけば、これもまた当然でわざとでもなければ負ける道理が無いわけだ。
考えてみれば至極単純な理屈で、未だに自分は釣り人兼トレーナー最強として君臨し続けている。
しかしながら全国にいるトレーナーの皆々様は、釣り人は水タイプしか持っていないという先入観が非常に強いらしく、釣り人である自分も例外ではなくカモだと思われてバトルを仕掛けられることがある。
いざバトルになって自分が水タイプではないポケモンを繰り出せば"釣り人詐欺"などと言い放ち、それで勝ってしまおうものなら"卑怯"だの"コイツは釣り人じゃない"などと暴言を吐く。
釣り人だと思って舐めてかかるからそうなるのだ、と心から叫びたいが、いやいや他のトレーナーがそう思うのも仕方ないと思って口にはしなかった。
だがトレーナーたるものどんなタイプが来ようとも対処できるような構成にするのは当然のことであり、対処を怠ったお前等が悪いんじゃないかとは思っている。
「ポケモントレーナー兼釣り人にしたほうがいいかもしれんな……」
「おんみょ~ん」
俺の隣にいるポケモン――ミカルゲは俺の呟きに返事をしたかのようなタイミングで鳴き声をあげた。
ミカルゲが同意を示してくれたのか、はたまた別にしなくていいと反対をしたのかは、人間である俺にはよく分からない。
この場に自分以外の別の人――欲を言えば同じ釣り人がいれば解決していたのかもしれないが、残念ながらここは自分がいた土地とは全く違う土地で知り合いの釣り人はいない。
加えて言うならば、殺し合いというとんでもない出来事に巻き込まれている最中であるから、釣り人でないにしろこの呟きに対する答えを出してくれる気の良い人間などいないだろう。
よしんば答えを出したとしても殺し合いに生き残れなければ、単なる時間の浪費だし、そんなのを考えるくらいだったら他のことを考えていたほうがマシである。
そういうわけなので生き残ってからでも考えられるような、どうでもよく下らない考えは一旦頭の隅にでも放り投げて現状をどうするかを考えることにする。
「その前につりざおが欲しいな……釣りでもしねえと落ち着いて考えを纏めることができん」
釣り人のカテゴリ内では最強と自負する自分だが、同時に生粋の釣り人でもあるという自負もしている。
結局自分はポケモンバトルをするよりも釣りをすることが好きなようで、釣りをしていると心が落ち着き思考も綺麗に纏まることが多いのだ。
その為自分は大事な考え事であったりバトルの方針とか戦法だったりとかを考える際は、決まって釣りを始めて獲物がかかる間までに考えてしまうことが殆どである。
獲物がかかって必死に釣り上げようとしている間に考えていたことを忘れかけてしまうことは内緒の話である。
「木の枝……こんなもんで良いか。あとは、糸か」
手頃で丈夫そうな木を見つけて木の枝を折って、さて次はつりざおには欠かせない釣り糸を調達しなければならない。
本来ならば自分が持っているすごいつりざおを使用したいところなのだが、残念ながら手元には存在せずどうやら所持していたポケモンと一緒に没収されてしまったらしい。
ランダム支給品に支給されているはずもなく、仕方なしに自分はつりざおを作るという面倒くさいことをする羽目になってしまったということだ。
とは言うものの自分としてはすごいつりざおを手にしてからそれしか使っておらず、原点に返る良い機会だと思えばこれもまた一興である。
子供の頃に親につりざおを作ってもらい、そのつりざおを持って川へと一目散に走り、思いっきり振りすぎて川に投げ落としてしまったことは思い出として今でも記憶に残っている。
その後親にその事を告げると親は後日新しいつりざおを作ってくれた。自分は嬉しくなってまた川へ走っていったのは言うまでもない。
「ウルガモス、いとをはく」
自分に支給されたもう一体のポケモンであるウルガモスは、いとをはくという技を使用できるのでその糸を釣り糸にして使うことにした。
釣り糸としては充分な量の糸を確保できたので、サエグサはウルガモスをモンスターボールの中へ戻して地面に置き、糸を木の枝の先に釣り糸として機能する長さを残してぐるぐると巻き付けていく。
あっという間に大半の釣り人が最初に手にするであろうつりざお、ボロのつりざおが完成した。
あとは釣り針とか疑似餌でもあればつりざおとしては完璧なのだが、そんなものは今この場にはないのでこれで完成形である。
なお糸といっても獲物を捕まえる粘っこいほうの糸ではなく、頑丈で伸縮性がないほうの糸を使用している。
「うーし、つりざお完成。釣りだー釣りするぞー」
「おんみょ~ん」
「あ、その前に技の調整をしなきゃな」
一旦ボロのつりざおを地面に置いて立ち上がり、ミカルゲをモンスターボールに戻しポケモンコンバータを取り出してセットする。
ちょちょいとミカルゲの設定とウルガモスの設定を終わしてポケモンコンバータをしまい、ミカルゲを再びモンスターボール中から出してやる。
一人で釣りをするのも悪くはないのだが、折角なんだからポケモンを――しかも持っていなかったポケモンを隣において釣りをしてみたかった。
