young leaf 続き3

64: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆10/16(金) 22:23:44
ピピピピピピピッ

「……」

すでに目は冴えていた。あまり意味のない目覚ましが音を立てる。結局今晩は浅い眠りになってしまったので、目覚めは悪い。というか最悪だ。
昨日の出来事がずっと頭から離れなくて、学校に行きたくないような後ろめたい気持ちでいっぱいだった。

(会いたくないなあ、今日は)

そうは思っても、同じクラスに同じバスケ部。顔を合わせなくて良いはずもない。

(……どうしよう。けど、行かないと駄目だよなあ)

さすがにこんな私情で学校を、それに部活を休むわけにはいかないのだ。

私はのろのろと支度をし、朝食をとり寮を出た。




ざわざわざわ

教室までたどり着き、私がドアに手をかけようとしたまさにその瞬間

ガラガラっ

「!」

私が開けるよりも先に、誰かが内側からドアを開けた。
そこに居たのは、

「あれ、駿?おはよう」

「お、おう」

クラスの違う駿が教室から出てきた。
私が何か聞こうとするより一瞬早く、駿が「ちょっとちょっと」と焦ったように言って私を廊下まで連れ出した。

「え、ちょっと、どうしたの?」

「莉恵、何か知ってんじゃねえの?今日いつもに増して響の機嫌が悪いんだけど」

「……え」

「あぁ。あいつ基本朝は機嫌悪いんだけど、今朝はなんていうかもう殺気に満ちたオーラ振りまいてるぜ。何なんだよありゃあ」

「知らないよ、何であっちが怒ってるの」

「あっちがって……やっぱりお前何か知って」

「……」


65: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆10/17(土) 20:56:11
私は迷った。確か、響と駿は小学校時代からの付き合いだと聞いている。小学校のときはバスケチームが同じ、中学からはずっと同じ学校らしい。
だからきっとあの「柏木さん」のことも、駿なら知っているのだろう。
だけど、昨日のあの響の灼変ぶりやおかしな様子のことを思うと、そう簡単に私が聞いてしまってもいいことなのだろうか。

「駿……」

少し迷いながら私が口を開くと、駿の背後でドアが再びガラガラっと開いた。

「!……響」

駿が振り返って声をあげた。
相手が響だということが分かって、咄嗟に私は顔を合わさないように下を向いていた。意図的というより、無意識だった。
私の中が、私の身体がこの人を拒絶している。

「莉恵」

びくっ

響が荒々しく私の名を呼んだ。

キーンコーンカーンコーン

何とも良いタイミングに、チャイムが廊下に鳴り響く。
居てもたってもいられなくなり、私はその場から足早に逃げだした。



「……ちっ」

走って行ってしまった背中を見ながら響が舌打ちを打つ。

「おい、響。お前何したの?」

「……」

「おかしいぜお前。話せよ」

「駿」

徐に響が口を開いた。

「またあいつらが……出てきやがった」


66: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆10/17(土) 21:14:51
「沙耶あぁぁ……」

只今お昼休み。今日は私も沙耶も食堂でから揚げラーメンをすすっている。
昨日の時点で、頼りになる沙耶にすべて聞いてもらうことにしていた。

「はいはい。そんなに悩んでないで全部おねーさんに話しなさい」

「うぅ……実は」




「柏木……?うーん、柏木……あたしは知らないけどなぁ」

一通り話し終え、最初の沙耶の反応。
だよねぇ……出身が違うんだし、知っている方が珍しいか。

「けど、明らかに様子が変だったの。本当に」

ふーっとラーメンを冷ましながら口を開く。
湯気がもあもあと白く立ち上がっている。

「あんな響、見たことないよ……。すっごく怖かった。目が」

ずーーっ

「目が怖かった、か……。
けどね、確かあたしが高一のときだけど、結構相川くんって入学当初から有名だったよ」

「へぇ……どんなふうに?」

私が聞くと、沙耶はスープをずずっと呑みこんでからお箸を置いて話しだした。

「まず、あの美貌(ここで私は麺を喉に詰めそうになった)でしょ?加えて、バスケがすっごい上手いって有名だったし。色々な他の高校からも注目されてたらしいし、何しろうちの学校のバスケ部が強いからね。
あと……もう一つ、噂みたいなものもあって」

