1乙SS・ナギ
376 : ◆xqjbtxNofI :2007/03/25(日) 23:12:48 ID:???
あれはいつの事だったろうか━━
「お空、きれい……」
少女は草原で仰向けになり、かれこれ一時間は空を眺めていた。
流れる雲に空に手を伸ばすが、届くことはない。
「……」
少女は空の持つ包み込むような大きさに憧れていた。
『いつか、必ず飛んでみせる』
「!!」
その時、少女の視界に飛行機のようなシルエットが飛び込んできた。
「あれは!」
空に憧れる少女が間違うはずもない。
図鑑でしか見たことのなかったポケモン、チルタリスだ。
「きれい……」
少女は目の前を通り過ぎていくチルタリスを羨望の眼差しで追い続ける。
『男の子が、乗ってる』
どうやらチルタリスはその乗り手のポケモンのようだ。
年は少女より少し上だろうか。
少年はチルタリスの背で全身に心地よい風を浴びながら、空を駆けていく。
チルタリスは少女に感動と羨望を残し、森のほうへと飛んでいった。
少女は体を起こすと、その方角を確認する。
「あっちは……もしかしたら!」
そう、その方向には彼女の暮らす街がある。
少女はいてもたってもいられず、街に向かって走り出した。
377 : ◆xqjbtxNofI :2007/03/25(日) 23:14:57 ID:???
街に着くと、ポケモンセンターへ向かう。
ポケモントレーナーなら、まずセンターに向かうはずだからだ。
『もしかしたら、会えるかもしれない』
会ってどうするかは考えていない。
ただ、あのチルタリスをもう一度見たかったのだ。
センターへ走る少女。
と、その入口から見慣れない少年が出てきた。
『あ、あの人……』
少女は急ブレーキをかけると、たまらず息を吐き出した。
「はぁ、はぁ……」
きょとんとする少年の前で、乱れた息を整える。
「あ、あの……どうしたんだい?」
心配になった少年が声を掛けてきた。
『ど、どうしよう』
唐突に現れた私に、あのチルタリスを見せてくれるのだろうか。
というか、どうやってその話を切りだそうか?
「あ、あの……」
とりあえず声は出る。
だがそれだけだ。
「あの……っ!」
その瞬間、少女は心臓が飛び出るほど驚いた。
少年がその澄んだ瞳でマジマジとこちらを凝視しているのだ。
こうなるともう何も口には出せない。
少女は「あの」と「その」を交互に繰り返すだけになってしまった。
そんな様子に少年はくすりと笑うと、先に口を開いた。
「とりあえず自己紹介しよっか、僕は【1】。よろしく」
378 : ◆xqjbtxNofI :2007/03/25(日) 23:15:50 ID:???
少年【1】がきっかけを与えてくれたおかげで、少女もかろうじて言いたい事を声にする。
「チルタリス……あなた、チルタリスに乗ってた」
いきなりの発言に【1】はきょとんとするが、すぐに何かを思い出す。
「ああ!確か君、草原で転がってた……」
「え……」
少女は顔が真っ赤になった。
こちらから見えれば、相手からも見える。
よくよく考えればそれは当然のことであるが、切迫詰まった状況ではそこまで頭が回らない。
うつ向いて声も出せない少女に、【1】は優しく声をかける。
「チルタリス、見たいの?」
声も出さず頷く少女。
そんな少女の様子に、少年は何も言わずにモンスターボールを投げた。
少女の目の前に現れたのは白い雲のような羽を持つチルタリス。
「すごい……」
実物を目の前で見ると、その美しさに圧倒される。
『触っても、いいかしら……』
刺激しないようにおずおずとその手を伸ばすが、急にチルタリスが動いたのでその手を引っ込めてしまった。
と、【1】が少女の手を取る。
「怖くないよ、触ってごらん」
少年の手にエスコートされ、少女はチルタリスの綿毛のような羽毛に触れた。
379 : ◆xqjbtxNofI :2007/03/25(日) 23:16:50 ID:???
よく手入れされたチルタリスの羽毛を触ると、少年がいかに大切に育ててきたかがよくわかる。
【1】はそんな少女の様子をただ見ていた。
満足そうにチルタリスを触る少女の横顔はとても美しい。
「あ……ゴメン!」
【1】が手を離すと、少女の手首は捕まれた跡がほんのりと赤くなっていた。
沈黙が二人の間を支配する。
と、少女が口を開いた。
「あの、空を飛ぶってどんな気分ですか?」
「ああ、何というか……全身に風を感じるというか、風と一体となれるというか」
突然の質問に【1】はしどろもどろになるが、急に空を見上げる。
「空を飛んでると、世界を全部見渡せる気がするんだ」
【1】の言葉に、少女は目を輝かせる。
自分も思うがままに世界を飛び回ってみたい。
「私も、ポケモンがいれば……」
ポケモンがいれば、空を飛べる。
そんな少女に、【1】はリュックから大きなタマゴを取り出し、少女に渡す。
「これ、あげるよ。コイツが産んだタマゴなんだ」
そう言いながら、少年はチルタリスをボールに戻す。
「ありがとう!!」
ポケモンのタマゴを抱き締めて、少女は顔を輝かせる。
380 : ◆xqjbtxNofI :2007/03/25(日) 23:18:23 ID:???
少女の淡い初恋はその少年、【1】となった。
それから、何年も経つ。
少女は待ち続けたが、【1】はあれから一度も姿を現さなかった。
少女は大人になり、タマゴから産まれたチルットはチルタリスになっている。
そして、彼女は毎日のように空を飛んでいた。
そして……
「やあ、久しぶり」
彼女の前には、あの【1】の面影を残した青年が立っていた。
「あの時、名前を聞きそびれたから帰ってきたよ」
もう10年近く経つというのに、彼の瞳は出会った時のままだ。
「ずっと待ってたんだから……貴方に、好きだって言いたかった……」
「奇遇だね、僕もそうさ」
彼女は駆け出すと、青年に思いっきり抱きついた。
青年は照れ臭そうに鼻をかく。
「これは一目惚れに……なるのかな?」
「一目惚れなんかじゃないわ、だって……」
私たちは空で、チルタリスでつながっている。
二人は離れていた時間を埋めようと、その唇をしっかりと重ねる。
長いキスは、二人の想い想われていた時間なのだ。
彼女はナギ、空を愛するヒワマキのジムリーダー。
投下スレ
補足
- 同スレで69へのSSの後に書かれた1乙SS。
- 実は379-380間に別れのシーンがあったらしい
「すごい……」
実物を目の前で見ると、その美しさに圧倒される。
上記の部分を別のものに変換……してはいけないw
最終更新:2007年03月29日 17:40