単なる気まぐれに過ぎないが、誰かがいるのといないのとでは全然違う。主に寂しさ辺りが。
「釣ーりー、釣ーりー、釣りの時間~」
「おんみょ~ん」
「あ、またやること忘れてた。ウルガモス、俺が言った場所に糸吐いて」
やるべきことをまた思い出したのでつりざおを地面に置きポケモンコンバータで調整したばかりのウルガモスの技構成を変更し、いとをはくを使えるようにしてからウルガモスを召喚する。
出した命令は自分の周りにある木に糸をはいてこいというもので、吐く糸は先程の頑丈なものではなく粘っこいものである。
もちろんこれにはちゃんとした理由があり、自身は釣り糸の動向に集中して見ているから、当然ではあるが無防備な状態になるのでどうすることもできない。
そのために考え出した策は周辺に粘っこい糸をバラまき、不意打ちをしようとした相手の動きを絡め取って身動きできなくさせる、要するに足に糸を引っ掛ける古典的なイタズラを仕掛けるのだ。
付け加えるならば粘っこい糸に頑丈な糸を――それを木の枝に巻き付けておいて無理に糸から抜け出そうとした相手が動いたと同時に、音が発せられて相手の位置を察することができる警報機のようなものも兼ねている。
これにより自分に危機が迫っているということが分かり迎撃に移ることができろということだ。
ちなみにちゃんと機能するかどうかは確認していない。
誰かがかかった場合はどうするべきか。
機能するかどうかは分からないが、仮にもしも引っかかる人間がいたとして、その対処方法を考えなければ、もたもたしている内に抜け出してしまうだろう。
対策をキチンとしていなかったために、死んでしまっては元も子もない。
まあそんなのは、引っかかる人間の見た目とか雰囲気を感じればすぐに分かる話なので、問題はないのだが。
殺し合いに乗っている人間はどれだけ見た目を誤魔化そうと騙そうと、全身から悪意を漏らしているのでどう取り繕おうと間違って助けてやることはあるまい。即座に殺す。
殺し合いに乗っていない人間は乗っている人間より分かりやすく、これを間違おうものなら殺されても文句は言えない。即座に離す。
なので、人間重要なのは見た目と雰囲気である――つりびとだから舐められるのも、つりびとの格好をするのがいけないのだ。
あと常識に囚われてはいけない。これはあくまでも、ポケモンを使った殺し合いである。
「うしご苦労。もどれーウルガモスー」
ウルガモスをモンスターボールの中に戻して、もう一度ポケモンコンバータで技の構成を変更する。
その後はウルガモスの入ったモンスターボールをいつでも出せる位置にしまい、地面に置いたつりざおを手にして地面に座る。
今しておくべきことは終わったので、待ちに待った釣りの時間がやってきた。
「釣りだー、釣りの時間だー!」
「おんみょ~ん」
ボロのつりざおを手にしてようやく釣りが出来ると感極まったサエグサは勢い良く、それはもう潔いくらいに思いっきり降り下ろした。
「あ」
勢いあまってすっぽ抜けたボロのつりざおは真っ逆さまに落ちて行き、もう二度と取ることはできない海の中へと沈んでいった。
何十年前に分かるか分からない、ボロのつりざおを作っている最中に思い出していた出来事を彷彿とさせるような、というかそっくりそのまま同じことを俺はやってしまったようだ。
気分が高揚したまま何かをするのは良くないと、あの事件以来から肝に銘じていたのに、こんなあっさりとしでかすようでは自分もまだまだということか。
そういえば自分がいいつりざおに変えてからこのような出来事をしていないのは、やはり木の枝はすべりやすいということなのかもしれない。
「言い訳はいいや……新しいつりざおを作らんと」
「おんみょ~ん」
励ましているのかほくそ笑んでいるのかは分からないが、俺の言葉に反応したのかどうかは分からないが、とりあえず先程のミカルゲの鳴き声は好意的に解釈をしておくことにする。
さてこのままでは釣りができないので、今一度つりざおを作り直す必要がある。
嘆息しながらも、俺は放り投げたつりざおに使った木を探してその枝を折り、ウルガモスを召喚していとをはかせる。
糸を巻き付けながら、サエグサはまた溜め息を吐いた。
【A-2/低地/一日目/日中】
【つりびとのサエグサ 生存確認】
[ステータス]:良好
[バッグ]:基本支給品一式、ボロのつりざお(手製)
[行動方針]釣り
1:釣りをする
2:その間に方針を決める
3:誰かが罠にかかったら見かけと雰囲気で判断する。
4:殺し合いに乗っていると判断したら殺す
※周囲に糸がはかれました
◆【ミカルゲ/Lv50】
とくせい:すりぬけ
もちもの:いのちのたま
能力値:防御、素早さ特化
《もっているわざ》
のろい
さいみんじゅつ
かげうち
ギガインパクト
◆【ウルガモス/Lv50】
とくせい:ほのおのからだ
もちもの:もくたん
能力値:特攻、素早さ特化
《もっているわざ》
ちょうのまい
だいもんじ
むしのさざめき
ギガドレイン
最終更新:2014年11月23日 22:30