「もう一つ?」

ごくっと唾を飲み込んで私は聞いた。

「うん。
裏の世界に手ェ出してるっていうね」

「裏の……?」

「まぁ、夜の街みたいなもの。あっちこっちでヤりまくってるとか、走り屋だとか、タバコやら飲酒やら。酷いとこではクスリにも手出してるっていう話もあったけど、それは話が誇張しすぎてると思うわ」

(そんな噂が……全然知らなかった)

黙った私を見て、沙耶が付け加えるように口を開いた。

「こういう悪い噂があったのは初めの方のうちだけでね。
部活でもすごい活躍するようになって、生徒会長にもなったし、あたしも最近こういう話は忘れてたんだけど……」

「そっかあ……ありがと、沙耶」

その噂がどこまで本当かは分からないが、もしかすると今回の件に関係あるのかもしれない。

「ちなみにその噂の麻薬ってのは大外れだぜ。酒や飲酒なんかは俺も含めてざらだったけどなー」

「!?」

「しゅ、駿」

なんと私たちが座っていた机の下から駿が顔を出した。(おい)


67: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆10/17(土) 21:24:20
「あんた……女子のスカートの中覗いたんじゃないでしょうね!?」

沙耶がすごい形相で駿の頬っぺたを自慢の長い爪で両側に引っ張った。(ひーっ見てる方が痛い!!)

「ひたいひたいひたい!!覗いてない!!ただ、話が気になって聞いてたんだよ」

「はぁ……」

呆れた。堂々と出てこれば良いのに。

「堂々と俺が居ると話しづらいだろうと思ってよ」

椅子に腰かけながら得意げに鼻を鳴らす駿。
私はそんな駿の目の前の机にバンと手を置いた。

「じゃあ、駿はやっぱり知ってるんだね!?
聞かせて、話」

さっきまでの話を聞いていたのなら、もう躊躇する必要もないだろう。

「あー……話、ねえ。
確かあれだろ。この前の試合のときに居ただろ、柏木」

「知ってたの?」

「そのときは俺もあんまり顔見てなかったが。さっき響からちらっと聞いた。あいつらが来た、てな」

「あいつら……?」

沙耶もいぶかしげな顔をする。

「おう。これを話すには、もう少し前の方から話さねぇとな」

私たちの知らなかった、彼らの過去の物語が始まった。


68: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆10/17(土) 21:43:18
ここからしばらく、過去のお話が続きます。


「駿ーーーーっ!!」

「うわぁ!?」

後ろから甲高い声で叫ばれたかと思えば、同時に首にぐわしとしがみつかれる感触。

「痛いなぁ、もう!」

振り向くと、黒い髪に切れ長の綺麗な瞳の少年が立っていた。俺はいつも、この瞳に吸いこまれそうになる。

「あらあら、ごめんなさいね駿ちゃん。もう響、駄目でしょー後ろからそんな風に飛びついたら」

「だって!駿、聞いたか!俺達、次の試合出れるんだって!やったよ!!」

「本当!?」

願ってもいない話だった。
このバスケチームに入ったのは、一年前の小学1年生の夏。
あんまりよく分からないけど、もうすぐちょっと大きな大会があるらしい。それに俺と響が出られるなんて!

「やったあ!俺、もっと練習する!行くぞ、響!」

「うん!」

「あ、こら待ちなさいあんたたち!」



ばたばたと走りながら、響が俺に向かって叫んだ。

「駿!俺、絶対世界一のバスケの選手になるから!」

「世界一!?無理だよ、そんなのー」

「なる!絶対なる!」

このときのあいつのいきいきとした表情は、俺の中に強く印象づいた。
同時に俺も、こいつと一緒にずっとやっていきたいと強く思ったことを覚えている。 
少々危なっかしかった響。学校こそ違ったが、可能な限りは遊んで一緒にバスケをした。

幼いながらに「世界一になる」という夢を持った二人。俺達は本当に、毎日毎日練習をした。誰のためとか、自分の将来のためとか、あんまり関係なく、ただ純粋にバスケが好きだったんだ。

その思いを抱えたまま、俺達は年齢を重ねてゆく。


69: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆10/17(土) 21:56:20

「元々地域は近かったもんだから、中学は一緒になったんだよ、俺達。
そこでもちろんバスケ部に入った。その学校は、そんなに強いなんてもんじゃあなかったがそれなりに楽しかったなー……。
少し風向きが変わりだしたのは、俺らが中2のときだった」




「おいシン!お前彼女出来たんだろ?誰だよ言えよー!」

中学2年生の夏の始まり。俺と響、そして大倉慎太郎は一年生の入学式のときから仲良くなった。もともと俺と駿が仲良くて、響と名簿の近かったシンとも馬が合ったのだ。彼は陸上部に所属していた。

今は、そんなシンに響が冷やかしの茶々を入れているところだ。
響は、俺の目から見てもなんというかものすごく「男」になっていた。いやいや、変な意味じゃなくて。端正な顔立ちってこういうことを言うのだろう。

「だぁ、もう!!言えばいいんだろ!」

ここで少し声を小さくして、シンは俺達二人の前で白状した。

「3組の、柏木凛って知ってるか?」

「マジかよ!あのめっちゃ美人って有名なやつじゃね!?」

俺が声をあげると、響が「知ってるのか?」という顔で俺を見た。ああ、こいつは女子の話題には疎い、というより興味がないらしい。綺麗な顔してもったいないとつくづく思う。

「まぁな」

「まぁな、てお前。やったじゃねーか!おいどこまでいったんだ。ちなみにどこまでいく予定だ」

「どこまでって!まだ付き合って一日目なんですけど」

ハハハ、と馬鹿みたいに笑いあう。中2の男子の会話なんてこんなもんだ。

このときは、これから毎日シンが幸せそうにニヤつきながら学校来るんだろうなこの野郎、俺だって彼女欲しいぜとか思っていた。
しかし、その予想に反して状況はどんどんおかしな状態に転がっていった。




「お、早速一緒に帰ってる。あれだぜ、響、柏木凛」

「んー?」

遠目から二人を確認し、響が口を開く。

「……何か中2に見えないな、あいつ」

「そうだな。俺らが小学生のときに中学生、中学生のときに高校生に見えるみたいな」

響の率直な感想の通り、柏木凛は周りとは違った雰囲気を持った女子だった。大人のような、独特な。色気とまではいかないかもしれないが、それに近い何かを掴んでいる。不思議な奴だった。


70: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆10/17(土) 22:08:48
シンが付き合ってから約二カ月が立ち、夏休み目前。
昼休み、俺達三人はいつものように外の中庭でバスケをしたりだとか、馬鹿みたいな話で盛り上がったりしていた。

「……なあ」

突然シンが重い口を開いた。

「最近、変なんだけど。あいつが」

「柏木が?」

俺が聞くと、シンがあぁ、とうなずいた。

「変って、どう変なんだよ」

「何て言うか……。
まず、妙なことだが、あいつすげえ慣れてる」

「「慣れてる?」」

俺と響は同時に聞き返した。

「そう……例えば、ちょっと手を繋ぐだとかキスするとか。そういうことに関してなんか、こっちが面食らうくらい慣れてるっていう気がするんだよ」

「へぇ……。あの容姿だし、今までも付き合ったりしてたのか?けどまだ中2だしなー」

「そうだろ?それに、ときどき雰囲気が怖くなる。
普通に怖いんじゃないが……なんていうか、夜の街に居るホステスみたいな。艶めかしいってやつか?」

「ホステスってお前……。あれかもしんねぇぞ、あいつ他とは雰囲気違うから、そういう風に見えてるだけかも」

「うーん……。
それに、多分、あいつ夜家に居ないことが多い。
メールの返事が明け方のことが何度かあってすげぇびっくりした。それに自分でも、なんとなくそれらしいこと言ってたんだよな」

「まじ?
……ちょっと探ってみっか?」

シンが縋るような目つきで俺達二人を見る。きっと、こう言ってほしかったのだろうと分かった。

「けどどうやんだよ、しかも勘違いかもしんねーぞ」

響が面倒くさそうに言う。それももっともな意見だ。

「けど、俺やっぱ気になるんだ。
今度部活がオフの日に、ちょっと様子見てみる。
お前らも水曜は部活ないだろう?」

シンの言葉に二人共頷く。この学校は、水曜日は部活がないという規定があるのだ。

「悪ぃ!付き合ってくんねーか?」

親友の頼みとなれば、断る理由などない。

「しゃーねーな」

何かと文句を言いながらも響も結局了承した。


71: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆10/17(土) 22:20:41
水曜日、放課後。
俺たちは柄にもなく(?)柏木凛の後をつけていた。ストーカーは趣味じゃない。
夕方5時ごろ、彼女は家に入った。それっきりしばらく出てこない。

「あー、何してんだ。つーか腹減った」

「悪ぃって!ほんと」

「ていうか、これでもし普通に家帰ってたらどーすんだよ?」

響が諦めたような顔つきでそう言った、そのとき。
門から誰かが出てきた。

「……お、やっぱり出てきた、っと。って、あれ……柏木か……?」

俺達三人、目が点になった。
ショッキングピンクのキャミソールの上に短いジャケットを羽織り、これまた下にはタイトのミニスカートにヒールの高いサンダル。アクセサリーをじゃらじゃらと付け、顔には結構離れたここからでも見て分かるくらいに化粧をしている。長いロングヘアはくるくると丁寧に巻かれている。

カンカンとヒールを鳴らし、柏木は歩いて行ってしまった。

「……お、追うぞ!」

慌てて俺達は気付かれないように追いかける。

「シン。あいつの私服ってあんな感じなのか?」

「い、いや……。もっと普通だよ、確かにいつもお洒落な格好してるけど、化粧とかあんなに濃くないし。しかも、肌露出しすぎだろ……」

彼女が心配なのだろう。そりゃあそうだ。

「どこ行くんだ?ずーっと歩いてっけどよ……しかもこのままいくと、繁華街のほうだぜ」

響が言う通り、このまま行くと賑やかな街の方に出る。今は夕方6時前。あんな格好をした女の子が一人でうろちょろするには少々危ない気がする。
どうにか違うところへ行かないかという思いも虚しく、彼女は真っすぐ繁華街の中へ歩を進めていった。その様子を見る限り、ここには来慣れているようだ。

「……ん、どこか入ったぞ」

俺たちはその建物の前まで歩く。

「何だここ……」

これといった看板もない、普通の小奇麗なビルのような建物。

「出てくる気配がない。とりあえずそこに入ろうぜ」

シンの提案に従って、俺達は向かい側のファーストフード店に入った。


72: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆10/17(土) 22:29:37
それから約30分ほどして、ようやく柏木が出てきた。しかし、問題は……

「誰だよあの男」

そう。柏木と肩を並べて出てきたのは、18~9歳くらいの一人の男だった。金に近い茶髪で、いかにも「チャラ男」といった感じ。そいつは馴れ馴れしく柏木の腰に手を回し、しかも若干そこを撫でまわしているようにも見える。

「……浮気現場目撃ってやつか?」

響がのんびりと呟いた。(コイツは……)

「ありえねぇ。絶対何かある」

シンが怒ったような顔をして席を立つ。慌ててそれに続き、店を出る。

「どうなってんだよ。おいシン、危ねぇぞあいつ。もう別れたほうが」

「いや、それより心配だ。あいつらどこへ行く気だ?」

後ろから二人を眺めていると、普通にカップルに見える。柏木が中学生に見えないのだ。
すると、二人が角を曲がった。

「……?げっ」

「……ラブホじゃねえか」

現在午後7時。今から……?夜の営みはもっと遅くないのか、今は晩御飯の時間ですよー……とかいう場合じゃなくて。

「シン、まじでやばいあいつ。まだ中2だぜ!?どうすんだよ、相当だぞこれは」

「……」

さすがにシンも何も言い返すことが出来ず、ぼーっとホテルの入り口のほうを見つめていた。

「とりあえず今日は帰ろう。もう遅くなる。また今度もう一度様子を見るか」

「……あぁ」

相当ショックを受けている様子のシン。そりゃあそうだ。
しかし、柏木がまさかこんなところに毎晩通っているとは……。シンの「ホステス」説は強ち外れてはいなかったのかもしれない。
俺はちらっとシンの顔を盗み見た。
シンは本気で彼女のことが好きなのだろう。しかし、彼女は?


73: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆10/18(日) 21:33:25
「うす」

翌日、いつも通りにシンは登校してきた。どことなく顔色が悪いように見える。
俺と響は早速シンの方に駆け寄った。

「どうすんだよ。別れるよな?」

「……の前に。あいつを止める」

「止める?」

「今日の朝早くにメール送っておいた。昼休みに中庭で会えねえかって。そこで話をするつもりだ。長く続けさせるわけにもいかないし、さっさとケリもつけたいし」

「……そうか」

「あぁ……」

今日の朝、登校してくる柏木を見た。昨日の様子を見てしまったため、普通の格好(?)が妙に物足りなく見えた。

「いいんだな。俺達も行くか?」

「……いや。話は俺一人でつけるから」

「分かった」



昼休みに近づくにつれて、シンがどんどん緊張していくのが分かる。無理もない、彼女の跡をつけて分かった事実なのだ。言いやすいはずがない、内容的にも。

キーンコーンカーンコーン

4時間目終了のチャイムが鳴ったと同時に、シンが席を立った。

「行ってくる」

「頑張れよ」

俺が祈るように言うと、シンは頷いて教室を出て行った。

「響。シンの奴行ったぜ」

「そーか。しかしまあ、厄介な女がいるもんだな……。大丈夫か、シンのやつ?」

俺も同感だった。シンは、親切心がありすぎて少しお人好しな面もある。あいつに昨日のように変わり果てた柏木を止めることができるのかどうか……。


74: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆10/18(日) 21:46:51
「来ねえ」

「は?」

昼休みが始まって20分ほどして、シンが教室に戻って来た。話を聞いてみると、柏木がなかなか姿を現さないのだという。
こんなところで話をするわけにもいかないので、俺たちは教室を出て渡り廊下まで出てきた。

「まじかよ……逃げたのか?」

「何となく察したんじゃねーの。別れ話と思ってたとか」

「けどあんな街ほいほい歩き回れたら困るだろ、普通に考えて」



「……ふーん」


「!」

突然、後ろから女の声……柏木の声がした。



「何、ストーカーしてたの昨日?最低ね、あんたたち」

どうやら家庭科で調理実習をしていたらしい。エプロンなどを片手に持ち、柏木一人だけが立っていた。

「凛」

シンが立ちあがって緊張の面持ちで、柏木を真っすぐ見る。

「何だよ昨日のあれ……どういうことだよ。俺と付き合ってながら、何人もの男とヤりまくってんのか?お前は」

「はぁ……そんなところまで見てたの?いいじゃない、別に。人の勝手だし」

「おい」

響が低い声を出した。

「お前はシンと付き合ってんだろ。大体、まだ中2の餓鬼が何してんだよ。女はもっと自分の身体大切にしろ」

「……うるさいなぁ」

鬱陶しそうに柏木が響を見た。

「何なら別に、今別れてもいいわよ」

「テメェッ……!!」

我慢できなくなり、俺は思わず柏木の胸倉を掴んだ。慌てて後ろからシンが俺を押さえつけた。

「何すんだよシン……お前はいいのかよ」

「もういい。
別れる、頼まれなくてもこっちから願い下げだ」

そう言うシンの瞳はひどく怒っていて、ひどく哀しそうだった。

「あーっそ、別に良いけど。あたし今日も行くから、あんたたちが止めようと。バイクで走り回るのってせいせいするわよ~」

言い残し、柏木は立ち去って行った。


「何だよあれ……。手のつけようがないな、もう」

「……」

シンは一人黙りこんでいた。

「シン?」

響が訝しげにその顔を覗き込むと、シンは慌てて顔をあげた。

「いや……悪ぃ。あー、すっきりした。もうあんな女なんて忘れるわ。じゃーな、付き合ってくれてサンキュ」

「シン!」

シンはばたばたと走り去ってしまった。





「それっきり、柏木とシンの関係は途絶えた……と思ってたんだがなぁ。結構あっさりだったしな、互いに。
それが、大変なことが起っちまった」

「……大変なこと……?」

「あぁ。もう夏休みに入ってた。
シンが、柏木を追って……。



終いに殺されちまった」



「……は?」

淡々とした口調に、私の背筋が寒く凍る。
駿はそんな私や沙耶を見て、慌ててこう付け加えた。
しかし、その瞳には今も尚消えない怒りで満ち溢れていた。

「正確には、事故ったと言えばいいんだか……。少なくとも俺や響は、あいつは殺されたって思ってんだよ」


75: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆10/18(日) 21:55:50
「この日の夕方、俺は小学校の時に所属していたバスケチームのコーチに呼ばれて、練習場所の体育館に行っていた。
コーチは響も呼んだんだが、返事がなくてな。俺も、この日に電話したりなんなりしてたが、どうしても連絡が取れなかった。取れないはずだった」


「ちっ……何してんだ、あいつ」

本日三回目の留守番電話の無機質な声にイライラする。
俺は携帯を握りしめ、体育館の前に座っていた。

「あー、シンに聞いてみっか。あいつなら知ってるかも」

アドレス帳からシンの番号を呼び出し、繋ぐ。

「……」

「おい、シンか?響と連絡つかねぇんだけど、お前何か知んない?」

声は聞こえないが、電話が繋がったので俺はそう声をかけた。

「……ぃ、……ろ」

「え?」

雑音やら叫び声やらが聞こえて、声が全く聞こえない。

「シン?」

声を大きくしてそう言うと同時に、ガチャンっと嫌な音が耳から伝わり、ツーっと電話が切れた。

「……何だよ」

様子がおかしいと思い、もう一度かけなおそうとしたのだが。

「駿兄!見てみて、俺シュートめっちゃ上手くなったから!」

「俺も!」

「ずるい、こっちこっち!一緒にゲームしよ!」

「あー……おう!お前らなめてかかんなよ!」

響もいない今、こいつらを見てやれるのは俺だけだ。
かなり気になったが、今は先の用事を優先することに決めた。
シンや響が、どんな状況に陥っているかも知らずに。



76: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆10/18(日) 22:09:55

「ここからは、俺が話で聞いただけだからどこまでが正確か分かんねえぞ。だから、これだけは確かっていう部分だけを話しとく」

初めにそう断ってから、駿が話しだした。

「どこから情報を得たのか、シンは柏木がかなりアブナイ連中と絡んでいるっていうことを知った。やっぱり心配で、きっとずっと探っていたんだ。
シンは柏木を止めようと追っていた。そこにたまたま響が出くわしたらしい。そのシンを止めるために響も追った。
そいつらは本当にやばい連中だったらしい。学校に行くことなんて論外の、高校生達だった。
柏木はそいつらのうちの一人とバイクに二人乗りしていた。シンと響は奴らを追った。

……このとき、シンは響より結構前を走っていた。
シンはかなり荒れて、周り何て見ていなかった。響はそんなシンを止めようとまた必死だった。ただでさえバイクなんて運転し慣れていない。もちろん無免だしな。

大型トラックが、途中で角を曲がって来た。
さっきも言ったが、シンの方が響よりも前を走っていたんだ。



響のまさに目の前で、シンは――……」











.

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2010年08月10日 14:48
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。